紫煙燻る黒狐   作:とろねぎ

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正に嵐だった...

 

 

帰路について、かつ自宅にも到着したのは、正午を過ぎた頃だった。

 

「戻りましたー...ってまだ居るわけないよね...たはは...」

 

「おかえりなさ〜い♡」

 

「ぎゃあびっくりした!!」

 

悲鳴をあげて飛び退いた私に笑いかけるのはハナコさんだった。

 

後ろの方で目を覚ましたらしいコハルさんがチラチラとこちらを覗き込んでいる。

 

「待ってたんだ...」

 

「今日はおやすみですから。」

 

「休みなのに...制服なんだ?」

 

「本当なら私も()()()格好でおでかけしたかったのですが。」

 

「エッチ!」

 

「あんな様子でして...」

 

「は、はあ...」

 

本気で落ち込んでいる様子のハナコさんとデフォルメされた猫の目でふんふんと鼻息を荒くしているコハルさん。

 

...急に疲れてきた...頭痛い...

 

「あら、大丈夫ですか?」

 

「ぇあぁ、うん...そうだ。見つけて来たよ。コハルさんの...だったよね?」

 

靴を脱いで、本を手に持ってコハルさんに近寄ると、余計にコハルさんがあわあわと狼狽し始めた。

 

なんか変なことしちゃったかな...?

 

そんな不安に駆られていると、コハルさんが動いた。

 

...動いたよね?

 

私が一回だけ瞬きをしたら、手に持っていた本はコハルさんに大事そうに抱えられていた。

 

「こ、これはその...没収したやつだから!」

 

「んなっ、いつの間に...」

 

しかも、聞いてもいないのに弁明が飛んできた。

 

「...コハルさんのでしょ?」

 

「違うからっ!」

 

「違うの?コハルさん凄いなって思ってたのに...」

 

「「えっ」」

 

私の後ろに立って、微笑ましそうに見守っていたハナコさんからすらも困惑の声が漏れた。

 

「そ、そそそ、それってどういう...!?」

 

「実はね、こっそり読んだんだけど...難しくてわかんなかったの。遠回しの比喩表現の連続で、知識不足を痛感させられたよ〜...」

 

「「...」」

 

「二人ともどうしたの?」

 

「...そ、その知識は...あんまり必要じゃ...」

 

「必要ですからね♡タマヨちゃんさえ良ければ、この後じっくり、私と()()()しましょう?」

 

「こ、こんなちっちゃい子にナニする気!?エッチ!」

 

「お勉強としか言ってないのに...♡コハルちゃんったら、もうっ♡」

 

「!!」

 

「...はあ...」

 

頭痛い...助けてお姉ちゃん...

 

 

 


 

 

 

「それでは、私たちは帰りますね。ありがとうございました〜♡」

 

「あ、ありがとう...」

 

「もう無くさないようにねぇ〜.........うふぁー、疲れたぁ...」

 

二人を見送ったあと、体中の骨が抜けたみたいにふにゃふにゃに脱力してしまった。

 

それこそ、壁に手をついてないと立ってられないぐらいに。

 

「...あ、そうだ...依頼、来てるかな...」

 

スマホに目に悪い光が灯る。

 

それをしばらく眺めて...

 

「...今日は私もおやすみかな。...よしっ。」

 

軽い沈黙と同時に外出の準備を始める。

 

準備と言っても貴重品は常に持っているから、身だしなみが崩れてないか、なんかをちょっと確認しただけだけど。

 

「ふっふふーんふっふふーん♪」

 

鼻歌交じりの軽快な足音を鳴らしながら黄色にも近い日差しの下を歩いた。

 

これから向かう場所に心躍らせ、尻尾が揺れていた。

 

 

 

その数分後、私は充満する紙と乾いたインクの匂いに包まれていた。

 

 

 

「これ気になるなぁ...あとはあれと...お、新しいのあるじゃんっ。」

 

他のお客さんが居ないからと、声に出して尻尾を振り回していた。

 

ギリギリ視界が埋もれないように、数冊の本を取り出し抱えて、気分で場所を探して座り込む。

 

そして、古書に有るまじきタイトルをしているそれを開いた。

 

古書館にも多少なりとも、最近の本が保管されているスペースはある。

 

今開いているのはそこから取ってきたものだ。

 

「最近話題の『転生モノ』...気にはなっていたんだよね。タイトルは...」

 

『転生したら災厄の狐だった件〜風紀委員長も私には勝てない...!?〜』

 

脳が理解を拒み、しばらくその直球な文章の羅列を見つめていた。

 

「......ダメかもこれ。お姉ちゃんに惹かれて手に取ったけど、改めて見ると...うん...」

 

もうタイトルの時点で訳が分からない...!本当にこんなのが流行ってるの...!?

 

「い、いや、食わず嫌いは良くないよね。読んでみたら案外面白いかもしれないし...」

 

 

 

 

程無くして、打ち上げられた魚...それも死にかけのように力無くビクビクと痙攣する羽目になった。

 

 

 

「オッ...オゥェアッ...!ナ、ナニコレエッ...!?」

 

滅茶苦茶な設定に、やたらと非道に描かれるお姉ちゃん。

 

早すぎる展開。

 

極めつけには、本人たちが絶対に言わないであろう台詞の数々。

 

いつもは落ち着きのある、悪く言えば古臭いものばかり読んでいた私にとって、コレは刺激が強すぎた。

 

「アバアバアベベベ...」

 

その結果、体が拒否反応を起こしてこの有様。

 

「あの...大丈夫ですか...?」

 

机に突っ伏して痙攣している私の肩を、聞き馴染みのある声が揺すった。

 

