新暦0065年 春
後にPT事件、またはジュエルシード事件と呼ばれることになる、ロストロギアを廻り争う二人の少女と、その背後にある壊れた母親の物語────を語る前に、その少し前の話をしよう。
新暦0064年 秋
「プレシア・テスタロッサ……ふぅん、ドクターの捨てたプロジェクトを完成させるだけの頭はあるのね、このオバサン」
口の悪いメガネが一人。
「クアットロ、情報処理の仕事の手伝いだと言って私を引っ張って来たんだろう。それが何故ドクターの端末の中身を覗いているんだ」
しっかり者のロリが一人。
「でもでもチンクちゃんも気になるでしょう? 私たちの主が何を考えているのか。最近は待機ばかりだものねぇ」
「それは……」
メガネ──No.4 クアットロは自分の行動を正当化するために、下の姉妹たちも気にしていることを口にした。
とはいっても、No.1からNo.4までの姉妹はジェイル・スカリエッティが何を考えているのか(見当違いではあるが)理解している。
先日、ナンバーズのオリジナルとも言える──言うなればタイプゼロ──戦闘機人の姉妹が管理局に保護された。
今、情報担当のウーノとクアットロはそのタイプゼロの情報を集めている。言うまでもなく、これからつくられる姉妹たちにそのデータを反映させるためにである。
ドクターはそれを反映させる姉妹たちの素体の培養に追われている。つまり稼働年数も短い下の姉妹たちには単純にやることがないのだ。
そんな事情を知らないNo.5以下の姉妹たちは思考する。ドクターは何を考えているのかと。
「チンクちゃんのドクターに対する忠誠心を強くすれば他の妹たちにもそれは伝染していく……人間味なんて邪魔としか思えない、けどあるものは仕方ないのよねぇ──なら、せいぜい利用するだけ利用させてもらいましょ」
ドクターの因子を埋め込まれていない姉妹たちは裏切ることはしないだろうが、クアットロたちのようにドクターに心からの忠誠を誓っているわけではない。
長女ウーノや次女ドゥーエ、三女トーレ、四女クアットロとは違うのだ。
「ドクターの、私たちの夢を阻害する可能性は潰しておかないといけないわ。たとえ妹でも」
No.4 クアットロ。ナンバーズの中で最も“夢”への執着が強い者。
そして同時に、ドクターからの影響(本来在るべき姿からの逸脱)が最も強い者である。
「そうすればドクターも喜んでくれる……うふふ、ごめんなさいねチンクちゃん。これもドクターのためなのよ……」
「クアットロ。さっきから全て声に出しているからな」
そんなクアットロ。ドクターは彼女をこう評した────
「それと此処のCPUは全てウーノと繋がっているから、覗いたことはすぐにわかるよ」
「ド、ドクター、いらっしゃったんですか」
──妹たちに対して素直に慣れないメガ姉。
尤もそれは彼の勘違いであり、クアットロは姉妹たちをドクターの夢のための道具程度にしか思っていない(自分も含めて、だ)……今の時点では。
「みんなに話しておきたいことがあってね、君たちを探していたんだ」
「……もしかして新たな任務ですか?」
クアットロの言葉にドクターは頷く。
「先日管理局に保護された“タイプゼロ”について話がまとまった」
「タイプゼロ──私たちのオリジナルに当たる戦闘機人ですね」
稼働年数はチンクたちより短いが、製作が開始されたのはドクターが機人の研究を始めてすぐの頃、戦闘機人の技術革新が起きるよりも以前。
それを考えると、タイプゼロの製作者は完成こそ後に回った(ドクターのように最高評議会に設備と資金を与えられたわけではないのだ、当然だろう)がドクターよりも早く戦闘機人の理論を完成させていたとも言える、だからこそドクターやナンバーズはその二人の戦闘機人をタイプゼロと呼称した。
「制作者は最高評議会によって処分され、姉妹は管理局……とはいえ私の最高傑作である君たちナンバーズがいるんだ。最高評議会には彼女たちに手を出さないように約束させたよ」
大仰に手を広げ、ドクターは自らが製作したナンバーズに絶対の自信を表した……彼なりのナンバーズに対する最大限のほめ言葉である。
見るものによってはその芝居がかった動作に胡散臭さしか感じないだろうが。
「流石、ドクター。私たちがいるんです、他人が製作した戦闘機人なんて必要ないですものね」
ドクターがタイプゼロに手回しをしなかったのは自分の娘たちが完成していないのに他人の娘に手を出す気はないからという、それだけの理由だ。
「彼女たちは管理局に預けておくさ──今日の議題はそこではなく、私の盟友プレシア・テスタロッサとその娘についてだ────場所を移そう、みんな集まっている」
