紫煙燻る黒狐   作:とろねぎ

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文章は語弊を招きやすい

 

少し長め

 

 


 

 

 

カスミさんの依頼を終えてから数日後...

 

窓から入り込む月明かりの下に立っていた。

 

「さて、なにかメール来てるかなーっと...おっ。」

 

あの日から少しずつだけど、依頼がチラホラと届くようになってきた。

 

風呂上がりで半乾きの髪にバスタオルを乗っけながら、スマホを取り出してサイトを確認する。

 

数日置きに一つ二つ届くようになったのは嬉しいんだけど、困ったことが一つある。

 

家出したペット探し、落とした財布の捜索...

 

「あ、財布は死活問題だね。すぐに探しに出ようかな......不良アジトの捜索・殲滅...?うち傭兵じゃないんだけど?」

 

なんか私を独立傭兵か何かだと思ってるような依頼がたまに届くようになった。

 

それは私の仕事じゃないでしょうよ...まあ捜索だけでもいいなら引き受けるけどさ...

 

ぷつんとスマホから光を消して、窓にもたれかかって満月を眺める。

 

「...ここ最近で色々起こりすぎてる気がする...正直ちょっと疲れた...」

 

探し屋なんて、一つ一つの依頼を終えるのに多少の時間は掛かるし、全て終えた頃にはまた追加がやってくる。

 

わんこそばみたいな状況のせいで自由な時間がとことん少なくなっている。

 

最近ウイさんにも会えてないし、しばらく本も読んでない...

 

「はあ、働くのって大変だなぁ...くしっ!ずびっ、うぅーっさむっ。」

 

自分の今の格好忘れてた...湯冷めしたのか途端に訪れる寒気で外出用の服を漁り始めた。

 

 

 

 

 

 

「...これで、よし。あ〜あったかいぃ〜」

 

温もりを享受している時、ブブッとスマホが震えて光がついた。

 

「ん?今度はだ......お姉ちゃん!?

 

その通知を見てすぐ、困惑一割歓喜九割でモモトークを開いた。

 

 

 


 

 

ワカモ

「自営業始めたんだってね?

頑張って」

 

うんありがとう!頑張る!

 

ワカモ

「一つ聞きたいのだけど...

カスミの依頼を受けたんだよね?」

 

え?うん、機械の部品探してって

 

ワカモ

「受け取ったのは報酬だけ?

それ以外で何かされなかった?」

 

何かって?

 

ワカモ

「例えば...『あなたの噂を広める』とか。」

 

...あー...

 

ワカモ

「やっぱり。

カスミに借りを作ったら

後から何を要求されるか分からないよ」

 

で、でも、困ってたみたいだし...!

 

ワカモ

「それが本当に事故だったと言いきれます?

「あなたに借りを作らせるためのきっかけじゃなかったと」

 

そ、そんな、こと

 

ワカモ

「『するはずがない』『する意味が無い』

そう言いたいのですか?」

「ですが残念。

そう言いきれないのが鬼怒川カスミという人間です。」

 

ワカモ

「私、申し上げましたよね?

『すぐに風紀委員に連絡しろ』と??

申し上げましたよね???」

 

...ごめんなさい。

 

ワカモ

「いいえ、謝っても変わりません。

もう仕方が無いこと。

大事なのはこれからどうするかです」

 

うん...

言いつけ破って、ごめんなさい。

もうお姉ちゃんに迷惑掛けないようにって

思ってたのに...

 

もう行かないと。

 

ワカモ

「行く?何処に?」

 

ワカモ

「タマヨ?」

 

 

 


 

 

 

スマホの電源を落として、肩も落として、月明かりの下を行く。

 

ゆらゆらと月を背景にして漂う煙を追いかける。

 

「お姉ちゃん、怒らせちゃった...はあ。」

 

二人きりの時とかは楽な言葉遣いで話してくれるけど、怒ってる時は外にいる時みたいに敬語で、しかもゆっくりと圧をかけて詰め寄ってくる。

 

急に敬語の文章になったということは...はあ。

 

何度目かも分からないため息と共に吐き出される紫煙を目で追う。

 

月光を受けているせいか、紫味があまり強くないそれを足で辿る。

 

今記憶の中ではっきりと思い浮かべているものは、依頼にあった財布。

 

ピンクの長財布にモモフレンズ?のやたらと体が長い猫のキャラのストラップが付いているもの。

 

写真も欲しかったけど、財布の写真を撮ろうとはあまり思わないだろうから仕方無い。

 

その代わり、かなり事細かく文章で説明してくれてたからまあ...うん。

 

後半なんてモモフレンズの良い所がひたすらに書かれてたけど...うん!

