場面転換多め
「はあ、はあ...色々見てたらもう7時前になっちゃった...!」
いくつかの食材やらが入ったビニール袋を下げて、息切れしながら自宅の扉を開けた。
途端にやってくる違和感。
「......あれ?明るい。電気消してなかったかな...」
気のせいだと思いたくなるような、微かな人の気配がする。
まさか...泥棒?
見せかけの威嚇のためだけに、仰々しく妲己を構えて創作された特殊部隊みたいに警戒しつつリビングに入る。
「...誰も居ない...?」
「やっ!おかえり!」
「うわあ!?」
ソファの陰から、ここにいないハズの人物が顔を出した。
「いてて...カスミさん?」
「そんなに驚かなくてもいいでは無いか。私が自由の身...では無いな。風紀委員の拘束から解かれたのは、君も既に知っているはずだろう?」
「...いや?」
「えぇー!?君、まさかニュースとか見ないのか!?それは予想外だ...ふむ、どう説明すればいいものか...」
「ニュース...?」
ニュースという単語に引っ掛かりを覚える。
一言断ってから、私もソファに座り、ネットニュースを検索する。
『鬼怒川カスミ 脱走』で出るかな...?あ、出た。
ネットニュースと言っても、文字通りネット上にあるニュース映像だけど。
テレビが無くても、テレビと同じニュースを見れるって素晴らしいね。
小さな液晶画面の中に、二人の人物が現れる。
一人は偉そうに両手を重ねて若干前のめりになっているパグと、背筋を伸ばしたボメラニアン。
『速報です。』
アナウンサーと思しき人物が話し出した。
『○月✕日、17時22分の出来事でした。つい先日確保された指名手配犯の鬼怒川カスミが行方をくらませました。』
「ついさっきじゃん...」
『また、駆け付けたFOX小隊の活躍により、その逃走を補助し監獄を破壊した『災厄の狐』狐坂ワカモを矯正局へ送還しました。』
「ふむ...ヒナのお陰とは言えんか。メンツとは面倒なものだな。さ、良さそうな場所はどこかな〜っ。」
「.........は?」
今なんて言った。
聞き間違えたのかもしれない。
うん、そうに違いない。スマホだと巻き戻せるのが便利だよね。
『...くの狐』狐坂ワカモを矯正局へ送還しました。』
途中から再生された言葉は、確かにお姉ちゃんの名前を出していた。
『幸いにも、同時刻収監されていた者たちは『災厄の狐』鎮圧の際、流れ弾を受け気絶していたとのことです。』
だからなんだよ。
どうでもいいんだよそんなこと。
会えない?
『それにしても、現在逃亡中というカスミ...いやはや怖い話ですね...そしてそれと同じくらいに不思議な話ですね。パグ俊さんはどう思いますか?』
何か言っているけど、頭に入らない。
会えない?いつまで?どうして?
なんで、いやだ、待ってよ、そんなの聞いてない、冗談だよね、さびしい、今何してるの、やだ、お姉ちゃん待って、やだ
嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ
『確かに不思議ですね。『災厄の狐』と鬼怒川カスミ。この二名の間に一体どのような関係が引かれているのでしょうか。』
「......ぁ、そうだ...」
上の空で耳に入った言葉に反応して横を見る。
「お、ここ良さそうだな。後であいつらにも教えないと...おや、ニュースはもういいのかい?それとも何か聞きたいことが?」
小さな地図に赤ペンで丸をつけていたカスミも私を見て、にぱっと屈託の無い笑みを向けてくる。
「...そうだね...聞きたいことが、一つ。」
身を乗り出して、顔を近付ける。
そのまま、数十秒、狡猾な獣が機を窺うように見つめて...
