この物語は私たち十二姉妹(予定)の平凡な日常────ではなく、
「……ウーノ、クローン培養に使う遺伝子は本当に彼女のでなければならなかったのかい?」
「はい。拠点破壊に特化したスキルを発現させるには、彼女が最も適切でしょう」
「……そうか」
培養槽に浮かぶのは銀髪の、5番目の姉妹。
4番の娘はもう少し調整に時間が掛かるため、最初に5番、そう問題の5番を稼動させることになった(とはいえもう数年先のことだが)のだ。
さて、ウーノを初めとしたナンバーズ、彼女たちの培養方法は大きく分けて2つ。
複数の遺伝子を掛け合わせた純粋培養、ドゥーエとトーレはこの方法だ。
そしてウーノや5番のこの娘のように、ある一人の人間の遺伝子を利用したクローン培養。
ウーノには私的理想のおねいさんイメージに近い人物の遺伝子を選んで使ったのに対し、5番の娘に使われている遺伝子はウーノが選んだもの……単刀直入に言おう、その遺伝子の持ち主は────少女なのだ。
歴史上の人物というわけではないが、優れた魔導師の遺伝子。
その魔導師、敢えて言うならば魔法少女には一つの欠点(美点ともとれるが)があった。
それが少女であること。
年齢が、ではない。
見た目が少女なのだ。
要するにロリババアを地で行った魔導師。
──言いたいことがわかっただろうか?
年齢、見た目共に少女であったならば問題はない。
機人と言えど成長はする、つまり未来がある。
だがロリババアの遺伝子を使った5番には────未来はない。
永遠のロリータボディが約束されているのだ。
ナンバーズNo.5、チンクには。
……ロリなのにチン●。
ロリにチン●!
「──この罪悪感の中にある甘美なる感覚は……」
──それはそれでありじゃね?
まさか、私の無限の欲望はロリチン●を肯定するというのか!?
「くッ、くくくっ! 刷り込まれたものなのかもしれないが、これも私の欲望。いいだろう、証明してあげようじゃないか!」
──父性は欲望を超越することができるということを!
「この私が!」
「はい、ドクター」
こんなことの繰り返しがウーノの勘違いを酷くしていったことなど、この頃の私は知らなかった。
────この物語は私、無限の欲望 ジェイル・スカリエッティとその娘たちの一大叙情詩である(嘘)。
◇◆◇◆
新暦0060年 冬
「──ドクター」
「ドゥーエ、どうかしたのかい?」
「お茶をご用意しました。少し休憩なさってください。ドクターの身体は私たちほど丈夫ではないのですから」
私はドゥーエに気づき、『5年ほど前から研究を初めたゆりかご防衛兵器を基につい最近やっと完成した試作機』を拭く手を休める。
「ああ、そういえばここ51時間ぐらい休憩をとっていなかったな……ふふ、科学者という人種は自分の限界など頭になくてね。君たちがいなければ私は死んでしまっていたかもしれない」
「御自愛ください」
尤も、こんな風に研究に勤しむことは君たちがいなければ滅多にないのだろうけど。
「いつもの場所に用意してあります──今はチンクも居ますし、いい気分転換になるでしょう」
「ああ、ありがとう」
むしろ気が滅入ってしまいそうな気もするが(私限定で)。
「お疲れ様です、ドクター」
ガタンと音を立ててチンクが椅子から立ち上がり、私に一礼する。
……ちっちゃいなあ。
「──チ、チンクは今まで何をしていたんだい?」
「トーレと訓練です。私のIS、ランブルデトネイターは未熟な私には過ぎた力ですから、一刻も早く使いこなせるようにと」
座り直したチンクが淡々と答える。
そういえばまた物騒な能力が出たんだったね……トーレももう自分の能力を使いこなしているし、ウーノの言う戦力の充実は確実に進んでいる。
さて、ウーノは私に何を見せてくれるのかな──。
「──君は今のところ唯一、私の因子を埋め込んでいない。そんな君から見て、今の生活はどうだい?」
「……? 質問の意味がよくわかりません」
「うーん……家出したい、とか、反逆したいー、とか……洗濯物は別に、とか」
最後はぼそりと聞こえないように呟いた。
(洗濯物……?)
が、戦闘機人であるチンクの耳には届いていた。
「ドクターの因子を持っていない私にはドクターの真意を完全に理解することはできませんが、ウーノたち上の姉妹を見ていれば創造主であるドクターに反逆する気など──」
起こりません、とチンクは言った。
「ウーノたちは私によく尽くしてくれている」
ズレてはいる。ズレてはいるが──それでも娘に尽くされて悪い気はしない。
「あの姉たちが目指す、ドクターの夢を私も見てみたい」
……名前に負けず、真っ直ぐに育ってくれているっ。
私の夢なんて三大欲求とちょっぴりの好奇心が満たせる生活ぐらいだというのに……まあ、それすらも難しいのが私の立場であり、今の世界なのだが。
(……私には分からない、ドクターの目指す夢が。ウーノたちの語るドクターのように、本当にただ欲望に従っているだけなのか……戦闘機人である私が考えても意味のないことなのだがな)
「────ドクター、ウーノとトーレを連れて来ました」
「ん、ご苦労様、ドゥーエ」
ちっちゃい姉御、チンクの言葉に感動していた私に、戻ってきたドゥーエが声をかける。
お茶ぐらいみんなで飲みたいので呼んできてもらっていたのだ。
「ドクター、お茶は私が……」
「気にしなくていい。茶にはこだわりがあってね、まだウーノやドゥーエには負けていないさ」
「……ドクター、何故何も訊かずに私の紅茶に砂糖を?」
「え゛……すまない、つい」
流れるような動作でチンクのカップに砂糖を入れている私がいた。
「う、ウーノたちはストレートでいいね」
「はい……」
「お任せします」
仕事を取られてしょんぼり(´・ω・`)しているウーノと一家の主のごとく構えているトーレのカップに紅茶を注ぐ。
「はい、ドゥーエ」
(お砂糖……)
外の時間はあまり注意していなかったが、今日は全員揃ってのアフタヌーンティーとなった。
──同じ頃、プレシアは私の代わりにプロジェクトFを完成させ、アリシアのクローンを生み出した。
……それから少し後のことだ、プレシアとの連絡が途絶えたのは。
「──嫌な予感がする……」
私は科学者らしからぬことを呟いた────科学者、ね。