紫煙燻る黒狐   作:とろねぎ

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開業予定乞うご期待

 

 

 

小鳥の鳴き声と白い朝日が差し込む中、古書館の鍵を開けた。

 

ここに保管している子達の匂いは私を落ち着かせて、憂鬱な朝を彩ってくれる。

 

山と積まれた子達は私の一日の活力になってくれる。

 

本棚に入り切らなかった子達に挨拶をして、私以外の匂いがするソファにそこまで多くない荷物を雑に載せる。

 

そしていつもの作業机に腰掛けると、外に行っている子達の状態を確認したり、ここにいる子達の管理を始めた。

 

...一人の朝は久しぶりですね。

 

細かな雑用とも言えないようなことを任せていた子が見当たらない。

 

その理由は数日前に遡る。

 

 

 

 


 

 

 

「おはよ、さあウイさん!なにかお探しのものはあるかな?」

 

「んえっ、えーーっと...?」

 

ついさっき起きた私に、なんともいい笑顔で探し物を尋ねてくるタマヨちゃん。

 

...なんかいい匂いする。

 

「探し物...探し物、ですか...」

 

「うん。今なら私がなんでも見つけてしんぜよう!」

 

「そうですか...?で、では、二年ほど前に失くした、栞を...」

 

回らない頭で、自分がどれだけ無茶な要求をしているのかも自覚せずに言う。

 

「...ほーう?」

 

でもタマヨちゃんは、困った顔一つせずにむしろ丁度良いとでも言いたげな顔をした。

 

「じゃあさじゃあさ!どんな栞だったか思い出せる?」

 

「え?あ、えーと...木製で...上の方に空いた穴に赤い紐がリボンみたいに結ばれていて...下の方に赤い線で波が何本かあった...はずです...!」

 

昔の記憶を頼りに、栞の姿を具体化させていく。

 

ふんふんと頷いて、お姉さん(推定)からプレゼントされたというキセルを取り出した。

 

それを見て、健全なものだと分かってはいたけどギョっとしてしまった。

 

そうか...さっきからこの空間に漂っている匂いは、ハーブの香りでしたか...

 

それをタマヨちゃんは、不慣れな様子で口に咥える。

 

「!」

 

とても12歳の少女とは思えない、花魁のような色香を錯覚する。

 

「...んふ?ふぁに?」

 

「い、いえっ、似合っているなぁ...と。」

 

「ふぉう?ありふぁほ。」

 

もごもごと感謝を告げながら、ゆっくりと深呼吸をして...

 

「...ふうーっ...けほっ。」

 

紫煙を吐き出した。

 

「...うっ!けほっけほ!」

 

私が惨めになるくらい絵になっていたのに、最後で台無しになった...

 

「大丈夫ですか...?」

 

「んっ、うん...それ、よりも...煙を見てよ。」

 

促されて煙を見る。ふわふわと形のないそれはやがて一本の細い紐のようなものになって...

 

「え...!?」

 

「どれどれ...おっ、こっちかーっ!」

 

「えっちょ、タマヨちゃん!?なんですかそれ!?」

 

勝手に納得した様子で勝手に煙の伸びる先へと走り出す黒い尻尾。

 

そしてそれに置いていかれる私。

 

しばらく固まっていたけれど、数分後、タマヨちゃんが一冊の本を抱えてやってきた事で意識を取り戻した。

 

「戻って来たんですね...おや?その子は...」

 

「禁書コーナーにあって、私が見ちゃダメかなって思ったから持ってきた!中確認して?きっと探してる栞があるはずだから!」

 

「え、あ、はい?」

 

手渡された子をそのまま開いてページを繰る。

 

別に、この子だったら持ち出し禁止と言うだけだから開いてくれても良かったのに...そう思っていると、ある場所で不自然にページが飛んだ。

 

「...あ...」

 

飛んだ先のページには、あの栞が挟まっていた。

 

「どう?あった?ねえねえ、あった!?」

 

「ありました...ですが、一体どうやって?」

 

「なんか、煙の先行くと探してるものがある...ぽい!」

 

「な、なんでですか?」

 

「わかんない。でも、たぶんお姉ちゃんがくれたコレに何かあるんだと思う。」

 

考えをまとめるために一度、今開いている子を閉じて脇に置く。

 

私が口を開くよりも早く、彼女が話を広げた。

 

「私、これ使って『もの探す屋さん』になる!ということで色々実験に付き合ってくれても...いいかな?」

 

「...」

 

正直私が居なくても何とかなると思ったのですが...