「...あ〜...その、なんだ?そのように圧をかけられては私も多少なりとも恐怖し、でぇ゙ッ!?」
髪を掴んで、硬いソファから硬い床に突き落とす。
そのまま馬乗りになって軽く床に叩き付ける。
「かふっ...お、おいっ...!いきなり、何をっ...!?」
「お姉ちゃんに何をした。」
「はあ...!?なんのことを...」
叩き付ける。
「がっ...」
「(錯乱しているのか...!?まずは抜け出さねば...!...力強っ!?)」
「答えろ。なんでお姉ちゃんが毛嫌いしていたお前を、身代わりみたいに助けた。おかしいだろ...!」
「っはあ、はあ......はっ、それは固定観念に囚われた推測に過ぎないだろう?君はいささか視野が狭すぎる。人と言葉を交わす上でそれは致命的だと思わないか?」
「......」
「この状況においては、まず君に私の話を聞く意思があるかどうかだがね?」
よく回る舌だ。
叩けば黙るかな。
「聞く気は皆無だな!?想定外だ!」
「聞かれたことだけ答えろ。聞いてもいないことをべらべらと...いい加減にしろ、角へし折るぞ。」
左右に飛び出た立派な角を掴んで握り締める。
ミシミシと小気味良い音が聞こえて、笑みが零れる。
「...はあ。悪く思わないでくれよ?」
カスミから小さな謝罪の言葉が聞こえた。
その直後、こめかみに硬いものが押し付けられ、弾けた。
凄まじい程の衝撃を受けて、気付けばちかちかと明滅する照明見上げていた。
「うぐぉぉっ...!し、尻尾が痺れたぁぁっ...!」
何か聞こえた気がするけど、動けなくて、部屋が真っ暗になった。
「ん...」
背中が痛い...
「...あれ...?なんで私、ソファで寝て...」
広いソファを豪勢に一人でも占拠していることに疑問を浮かべ、体を起こす。
「...んっ、うくぅ〜っ...!」
背伸びして体を左右に捻って、パキパキ音を鳴らせる。
寝起きで頭に掛かったモヤを振り払うと、部屋の中に残る確かな争いの痕跡があった。
「あ...そうだった...」
蘇る記憶。
色々と省いて言ってしまえば、すぐにでも消えてしまいたい。
だって、自分勝手に白熱して、友人に八つ当たりして...あの時の自分はどうかしていた。
お姉ちゃんなら大丈夫。きっとそうだよね...?
「...謝りたいな......ん?テーブルの上に...紙?」
『落ち着いて話を聞ける状態になったなら、ココ↓へ来るといい。少なからず君の疑問は解消されるはずさ。』
矢印が指し示す方に目を落とすと、座標が書き連なっていた。
「えっとここは...ゲヘナ?ゲヘナ自治区かぁ...」
それも、電波も届かなそうな山。
治安の悪いと噂のゲヘナ、そして人気の無い山への呼び出し。
嫌な予感...具体的には生命の危機を感じたが、ミステリー小説の読み過ぎだとかぶりを振る。
でも、そんな豆粒程度の不安で消え去るような罪悪感ではなかったから、最低限身だしなみを整え、ようやく送られた座標へ移動を開始した。
歩いて、電車に乗って、また歩いて...段々と減少しつつある人工物と釣り合いを取るように木や花なんかの植物が増えてきている。
というかもはや雑木林とか、森とか、それくらいの密度の木々の間を抜けていく。
幸運(?)なことに、ここに来るまででトラブルらしいトラブルには見舞われなかった。
でもさすがと言うべきか、至る所で銃撃戦が起きていて本当に怖かった。
風紀委員と思わしき人達が、不良を鎮圧したり、ちっちゃい大量の紫色の平たいものに触手が生えたナニカを鎮圧してた。
......風紀委員の子からの依頼、格安で受けるようにしよ...今も無理のないお金もらってるけど。
「さて、そろそろ着く頃合いだと思うんだけど...一人でいるのかな?それとも何か作業してたり...」
「あぁその通りだ「ア゙バーッ!?」そんなに驚くか?」
突然目の前に、コウモリみたいに逆さ吊りになったカスミさんが飛び出してきた。
「どうしてそんな格好してるの...!?」
「ふふん...サプラ〜イズ♪それで、聞きたいことがあるのだろう?」
「そのまま話すんだ...聞きたいこともあるけど、まずその...ごめんなさい。」
「...?あぁ、昨日のことか。特段大事に至った訳では無いから、気にしていないぞ?」
「えっ」
「それよりもそうだな...先日君は『お姉ちゃんに何をした』と言っていたな。言っておくが私が策に陥れた訳では無いぞ。元々そういう契約だ。」
「...契約...?」
「まあ簡単な話、彼女が戻ってくるまで私が多少なりとも君を気にかけておくという話だ。」
気にかける...?
確かお姉ちゃんはカスミさんに近付かないよう言っていたはず...それなのに、カスミさんが私を気にかける?
一体どう言った風の吹き回しなんだろうか。
それに、戻ってくるまでって言っても...お姉ちゃんがいつ戻ってくるかなんて...