◇◆◇◆
「プレシアの動向についてはウーノが一晩で調べてくれた」
No.1 ウーノ、流石できる女は違う。その優秀さには私も鼻高々だ……他人に褒められることがないのが悔しいが。
お宅のウーノちゃん立派ね~とか言われてみたいよ、私も。
「科学者である以上、研究に夢中になって他が疎かになることは珍しくない。彼女の場合は娘の命がかかっていたんだからね」
だからプレシアのことはそこまで心配してはいなかった。事実私も最近までは研究に夢中だったのだから……だが、ウーノの報告を聞いて目が覚めた。
ウーノが今のタイミングで私に報告したのは私の研究の邪魔をしないためなのだろうが、できればもっと早くに教えてほしかったよ。
「彼女の生み出した娘のクローンは、彼女にとって失敗作だったようだ」
──プロジェクトFは死人を蘇らせる技術ではない。
私が基礎理論を構築した時点では、生きた人間の記憶を保存、転写して再生することを目的としたもの……プロジェクトFではプレシアの望みを叶えることはできなかった。
「チンク、セイン、頼みたいことがあるんだが、いいかい?」
「私たち姉妹にドクターの命令を断る理由はありません」
「チンク姉だけじゃなくあたしも?」
──確かめなければならない。
「あまり他人の家庭に首を突っ込むべきではないのだがね」
もしも彼女が道を外れたのなら、ナンバーズの親としてプレシアには言わねばならぬことがある。
「プレシアがドクターの意図から外れて動いている以上、万が一にも私たちの情報が漏れることにもなりかねないわ」
……ウーノ、私には別に何の意図もないのだが。
って、チンクたちも神妙に頷かないでくれ。
あとがき
説明とシリアスが多くなってしまいました。
ドゥーエとクアットロは若干ドジっ娘仕様。
喋っていませんが、ディエチも完成しています。
[18853] 第5回
Name: アラスカ◆0e5b3aa7 ID:f6242140
Date: 2010/05/20 07:10
新暦0064年 秋
あれからほんの少し時が流れたが、今はまだ準備期間だ。
プレシアと話をしたいが次元空間を移動する庭園を補足するのは困難極まりない──彼女が娘 アリシアを生き返らせることを諦めるはずはない。プロジェクトFが失敗した今、プレシアが頼るのは……おとぎ話として語られているアルハザード。
彼女は私を知り、アルハザードの存在を知ってしまった──躊躇はしないだろう。
虚数空間に消えたというアルハザード、行くことが不可能ではないだろう。
可能性が高いとは言えないが。
だがどんな方法であれ、アルハザードに行くためには虚数空間を開く必要があり、そのためには膨大な魔力が必要だ。
大魔導師とはいえ、そんな膨大な魔力を個人で運用することなどできない。
であれば頼るものは膨大な魔力を秘めた、何らかのロストロギア。
ロストロギアが絡めば話は簡単。
まさか自分で発掘などできるはずもなく、盗むしかない。
ならロストロギアを輸送する次元航行船やロストロギアを管理する研究機関に注意を払っておけばいいだけだ。
プレシアが行動に出るまで私は出来る限りの準備を進める。
万が一にも娘たちにもしものことがないように────
「お邪魔するよ」
──というわけで、特殊なISを持つセイン用の装備を開発した私はセインを探してナンバーズの訓練スペースに足を運んだ。
「っ、ドクター?」
「やあ、お疲れ様、ディエチ」
其処に居たのはNo.10 ディエチ。タイプゼロ──今はギンガとスバルという名前の少女たち──のデータを反映するために完成が遅れているNo.9や適性遺伝子の見つかっていないNo.7とNo.8よりも早くに完成した、現在の末っ子である。
「どうして此処に?」
その体に不釣り合いな巨砲を携え、額に浮かぶ汗を拭うこともせずにディエチが私に向き直る。
「セインを探していてね」
持ってきたタオルとドリンク(市販品。娘に変なモノを飲ませるわけないじゃないか)を手渡す。
するとディエチは目をパチクリ。
「これは……?」
「うん? 身体に機械が含まれているとはいえ、君たちは人間だ。のどは渇くし、汗をかいたままでは気持ち悪いだろう?」
そりゃあ普通の人間よりものどの渇きは我慢できるし、痛覚を遮断できるように汗の感覚をなくすことも勿論可能ではあるが。
今はのどの渇きを我慢する時ではないし、洗浄施設がある此処でわざわざ感覚を遮断する必要もない。
「……ありがとう、ございます」
ディエチは何やら微妙な顔をしながら私からタオルと飲料水を受け取った。
(どうしてドクターがわざわざ……?)
