紫煙燻る黒狐   作:とろねぎ

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過度なスキンシップは控えよう

 

 

 

ブラックマーケットの景色は、思ったよりも普通だった。

 

ひび割れた地面。粉砕されたバリケード。散らばってそのままにされた薬莢。

 

多少の治安の悪さを伝える匂いとを除けば、普通の市内と言われても不思議に思わないかもしれない。

 

...いや、明らかな不良の人とか、よくわかんないヘルメット付けた集団がいるからそんなことはないか。

 

「ひっ目が合った...!」

 

「どうかされましたの?」

 

周りを見ていた、上京したばかりのおのぼりさんみたいになっていた私がバッと前を向いて手を握る。

 

すると、私と手を繋いでいたお姉ちゃんの顔がこちらに向く。

 

「い、いや、何でもない。ただ、ゲヘナの人多いな~って...」

 

「あぁ、そういうことでしたのね。確かに、彼女たちからすればここは良い隠れ蓑でしょうから。」

 

外にいる間は仕方ないとは言え、それでも丁寧な口調で話しかけられることに少しだけの寂しさを感じた。

 

わずかな悲しさとうまくごまかせたという安堵。

 

...確かにゲヘナってかなり治安が悪いところだと聞いたことがあるし、ここにいるのもおかしくはない...のかな?

 

あぁほら、今すれ違ったのだってゲヘナの人。赤いシャツの尻尾に何かの腕章をつけている、少し珍しい服装をしているものだから思わず目線が奪われた。

 

「...?...!おっと、少しばかりお尋ねしてよろしいかな?お嬢さん方っ。」

 

見た目の幼さとは反対の、低く良く通るような声で話しかけられる。

 

「...お姉ちゃん?私たちのことじゃ...」

 

「きっと気のせいですわ。私にゲヘナの知り合いはおりませんもの。」

 

関わり合いになりたくないのか、バッサリと切り捨てて歩き出す。

 

「いやいや!狐のお嬢さん方、君たちのことだよ!」

 

歩き出すのを見るや否や、私たちの前に回り込む赤シャツの人。

 

「チッ。」

 

「お姉ちゃん今舌打ちした?」

 

「いいえ?ところで、どのような御用でしょうか。他の誰かと、間違えておりませんか?」

 

「舌打ちだなんてそんな、君と私の仲じゃないか~?...それにしても...」

 

周りを歩きながら、値踏みするように私を見つめていると、突然頭の上...耳と耳の間に肘を置かれた。

 

私は知らない、でも相手は私を知っている。そんな相手に頭を触られるというのはかなりその......不快。

 

「まさか、かの『災厄』にかように可愛い妹君がいたとは!ハーッハッハッハ!」

 

高笑いと共に放たれた言葉によって、空気がヘドロのように重たく、粘着質なものになった。

 

「その手を離しなさい。鬼怒川カスミ。」

 

いつの間にか、お姉ちゃんが自身の銃をカスミ?に突きつけていた。さっきまでの柔和な笑みは消え失せて、あの夜、私を助けてくれた時と全く同じ空気を纏う。

 

一瞬、目が紅く光ったような気がしてぶわっと肌が栗立つ。

 

「おや、そこまで焦るとは...君らしくもない。よほど大切なようだね?」

 

「次にあなたが発していいのは、ごめんなさいの六文字のみ...それ以外を言ったら撃ちますわよ。」

 

「ほお、実はだね...私はこの辺りに目をつけているのだよ。」

 

「...」

 

「荒んだ場所にこそ、温泉が必要だと思わないかね?ただなあ...温泉は人を癒すが、癒しの温泉を作るための温泉開発は反対に...」

 

「御託はよろしい。」

 

「まあまあ、そう焦らないでくれ。そうだねぇ...ちょうど君が立っている場所、私が目つけているところにとても近い。」

 

意味深に、赤いいかにもなボタンを見せびらかして笑う。

 

先程から会話について行けてない私は頭の上にハテナマークを浮かべて目回すしか無かった。

 

「...」

 

「ふんふん、今のキレる君のことだ。今頃は私の発言がハッタリである根拠を探し出しているところだろう。『偶然に偶然が存分に重なる...そのような事があるのか。しかし目の前にいるのは...』とね。」

 

