数の子って言うな!   作:うた野

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第32回

 さて、大体の事情は把握したものの、だからといってディードから話を聞かない理由にはならない。オットーが退室してすぐディードが入室した。ウーノとドゥーエが呼んでおいてくれたらしい。もし入ってきたのがゼストなら即刻チェンジを要求するが。融合騎が目覚めたら教えてくれとドゥーエにお願いして隣の部屋に移ってもらい(またあんな空気になって怯えさせるのは可哀想だ)、私とウーノがディードを迎える。

「わざわざ呼び出してすまない。大筋はオットーから聞いたが、直接君の口から聞いておきたくてね。話して──」

「申し訳ありません、ドクター」

 くれるかい? と私が言う前にいきなりディードが頭を下げた。

「オットーとデータリンクを行って、先程ドクターがオットーにされた話は聞きました」

「……そうかい」

 次はまた別の言葉を引用するつもりだったんだが……そういうことなら仕方ない。別に謝るほどのことでもないので、頭を上げるように言うが依然としてディードは頭を上げてはくれない。

「私たちはクアットロ姉様の言葉に忠実であろうとするあまり、ドクターを裏切ってしまうところでした。ただの機械なら脳は必要ない。そんなことはクアットロ姉様は勿論、他の姉様方を見れば分かることだったというのに……」

「気にすることじゃないさ。信じられないかもしれないがセインだって最初はディードたちと同じだったんだ」

「セインが、ですか……?」

「ああ」と頷きながらも、セインが「あたしのことお姉ちゃんって呼んでくれない~」と嘆いていたのが本当だったことを知り、少し可哀想になってくる。別に年功序列、姉には絶対服従なんて規則を敷いたつもりはないので呼び方は娘たちに任せているが、セインは相変わらず誰にもお姉ちゃんと呼ばれてはいないのか……。

「セインは最初からあの性格だったような気がしますが……」

「いやいやそれは違うよウーノ。君も分かっているだろう?」

「いえ、ドクター、あの子の性格は生まれた時から能天気なままです──確かにそれがセインの長所でもありますが……はぁ」

「はははっ、それは違いない」

 長女からするといつまで経ってもセインは手のかかる妹のままのようだ。

「確かに表面上は今と何の変わりもない娘だったが、それでも今とは全然違っていたよ」

「あのセインが……」

「本人は照れてあの時のことを語ろうとはしないからね。詳しいことは姉さんたちから聞くといい」

 純粋な善意での言葉だったので、後日セインからぽかぽかと叩かれながら「ディードに何吹き込んだのさっ!?」と詰め寄られるとは思いもよらない私だった。

「オットーにも言った通り、ディードたちは出来るだけ自分で考えて、自分のしたいように行動してくれ。勿論、私や姉妹たちに相談してくれると安心だけれどね」

 プレシアの時のセインもセインなりに考えた結果だったのだろうが、あんなことはもう誰にもしてほしくはない。命をみすみす捨てるような真似だけは。

「はい。必ずやドクターのご期待に応えてみせます」

 期待とかそういうことじゃあないんだが、私の隣でウーノは満足気に頷いているので、何も言うまい。

「それじゃあ、話は変えよう。隣の部屋で眠っている融合騎、というか今回の仕事についてだ」

「はい」

 私の表情が今まで以上に真剣味を帯びたことを察したのか、ディードの表情が硬くなる。

「──ゼストの行動に何か不審な点はなかったかい?」

 たとえば視線がいやらしいとか事あるごとに体に触れようとするとか! 

(トーレ姉様の仰っていた通り、ドクターは騎士ゼストを警戒している……)

「……いえ、今のところ不審な動きはありません。私もオットーも出来る限り監視を続けましたが、何も……」

「……そう、か。ならいいんだ。それに何かをしようものならトーレが黙ってはいないだろうからね」

 とりあえずは安心だが……くっ、必要なこととはいえ、やはりゼストを娘たちと一緒に行動させるなんて……! やはり私用のデバイスの開発を急ぐ必要があるな。必要ないと思っていたが、リンカーコアを持っていてよかったよ。

「これからも騎士ゼストの監視は続けますのでご安心ください、ドクター」

「ああ……本来なら私がすべきことなのだがね」

「いえ。私たちはドクターをサポートすることが仕事ですから」

「ディードの言う通り、些事は全て私たちナンバーズにお任せください」

「苦労かけるね……」

 どうしてもデバイスを作成するのは聖王を再生させ、セッテが生まれた後になってしまう。それまでは二人の言う通り、任せるしかない。矛盾しているな、娘たちを守る為に、娘たちを差し出すしかないとは……。

「それにプランI-A、ゆりかご案件もほぼ完了。ドクターのご命令と聖王の器さえあればすぐにでも起動できます」

 ゆりかごか……ウーノが何年もの時間を費やして進めてくれていた(私の指示した覚えのない)プラン。初めはちょっと大きな移動手段ぐらいにしか考えていなかったのだが、スペックを聞いて驚いたよ。古代ベルカ──ひいてはアルハザードの遺産の戦艦で移動能力攻撃能力防御能力、どれを見ても恐ろしい兵器だということが分かる。

