「──すまないね、私の我が儘に付き合わせてしまって。この件が片づいたら、研究を再開するよ」
「お気になさらないでください。私たちはドクターの望みのままに」
「私たちではなくチンクとセインに任せられたのは少々残念ですが」
忙しい君たちに頼むわけにはいかないさ。だからといってチンクたちを使っていい理由もありはしないのだが。
「ドゥーエにはできるだけクアットロについていてもらいたいんだ。君たちはどこか似ている、だからクアットロについては頼んだよ」
「姉妹なんですもの、似ていて当然ですわ──お任せください、クアットロは私がしっかりと教育しておきます」
私も研究が終われば、娘たちと一緒に居られる時間も増える……それまでは姉たちに任せるしかない。
「──トーレもすまないね。訓練相手であるチンクに仕事を頼んでしまって」
「いえ。どんな形であれ、チンクたちに実戦経験を積ませられる機会ですので」
特にセインには戦闘経験はありませんから、とトーレ。
……戦闘か、そうならないのが一番いいんだが。
セインだけではない、他の娘たちにも戦いなどしてほしくはない……だが私が違法研究を続けている以上、時空管理局や研究データを狙う輩との戦闘もある。
娘たちが生まれ、大所帯になり、活動が活発になってきたが故にそういう者たちに見つかる可能性も高くなってしまった。
セインとディエチが生まれてからはまだ戦闘はない、このままの調子でいきたいものだ。
「さて、それじゃあ話はここまでだ。この件に片が付くまでは自由に過ごしてくれて構わないよ」
「それじゃあ私はさっそくクアットロのところへ」
「では私は食事の準備を」
そう言ってラボ内の調理スペースへと向かうウーノは何となく嬉しそう。
私だけでなく、セインが美味しそうに料理を食べてくれるのが効いているようだ。
料理を楽しいと思える女性は魅力的だ、うん。
「私は訓練に戻ります」
「──トーレ、ちょっといいかい?」
ウーノとドゥーエを見送った私は最後に出て行こうとしたトーレを呼び止めた。
「なにか──?」
「今、チンクたちは洗浄施設にいる」
「? はい、それがどうかしましたか?」
ううむ、やはりこれだけではわからないか。
「君は訓練の時以外ではあまりセインやディエチと関わりがないだろう? 親睦を深めてきたらどうかと思ってね」
唯一チンクとはそれ以外の時間も一緒にいることもあるようだが、それも長い時間とはいえない。
そこが気になっていた。
姉妹仲がいいことに越したことはない。
──クアットロにはドゥーエが教えてくれるだろう。クアットロは少々、難しい娘だ。私を慕い、夢のため(勘違いとはいえ)に頑張ってくれるのは嬉しいがね。
「……チンクとは違い、セインもディエチも難しい子ですので」
「私からすればみんな難しい娘だよ。頭に脳が詰まっているだけで、機械とは全く違う。生命としての輝きをもっている」
つくりだされた存在である私が新たに生命をつくりだし、育てる……機械やデータとばかり向き合ってきたせいか、わからないことだらけだ。
「君たちは姉妹で家族なんだ。仲良くしてくれれば、生みの親としては嬉しい」
「……了承しました」
トーレのそういう不器用なところは私に似ているなかもしれないな。
◇◆◇◆
(……む)
No.3 トーレは悩んでいた。一糸まとわぬ姿で、しかも男らしく仁王立ちで。
創造主であるDr.ジェイル・スカリエッティの言葉を聞き、彼女は考えた。
自分は戦うこと以外に何も、姉として妹たちに教えていないのだと。
長女であるウーノのようにナンバーズの頂点にいるわけでもなく、ドゥーエのように教育についているわけでもなければ、チンクのように妹と普段から一緒に過ごしているわけでもない。
(ドクターに諭されるまで気づかなかったとは……私の目は節穴かっ!)
姉には妹たちを導く義務がある。
それが今の世界に背く道であったとしても。
──などと言ったところで、トーレが全裸で仁王立ちしているという事実は隠しようがなく、詰まるところ彼女は一体どうやって妹たちと仲良くなればわからない、不器用な姉であるというだけなのだ。
「────トーレ?」
「チンクか」
そんな彼女に声をかけたのは銀髪の少女、No.5 チンク。
見た目とは裏腹にナンバーズの中で現在最も姉らしい人物である。
「どうかしたのか? 何故入り口で仁王立ちしているんだ?」
「いや……どうしたらいいのか悩んでいてな」
悩むなら脱ぐ前に悩むべきだった。トーレ、痛恨のミス。
だがこの状況を打破できるチンクが声をかけてくれたのは僥倖だった。
「ふぁ~~~~やっぱり温水洗浄は至福だなぁ」
「そうだね」
気持ちよさそうに間の抜けた声を出すセインと言葉は短いものの、気持ちよさ気に目を細めるディエチ。
戦闘機人であってもやはりお風呂は気持ちがいい。
「早くチンク姉も来ないかな?」
「すぐに来るって言ってたから、もうすぐじゃないかな」
セインのチンクを待ちわびる言葉。
それは姉妹仲良く湯に浸かりたいという気持ちもあるが、
(チンク姉のあたし以上に絶壁な胸が待ち遠しい……)
No.6 セイン、性格的にも身体的にも中々姉扱いされないことが小さな悩みであった。
そんな彼女の願いは届いたのか、湯煙の向こう側に人影が見えた。
「待たせたな」
「チンク姉、もう少しでのぼせちゃうところだった、よ……?」
湯煙の中から現れたのはチンクだけではなく、もう一人。
「……」
ぺたぺた。
「……」
「ん、あっ……」
むにゅむにゅ。
「……」
「セイン……?」
ぺちぺち。
「……」
「ん?」
もにゅもにゅ。
「──はんっ、羨ましくなんてないし!」
「お前が何をやりたいのか私には分からんのだが……」
本当に困ったというような表情を見せるのはトーレ。
音で分かるとは思うが上からセイン、ディエチ、チンク、トーレの順である。何の音とは言わないが。
「うぅっ、チンク姉だけが頼りだよ!」
「どこを見て言っているっ?」
無遠慮なセインの視線から隠すようにチンクは両手で自分の体を抱きしめた。
「トーレと一緒に入るの初めてだね」
「そうだな……たまには悪くない」
トーレはディエチの隣でセインとチンクの会話を眺めていた。
「セインはいつもみんな誘おうとするけど、トーレやクアットロたちは忙しいから誘えずに終わっちゃうんだ」
「……そうか」
(確かに訓練中にセインを見かけることはあったが、そうだとは気づけなかったな……)
妹の気持ちにも気づけないとは、確かに私は関わらなすぎたようだ──とトーレは反省する。
「──トーレ姉の胸なんて高速機動の邪魔になるだけでしょっ? 少しでいいから分けてよぅ……」
「ボディスーツのおかげで不便はない。そしてデリケートな胸部をそんな気安く触るな」
「あう゛っ!?」
チンクから標的をトーレに変えたセインだったが、おっかない姉御の拳骨を受けて湯の中に沈んでいくのだった。