紫煙燻る黒狐   作:とろねぎ

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うげっ

 

 

 

やたらと小綺麗で小さな部屋の中で目を覚ました。

 

「...何処ここ。えぇと、たしか私は...」

 

丁寧にかけられたブランケットを退けて、妙に寝心地のいいソファから体を起こして思考を巡らせる。

 

「...古書館...そう、古書館に居たはず......いっ...!?」

 

体の節々が痛む。

 

寝ている間に誘拐されたと、とりあえず仮定してから携帯電話で現在地を確認する。

 

「...ゲヘナ...いやギリギリトリニティかな?どうしてこんな所に...?」

 

ゲヘナとトリニティの境目。そこから更にトリニティ寄りの場所に現在地が表示された。

 

「どこかで恨みでも買うようなことしたかな...おかしいな、割と心当たりがある。」

 

「主に賞金稼ぎ(副業)の方で。」と小さく付け加えて探索を再開する。

 

拉致監禁なんて物騒な四文字が一瞬だけ浮かんで、半開きの扉を見て直ぐに霧散した。

 

鍵がかかっている訳でもない小屋の中で、私が寝ていた理由とは...?

 

「ん?あぁ起きたか!いやはや一時はどうなるかと思ったが、異常はなさそうだな!」

 

「......うわぁ。」

 

「うわぁとは随分な言い草じゃあないか。私のせいで怪我していたか。それともどこか悪いのかな?気分は?頭痛でも?その様子じゃ無さそうだな。それじゃあ他に、なにか気がかりなことが?」

 

楽しそうなお尋ね者(カスミさん)のマシンガントークに気圧されることなく、

 

「...とりあえず、ここは、どこ。」

 

一言一言噛み締めるように問いかける。

 

「私の第22...いや23つ目に作った隠れ家さ。ここが一番近かったからね。」

 

「......私の家から随分遠いと思うんだけど。」

 

「家!あんな所が家とは、ご実家は火事にでも?」

 

「はあぁ?あんな所って...確かに、家賃の安さで選んだところではあるけど...」

 

「家賃?」

 

「...?」

 

どこか話が噛み合っていない気がする。ていうか噛み合ってないよね?

 

「昨夜...昨夜に何があったか覚えていないのか?本当に?」

 

「う、うん。大方カスミさんに何かされたんだろうけどね?」

 

「うーん...その通りではある!その通りではあるのだが、あれは不可抗力と言うか...」

 

何か言い淀んでいるけど、まあカスミさんがやらかしたって事は本当みたいだしとりあえず...

 

「あっ!ヴァルキューレに連絡しようとするんじゃない!もう奴らには何回も隠れ家壊されてるんだからな!」

 

「ううん、ゲヘナの風紀委員。」

 

「もっとやめてくれ誰の入れ知恵だ!?」

 

「お姉ちゃん。」

 

「......分かったから。ちゃんと細かく説明するからそれだけはやめてくれ本当に頼むから。」

 

ゲンナリとした顔で交渉のように条件を提示してきたカスミさんに、何も言わずに再びソファに腰掛けた。

 

訝しげな目で見つめられていることに気付いたみたいで、一度わざとらしく咳をすると、語り始めた。

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 

あれは昨日の夜、午前の二時頃だったか?

 

ブラックマーケットの東区域...と言っても分からないか。まあいい、特段大事な情報では無いからな。

 

そんなことはさておき、その日も日課である温泉開発に励んでいたんだ。治安の悪いブラックマーケットの住人であろうと、心休まる場所は必要だろう?

 

ん?夜にやる必要?そりゃあ、朝起きたら歩いて数分の所に温泉ができていたら誰だって嬉しいだろう?サプライズと言うやつさ。

 

まあ、いくらか起きている者たちがクレームを付けてきたが、その時は穏便に、話を付けて理解いただいたよ。やはり人間、分かり合えるのだな!

 

話が逸れたね、すまない。

 

鳴動するドリルのエンジン!弾け飛ぶコンクリート!かすかに漂う硫黄の香り!

 

作業を始めて少したったが、それだけで私の見込みが間違っていなかったと確信したねぇ!

 

「そんなことを聞いているわけじゃない」?もちろん理解しているとも。

 

だがこういった所で互いの意見親睦を深めた方が...って分かった!分かったから黙ってスマホを耳に当てないでくれ!というかそこにスマホを当てたら声が入らないんじゃ...あーっ!わかった私が悪かった!!

