紫煙燻る黒狐   作:とろねぎ

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......知らない天井だ...

 

 

窓の外が明るくなってくる。

 

「......んんぅ...」

 

唸りながら、布団をずり上げてすっぽりと頭も覆うことであの忌まわしい光から逃れる。

 

あったかお布団でぬくぬくと楽園を堪能していると、突然布団を剥がれた。

 

「んにゃあぁ...私の楽園んん......」

 

「寝ぼけていないで。ほら、朝食、出来てるわよ。」

 

「んぁ......?...あ、おはよう。お姉ちゃん」

 

「おはよう。早く来てね。」

 

私が起きたのを確認すると、お姉ちゃんは向こうの部屋に行ってしまった。

 

いつの間にお姉ちゃんが私の部屋に入ってきていたのだろう。もしかしたら、布団を被っていたせいで聞こえなかったのかもしれない。

 

開かれた扉から、良い、食欲を刺激する香りが漂ってくる。

 

軽く伸びをしてからそれにふらふらと誘われるように歩き出す。

 

食卓に乗せられた、二人分の朝食。

 

暖かいお茶におにぎり、みそ汁、だし巻き玉子...お姉ちゃんのだし巻き玉子が朝出てくると言うだけで少し気分が高揚する。

 

「では...頂きましょうか。」

 

二人で両手を合わせて「いただきます」と軽く告げて箸を手に取る。

 

なんだか、こうして二人で一つの食卓を使っているだけで、どこか懐かしさのようなものを感じて胸が苦しくなる。

 

懐かしい...?これがいつも通りなのに?

 

「「ごちそうさまでした。」」

 

あれ?

 

さっき食べ始めたばかりなのに、もう無くなってる。味も感じなかったし...

 

「じゃあ、片付けるね。」

 

「えぇ、ありがとう。」

 

食器を重ねて、流し場の中で水にある程度漬ける。

 

スポンジに食器洗剤を掛けてから食器を取りだして洗う。

 

私よりも早く出る必要のあるお姉ちゃんは準備して、私は片付けをする。

 

食事の時に限らず、私たちは支えあって生活していた。

 

私に出来ることはそこまで多くないとはいえ、お姉ちゃんに少し楽をさせるくらいなら出来ていた。

 

「よし終わり。」

 

「私、もう出るね。」

 

手を拭きながら振り返ると、不審者がいた。

 

「はーい、行ってらっしゃ...何そのお面!?さっきまで付けてなかったよね!?」

 

「これは...少しね。私に必要な、便利なものなの。」

 

「ふーん...?」

 

不満のニュアンスを汲み取ったのか、軽く肩を竦めて言った。

 

「そうね...タマヨが大きくなったら、何かプレゼントするよ。楽しみにしておいて。」

 

「...ほんと?」

 

「私がタマヨに嘘をついたことなんてあった?」

 

「...割りと、ある...」

 

「...」

 

「...」

 

「...んっ、んんっ!...分かった。約束しよっか。」

 

わざとらしく咳き込んだ後、小指がやってくる。

 

指切り、大事な約束の証明。口約束を確固とするものにするなんの拘束力もない物...

 

でも、嫌いじゃない。

 

「ゆーびきーりげんまん」

 

「嘘ついたら」

 

「どこにいようと探し出して」

 

「報いを受けさせる」

 

「「ゆーびきった。」」

 

固く結んだ小指を解いて、お姉ちゃんがゆっくりと立ち上がる。

 

「...これで、私が約束を破っても見つけに来てくれるね?」

 

「え、早速破る予定あるの?」

 

「...くすっ、冗談。()()()、行ってきます。」

 

「うん、行ってらっしゃい。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

...

 

......

 

お姉ちゃんの、嘘つき

 

下手くそな料理がほんの少し並ぶ食卓で呟いた。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

「...っ!?はあ、はあ...っっ!」

 

跳ねるように体を起こした。

 

そのせいか、すぐ近くで待機していた痛みに顔を顰めた。

 

まだ手に張り付いてるように思える血の感覚と、頬をつたう汗が不快だった。

 

周りを見る。

 

綺麗に片付けられたテーブル、クッションがしかれたソファ...

 

外はもう明るいのかもしれないが、黒く分厚いカーテンがこの部屋だけ夜に仕立てあげていた。

 

ふと片目を触った時、何も付けていないことに気が付いた。

 

でも、夜闇の中なら私も目を隠す必要が無いから。

 

「......あぁ、目が覚めたのですね。」

 

「誰!?...あっ、あのときの...」

 

どこか既視感のある狐面をつけた、あの人。

 

私を助けてくれた...助けてくれた?あの人。

 

あの時は着物と制服の間のような服装だったけど、今は桜色を基調とした着物を着ていた。

 

...変わらず狐面は着いたままだったけれど。

 

「ここ...どこ?」

 

「ブラックマーケット。そこのちょっとした私の隠れ家です。」

 

「そう...ブラックマーケット...」

 

ブラックマーケットを拠点にしている人物、というだけで関わってはいけないあちら側の人間ということが頭をよぎる。

 

でも、今はそんなこと、些細で眼中にもない情報だ。

 

それよりも...

