永い悪夢を見ているようだった。
私だけにうっすらと見える操り糸が、私の全身にまとわりついて私を好き勝手に動かす夢。
全部分かってる。
通り魔事件の犯人も、眠っても全く疲れが取れなかったことも。
なんて白々しいことをしていたんだろう。
人の中に怪物が混じったらいけないんだよ...もっと早く首を差し出せばよかったんだ。
どこまでも自分の事が一番可愛い、身勝手な破壊衝動に生かされるんじゃなくて、私として生きたかった。
...でも......
でも、まだ...遅くないの...?
やりなおせるかな。
ちゃんと...自分の意志で生きれるのかな。
「っ...!」
ハッと目を覚まして見慣れた天井を凝視する。
沈み込むようなクッションの感覚が、余計に夢だったんじゃないかと思わせる。
...うん、夢なんかじゃ無いことは、私がよく分かってるから。
全部、私のせい。
目が覚めた時にやってくる、『生きている』という失望も、生ぬるい自己憐憫も、全て私のせい。
これからもこの感情とは一生付き合っていく事になるんだろうな。
ふと思い出したように懐をまさぐるんだけど...
「...無い。私の手から落ちた後、どうなったんだろう。」
いつもあった、あのゴツゴツとした感触が無くて、残念に思うんだけど、どちらかと言うと...安心した。
お面は...ある。着けてる。でも、キセル...お姉ちゃんから貰ったキセルが無い。
「どうしよう...」
探しに行こうにも、探すのにキセルを使うんだから...
「...んん、とりあえず現状を確認しないと。」
気を取り直して、リビングに繋がる扉を開けた。
「だぁかぁら!あの子を一人にするなって何回言えばいいんですか!話通じてます!?あぁもう!同じ言語のはずなんですけどねぇ!!」
「あら失礼。タマヨの安全を考えた結果だったのですが...どうも、友人と言うのならもう少し彼女の身の保証を気にする責任があるのでは?話を聞いていないのはどっちなのでしょうかねぇ?ふふふ。」
...正気に戻って最初に見るのが、友達とお姉ちゃんが青筋立てて煽り合う光景だった私の気持ちの方を考えて...?
「「あっ」」
「え、えっと.........おはよう?」
「...大丈夫...なんですか...?」
「大丈夫って...怪我?うん、無いよ。怪我も無いし、落ち着いてる。ただちょっと......」
「ちょっと?」
「.........ううん、なんでもない。前髪を何ミリ切った、だとかのくだらない事だったから。」
「くだらないって言っちゃって、いいんですかねっ、それ...っ...!」
「...ウイさん?なんか、声が...わぷっ。」
...古い紙とインクが混じった匂い。
よく知っているし、私はこの匂いが嫌いじゃない...いや、むしろ好きかも。すごく落ち着く。
「良かった...!良かったです...!ほんっとうに...!」
「...うん。心配かけて、ごめんなさい。」
今にも泣き出しそうな声で私を抱きしめるウイさんに、私も抱きしめ返す。
当事者のはずなのに、何故かやたらと落ち着き払っているのが私でも不思議だった。
「あら...」
何か驚いているようなお姉ちゃんの視線が気になったけど、今はただ...
「酷いこと言って...ごめんなさいっ...!」
こんな顔、見せたくない。
そうして互いに激情を一通り出し尽くしたあと、お姉ちゃんの方へ向き直した。
「...お姉ちゃん。」
「......」
黙って私に視線を返すだけだったけど、しばらくして私が右目を覆う面をとると、それにつられるように互いに素顔を晒した。
窓から差し込む光が、壊れた眼球に突き刺さって痛いけど...
「やっと...私を見てくれたね。」
「...」
「お姉ちゃんがくれたキセルは、私の宝物だよ。お姉ちゃんが、いつも一緒に居てくれてるような気がするんだ。」
「...それで?」
冷たい演技。
「今なら分かるんだ。どうして私から逃げてたのか。......私って、そんなに貧弱な小娘に見える?そんな、触ったら折れちゃいそうな?」
「...」
冗談めかして言うんだけど、お姉ちゃんの顔は晴れない。
微塵も信じてない顔だ。
仕方ないっちゃ仕方ないんだけど...少しだけショック。
いつぞやかに言っていた、『取り返しのつかないことをしてしまう』の意味が分かった。
突き動かす憎悪と積み重ねた物を壊す快楽を知ってしまった今だからこそ。
「どうすれば、お姉ちゃんともう離れなくて済むの?ずっと一緒に居てよ。もう離れないで...」
縋り付いてみるけど、一向に返事は返ってこない。
「じゃあ証明しようか。」
沈黙が漂い始めたところで聞こえた声は、まさに光明だった。
助け舟を出した張本人は、いつもの顔で私の家に上がり込んでいた。
「ちょうどさっき、模擬戦で使うスペースを一つ借りれたんだ。」
模擬戦...?
お姉ちゃんは何か気が付いたみたいだけど、私にはそこが何なのか、模擬戦が何なのかも分からない。
......ちょっと、待って...
「う、ウイ、さん...」
「は、はい。」
「わ、私の、め...顔を、覆って...!」
なんて強い...なんて酷い悪感情...
これが、恩人に持つ感情なの?
あぁダメだ。抑えられない。
「こわす...ぶっ壊してやる...全部、全部だ...鬱陶しい雑多共諸共、お前を殺して...んぶっ。」
いよいよとんでもない事を口走った矢先、ふわふわしたものに包まれて視界が暗転した。
「......あー...落ち着くう...」
銃を持ってなくてよかった。先生は凄く貧弱だから、撃ったら死んじゃうかもしれないしね。
「い、いきなり何を言い出すんですか!?」
「ごめんなさい、先生。気分悪かったでしょ。」
「いいや?実際に撃たれた訳でもないしね。」
「...あなたが憎くてたまらない。」
そう伝えた瞬間、鋭い氷柱が首に突き刺さったような気がして、全身の毛が逆立つ。
あれ、尻尾膨らんでるよねコレ...
「うん、私は気にしないよ。だからワカモはそう怒らないで?」
「...貴方様が、そう仰るのでしたら。」
「何回も言うね、ごめんなさい。きっとこれからも、あなたが私の前に現れる度、その口を動かす度に、あなたへの憎悪は降り積もるんだと思う。雪のように、でも溶けることは無い...」
「うーん、私だけが危ない目に遭うのは別に構わないんだけど...」
なんでこんなにも呑気なことを言っていられるんだろう。頭おかしいんじゃないの?
...今更か。
「「「それは構って(ください)」」」
「みんなが構うんだよなぁ。」
あははっ、息ぴったり。
少なくとも、先生の事が嫌いなわけじゃない。むしろ好き...なはずなんだけど、どうしてだろう。
私の中にこびり付いた残滓は、どういう訳か先生への憎悪として私を苦しめるみたい。
いや、他にも胃袋の中から針で刺されるように浸透する破壊衝動もあるけど...それに比べたら。
「あ...証明って...?」
有耶無耶になりかけていた話題をウイさんが掘り返してくれた。
「正直なところ、もう二人の事情は知ってるから。それを考慮した上での提案だよ。いいかい?」
勿体ぶって間を開けるせいで、変な緊張が流れる。
「とりあえず二人とも本気で戦おっか!」
「............はぁん?」
あとがき
ブルアカ初(?)
先生ヘイト勢爆誕
次回ぐらいでもう終わりですかね
タマちゃんの紹介、やるなら
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攻略Wiki風
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pixiv風