 

...んんっ、何の話だったか?...あぁそうそう、そうして、改めて開発現場を確認しいざ削岩!...と言ったところで、向こうの方が騒がしくてね。

 

まあいつものくだらない小競り合いだろうが...どうも様子がおかしくてね。

 

いつも通りならそんじょそこらの目覚まし時計よりも効果のある銃声が鳴り響くものだが、その時のものは銃声、断末魔、打撃音、断末魔...何か一つのアクションを取るたびに律儀に悲鳴が返ってきていたんだよ。

 

被食者と捕食者がはっきりと存在しているようにも思えた。

 

事実、何名かはこちらへ逃げてきていた様だったからね。

 

...ん?わざわざ助けるわけが無いじゃないか。私にだって予定があるんだ。それも、かなりつめつめのね。

 

まあ不運な者たちだったな程度で、起爆スイッチを押し、爆発とドリルのけたたましい音が鳴り響く。

 

反響していた音も、数十秒も経てば沈黙へと変わり、湯気と熱気が訪れるのさ。

 

早速入ってみようとしたところ...あー...怒らないか?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

.........温泉の中から、気絶した君が浮かび上がって来たんだよ。

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 

「...要するに...えっと、巻き込まれたの?私...」

 

「......まあ。」

 

「起きた時、なんか体が痛いなと思ったんだけど...だからかぁ。」

 

「いやぁ、気絶した魚のように浮かび上がってくる黒い耳と尻尾を見た時は心臓が跳ね上がったよ。主に君の姉君からの報復という恐怖で。」

 

「だから私を助けて介抱した。でしょ?」

 

「その通り。」

 

「やけに素直だね。珍しい...けど、その心配は無いのに。」

 

「無い、とは?そっちこそ、珍しく意味深長な物言いをするではないか。まさか喧嘩でもしたのか?そんなわけないか!ハッハッハ!」

 

わざとなのか素で間違えているのか、煽られているような気がする。

 

こう的確に原因を一回で言い当てた挙句自分で否定するとか...

 

「...もしかして当たりなのか?本当に喧嘩しているのか?」

 

こくり、首を上下に小さく動かすとカスミさんは静かに「うぬぅ......」と呻いた。

 

私の痛いところを突っつき回していたことに今更気がついたのかな。それともこの現状を上手いこと利用する手段を考えているだけ?」

 

「途中から口に出てたぞ。全く、君は私をなんだと思っているんだ!」

 

「テロリスト。」

 

「心外だなくそう!心安らぐ場所を作り提供しているというのに!」

 

「その過程が迷惑だって言ってるの分からない?本気?...その顔は本気みたいだね...?」

 

「コラテラルダメージというやつさ。多少の損壊に目をつぶるだけでいい、何も問題は無いだろう?さて、それはさておき...」

 

依然として悪びれる様子もなく、ずいと私に詰め寄る。

 

嫌な予感がする。それはもう尋常なく。

 

あぁまた何かやらされるんだな、なんて諦観を準備していたんだけど、カスミさんは小さく頷いたあと、「早く戻るといい。きっと友人も探していることだろうしね。」

 

「...うん?」

 

「なんだいその顔は。まさか『友達は居ない〜』なんて言うつもりではあるまいな?さすがに有り得ないだろう。...有り得ないよな?」

 

「い、いやっ...そんなことは無い、はず。」

 

「なら何が不満なのかね?」

 

「...てっきり、私のことを手伝ってからまた何かやらされるのかと思ってた。」

 

「助けて欲しいのかい?」

 

「い、いいや...」

 

「ならいいではないか。私も暇では無いんだ、巻き込んだ事は申し訳なく思っているが、それだけだ。」

 

トラブルにならないから良いんだけど、なんか違和感...

 

まあお言葉に甘えて、早く戻ることにした。

 

「あ、一ついいかい。」

 

そうして扉をくぐる際、一声掛けられたけど。

 

「えーっと、なに?」

 

「今更ながら、君とワカモはよく似ている。さすがは姉妹だ。君自体、ワカモに近付いていることだしね。」

 

「近付く...?」

 

どうしてそんなことが分かるんだろう。お姉ちゃんの場所を知っている訳でもないのに。

 

「あぁすまない!ふと伝えたくなっただけさ。上手くいく事を祈っているよ。それじゃあ。」

 

変なの、なんて感想を抱きつつ、今度こそ扉をくぐり、青空の下に出た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あぁ...本当によく近付いているよ。厄災にね。」

 

誰も居なくなった隠れ家に、楽しそうな声が木霊した。

 

 

 

 

 

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