「セインなら今は──」
「んー、やっぱり潜れても外が見えないのはつらへぶっ!」
………………。
笑顔のまま私は停止。
ディエチは目をまん丸にして驚いている。
ゆっくり、ゆっくりと視線を声の聞こえた下へと向けていく。
「……ご愁傷様」
私の足は水色の髪をした少女の後頭部を踏みつけ、水色の少女は顔面が床にこんにちは。
む、娘を足蹴(?)に!
こ、これはDVなのかっ、虐待なのかっ?
「大丈夫かいっ、セイン?」
「あ、あう……ド、ドクター?」
私が足をどけると、セインは鼻を押さえながら涙目で私を見上げた。
「──あはは、失敗失敗。せっかく発現した激レア能力なのにまだ使いこなせなくって……」
そう言って笑うセインの鼻は赤かった────くっ、眩しい! 日陰者の私には他の娘にはないセインの笑顔が眩しいっ!
「って、ドクター?」
「あ、ああ、すまない。本当に大丈夫かい?」
「だいじょぶ、だいじょぶ。ドクターのつくってくれたこの機体は、これぐらいじゃ歪みもしないって」
「何を言うんだ。君たちの肌は乙女の肌と変わらない。もう少し気にしたまえ」
(……うん? あたし、ドクターに肌のことで心配されてる? なんだか変な感じ……でも、なんかおもしろいかも)
この私が娘の肌を妥協するとでも思っているのかい? 肌だけではなく髪も爪も人間と変わらない──というより、機械を身体に埋め込んでいるだけなのだから当然だ──洗浄施設にはそれぞれの髪にあったシャンプーとリンスを用意しているし、ちょこっと弄れば普通の人間のように生理だって来る……はずなのだが、ウーノが他の姉妹たちに埋め込んだ私の遺伝子のせいで生理が来なかったら、と考えると恐ろしくてやっていない。
「損傷はないし大丈夫そうだな……」
ぼけーっと突っ立っていた私の足元にセインがISディープダイバーで現れたため、彼女は私の下敷きになった。つまり踏みつけたのではなかったので大したことはなかったようだ。
「ドクター、セインに用があったんじゃ……?」
「ん、そうだったね」
「あたしにドクターが用事? ま、まさかクア姉の指示で出来の悪いあたしの頭を改造しに……!?」
出来の悪いなどとはとんでもない。
私の因子を埋め込んだいたなら、セインのように明るく良い子が生まれることはなかっただろうに。
「君に新しくもう1つの眼を作った。それさえあればISを最大限に活用できるだろう」
「3つ眼?」
指で丸を作って額に当てるセイン。
流石に顔に3つの眼がある娘を可愛がることは……いや、できるか。
「じゃあそれを使ってチンク姉をサポートすればいいんだね?」
「ああ。よろしく頼んだよ、セイン」
「よし、任しといて、ドクター!」
──娘を親の事情に付き合わせるというのはいい気分はしないがやむを得ない。まったく、まだ私は何一つ彼女たちに親らしいことをやっていないだけでなく、彼女たちに肉親と認識されてすらいない。
(失敗ばっかのあたしを重要な任務に就かせることをクア姉は反対したと思う……でも、ドクターが私に頼んでくれたんだ。これからできる妹たちのためにも、おねーちゃんらしくしっかりしないと)
「──燃えてるね、セイン」
「ん、そうなのかい?」
「うん、すっごく」
ううむ、子の気持ちを理解できないとは……この調子ではこれから生まれてくる娘たちも親と認めてくれなそうだ。精進せねば。
あとがき
アニメでセイン空気wwとか言わないであげてください。
スカさんの因子が埋め込まれていない娘たちの方がスカさんの本質(?)を肌で理解しています、ウーノやクアットロ的ドクター像の刷り込みにより、完全に理解するにはまだまだ至りませんが。