 

「...お姉ちゃん?」

 

「...」

 

「お姉ちゃんだよね?」

 

「...」

 

何も言わずに、狐面をもう一度深く被り直すだけだった。

 

「...さあ、私には心当たりがありませんね。」

 

「どうしてそんな嘘つくの...!」

 

「嘘では無いのですから、心当たりがなくて当然でなくて?それとも、なにか根拠が?」

 

突き放すような物言いをするお姉ちゃんに不満が募る。

 

「ヘイロー、同じじゃん。」

 

「.........はぁ。」

 

ため息。女性的な体つきでの悩ましげなそれは、奇妙な面を考慮しても絵になるものだった。

 

「そんなことまで、覚えていたのね。」

 

丁寧な口調を崩しての発言が私の思考を肯定する。

 

「そうね...私とヘイロー、そっくりだものね。」

 

細く白い指が狐面にかかり、取り外した。

 

「久しぶり、タマヨ。」

 

私と同じ、黄金色の瞳がのぞく。

 

狐面の、獲物を見据えた虎のような威圧感とは真逆の、子狐を見守る親狐のような優しい目。

 

「...お姉ちゃん?」

 

「そうだよ。まさかヘイローまで覚えられていたなんて...」

 

「自分がどれだけ有名なのか...考えてよ、もう...」

 

「あまり良い意味ではありませんがね。」

 

「ふふっ、そうだね。そう...だねっ...!」

 

喉元まで込み上げてきたものを必死にこらえる。

 

じわりと視界の端が歪んだのを、とっさに手で拭って綺麗にする。

 

「...あまり、甘えてこなかったからね。」

 

そんな言葉と共に、布地へ包まれた。

 

布越しに伝わる体温と、かすかに聞こえる心臓の音。そして、後頭部を撫でる細い指。

 

「ここは古そうに見えて防音性が高いの。だから、多少うるさくしたって誰にも何も言われないよ。」

 

遠回しな許可。それを受けた私は...

 

「さび、しかった...さびしかったよぅっ...!お姉ちゃんっ...!」

 

せき止めていたものをいとも容易く決壊させた。

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

「っ...ぅ...!ふう...っ...」

 

「...落ち着いたかしら?」

 

優しく聞いてくるお姉ちゃんに、息も絶え絶えになりつつ返事する。

 

「う、うんっ...」

 

「ごめんね。一緒にいてあげられなくて。」

 

「...ううん、約束、したから。信じてたよ。」

 

「約束...そうだったね。」

 

お姉ちゃんの口調に違和感を感じる。

 

まるで...

 

「もしかして、忘れてた...?」

 

「.........いいえ?」

 

「ぜーったい忘れてた!ひどい!私、約束信じて待ってたのに!」

 

「...分かった。少し早いと思ってたけど...」

 

どうやら覚えていたみたい。

 

じゃあさっきの間は何だったの...?

 

ふところから何かを取り出し、それを差し出してきた。

 

「キセルと、お面...?」

 

何の変哲もないキセルと、左側だけの変哲しかない狐面。

 

「お面も聞きたいんだけど...キセル?私に?」

 

キセルのことを、『煙草を吸うもの』と認識している私は、すぐさま疑問をそのまま口に出した。

 

「詰まっているのはハーブよ。安心して。」

 

「お姉ちゃんが言うと危ない方に聞こえるね...」

 

「ふふっ確かに。」

 

キセルが必要なものだとは思えないけど...せっかくのお姉ちゃんからのプレゼントなんだから頂いておこう。

 

問題は...

 

「なにこの...なに?」

 

左側、それも目の周りだけの狐面。本当になんなんだろうか...?

 

「そうね...時間もいいし、荷物まとめて外行きましょうか。」

 

「???...わかった。」

 

「なんの時間がいいのか」という疑問を飲み込んで、ついて行き、出入口の手前で止まった。

 

「着けてみて。」

 

「え...?うん、わかった...?」

 

恐る恐る目にあてがうと、驚くほど綺麗に、すっぽりとハマった。

 

「大きくない?」

 

「大丈夫だよ。それで...どうするの?」

 

「こうするの。」

 

「わぎゃーっ!?」

 

勢いよく開かれる扉。

 

あまりにも突然で脈絡のないそれは、私の反応を飛び越すのも容易だった。

 

手よりも先に到達した光は、私の瞳を焼いて...

 

「...あれ?痛くない。」

 

「そう怯えずとも、今日からその面があなたの目の代わりをしてくれるのよ。」

 

「目の代わり...」

 

「早い話、サングラスね。」

 

「あぁなるほど!ところで...これ、レンズ割れちゃうよね?気を付けないと...」

 

「レンズなんてものは無いよ。」

 

「...ハ?...じゃあなんでこれ...」

 

「しー......ヒミツ。それよりも、ほら。」

 

「?」

 

状況を呑み込めずに首を傾けている私に、光の中から手が差し出される。

 

「時間はまだあるから、少し外を歩かない?」

 

「っ...」

 

それを見て、どうしてか躊躇してしまう。両目が見える状態で、白日の下を歩くというのが、どうしても怖かった。

 

暗いところは怖いし危ない。でも、どれだけ明るくても必ず影はできる。

 

結局、心の底から安心して歩くける道なんて無いなんてネガティブな思考に支配される。

 

「...仕方無い。」

 

「えっ?今なんて言っ...ひゃあ!?」

 

躊躇している私がじれったかったのか、伸ばされた手が私の手を掴み、光の中に引き込んだ。

 

 

 


 

 

 

 

あとがき

 

これは...救われ始めたのか?いかんせん曇らせへの造詣が浅いもので...

 

ちなみに、ワカモと接触したことでタマヨちゃんがどう変化するのかは、作者もあまり考えていません(池沼)

もうこの際私の中のイマジナリータマヨちゃんに、選択を全て任せようかなって...彼女が闇堕ちヒャッハーしても、私は文章に落とし込めるだけにしようかな。

 

私はノリだけで小説を書いている(戒め)

 

新章まであと二話くらい...ですかね...?

この作品に足りないものとは...

  • このままでいいんじゃね知らんけど
  • 銃撃戦が少ねぇ!
  • タマ虐
  • ガチ百合回
  • R-じゅうはt(銃声)
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