数の子って言うな!   作:うた野

39 / 44
第37回

 閃光がモニターを覆いつくす。いや、恐らく周囲一帯を照らしているのだろう。それだけその光は強く、温かだった。

 そしてその光が収まる。其処には──

「赤毛、だと……?」

 髪と瞳を真紅に染め、槍を片手に立つゼスト。

 ……ノーヴェとウェンディと被っているじゃないか! 

『これは……』

 繋がれたままの通信が聞きたくもないゼストの声を拾う。

『……そうか。いや、この力、有難く貸してもらう』

 何やら独り言(ユニゾンしたアギトと話しているのだろうが)を呟いたかと思うと、槍を炎が包み、その刃が倍近くまで伸びる。

「彼女もまた、想像以上の力を秘めていたようですね」

「……ああ」

 戦慄しながら、頷く。……ユニゾン後の姿はマスターとデバイスの力のバランスで決まるそうだ。データで見た八神はやてとリインフォースⅡのユニゾンした姿は今のゼストと同じく、髪の色と瞳が変わっていた。その程度で済むのならば十分デバイスを使いこなしている証拠らしいが、ユニゾンしているのは八神はやてではなく、ゼスト・グランガイツ。……何が言いたいか分かるだろうか? 今のゼストの髪と瞳はアギトそのもの。仮にもオーバーSランクの騎士が十代の少女と同程度までしかユニゾン後の変化を抑えられていない、ということだ。初めてのユニゾンであることを考えても、アギトの力はリインフォースⅡと同等以上ということになる。そして安全の為のものとはいえ、プロテクトはまだ一つ残っている。つまり…………あと少しで私たちは赤い髪を四つに結んだゼストを見せられるところだったんだよ! 

 ……安全装置に感謝しなければ。

「騎士ゼスト、やれるかい?」

『……無論だ。時間を掛けるつもりはない』

「それは良かった。君の体への影響も少なからずあるだろう。長期戦は寿命を縮めることになる」

 それだけじゃない。長期戦で二人の力のバランスが崩れてしまったら、私たちはゼストの四つ結びを見ることになってしまうんだ! 

 どうしよう、今からクアットロに頼んで幻惑の銀幕(シルバーカーテン)を……いや! そうすればクアットロだけが地獄を見ることになってしまう! ……こうなったら私たち家族は一蓮托生だ。何も出来ない私を恨んでくれ……。

(ドクターが震えてらっしゃる……アギトの力を見て、歓喜に打ち震えていらっしゃるのね)

 

 

 

 

 

 ◇◆◇◆

 

 

 

 

 

(……凄まじい)

 戦場を駆けるゼストを見ながら、トーレは素直に感嘆する。

 速さだけを見れば、トーレが上だろう。しかしそれ以外の全てが、トーレを、戦闘機人を上回っていた。かつて手負いとはいえ妹、チンクに敗れた騎士の姿は何処にもない。在るのは歴戦の勇士の姿だけ。

(だが私とて、無為に時を過ごして来たわけではない)

 トーレの足元に紫色のテンプレートが光輝く。それを蹴るように、トーレの速度とインパルスブレードの輝きが増した。

「ハァァアアア!!」

 その刃が局員を斬り裂く刹那。トーレを呼び止める者が居た。

『姉御!』

 その声に気を取られた一瞬、飛来した弾丸によって刃はずれ、その軌跡は杖を両断した。

(狙撃手か……良い腕をしている)

「……何だ」

『あ、いや、何か声掛けなきゃそのままバッサリやっちまいそうだったから……』

「こいつらは敵だ。そうするのが通りだろう」

 狙撃手を警戒しつつ、再びトーレは空中を蹴り、舞い上がる。

『いや……トーレ、彼らは無力化するだけでいい』

「ドクター?」

『このラボは廃棄しなければならないしね、彼らには適当な情報を持って帰ってもらうとしよう』

「……了解しました」

 少し釈然としない命令だが、了解の意を伝えてトーレは残りの局員たちを無力化すべく刃を構えた。

 

