数の子って言うな!   作:うた野

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第35回

「これは──騎士ゼストの魔力反応……?」

 解析を始めてから三十分程、ウーノの戸惑いを含んだ声で私は自分の世界から帰還した。いかんいかん少し集中しすぎてしまった。

「トレーニング、というわけではなさそうだね」

 モニターに表示される魔力値を眺めて、そう判断する。

「通信を繋いでくれ」

 もしかすると反乱か! 合法的にゼストを葬るチャンスか!? ……という展開なら望むところなんだが、そうではないらしい。

『……』

 通信を繋ぐと見たくもないゼストの横顔のアップ。こちらに見向きもせず、静かに何処かを見据えている。

「敵襲かい?」

『……恐らくあの融合騎に何らかのプログラムが仕込まれていたのだろう』

「ああ、やはりこれは外部から無理やりインストールされたものだったのか」

 管理局のデータバンクから入手した融合騎、リインフォースⅡのプログラムとは全く異なるものだったから気になってはいたが、恐らくアギトが逃走した時の為に本人も気付かないように仕込まれたセンサーだったのだろう。それだけでなく他にもいくつか取ってつけたようにインストールされているプログラムやプロテクトがある。

「それで、管理局と協力して私を逮捕でもするかね?」

『出来ることならそうしたいがな──俺にはまだ確かめなければならないことがある』

 確かめなければならないこと──レジアスのことだろう。彼らは友人同士だったそうだからね。あの忌々しい旧ラボ襲撃がレジアスに仕組まれたものではないかとゼストは疑っている。私も確かめたわけではないが、その疑念は無駄なものだ。彼とは何度か話しただけだが、そういった姑息な手段を嫌う人間だった。あれは全てを力でねじ伏せる強い信念を持った男だ。と私が言ったところでゼストは聞く耳を持たないだろうが。

「それで、君が火の粉を払ってくれるのかい?」

『不本意ではあるがそちらにルーテシアが居る以上、そうするしかあるまい』

「私は構わないよ? 君が管理局側に付いても。そうなったら私がルーテシアをあらゆる災厄から守ろう」

『そんなことさせるものか──ルーテシアを一歩も外に出すな。施設を奇襲するのと局員を迎え撃つのとでは訳が違う』

「言われなくともそのつもりだ。君と違ってルーテシアはか弱い少女なのだから」

 ウーノとクアットロは未だにレリックウェポン化を勧めてくるが、その予定はない。毎回そのことを伝えているのだが、どうもすれ違ってしまっている。ううむ、すれ違う親子の気持ち……悲しいものだ。名目上ナンバーズ実戦リーダーということになってるトーレは「ドクターにそれだけ信頼されているということなら、この身を持って応えるだけです」とクールに返してくれるのだが……これはこれで少しすれ違っているような気がしなくもない。

『……頼んだぞ』

 ……どういう風の吹き回しだろうか? 死亡フラグだったら嬉しい。だがまあ──

「此方は任せて、君は行きたまえ」

 繰り返しになるが、ゼストの体が完全になるまで、死なせるつもりはないさ。

 それを最後に通信はゼストの方から切られた。

「ウーノ、聞いた通りだ。ルーテシアたちに伝えてくれ。ドゥーエたちと一緒に居てくれとね」

「……分かりました。その、ドクター」

「ん?」

「……素敵でした」

「──ははっ、ありがとう。嬉しいよ」

 ────イイイイイイイイヤッホウウウウ!! ウーノに褒められてしまった! しかも伏目がちにモジモジとしながら! これはアレだよレアだよ! 最高だよ! やばい、もうゼストも私も死んでいい。ついでに脳みそもね! 

 

「ええ、だからあなたたちはルーテシアお嬢様の傍に──何ですって?」

 やばいやばい。どうしてキャメラを持ち歩いてないんだ私は! ああもう! アギトにカメラ機能は備わってないんだろうか!? あったら持ち歩こう! 

「……分かったわ。トーレなら問題ないでしょう。あなたたちはお嬢様の御傍に。それからクアットロ、妙な真似をしてこれ以上場を乱さないでちょうだいね」

 クソゥ! 自分を改造してそういう機能を付けるべきなのか!? けどそんな器用な真似はできないっ! ああ、なんて無力なんだ私は! 無限の欲望なんて大層なコードネームを持っていて……くっ! 

「ドクター」

「何だい?」

 キリッとした表情でウーノを見ると、少し言いにくそうにウーノは、

「トーレとアギト様が既に出撃したとのことです」

 と仰った。

「……やれやれ」

 一瞬思考が停止してしまったが、そのおかげで落ち着いた。ふう……。

「呼び戻しますか?」

「そうだね、そうして…………いや、やっぱりいい」

「よろしいのですか?」

「ああ」

 あの日、チンクが右目を失ったあの日からトーレがどれだけ鍛錬を積んできたのかを私は知っている。私と同じかそれ以上に己の無力さを痛感したのはあの時チンクの傍に居たトーレなのだ。どれだけ努力しようとも完璧などにはなれないことなど分かっているだろう。チンクが右目を失った時のように、高町なのはが翼を失った時のように。それに、恐らくトーレの力は未だゼストに追いついてすらいないだろう。だから本当は私は止めるべきなのかもしれない。親として。チンクや高町なのはのような悲劇を繰り返さぬように。