 

「...やっぱり夜は良いよねぇ。眩しくないし、人も少ないし...うおっまぶし!」

 

面を外してちらっと月を直視したけど、ちょっとまだ眩しすぎた。

 

ズキズキと痛む左目を庇うように、再度面をつける。

 

心地よい暗さに包まれる。

 

昼もこれくらい暗ければ良いのに、なんて考えてしまう。

 

「...ふふっ、さすがに傲慢かな。」

 

そんな思考を一笑してから、道の雰囲気がガラリと変わったのに気付く。

 

「あれ、ここって...ブラックマーケット?なんでこんな所に財布落としてるのさ...」

 

こんなただの無法地帯みたいな所で財布落としたら帰ってこないと思うんだけど...それか随分と軽量化されて戻ってくるか。

 

「...考えてても仕方無いか。」

 

財布を無くして死ぬほど困っている人がいるのだと自分に言い聞かせて無法地帯に足を踏み入れた。

 

薄暗い道の中で、騒がしいネオンライトとそれを反射する空薬莢が点々として、地面に落ちた蛍みたい。

 

「それただの死にかけ蛍では...?」

 

「あぁ!?何言ってやがんだおめぇはよォ!?」

 

「テメェこそ脳みそ腐ってんじゃあねぇのか!?」

 

「...」

 

さすがブラックマーケット。こんな夜中なのに治安が悪い。

 

メンチをほぼゼロ距離で切り合う二人に巻き込まれないように、見つからないようにそーそと...

 

「だーかーら!ラーメン屋なんだから一番うめぇのはラーメンに決まってんだろうがよ!?」

 

「ラーメン屋のチャーハン食ったことねえからんな事言えんだよドアホ!」

 

「...」

 

ちょっと気になる話題...

 

「チャーハンなんざオマケだろ!どんな神経してやがんだ!?」

 

「何いいやがるタコ!あのパラパラ具合のチャーハン食ってみな!?飛ぶぞコラ!」

 

「あぁん!?そこまで言うなら明日一緒に行こうぜ美味そうなトコ見つけたんだよ!」

 

「上等だぁ!!んじゃ待ち合わせ場所と時間決めっぞボケコラ!」

 

...あの人たち実は仲良いでしょ。

 

食事に行こうと約束して、待ち合わせ場所だとか計画を立て始めた二人を視界から外して、再び煙を追いかける。

 

案外すぐに、煙を追いかける必要は消え去った。

 

小綺麗な大きな台。その上に色々なものが並べられており、その中の財布を煙が指し示していた。

 

祭りの屋台みたいに上から小さな電灯で照らされていて、私もその中に踏み入った。

 

「ピンクの長財布に猫のストラップ...これだね。」

 

「おい!お前何してやがる!」

 

「ひゃいなんにも!」

 

後ろから怒声を浴びせられてつい両手を上げてしまう。

 

恐る恐る振り返ると、赤いヘルメットですっぽりと顔を覆った不良が銃を突きつけていた。

 

「...何してやがるこんなところで。」

 

「さ、捜し物...ここに、あったから...」

 

「捜し物だァ〜?」

 

「ひ、ひゃい。そうれす。」

 

緊張で回らない舌を必死に動かして弁明。

 

すると、納得がいったのか銃を下ろして肩をバシバシと叩かれた。

 

「なーんだ!『落とし物センター』に落とし物があっただけか!もー、それを早く言えよなー!」

 

「え、あっ、うん、そうな...痛い痛い痛い!」

 

「あ...すまん。」

 

銃口とともに少し下がるヘルメット。

 

...悪い人じゃ...ない...?

 

「...落し物センター?」

 

「おう、名前の通りこの付近に落ちてたものを届ける場所だ。アンタもここいらのブラックマーケットで物無くしたら、ここに来な!」

 

夜、それもこんな危ない匂いのする場所には到底似つかわない快活な声でアドバイスまで貰っちゃった...

 

「...っと、こんな話してすまんな。何を落としたんだ?」

 

「あのピンクの財布。」

 

「お、あれか?...ほら、もう落とすなよ。」

 

軽く感謝を述べて、ピンクの財布を受け取る。

 

「にしても大変だったろ?」

 

「...んえ?なにが?」

 

「これ拾ったの、そこの大通りなんだよ。ほら、スイーツの店がやたらとある...」

 

「あるね。」

 

「普通交番行かないか?」

 

「......まあ隠すほどの事じゃないか...」

 

 

 

 

 

諸事情を包み隠さず話した...

 

 

 

 

 

「...というわけで、これを探してたの。」

 

「ほおー...アンタがあの、アビドス砂漠から一つの指輪をたった一日で探し出したって言う『黒狐』か...!」

 

おそらく広められたのであろう功績を口に出しておののくヘルメットさん。

 

「...ん?」

 

「ん?」

 

「...なんか違くない?」

 

「いや?こうやって聞いたぜ?」

 

......そっかぁ

 

「?なんだその反応...」

 

「ハグルマ...ダヨ、ミツケタノ...」

 

「...」

 

「...」

 

静寂。なんか私悪いことしたかな?してないよね?

