外...上の方の窓に、カーテンの閉じきっていない所を見つけた私は、そこから中の様子を見ておりました。
「さあ...どうなるのか、見せて頂きましょう。うふふふ...♡私がお義姉さんになるのも、きっと時間の問題...♡」
「...ワカモ?あ、ワカモだ。何してるの?」
「えっ!?あ、あなた様!?どうしてここに!?」
「...あ、居た......ウイさ〜んっ...?」
古書館、いつもの場所でいつもの作業を黙々と続けるウイさんに、そっと近寄って、作業を眺める...フリをして横顔を見つめる。
...綺麗な顔してるよね。あ、でもちょっとくまがある。また無理して夜通し作業してたね?
しょっちゅう自分のことを卑下してたりするけど、全然そんなことないのに。
もっと自信を持てばいいのに...あ、でも、もしウイさんが自信に溢れたキラキラ館長さんになったら、ウイさんに悪い虫が...?
......ウイさんの魅力を知ってるのは、私だけで充分かな。
そんなことを考えていると、ふうー、と息を吐いて背筋を伸ばすウイさん。
「あ、終わっ「うわぎゃあっっ!?」た...わ、わーっ!危ない!倒れる倒れる!!」
何も言わず傍に立ってた私に驚いて、椅子ごとひっくり返りそうになるのをすんでのところでキャッチして、支える。
えっ、ちょっ......か...軽すぎ...
「あ...ありがとう、ございます、タマヨちゃん。でも、声ぐらいかけてくれても良いじゃないですか。」
「邪魔したら悪いかなと思って。大丈夫?立てる?」
「あ、え、は、はい。自分で立てま...!」
何か様子が変だなと思った矢先、また私の方にバランスを崩して倒れてきた。
「あ、す、すいません...足が、痺れてしまっているので...あそこのソファまで、運んでくれませんか?」
「うん。」
...でもどうやって運ぼう。今はちょうど抱き締めるような形...抱き締めるような形!?
あ、危うくウイさん投げ捨てるところだった...危ない危ない...
私とウイさんじゃ随分体格差があるし、それでいて落とさないような運び方...あ!
「任せて!」
俵担ぎしかないかな?
「えっちょっ...タマヨちゃん!?この持ち方はちょっと...!」
ごめんねごめんねと心の中で謝って、ソファ前に到着。
落とさないよう慎重に持ち直して、ゆっくりソファに座らせた...んだけど。
「ウイさん?」
「......なんですか。」
「なんか...怒ってる?」
「いいえ何も怒ってません。ありがとうございましたッ!」
...なんか、間違えちゃったみたい。
やっぱり片手の俵担ぎじゃ安定性に欠けるから、ここは一度寝かせてからファイヤーマンズキャリーで...
「ちっっっ...がいますよ!大間違いですよ!!むしろなんでそんな運搬方法知ってるんですか!」
ひやあっ、やっぱり怒ってる...!
「そこはお姫様抱っこでしょう!鈍い妹ねぇ〜っ...!見ているだけで段々腹が立ってきますわ...!」
「ワカモ〜、静かにねぇ〜。」
「はあ...もう、別にいいです。それよりもどうしたんですか?今日も、私と話しがてら本を読みに来た...という事でいいですか?」
「あ...その事なんだけど、今、ちょっといい?」
「どうしたんですか?そう改まって...」
「その、これを...受け取って欲しいの。」
一つ、中々の大きさをしている袋を渡して、開けるように促す。
促されるまま袋を漁って、ウイさんが中のものを引っ張り出した。
「...クッション?」
「うん。ほら、ウイさんって作業終わった時、毎回腰痛そうにしてるでしょ?」
「...よく、分かりましたね...」
「そりゃあ好きなんだから気付くよ。」
「えっ」
「あっ!?さっ、作業が!作業してる所が好きでよく見てるから!」
「あ、あぁあっ!な、ななな、なるほど!?」
「はあ〜〜〜っ!!??何をふざけた事を言っているの!?そのまま言っちゃいなさいよ!」
「なんだろう、なんかコーヒー飲みたくなってきた。」
思わず口が滑ったけど、誤魔化せた。お姉ちゃんだったらこうはいかなかったかな?