「何故止めた?」

 狙撃手を無力化すべく飛ぶゼストはアギトに問い掛けた。

『何故って……旦那は良かったのか?』

「……お前を研究の為に監禁していたのは管理局だ。お前に止める理由はないだろう」

『まあそりゃそうなんだけど、恨むって程じゃないし。やり方はどうあれ、必要とされるってのは悪い気がしなかったしなあ……それにあの研究者たちは捕まるんだろ? なら文句はないし』

「……変わっているな、お前は」

『そう?』

 アギトが捕らわれていた施設は管理局の闇のほんの一部に過ぎない。ゼストたちの襲撃によりあの施設は明るみになるだろうが、それでもああいった研究は続けられていくだろう。それに管理局だけではない、ジェイル・スカリエッティを筆頭に、違法研究は終わることなく続けられていく。

(……ままならぬな)

 だからこそその為に、管理局を中から変えていく必要がある。

(お前たちがその礎となることを俺は願うしかない)

「──アギト」

『猛れ炎熱!』

 一声掛けただけでアギトはゼストの言わんとしていることを理解し、槍の炎が激しさを増し、さらに巨大な槍を形成した。

『烈火刃!』

「──ぉぉおおおお!!」

 ゼストが雄叫びと共に炎槍を横凪に振るう。しなりと共に槍は伸び、まだ彼方の狙撃手へと襲い掛かる。

「なっ! この距離で!?」

『Protection』

 カートリッジをロードしたプロテクションが発動するが、それだけでは防げないと判断し、ヴァイスはストームレイダーの銃身を槍と体の間に割り込ませる。

「──チッ!」

 しかしそれに巻き込まれた他の狙撃手ごと、槍が勢いを落とすことなく向かって来るのを見て、悪態と共にプロテクションを解除する。

「……」

『分かってるって、旦那!』

 今度はゼストが言葉を発するよりも早く、アギトは炎を消した。

「ぐっ……!」

 槍の峰と局員たちの体に押され、ヴァイスの体が吹き飛ぶ。

(追撃──いや!)

 それを追うように飛来した魔力弾──拘束魔法がヴァイスたちの体を纏めて拘束し、無様に彼らは地面を削りながら飛んだ。

「遅延、魔法……初めからこれが狙いかよ」

 仰々しい炎槍はフェイク、初めから狙撃手を拘束することを目的にしていたと気付き、ヴァイスは何とか首を動かし、その赤い騎士の姿を見た。

(やっぱり戦闘機人じゃねえ、ベルカの騎士……?)

 さらに上、顔を確認しようとした時、ヴァイスを影が覆った。

「ぐあっ……」

「これで全員のようだな」

 同じくバインドで拘束された局員たちがヴァイスの周囲に放り投げられたのだ。

「ああ。センサーにも反応はない。……嘗められたものだな、ドクターのラボに突入するのにたったこれだけとは」

(確かに、それで捕まってりゃ世話ねえわな……)

「……それで、俺たちをとっ捕まえてどうしようってんだ?」

 上半身の反動で体を起こし、スコープ越しではなく、改めてヴァイスは部隊を壊滅させた二人を見た。

「どうもしはしない。我々が撤収するまでの間、大人しくしてもらうだけだ」

『トーレの言う通り、これ以上君たちに危害を加える気はないよ』

「……ジェイル・スカリエッティ」

 

 

 

 

 

 ◇◆◇◆

 

 

 

 

 

「はじめまして、管理局の諸君」

 ウーノが撤収の準備を進める為に席を外していることを良いことに、大きく手を広げながら挨拶する。こういう事態に限らずあいさつは第一印象が重要だ。しかしウーノは私のこういうところを治してほしいらしい。ドゥーエとクアットロは分かってくれるんだが……。

「そう睨まないでくれたまえ。今言った通り、君たちに危害は加えないさ」

 正直トーレが容赦なく両断しようとした時は冷や冷やしたよ。とは言ってもそちらの方が安全なので、口には出さなかったが。娘たちの罪は全て私の罪になるとはいえ、無闇に罪を重ねて欲しくはない……が死んだらお終いだ。そんなことになるくらいなら私は他者の命を奪うことを躊躇したりはしない──まあ今更だったね。

「トーレ、君も引っ越しの準備をしてくれるかい?」

 トーレの私物は見たことないが、実は隠して何か持っているかもしれない。可愛らしいヌイグルミとか! 