「心配せずとも、数日...いや数週間程度で戻ってくるだろうからそう心配するな。もう何度捕まり何度脱獄していることか...彼女からすれば、頭を冷やすのに最適なホテル程度にしか思っていないだろうからね。」
「心読んだ!?」
「顔に出ていたよ...さて、質問されるだろう心当たりはこれくらいかな。他に何かあるかい?」
「い、いや......あんまりにも...その、アッサリと色々なことが済んじゃったから若干引いてるぐらい。」
「ははっ!それは良かった!それはそれとして、今日君はなぜ私がこんなところに呼んだか不安に思っている。そうだろう?」
「まあ...ね...?」
「そんな疑問も、向こうへ行けば解決さ!」
ご機嫌な様子で少し小高くなっている方向を指し示すと、にこにこ笑いながら私を見つめてくる。
「...」
「...」
「...あの...?」
「なんだい?」
「案内してくれた方が早いと思うんだけど...」
「そうだね。そっちの方が効率的だ。『あっち』・『向こう』・『そっち』...そんなあやふやで個人解釈に任せた代名詞に道案内させるよりも遥かにね?ただ...いやっまあ、私もそうしたいのは山々なんだ。」
「出来ないってこと?どうして?」
「......」
黙ったまま自分が足を引っ掛けている枝を指で指すカスミさん。
「ま、まさかだけど...」
「そのまさかさ!いやはや大誤算だ!ハーッハッハッ!だから助けてくれないか?」
「えぇ...」
「もうさっきから頭が割れるように痛いぞ...だから頼むっ...!」
「そんなこと言われたって私も無理だよ!?」
「どうしてだ!?そんなに身長が低いわけじゃないだろう!130後半もあれば私を持って下ろすくらい容易なはずだ!」
「142!!ギリギリ140cmあります〜っ!」
「それは悪かったね!!謝るから助けてくれ!!いやマジで!頼む!!」
「腰抜けちゃったの」
「...」
「......」
「「(終わった...)」」
「...人って、2時間逆さになってたら確実に死ぬんだって。」
「今それ言う必要あったか!?」
「じゃあどうする?枝撃ってへし折る?」
「......仕方無いか。」
「うわすっごい嫌そう。」
「おーーーい!!」
「死ぬよりは断然マシだとも!さあ!...タノムヨ。」
「...」
「そうやって焦らされると余計に怖いんだが?」
「...いや、なんか、人の声がしたような。」
「ぶーちょーー!なにやってんのー!!」
「ほら聞こえた。一体どこに...あ、後ろ...」
「ぶ・ちょ・う!何してるの?コウモリ?」
「...まあそんなところだよ。メグ。」
カスミさんの後ろから、カスミさんを肩に抱えた人。
炎みたいな赤い髪に人懐っこい犬を彷彿とさせる笑顔。
「...あ!君が部長の言ってた『期待の新人』!?」
「え、あ、なにそれ...?」
「メ〜グ〜?その話はまだしていなかったのだが...まあそうだ。期待の新人だよ。」
「私は下倉メグ!メグでいーよ!」
「あ、私、は...タマヨ、です。メグさ「『さん』付けしなくていいよ!」
「上は?」
「え?」
「苗字!」
「......狐坂」
つい圧に負けて言ってしまった...!
そんな後悔はお構い無しに、メグは目をよりいっそう輝かせるとまたもや朗らかに笑った。
「凄いね!」
何が?
「メグ、談笑に花を咲かせるならもっと良い場所があるでは無いか。」
「確かに!じゃあ行こっかタマヨちゃん!立てる?」
「彼女は腰が抜けてしまってね。だからメグが運んでやってくれ。そしてついでに私を降ろすんだ。」
「おっけー!」
「きゃっ!?」
片腕をお腹の方に回して、小脇に抱えるとそのまま...
「あぁ助かるよ。そろそろ降ろしてくれないか?」
「じゃ、行っくよー?」
「歩けるから!私、歩ける!今すぐ!降ろすんだ!無視か!?私なにかした...」
「え?行くって何?どこ?ねぇちょっ...」
「「ひっ、ひゃーっ!!」」
車かと思うような速度で緑生い茂る雑木林の中走り出した。
あとがき
タマちゃんは142cm!タマちゃんは142cm!
ココナ教官以上でムチュキ以下!
シュギョウブチビバクチチとゲヘナシロモップと同じ!
待ってカエデ142なの...?あれで...?
この作品に足りないものとは...
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このままでいいんじゃね知らんけど
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銃撃戦が少ねぇ!
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タマ虐
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ガチ百合回
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R-じゅうはt(銃声)