 

悪いことをした訳でもないのに緊張してくる。

 

「ま、まあ歯車でもすげぇよ!なあなあ、今度私がなにか無くしたら頼んでいいか?」

 

「もちろん!困った時は来てね!...まあ無くさないに越したことはないんだけどね?」

 

「違いねぇや!」

 

「「HAHAHA!」」

 

すっかり親友のように空を見上げて笑う二人。

 

たぶん、こんなところじゃなければ真っ当な友達になれたのかもしれない。

 

でも相手は...アレだよね、最近話題の、ヘルメット団...

 

「...ん?なんだあれ。」

 

「なにが?」

 

「ほら、なんか、月に影出来てね?」

 

「えっと...?」

 

言われて見ると、確かに満月の前に黒い影が出来ていた。

 

円状に広がっていた影は、やがて細長い、人型みたいなものに変形して...

 

着物のようなひらひらとした部位を見た瞬間、走馬灯のように世界にスローモーションがかかる。

 

あれ?そういえば、前もこんなに感じのことがあったような...?

 

暗い路地裏、満月...私の状況は違うけど、環境はそっくり...かな?

 

「その子から離れろ」

 

「ってやばい!」

 

ヘルメットさんを庇うと同時に、土煙に包まれる。

 

そして背中に降り注ぐ、大量の砕けたコンクリートの破片。

 

「おい!?いきなりなにしやが「しーっ、気絶したフリでもしてて...!」

 

「お、おう...?」

 

ぐったりとして動かなくなったヘルメットさんをそっと地面において煙を見つめる。

 

「手を出せばどうなるか...その身に教えて差し上げましょうか?」

 

煙の中に揺らめく紅い双眸。

 

殺意をまとった声。

 

私に向けられたものじゃないとわかっていても、全身の肌が栗立ち冷や汗が止まらない。

 

これは、確かに『災厄』...!

 

「お、お姉ちゃん!わ、私は大丈夫、だよ!!」

 

上擦った声で敵意を削ぐ。

 

「...本当に?」

 

どうやらかなり効果的だったみたい。

 

煙が晴れるよりも早く、中からお姉ちゃんが歩き出てきた。

 

「本当に?ホントのホントに?どこも怪我してない?」

 

「うん。強いて言えばお姉ちゃんが飛ばした破片が痛い。」

 

「あぁごめんなさい!大丈夫!?アザになってない!?あなたを助けるためとはいえ......あら?」

 

狐面を外して、泣きそうな顔で身体中をぺたぺた触られる。

 

「(アザはもう今更じゃないかな...)」

 

「てっきり危ない目にあっていたものだとばかり...ですが着の身着のまま、綺麗な状態ね...?」

 

顔をモニモニと撫で回しながら訝しげに見つめるお姉ちゃん。

 

あふぉ(あの)ほんふぉひ(ホントに)あふふぁいへにら(危ない目には)あっへらいふぁら(あってないから)...とひはへふ!(とりあえず!)はなひふぇ!!(離して!!)

 

「あ、ごめんなさい。」

 

「ぷあっ......もう!こんな所までお説教に来たの!?」

 

「え!?いや、け、決してそのようなつもりでは...モモトークを見て、心配してたのですよ...!?」

 

「えぇ?モモトークぅ?......あ。」

 

露骨に不満そうな顔をしてモモトークをひらいて確認すると、嫌に納得してしまった。

 

拗ねたように残された『行かないと』という文章。

 

これは確かに、心配になるかな...

 

「ま、まあとりあえず、私は捜し物しに来て、そこの人は丁寧に教えてくれてたの!」

 

「そう、でしたのですね...で、でしたらそこで倒れている方は...」

 

「怪我はないよ。お姉ちゃんを見て気絶しちゃったのかも...ほら、お姉ちゃんの巷での呼び名は...」

 

「...さ、『災厄の狐』...!?ぎゃあぁあぁ狐坂ワカモだァァァ!?!!?」

 

ぱたり

 

好奇心に耐えられなかったのか、起き上がってお姉ちゃんをはっきりと視認したヘルメットさんは奇声をあげて再び倒れてしまった。

 

「「...」」

 

沈黙に耐え兼ねて、倒れたヘルメットさんを担いで道の端に寄せておく。

 

あとは落し物センターにブランケットがあったから、それも掛けて帰路についた。

 

「これでよし。お姉ちゃんは?......もう遅いし、私の所に泊まっていく?」

 

「よろこんで。」

 

「返答はやっ!」

 

「では、向かいましょうか。」

 

開かれた手の平に手を重ねる。

 

「そうだね...ふふっ...」

 

「どうされたのですか?」

 

「いいや、なんでもないっ。」

 

重なり合った手を見て、笑みを零した。

 

 

 

 

 

 

 

この日を境に、私のバックにはかの『災厄の狐』がついている、という噂が流れることになるのを私はまだ知らない。

この作品に足りないものとは...

  • このままでいいんじゃね知らんけど
  • 銃撃戦が少ねぇ!
  • タマ虐
  • ガチ百合回
  • R-じゅうはt(銃声)
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