 

「......だめ?」

 

「っ...!」

 

...頼まれたら仕方無いですよね。

 

決して、潤んだ瞳で上目遣いされたから、とかでは無いですよ?

 

本当ですよ?

 

彼女が私に頼んだ事としては主に二つ。

 

『生き物も探せるのか』・『自分以外でも使えるのか』

 

まあ...非常に簡単な実験でした。

 

前者は隠れた私を彼女が探せば良かったし、後者は私が今読みたい子を思いながら煙を吹くだけ...

 

「うっ!うぐえっ!げほっえほっ!!」

 

「ぎゃー!え、えずいた!?」

 

初めての煙を吐く経験は私の気管に酷く悪影響を及ぼした。

 

「ひい、ひい...ど、どう、ですか...?」

 

「......ダメっぽい。」

 

上を見て申し訳なさそうに言うタマヨちゃんを見て、私も天井で弾けるだけの煙を見た。

 

「私じゃないと...ダメみたいだね?せっかくなら誰でも使えれば良かったのに。変なキセル。」

 

「...」

 

いいえ、そのキセルに特に異常性は無いと思います。

 

「...神秘...」

 

「え?」

 

「あっいや、神秘的...ですね。」

 

「......そうだね!」

 

危なかったですが、なんとか誤魔化すことが出来ました...

 

神秘...その単語を聞いたことはありますが、いざ実際に目の前でそれを行使する友人は初めてです。

 

ティーパーティからも、神秘の解明に関する子を預かっていますし...今このキヴォトスにおける権力者たちの悩みの種。

 

おそらく...というか、確実に神秘のことでしょうね。

 

そうなると、彼女の神秘は...

 

「...イさん...ウイさん?聞いてる?」

 

「えあっ!?な、なんでしょう。」

 

「今までお世話になりました。」

 

姿勢を正した状態で私を呼んだと思ったら、突然ぺこりと頭を下げてまるで今生の別れかのように今までの感謝を告げた。

 

「え...」

 

「私の状況...まあ気分もあるんだけど...状況としては、もう百鬼夜行にいられない。だから引っ越そうかなって思って...」

 

「...」

 

「...ウイさん?」

 

全く反応しない私の目をのぞき込む彼女の顔を、私は直視できませんでした。

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

「ふっふふ~ん♪」

 

照りつける日光をものともせず、ご機嫌に鼻歌を歌いながら、がこがこと鉄を平べったくして重ねただけのような階段を上がる。

 

上りきった後、左側に扉が等間隔で設置された道を片手でカギを弄びながら歩く。

 

「奥から二番目...ここか。」

 

呟いてから立ち止まった扉の鍵穴に小さな鍵を突き刺した。

 

扉を開くと、やたらと綺麗な小部屋が私を出迎えた。

 

何も並んでいない玄関に靴を脱いで、部屋の中心にヘッドスライディングのように倒れ込む。

 

「あだっ!......にゅーまいるーむ!いえー!」

 

壁に頭を打ち付けながら新居への喜びを全身で表現した。

 

「荷物は先に送ったはずだけど......全部あるね。はあ、今まで使えてなかったのもしっかり使おうかな。もう暇になるはずだし。」

 

ウイさんと古書館生活するのも楽しかったけど、いつまでもお邪魔するわけにはいかないからね...

 

それと、もし依頼が来た時に依頼人を応対できる場所も必要だし。

 

さすがに公共施設でそんなことは出来ないからね...