「う、ウイさぁん...!」

 

今にも泣き出しそうな顔と声だったから、たいそう焦らせてしまったかと思う。

 

「一体、どうしてそんな顔を......あっ、これって...」

 

「ねえ...これなに...?」

 

「これは、最近キヴォトスで話題になっている『やろう小説』ですよ。」

 

「『やろう小説』...?」

 

「『小説家をやろう』という小説投稿サイトで人気を博し、書籍化したものの一つが、これです。」

 

そんなものあるんだ。

 

感心していたのも束の間、これがある程度の人気を得たという事実で再び気が遠くなる。

 

「...私、これ返してくるぅ...」

 

よたよた覚束無い足取りで元の棚に戻したあと、ウイさんが居るところに戻った。

 

「はあ...災難だった...所で、ウイさんは休憩?」

 

「そうですね。一区切りついたのと...」

 

モゴモゴと口を両手で包んで目を伏せる。

 

「ついたのと?」

 

「......あなたが、見えたので...」

 

「...」

 

「な、何か言ってください...!」

 

「...よかったぁー...」

 

「え?」

 

「ウイさんいつも遠慮してるみたいな感じだったから、てっきり友達と思ってるの私だけだと思ってた。」

 

「そっそんなこと!...ない、です。」

 

自分で言って恥ずかしくなったのか、勢いよく上げられた顔が赤くなり始める。

 

今にも湯気を出して倒れてしまいそうだったから、咄嗟に話題をすりかえる。

 

「そうだ!面白そうな本見つけたんだけど...確か、『愛と鞭』ってやつ!恋愛小説なんだって。」

 

「『愛と鞭』...?.........いえ、知りませんね...」

 

「そっかぁ。ウイさんも知らないんだ。今日依頼されて探したのがそれだったんだよね。」

 

「な、中は、読んだんですか...?」

 

「......気になってちょっと読ん「げほっ!ごほっえほ!」

 

「ウイさん大丈夫!?」

 

「は、はい...唾が気管に入っただけです...」

 

「でも、難しくて分からなかったんだよね。」

 

「そ、そうですか......ほっ...」

 

スマホで調べていたせいで、何故か安堵した表情をしているウイさんに気付くことは無かった。

 

「...あ、あったあった。」

 

「...はい!?」

 

私の呟きに過剰なまでのリアクションをしたことで漸くウイさんの異変に気が付いた。

 

「え、あの、さっき言ってたやつが...あれ?年齢制限かかってる...」

 

「...!」

 

やっちまったとでも言わんばかりに天を仰ぐウイさん。

 

い、いやそれよりも問題は年齢制限が掛かったこと...18歳以上かどうかの確認?

 

待って、すごく顔が熱い...!

 

18歳以上か確認してくるって、そういうことだよね?アレだよね?

 

え、じゃあじゃあじゃあ...私が熱心に読んでたのって、もしかして、いやもしかしなくてもエッチな本で...

 

ならあのよく分からなかった文章もあんな事やこんな事、すごくエッチなこと...いやもしかしたらそれよりも凄いことを...!?

 

これ以上無いくらいに考えが右往左往した私は

 

「...きゅう...」

 

限界を迎えた。

 

 

 

 

 

 

『転生して、憑依』

 

そんなことが実際に起きたらどうなってしまうんだろう。

 

今まで仲良くしていた友達が、次の日会ったら全く違う雰囲気の別人になってしまっていたら...

 

あんなに優しいお姉ちゃんが、ある日突然乱暴者になってしまったら...

 

そんな考えがとめどなく溢れて、頭上を舞っている。

 

あの本の私はどうしているのだろう。

 

きっと、お姉ちゃんの異変に、とっくに気付いているのだろう。

 

お姉ちゃんは確かに、悪い事をした人だけど、悪い人だとは思わない。

 

優しくて強い、自慢のお姉ちゃん。

 

...

 

......

 

.........でも...

 

でも、もし本当は悪い人で乱暴者だったら...

 

私は、どうすれば......

 

 

 

 

 

「......んに...」

 

「......あ、閉館までに目が覚めましたね...」

 

「...あ、ウイさん...ごめん...じゅび、寝ちゃってた...」

 

口の端からだらしなく垂れそうになった涎を引っ込めて、机から顔を上げる。

 

「(気絶では...?)」

 

何か言いたげなウイさんの後ろ。

 

すっかり茜色に染まった空を見て、今の大まかな時間を把握する。

 

「ふう...起こしてくれてありがとう。もう帰るね。......ウイさん?ウイさん?どこ見てるの?」

 

「へぁっ、え、あ...はい。また会いましょう。」

 

「うん、またね。」

 

軽く手を振って、別れを告げた。

 

「うぅん...なーんか気になるなぁ。視線は、私の胸元...いや首かな...ちょっと待って、首?.........あ。」

 

そうじゃん。

 

「私の首...今凄いことになってるじゃん───!」

 

そう考えると、人通りの少ない道だけどやけに人目が気になり始めた...!

 

でも首を隠して歩くのもなんかなぁ...はあ、仕方無い、この際堂々と帰れば怪しまれはしないでしょ...

 

それに、すぐそこだし。

 

「......あ...」

 

今日のご飯無い...買い物して帰らないと。

 

弁当でも...

 

「...いや、作るかぁ。」

 

 

 

 


 

 

 

あとがき

 

(l)<おやおやおやおや、赤面するタマヨチャンは可愛いですね。

この作品に足りないものとは...

  • このままでいいんじゃね知らんけど
  • 銃撃戦が少ねぇ!
  • タマ虐
  • ガチ百合回
  • R-じゅうはt(銃声)
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