銃口から目を離して、代わりのように私と目を合わせる。得体の知れない恐怖に襲われて口から空気が漏れる。

 

「......とはいえ、だ。」

 

しばらく睨み合っているお姉ちゃんたちだったけど、カスミの方が先に動き、私の頭から手を離した。そして、両手を軽く上げて敵意を否定する。

 

「いかに私とも言えど、『災厄』の怒りを買うのはごめんだ。少し遊びすぎたね。」

 

そのまま手に握っていたボタンを地面に落とすと、そのまま踏み砕いた。

 

それを見てようやく、お姉ちゃんは銃を下ろした。

 

「まあ今日は、災厄の根源...言わばパンドラの箱の存在を知ることが出来たんだ。良しとしよう。」

 

「この子に手を出したら...」

 

「あー!わかってるわかってる!開発に知らぬ間に妹君が巻き込まれて、厄災が降り掛かってはかなわない。そういった意味合いでの『良しとしよう』だ!」

 

「...賢明な判断ですこと。狡猾さには勝てませんが。」

 

「君ほど残忍ではないさ!では私は行くとしよう!まだ見ぬ温泉が、私を待っているッ!ハーッハッハッハ!!」

 

癖なのか、再び高笑いをすると私たちとは反対の方向へ走っていった。

 

「...ふう、無事でしょうか。怪我は?」

 

「...ふあっ?あ、だい、じょうぶ。」

 

上書きするように頭を撫でられながら投げかけられた質問に、一瞬の呆けの後に慌てて返事した。

 

「...お姉ちゃん、今の...なんだったの?」

 

「凶悪爆破テロリスト。」

 

「な、なんて?」

 

「凶悪爆破テロリスト。」

 

「一語一句違わずに言った!?聞き間違いだと思ったのに!」

 

「いい事?もし、また別の機会にあいt...鬼怒川カスミに出会ったらすぐさまゲヘナの風紀委員に通報すること。委員長だと尚よろしい。」

 

「ゲヘナの風紀委員...だね?わかった。」

 

私の返事を聞いて、微笑んで離された手を再び繋いで歩く。

 

ゆっくりと流れていく治安の悪い様相を背景に、お姉ちゃんに話しかける。

 

「お姉ちゃん。私の口座にお金送ってくれてたのって、お姉ちゃんだよね?」

「えぇまあ...はい。そうですわね。」

 

「遅くなっちゃったけど、ありがとう。お陰で、なんとか生活できてた。でもね...あの......」

 

「?」

 

高鳴る心臓を抑えて、恩を仇で返す発言。

 

「多い...!!」

 

「...あら?」

 

「毎月30万は多いって...!そんなに使えないよ!?」

 

「ある程度は、あなたが自由に使えるものとして送っていたのですが...」

 

「お姉ちゃんのお金を私の趣味なんかに使えないよ!?」

 

「まあまあ、お小遣いだと思えば...」

 

「お()遣いじゃないよぉ......でも、もうお姉ちゃんがお金を送る必要ないもんね...?」

 

「どのような意味でしょうか。」

 

本当に意味のわかっていないみたいでそのまま聞いてくる。

 

「だって私、お姉ちゃんと暮らすもん。そうすればまた一緒に、同じ屋根の下で寝て、同じ食卓を囲んで温かいご飯食べれるよね?」

 

「......」

 

「荷物をまとめたり、今借りてる部屋のお片付けしたり大変...それに、もしかしたらウイさ...友達に会うのも難しくなるかもしれない。」

 

お姉ちゃんの顔も見ずに、興奮して捲したてる。自分がどれだけ身勝手でワガママなことを言っているかも知らずに。

 

「でもね、でもねっ、お姉ちゃんと一緒がいいの。もう居なくならないように見張っちゃうから!」

 

立ち止まり、手にかかる締め付けが僅かに強くなったことで初めて顔を見た。

 

何が言いたいのか、何を思っているのか。はっきりと顔に現れていた。

 

「...わた、私ねっ、料理...はまだ少し苦手だけど、お掃除も、洗濯も、一人でできるようになったのっ。ねえ、ねえ、お姉ちゃんの邪魔しないから...迷惑にならないからっ...!」

 

「タマヨ。」

 

