紫煙燻る黒狐   作:とろねぎ

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懐古

 

 

 

硝煙。焼けた芝生。倒れ伏す人々と抵抗する人々。

脳天に撃ち込んで、一人また一人と崩れ落ちる。

 

...ははっ、楽しいなぁ。

 

 

 

たのしい、なあ...

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

「へあぁぁぁ......」

 

誰も居ないからと一人、ソファにも椅子にも座らず、床の上に倒れて震える。

 

「...ウイ!?大丈夫!?」

 

そんな干物みたいになっている私を最初に見つけたのは先生でした。

 

「せ、んせい...へへ...うぇへへへ...も、もう、だめれす...嫌われ、ちゃいましたぁ...」

 

「嫌われた?」

 

「そうれすぅ...私が、距離感も考えずにウザ絡みしたから、タマヨちゃんに嫌われましたぁ...」

 

「...あぁ、だから機嫌が悪かったのかな。声をかけたら『邪魔』って睨まれちゃった。」

 

「うえへへへぇ...そんなに...そんなに嫌だったんですねえぇ...仕方無いですよ...だって、こんな偏屈な女と仲良くしたい人...居るわけないですから...」

 

もしこれがフィクションの世界だったら、私はどろどろに溶けてしまっているでしょうね。

 

それぐらいの絶望と無力感。

 

結局、いい人でありたかった私の、独りよがりだったんですよ。

 

「...ウイは、このままでいいの?」

 

「......」

 

そんなこと...

 

「だって...仕方ないじゃないですか。はっきり、拒絶されたんですから...私が何を言っても「私が聞きたいのはそんな話じゃないよ。」

 

「えっ?」

 

先生...?どうしてそんなに、私のことを真っ直ぐ見つめるんですか?

 

「ウイはどうしたいの。」

 

「どっ、どうしたいって、だから...」

 

「...二人はどうやって出会ったの?教えてくれないかな。」

 

「え、えっ、な、なん「いいから。」

 

ひぇあぇ圧が強い...

 

「はいここに座って。」

 

先生の圧に屈し、促されるまま先生の前に座る。

 

そうしてニコりと薄く笑みを浮かべて、これまた私の顔を見つめてくるんです。

 

「...わ、わかり、ましたよ...」

 

ぽつり、ぽつり。

 

雨上がり、屋根から水滴が滴るように語り出しました。

 

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

初めてタマヨちゃんの事を認識したのは、確か...春でしたか?夏だったような気もしますが、古書館のカーテンから、暖かな日差しの気配がしたので、春だった気がします。

 

「あぁもう...!どう扱えばこんな事になるんですか!」なんて一人文句を言いながら、貸し出されていた子を治していた頃でした。

 

「お、お邪魔...します?」

 

最初は何も思いませんでした。

 

あ、いえ、『珍しいな』と思っていましたね。この古書館の中で、声からしてまだ...10歳頃の、幼い声が聞こえてくることはありませんでしたから。

 

何せその、ここには絵本なんかも無く、ましてや漫画だとかの『小さい子が読む本』なんて物はありませんから。

 

大抵はここを溜まり場かなにかと勘違いしている人たちばかり来るものでしたから、余計に興味を惹かれたんです。

 

しかもそれが、トリニティでは到底見ないような格好をした子だったから、余計に。

 

だってそうじゃないですか。

 

めかしこんで自分の品位を保とうと躍起になっている方たちじゃなくて、着物に桜のヘイローを浮かべた、大人しそうな子が居たんですから。

 

...何を必死になっているんでしょうか。

 

ま、まあ、そんな話はさておき、気にはなりましたが特段声をかける気にもならず、作業を再開しました。

 

折り曲げられて皺になったページ。鉛筆が擦れたかのような跡が残っているページ。

 

挙げればキリがありませんが、ともかくそんな問題も黙々と解決していって、夕日もその体を半分まで地平線に沈ませていたので、「閉館時間ですね」と一言零し、鍵を取り出しつつ扉に向かっていたその時でした。

 

「......」

 

まだ、ここに残って活字に食い入るタマヨちゃんを見つけたんです。

 

横には数冊積まれた子達。

 

信じられませんよね?事実、私も何かの見間違いかと思ったくらいですから。

 

そろそろ出ていってくれませんかね...という自分と、熱心な珍客にもう少し時間を与えたい自分が居ましたが...