「……それを年端もいかない少女に運転させるというのは不安だな……」

「? 今何と?」

「いや何でもないよ。ならなおのこと聖王の器の再生を急がなければならないね」

 急ぐも何も後はボタン一つでちょちょいと再生できるのだが、ほらゼストがね……。けどウーノがここまで進めてくれたなら私も覚悟を決めなければならないな。よし、セッテが目覚めた後、ルーテシアの3歳の誕生日にしよう。さんざんの引き延ばして来たのだ、決断と行動は早い方がいい。

「来年も忙しくなりそうだな……」

 やり甲斐を感じながら、笑みを浮かべる。

(ドクターの笑み、素敵です)

(ドクターの計画も新たな局面を迎えているのですね……)

 

 

 

 

 

 ◇◆◇◆

 

 

 

 

 

「……」

「あ、おかえり、ディード」

「ディエチ姉様」

「ドクターも言ってたと思うけど、気にすることないよ」

 紅茶を注いだティーカップをディードに差し出しながらディエチが言う。

「はい……ですが私はドクターのご期待にお応えしたいのです。セインのように」

「……それはどうなんだろう……そうなったらトーレたちが頭を抱えそう」

「教えてください、ディエチ姉様っ。どうしたら私はセインのようになれるのかっ。セインはどうやってあのような個性と人格を取得したのかをっ」

「……うーん」

 頭を強く打ち付けたりすればいいんじゃないか、とは思っても口にはしないディエチ。本当はセインに丸投げしたいがもしセインが二人になったら頭を抱えるのはディエチも同じ、どうにかしてディードの考えを改めさせたいのだ。

「……」

「……うーん」

 期待の眼差しを向ける妹、姉として答えてあげたい。だがどう答えれば……? 唸り続けるディエチの前に救いの女神が現れる。

「ふう……何唸ってるんだ?」

 上気した肌、濡れた髪、首に掛けられたタオル。洗浄を終えたばかりのノーヴェだ。

「……詳しくはノーヴェから」

「分かりました」

「は?」

「姉と妹の頼みだから、お願いノーヴェ」

「姉ってあたしの方がナンバーは上だろっ! つーか何の話だよ、何の!」

「実は……」とディードが説明し、それをディエチが補足する。

「……というわけ」

「……そりゃあたしにとっても他人事じゃねえな」

 セイン2号とも言えるウェンディの被害に最も遭っているノーヴェにとっても妹へと及んでいるセインの悪影響は見逃せないようだ。それに妹に頼られるのはほとんど初めての経験。ノーヴェの慕う姉、チンクのようにその期待に応えたいとも思う。

(セインが変わったのはPT事件からだってチンク姉が言ってたけど……あたしはまだ稼働してなかったし、詳しくは知らないんだよな)

(PT事件の時のことを話してあげればいいんだろうけど、セインは嫌がってたし……それにそれを言ったら本当にセインのことを尊敬して真似するようになっちゃうかもしれない)

 現在セイン唯一の美談であり汚点(本人曰く)であるあの事件のことを話すことが出来ないのはセインとディードにとって幸か不幸か。

「ま、まずは……」

「はい」

 ええと、ええとと脳細胞をフル回転させ、ノーヴェが出した結論は──

「……出来るだけ皆と話して、皆のことを良く知ること……だ」

 正確に表すならば「出来るだけ(若干うざったいくらいに)皆と話して、皆のことを(上手くからかったりする為に)良く知ること」、である。

 勿論ノーヴェが出来る限り前向きに表現した結果というだけでなく、真実も含まれている。姉妹に対する気配りの良さはチンクに次ぐものがあるし、特異なスキルの関係でセインの仕事は他の姉妹よりも多いのにも関わらずその全てを確実に処理する能力と、その後で姉妹たちをからかう体力はウーノたち3人の年長組も評価している点だ。

(良く考えるとやっぱりセインも優秀……なんだな)

 改めて考えてから少しショックを受けるノーヴェ。

「その辺りはセインの見習うべき点、だと思う……多分」

「うん、そうだね」

「そうだったのですか……」

 納得したように頷くディードを見て、これでよかったのだろうと安堵する二人。しかし忘れていた。件の姉はその長所と美点を補ってあまりある残念さを持ち合わせているということに。

「やっほー。何だか話し込んでたみたいだから、おねーちゃんが紅茶を淹れなおしてあげたよ──―あっ」

「えっ?」「えっ?」「えっ?」

 ちょっと悪戯してやろうと必要以上に温められ、完全に風味を殺された紅茶が三人を襲い──

 

 

 

 

「すいません、申しません」

「申せ!」

「……これでもまだこんなのみたいになりたいの?」

 四人(何故かセインも)仲良く洗浄を終えた後、ノーヴェに怒鳴られているセインを指差しながらディエチが疲れたように言う。

「はい」

「ええっ……」

「セイン──セイン姉様のおかげでディエチ姉様とノーヴェ姉様とたくさん話すことが出来ましたし、オットーとクアットロ姉様以外と洗浄をしたのも初めての経験でしたから」

「……そう。なら何も言わないよ……」

 もう諦めた。そう言うように肩を落とし、ディエチは優しくディードの髪を梳かす。

(確かにそこだけは感謝してもいいのかな……熱かったけど)

 次はオットーも誘って姉妹仲良く洗浄しよう。そう思いながら。

(それにしても……クアットロはもう一緒に洗浄してたんだ)

 姉の意外な一面を知り、これもセインのおかげかな、なんて考えは振り払って。

 

 

 

 

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