「だからさっ...また、一人にしないで...お別れなんてっ...やだ...」

 

「タマヨ。」

 

両手でぎゅっと手を握りしめられているお姉ちゃんだけど、目線を合わせるようにしゃがみこむ。

 

そして、私の目に溜まっては落ちを繰り返す大粒の涙を指を添えてすくい取る。

 

「...ごめんなさい、タマヨ。あなたはこちら側に来ては行けません。」

 

「ぅっ...やだ...!やだやだやだっ...!」

 

「私だってそれはもう心細いものがあります。ですが、もう今生の別れというわけでもありません。もうあなたは、私に会いに来るだけの力があるはずなのですから。」

 

「やだっ、ずっと、一緒がいいっ...!お姉ちゃんっ...」

 

「先程お渡ししたキセル、探し物がある時はそれで一息ついて気を落ち着けてくださること。」

 

「そんなことして...どうなるの...!」

 

無限に涙が湧き出る。

 

ぐずる私に、特に困惑するでもなくただただ頭を撫でるお姉ちゃん。

 

中々泣き止まない私を辛抱強く撫でてくれていたそんな時に、ふと口を開いた。

 

「ごめんね。」

 

短い、謝罪の言葉。

 

聞き返そうとした時には既に、側頭部に衝撃を受けてお姉ちゃんに倒れかかっていた。

 

「...ぁえ...?な、で...」

 

ゆらゆらと揺れるお姉ちゃんの顔を、震える瞳で見つめる。

 

何も言わずにただ大事そうに見つめるその顔が、徐々にブラックアウトしていく。

 

いやだ、まだいたい。

 

そんな願いも虚しく全てが黒に塗りつぶされて...

 

「負けないで。」

 

たった一言を受け取ってから闇の中に落ちた。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

「...はあ。申し訳ないことをしましたね。」

 

穏やかな寝息を立てているタマヨを、ワカモは撫でながら後悔の言葉を放つ。

 

その申し訳ないは、長い間一緒にいられなかったことか、それともこうして別れを強制させたことか。

 

自分の前に抱えて、抱きあげようとした時、2m程度先でかちゃりと金属の音がした。

 

振り向けばそこには古関ウイが、銃を構えてジッとワカモを見据えていた。まるでいつでも撃てるという意思表示にも見える。

 

「き、来ましたよ。その子を...離しなさい...!」

 

「来ましたのね。お待ちしておりました。」

 

「そんなありきたりな挨拶はいいんですよ。目的は一体なn「では、この子をお願いいたします。今は泣き疲れて眠っておりますので、どうか慎重に。」

 

「え、あ、はい。......!?」

 

銃撃姿勢をとっているにもかかわらず、突き進み、ウイにタマヨを手渡す。

 

『どのような要求を出されるのか』

 

その思考で埋め尽くされていたウイは何の前触れもなしに突然明け渡されたせいで目を白黒させた。

 

「この子が持っているものは、全て私からの贈り物です。キセルは、中身がハーブ...アロマとなっておりますのでご安心を。」

 

「え、えっと...?」

 

「私はこの子と一緒にいる資格などありません。ですので、お願いいたします。」

 

「さっきから話が見えません...あの、あなたは一体...」

 

「あぁ道中お気を付けて。恐らくは何も無いと思われますが...念の為。では私はこれで失礼いたします。」

 

伝えることは全て無くなったのか、誤魔化すように話の節を切り落とすと180°向きを変えると歩いて行った。

 

「え、えーーっ!?」

 

そしてその背中を見て、ウイは叫んだ。

 

 

 

 

 


 

 

 

あとがき

 

はいタイトル回収!もうこれで『(本文中に)紫煙が見当たらないやん!どないしてくれんのこれ(憤慨)』されることは無くなっただ...

 

たぶん次の話で0章終わります。

 

たぶんきっとMaybe知らんけど

 

余談ですがカスミは声に狂わされて気付いたら生徒一覧のところにカスミがいましたが、石が無くなってました。

 

あの見た目でCV.上坂すみれはズルいよ...

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アロナァ!!!!(時間差)

この作品に足りないものとは...

  • このままでいいんじゃね知らんけど
  • 銃撃戦が少ねぇ!
  • タマ虐
  • ガチ百合回
  • R-じゅうはt(銃声)
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