 

「......ふー...さて、次っ、つーぎぃ〜...あっ。」

 

「へあっ」

 

一息つこうとした彼女と、目が合ってしまいました。

 

初めは目をぱちくりさせてましたが、次第に窓の外から訪れる夜で今の状況を察したみたいで、それはもう焦った様子で頭を振り始めました。

 

「ご、ごめんなさいごめんなさい...!邪魔でしたか?邪魔でしたよね!ごめんなさい!す、すぐ出ていきます!」

 

「あ...」

 

滅多に利用する人が居ないとはいえ、古書館は貸出も一応システムとしてはあるのですが...

 

知らなかったんでしょうね。

 

私が勝手に人見知りしてたのもありますが、私がそうやってオドオドしている間に次々元あった場所に返されて...

 

「へ、閉館時間って...もう、過ぎてます?」

 

黙って頷くと、耳をべったり倒すものですから、「まだ居ていいですよ」と言いかけたのを飲み込んで、代わりに

 

「...ま、またぁ...き、きても、いい、ですよ...」

 

どこか上から目線な言葉。たぶん、同類を見つけて浮かれていたんだと思います。

 

言ってから過ちに気づいたのですが、あの子は気分を害すこと無く、むしろ笑顔で

 

「...うん!」

 

 

 

 

 

 

 

その日から、度々...というか毎日のようにここを訪れるようになったんです。

 

そうしてその度、挨拶を交わして(私は奇声と薄ら笑いを返すことがほとんどでしたが)段々私と交流を図るようになって、帰る時間になったら私オススメの子を貸して一日を終えるんです。

 

...あ、押し付けてるわけじゃ、ありませんよ?喜んでくれていたはずですし...

 

ま、まあ私も若干強引なところがあったかもしれません。だって...渡しても次の日かその次の日にはもう読み終えて笑顔で返してくるんですから。

 

言葉遣いの難しい、古い文学作品でも。哲学に近い物語でも。

 

するりと...まるで極限まで乾いたスポンジみたいに、選り好みせず知識を吸収してくれるんですから。

 

...嬉しかったんです。凄く。

 

今でこそ、ヒナタさんとの交流が多少なりとも増えましたが...今でも、あの子が初めて出来た...

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 

 

「大事な、友達なんです。」

 

一通り恥ずかしい話を終えて、先生はどこか嬉しそうです。

 

「うん。それじゃあ改めて聞くけど、ウイはどうしたい?」

 

どうしたい、だなんて、そんなの。

 

「ちゃんと...もう一度、話したいに決まってるじゃないですか。」

 

「じゃあ...迎えに行かないとね。」

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 

アロナに算出させた、タマヨの現在地の情報をウイに共有し、後から合流する事にした。

 

持ち主が居なくなった本達に囲まれたこの空間に一人残ったのは、私の選択を伝えるためだった。

 

”ワカモ”

”居るんだよね?こっちに来てくれないかな”

 

「......はい。ずっと、見守っておりましたもの。」

 

”タマヨを迎えに行こうか”

 

「............私、あの子には会わせないようにと申し上げたはずですが。」

 

”ごめん”

 

「......」

 

”やっぱり、二人には仲良くして欲しい”

 

「それは、先生としての責任でしょうか。」

 

”ううん”

”私のワガママだよ”

 

「...」

 

”お願い”

 

「......はあ。」

 

”.........”

 

「酷いお方です。意中の方に、そのように要求されて断る女はおりません。」

 

”!”

”じゃあ...”

 

「えぇ。信じますわ、あなた様。」

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

あとがき

 

ひっさびさにワカモ書いた気がする。

 

前回のタイトル『変身』は、あれです。カフカの『変身』です。

チョイス自体は私の趣味です。他ゲーの影響でもありますし...

 

 

 

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