数の子って言うな!   作:うた野

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第8回

「ドクター、チンク姉とセインからの定時連絡────って、わっ……」

 

「それは本当かいっ!?」

 

 

 No.10、ディエチが姉からの定時連絡があったことを報告にスカリエッティのラボに入った際に見たのは、足の踏み場がないほどに散らばった何かの部品。

 

 

「って、おっとっと……ああ、すまない。気を紛らわそうと試作機を弄っていたらこんなことになっていてね」

 

 

 ドクターはそれに二、三度躓きながらも入り口、ディエチの側に歩み寄る。

 

 

(危ないなぁ……)

 

「それで、どうだい? チンクとセインは」

 

「まだ任務開始から20時間。進展は────」

 

 

 ないよ、とクアットロやセイン、姉たちと話す時と同じ口調が飛び出しそうになっているのにディエチは気づいた。

 

 

「──ありません」

 

「そうか……いや、そうだったね。まだ1日経っていないんだった」

 

(……やっぱり、変な感覚)

 

 

 ドクターと話しているとまるで姉妹たちと話している時のような、或いはそれ以上に何か、気安い空気が流れている気がすることがディエチには不思議だった。

 

 

「しかし少しやりすぎたようだ。ウーノがやってくる前に片付けなければな。忙しい彼女の仕事をこれ以上増やすわけにはいかない」

 

 

 困ったようにスカリエッティは頬をかく。

 ──また。

 確かにウーノを初めとして、ナンバーズは全員が“戦闘”機人だ。

 だが戦闘以外の仕事、ウーノやクアットロは情報処理が主な仕事であるし、ウーノなどはスカリエッティの身の回りの世話をすることが最重要な仕事の一つである。

 だというのに、そんなウーノの負担を減らすため、スカリエッティは既に散らばった部品を拾い集い始めていた。

 

 

「──おや、手伝ってくれるのかい?」

 

「これぐらいなら、私にもできます」

 

 

 できるから、と勝手に動こうとする口を疎ましく思いながらも、ディエチは最早ガラクタにしか思えないソレを拾い集め始める。

 

 

 

(ジェイル・スカリエッティ。愛娘ディエチとの初めての共同作業ですっ!)

 

(……何かまた変な感覚が)

 

 

 

 親の心、子知らず。

 或いは知らぬが仏。

 

 

 

 

 

 ◇◆◇◆

 

 

 

 

 

「──いけないわねぇ、ディエチちゃん。創造主であるドクターと私たちを一緒にしちゃ」

 

「分かってる……分かってるけど」

 

 

 妹たちの相談役であるチンクが居ない今、ディエチの相談相手はNo.4 クアットロしかいなかった。

 

 

(ドクターにはもう少し下の子たちに対して厳しくしてもらおうかしら? ドクターの作品をどう扱おうとドクターの自由だけど、これからの作戦に支障が出たら問題だし──)

 

「──そもそもディエチちゃんがドクターと話す機会なんてそんなにあったかしら?」

 

 

 セインやディエチは特に決まった教育担当がいなかったが、チンクを初めとした姉たちが四苦八苦しながらも教育をした。

 二人の教育は姉たちに一任され、ドクターはずっと研究。

 会う機会など、最近までほとんどなかったはず。

 

 

「たまに会うとドクターが話しかけてくるから」

 

「……なるほどね」

 

 

 ドクターが何を考えているのか。彼の因子を持つクアットロにも彼の全てなど理解できていない──もしかしたら理解した気でいるだけで本当はまったく理解できていないのでは、という感覚に陥ることもある────その通りである。

 

 

(ディエチちゃんがドクターのことを悪く思っていないのは間違いないし、ドクターを意識しているのならそれでいいわ。利用するだけですもの)

 

「クアットロはどうなの? ドクターと話してると変な感じしない……?」

 

 

 そう尋ねられたクアットロは一考する。

 前述の通り、ドクターを理解できていないのではないかという感覚に陥るのはいつものこととして、変な感じ。

 

 

(そういえば、チンクちゃんとセインちゃんがいないし、遊ぶ相手が二人ともいないっていうのは変な感じね)

 

 

 ディエチに言われてから初めて気づいた感覚。

 そしてさらに思い出す。

 チンクとセインを送り出す前も、送り出した後も心配そうな表情で何かをぶつぶつと呟いていたドクターを。

 

 親の感情の変化に、子は敏感に反応する。

 親が嬉しければ子も嬉しいし、逆に親が悲しんでいれば子も悲しくなる。

 

 今のクアットロは気づいていないだけでまさしくそれと同じだった。

 

 本人は絶対に認めないし、気づくこともないだろうが。

 

 

「クアットロ?」

 

「……つまらないわね、なんだか」

 

 

 今、クアットロが感じるのはただそれだけ。

 

 

 

 

 

 ◇◆◇◆

 

 

 

 

 

 第97管理外世界『地球』 遠見市にあるとあるホテルの一室。

 

 

「……なんだか寒気が」

 

「奇遇だな、姉もだ」

 

 

 どうしたんだろう、と顔を見合わせ首を傾げる二人。

 

 

「──はっはーん、さてはドクターとクア姉あたりがあたしたちがいなくて寂しがってるんだっ」

 

「いや、それはない────と思うぞ」

 

 

 何故か自分たちを心配して狼狽えるドクターの姿が容易に想像できたが、そんなはずはないと一蹴する。

 

 

「慣れない環境なのだ。そういうこともあるだろう」

 

「ドクターやウー姉たちの所から離れるってのも初めてだしね」

 

 

 なんだか新鮮だ、とセインは呟く。

 

 

「でもやっぱりドクターや姉妹みんなで一緒に居れた方がいいな」

 

「そうだな」

 

 

 No.6 セイン。姉と違い、育った環境からは考えられないほど素直で明るく良い子であった。

 

 

「時空管理局が動いている以上、そう長くはないさ」

 

「犯罪者予備軍のあたしたちが言うのもなんだけどね」

 

「違いない」

 

 

 いずれ戦うことになる組織が近くにいる。

 だがそれを大して意識することなく、出張任務1日目は概ね平和だった。

 

 

 

 

 

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