『分かりました。……ですが彼らは?』

『俺が残る。ラボに残したものはないのでな』

 当たり前だ! 君の私物なんてポイだ、ポイ……と言いたいところだが、逆に心配になってくる。いやほら、ゼストの歳だとまだ性欲とかあるだろう? なのにそういった類の物が一つもない……かといって娘たちを使っているわけでもない、となると流石に……。レリックウェポンの弊害だったら何と恐ろしいことか……! 

 と考え込んでいる間にトーレは帰還したようで、姿が見えなくなっていた。

「ゼスト、君はユニゾンを解きたまえ。魔力を解放していないとはいえ、まだ影響は未知数だ。それにアギトにも最終調整は必要なんだ。負担は出来るだけ少ない方がいい」

 私がそう言うと恐らくアギトが解いたのだろう、ゼストは元の灰色ががった髪に戻り、アギトも問題なく分離した。

『旦那、何処か悪いのかっ? なのにあたし……』

『問題ない。お前こそ大事ないか』

『あたしはむしろ絶好調だよ』

 ふう、アギトにも目立った不調はないようだ。ウーノのサポートがあったとはいえ、何分初めてのことだったからね。こんな綱渡りは二度とやりたくない。

「さて、あまり時間もない。手短に話をしようか──」

 前もって連絡がなかったとはいえ、最高評議会の連中は私が捕まることは望んではいない。すぐに彼らからコンタクトがあるだろう。以前までなら全員処分した、で済むが今回は別だ。勿論彼らにこの局員たちの処分を任せてもいいんだが……管理局の被害者であるアギトはトーレを止めたのだ。私からも評議会の連中には処分する必要はないと伝えておこう。研究施設の人間は現在調査してるであろう管理局の部隊に任せるがね。

「それにしても以外と顔を知られていないんだな、君は」

 誰一人ユニゾンを解いたゼストを見ても、何の反応もない。本当にオーバーSランクの騎士なのかい? 

『貴様にとってもそれは好都合だろう』

 一概にそうとも言えないんだがね。まあゼストの性格的に部下を持っていたとはいえ孤高(笑)の騎士だったのだろう。縁の下の力持ち、というには力強過ぎるが。それに名前を隠すこともなく出しているから、すぐに調べがつくだろうし。

『それで、話とは何だ。彼らに取引でも持ちかける気か』

「彼ら相手に探さないでください、と言っても仕方ないだろう。世間話のようなものさ」

 ちゃんとした管理局の人間とちゃんとした話をする機会はなかったから、将来の為に少しね。

『……言っておくが、俺たちみたいな下っ端を突いても何も話すことはないぜ。何を聞きたいのかは知らねえけどよ』

 いやいやむしろ下っ端の話を聞きたいんだ、という言葉は失礼なので胸に仕舞っておくとして。

「今の管理局の労働環境を聞きたいんだよ。生のね」

 私の娘たちには教会のシスターか公務員になってもらいたいからね。いや勿論! 街の花屋とかも捨てがたい! そこは娘たちの意見を尊重するとしても、だ。やはり就業候補No1の管理局の情報は知っておきたい。

『……また貴様は何か企んでいるようだな』

「失敬な。私は未来を案じているだけだよ」

 娘たちと(娘たちが働くことになるかもしれない)管理局と(娘たちが出張したりするかもしれない)次元世界の。

 ……結局、彼らは口を割ってはくれなかった。私の印象のせいなのか、それとも口に出すのも憚られるブラックな仕事なのか、判断に悩むところだ。

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。