「あともう一つ入ってるはずなんだけど無い?あ、ある?よかった。」
もう一つ全く同じ物を取り出したウイさんの顔は喜びから一転、困惑だった。
「実はそのクッション、枕としても使えるみたいなの。でもお尻に敷いたやつを枕にするの嫌かなって思って。」
「お、お気遣いは嬉しいですけど、さすがに二つも...し、しかもこれ...!かなり有名なブランドの...!」
「俗に言う人をダメにするクッションだね。」
「い、いいいやいやいや!こんなの二つも頂けませんって!一つはタマヨちゃんが使ってください...!それなら平等でしょう!?」
「いいって、元々プレゼント用に買ったやつなんだからウイさんが使ってよ。」
「いやいや!」
「いやいやいや」
「いやいやいやいや!」
クッションを押し付け合って堂々巡り。このままじゃ埒が明かないと思って、ふとある事を考えついた。
「じゃあこうしない?とりあえず二つともウイさんにあげる。それでその二つは好きに使ってくれればいいけど、私が居る時は一個使っていい?これなら、良いでしょ?」
「え、えー...?やっぱり、一個はもうタマヨちゃんが持ってる方が...」
「.........だめ?」
「ぅぐっ。」
「......その通りにしましょう...」
「!」
折れて私の提案を受け入れてくれたのを見て、尻尾がピンと直立してしまう。
左右にパタパタと振って、満更でも無い。
「じゃあ早速使お!」
「はい?今ですか?」
「うん!だって、最近まともに寝てないんじゃないの?くまあるし。」
「あ、あぁ〜...よく、見ているんですね...ぅえへへへ...」
クッションをソファにセットして、はいどうぞと、どこか誇らしげな顔で即席の寝床を提供。
拒否なんてさせる間もなく、背中に手を回して、無抵抗なウイさんを寝かせる。
「あ、あの...お気持ちは嬉しいのですが、寝ろと言われてすぐに眠れるほど私は器用じゃ...な...」
「.........あれ?ウイさん?どうして黙っちゃったの?おーい...?」
...目を閉じて、気持ちよさそうに寝てる。
いや、器用じゃん。とか思ったんだけど、なによりも...あんまりにも、無防備に寝ているから...ちょっと、ほんのちょっぴりだけ良くない考えが頭を通り過ぎた。
体の側面を下にして眠っているウイさん。
その前の方に空いたスペースがある。
ちょうど、私一人ならすっぽり入ってしまいそうな、そんな空間が。
「っ...」
ドキドキ、高鳴る鼓動をそのままに、そこに入り込んで、同じような姿勢で横になる。
きっといつか、こんな事も堂々と出来る人が現れるだろうけど...
...このまま、気分だけでも味わっておこ。
そんな謙虚な(つもり)事を考えていたせいか、私の前にやって来る腕に気付かなかった。
「...?......ひゃっ...!?」
腕は私の体を軽く締めると、そのまま奥...ウイさんの方に引き寄せた。
お腹の方をぎゅーっと抱き締められて、前からも後ろからも、好きな人の体温を感じている。
耳元じゃ微かな吐息もしっかりと聞こえるし、それが聞こえる度にどんどん私の欲は膨れ上がって、尻尾を巻き付けてしまう。
何をしているのか私自身よく分かっていて、すごい恥ずかしいのに、私の意思を否定するように強く、固くウイさんの脚とか太ももの方に巻き付く尻尾。
尻尾は正直ってよく言ったものだね。
「んん...」
こんな抱き枕代わりにされてるのに、こんなに嬉しいなんて...
せ、背中の汗凄くないかな?心臓の音、聞こえてないかな?
「......き......」
あ、何か言ってる...寝言かな?
ふふっ、どんな夢見てるんだろ。
「好き......です、よ......んぐぅ...」
「......へっ?」
ど、どんな夢見てるの!?いきなり、す、好き...だなんて...!
「〜っ...!」
違うっ、違うのにっ。私に向けて言ったわけじゃないのにっ...!
このっ、忌々しい尻尾め!
私こそが代弁者たとでも言いたげな、私のことを何でも理解している尻尾め!
お願いっ、お願いだから、そんなに暴れないで!
「ほんとう...なん、ですよ...」
う、ウイさんも静かにして!?
「.........すう、すう...」
「お、落ち着い、た...?」
寝言も収まって、ようやく穏やかな寝息を立て始めたウイさん。
「......」
さっきの言葉は、私じゃなくて夢の中の誰か...そして、私じゃない誰かに向けた言葉なのは分かってる。
分かってるけど...
「...うん、私も...」
少しぐらい、夢に浸っても良いよね?
...やはり、人の恋模様を見るのは心底愉快ですわね。
それが可愛い可愛い妹の物なら尚更。
「...ふふふっ。」
「あ、もういいの?」
「えぇ、お付き合いいただき申し訳ございません。ですが、もう私が見ている必要はございませんので。」
「...そっか。結局コーヒー買ってきたんだけどワカモも飲む?」
「あなた様からの提案、断る訳がございません。頂きます♡」
あなた様が差し出した二つのコーヒー。
どちらも同じ味だと申しておりましたが、私が受け取った方は、酷く甘ったるい味がしました。
「......んんぅ...はっ!」
ね、寝てしまってました。確かにこれは、人をダメにするクッションですね。
「ふあぁう...どおしたのお?」
私の腕の中で、この状況を作り出した気遣い上手さんが目を覚ましました。
「いいえ。よく眠れました、ありがとうございます。」
「んふ、いいよぉ。」
寝起きでぽわぽわとした返答をする様子に、ふと激しい動悸が来そうになりましたが何とか抑えて...
「あの......いきなりこんなことを言うのもなんですが、今日...閉館後、少し、時間...あります、か...?」
「閉館後...?」
「は、はい。元々人が来ないような場所とは言え、万が一があったら、困ります、ので。」
カタコトになりながらも、不審がられないように、必死に言葉を紡ぐ。
「わかったぁ。」
たぶん、この子はよく分かっていないまま返事をしているのに、それにつけ込むような真似をして少し罪悪感で胸が痛みます。
...が...
今は罪悪感を持つより、私の思い上がりじゃなかったことを...喜ぶべき、でしょうね。
あとがき
この後?
(こっちじゃ)書かねぇーヨ!
まあご想像におまかせしますということで。