 けれど、だからこそ私には止められないのだ。トーレの気持ちが痛い程分かるからこそ。私が父であろうとしているように、トーレもまた姉であろうとしているのだから。

 だから私にできることはやはり父であることだけだ。二度と目の届かない場所で娘たちが傷つくことのないよう、あらゆる手を尽くすだけ。

「彼女の──烈火の剣精 アギトのお手並み拝見といこうじゃないか」

 そして勿論、後で二人とも説教だ。

 

 

 

 

 

 ◇◆◇◆

 

 

 

 

 

「──ゼスト殿」

「旦那!」

「お前たち──何故来た」

 管理局の部隊はまだ目視出来てはいないが、魔力反応が多数感じられる。後数分で目視できる距離まで近づいてくるだろう。ゼストの部隊が壊滅した戦闘機人事件やこれまでのデータから、不意打ちは無駄だと判断したのだろう。

「あたしは旦那たちに助けられた、だから今度はあたしが旦那を助ける番だっ!」

「必要ない。お前はルーテシアの傍に居てやれ」

「それはあなたもです。ゼスト殿」

「……」

「此処は我らの拠点。それを守るのは私たちナンバーズの役目」

「此処を守るわけではない。俺はルーテシアを──」

「……やはり私に回りくどいことは出来んか。ならば率直に言わせていただく」

 語調を変え、トーレは真っ直ぐにゼストを見た。

「あなたがお嬢をドクターに任せられないと思っているように、私もあなたにお嬢や妹たちを任せられるとは思っていない」

「何……?」

「あ、姉御! 今度は旦那と喧嘩する気か!? 旦那がすげえ騎士だってことぐらい分かってるだろ!?」

「……」

 ゼストは何も言わない。ただトーレの次の言葉を待っていた。

「妹の片目を奪った実力は認めよう。だが、そんな男に頼ろうなどとは思わない」

「──それは俺も同じだ。俺の部下たちを機動兵器を使ったとはいえ全滅させたその力は認めている」

 言葉にはしなかったが、その後にはトーレと同じ台詞が続いていた。

「初めはスカリエッティの洗脳かと思っていた。だが違う。お前たちは自分の意志でクイントたちに刃を向けた。であれば俺が刃を向けるべき相手はスカリエッティだけではない」

 眼前で一触即発の空気を作り出している二人の恩人を交互に見るアギトは混乱と迷いに襲われていた。

(あたしはどっちに味方すりゃいいんだ!? 旦那か? 姉御か!?)

 しかしそんなアギトを余所に、二人は互いに示し合わせたかのようにその空気を霧散させた。

「そんなことは分かっている──とでも言いたげな顔だな」

「流石はゼスト殿。良く見ている」

「お前たちの父親に付いていれば、嫌でも分かる」

 二人は完全にお互いを視界から外し、前だけを見据えて会話を続ける。

「お前たちには分からん話だろうがな」

「どうやらそのようだ。ドクターの考えてらっしゃることは私たちにも分からない。だが、それに従う覚悟は皆出来ている」

「そうか……ならば何も言うまい」

 隣に立つトーレの姿がゼストには過去の自分と重なる。信じる正義が友と同じだと信じていた自分に。

(いつからだろうな、言葉を交わす必要がないなどと思いあがったのは)

 言葉にしなければ伝わらないこともあるというのに。たとえどれだけ互いを思っていてもすれ違うスカリエッティたちのように。

(今更生き方を変えることは叶わん。それに俺はもう、死者なのだ)

 だがもし生き返ることが出来るなら、今一度友と言葉を交わすことが出来るというなら。浮かび上がった思考をゼストは断ち切った。

(今はルーテシアとメガーヌを守りきる。そして生者に未来を託すことしか出来ん)

 その為なら刃を管理局に向けることも、敵の隣に立つことも厭わない。

 

(いずれゼスト殿とは戦うことになるだろう。それを承知でドクターもゼスト殿を置いている)

 いずれ最も強大な敵となるであろうゼストの隣で、トーレはインパルスブレードを構えた。

(奇妙な関係だ。私たちを娘と呼ぶドクター以上に、ゼスト殿とドクターは)

 ドクターの考えることはまだ分からないことが多い。けれどそれでいいのだ。考えることを放棄したわけではない、ナンバーズは皆、ドクターのことを信じている──以前ならくだらん言葉遊びと切り捨てていたであろう思考をトーレは抱いていた。

(そんなゼスト殿とお嬢、そして私たちが助け出したアギトは、恐らく最も奇妙なのだろうな)

 だが、悪くない。そう心の中で呟いた。

「おっし! 話は纏まったんだよな! 旦那! 姉御!」

 一人蚊帳の外だったアギトが叫び、自身の周囲に炎を展開する。

「烈火の剣精 アギト! いくぜ!」

 それにほんの少しだけ口元を緩ませ、

「──ゼスト・グランガイツ、参る」

「……No.3 トーレ・スカリエッティ、参る」

 二人の武人が出撃した。

 

 

 

 

 

 ◇◆◇◆

 

 

 

 

 

「はっ! また何か重要なことを聞き逃した気がする!」

「……?」

 ウーノと二人で急ピッチでアギトにインストールされたデータの解析を進めていたんだが、何か感じた。悪いもののような、良いもののような……。

 

 

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