 

「...あ〜...広告とかも作った方がいいのかな...それか適当にウェブサイトを立ち上げる...?」

 

ぐぅ

 

考え出した途端、胃が収縮する音と感覚で気を取り直した。

 

「...お腹、空いたな...何かあったっけ...」

 

適当な冷凍食品を求めて、お腹を擦りながら冷蔵庫を漁る。

 

でも見つかるのは、ラップのかかった冷ご飯に魚肉ソーセージ、刻みネギに卵...

 

「このまま食べれるのソーセージしか無くない...?あ、でもこの品揃えなら何か作れるかも...」

 

ご飯、卵、ネギ、ソーセージ...

 

「...チャーハン?」

 

ものぐさ過ぎて、お姉ちゃんが居なくなって以来一切の料理をしていなかった私でも、チャーハンぐらいなら作れるかな...

 

「......ちっちゃい変化から、初めよっかな。」

 

 

 

 

 

 

 

 

目立った失敗は無かったけど、なんかやたらとしょっぱいチャーハンが出来た。

 

 

 


 

 

 

「...さて、と。お隣さんに挨拶しに行こうかな...なんて前に、ちょっと出掛けようかな。」

 

塩分過多チャーハンを片付けて、外出の準備を整える。

 

そして貴重品だけを持って妲己を肩にかけてから外に出た。

 

「財布ある、鍵ある。殺生石は懐に収まるし、妲己は小さいし...うん、荷物が軽いって良いね。」

 

鍵を掛けて階段を下りながら改めて持ち物の確認をしてようやく道に出る。

 

わずかに斜めって注ぐ日光に目を細めながら、転居したばかりだがよく見知った道を歩く。

 

人通りの多い道。

 

白なんかの清潔感のある服装をしている、天使みたいな人混みの中で異質すぎる黒色の私。

 

最初こそ興味の目がよく集まったけれど、かなり早い段階でその目は無くなった。というか人も見えなくなった。

 

「...着いた。」

 

古めかしい扉の前に立ち止まってぼそりと呟く。

 

そしてすぐに扉を開けた。

 

「こんにちわ〜挨拶に来ました〜」

 

「...」

 

「...はあ、居るんでしょ?ねーえ...?」

 

迷いの無い足取りで、山積みの本で出来た迷路のようなものを進んでいく。

 

そして、最奥で机に突っ伏して何かをしている背中を軽く指でなぞった。

 

「んひぃっ!?」

 

「...そんなに?()()()()。」

 

「だ、誰ですか...?今作業ちゅ......!タマヨちゃん!?て、てっきり、もう来ないものかと...」

 

「いやいや、住む場所変えただけだから。むしろ、これからはより簡単に来れると言うか...」

 

「...?どういう意味ですか。」

 

「あ、私そこのアパートに引っ越してきたんだ。百鬼夜行自地区から、トリニティ自地区に来たの。」

 

「???」

 

ありゃ、なんか固まっちゃった。

 

心做しかウイさんの後ろに宇宙が拡がっている気がする。

 

「それと、お店の名前も考えたんだ。ずばり!『煙探し屋『黒狐』』!安直だけど変に捻るよりはいいでしょ?」

 

「...」

 

「...ウイさん?」

 

煙探し屋『黒狐』

 

特徴をシンプルに収めたつもりだし、それの反応も見たかったんだけど...

 

「?????」

 

なんか余計に宇宙が広がっちゃった。

 

 

 

 


 

 

 

あとがき

 

捻るかシンプルか悩みましたが、忘れてるかもしれませんがタマヨちゃん12歳なんでね?

同年代よりは遥かに読書してるから年不相応の知識はあるけど子供ですからね?

 

ということで、どシンプルな名前にしておきました。

 

 

少し時間飛びます。ほんとに少し

この作品に足りないものとは...

  • このままでいいんじゃね知らんけど
  • 銃撃戦が少ねぇ!
  • タマ虐
  • ガチ百合回
  • R-じゅうはt(銃声)
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