エピソード・アーデン~羅刹の刃~   作:織姫ミグル

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第二章

 

 

狭い森から見上げれば、光の強い月光がいくつも生えている枝の隙間から射してきているのがよく分かる。

 

その中年は見た目からしてみればせいぜい五十かそこらくらいか。

 

男は黒い中折れ帽子を被った赤みがかった髪に、赤いスカーフと指ぬきグローブを着け、黒のトレンチコートとピンストライプのズボンにいかしたブーツを履いて、どこかもわからぬ山の上で大の字になっていた。

 

いっそ上流階級の貴族とでも表現できる顔立ちだからこそ、その変わった赤髪や服装がよく似合う。

 

ゆっくりと、息を吐く。

 

どこからやって来たかわからない男、アーデンはつい先ほどまであった会話を思い出していた。

 

 

『な、何なんだ······お前!?』

 

『人間じゃ······ないのか!?』

 

 

典型的な恐怖の叫声が響き渡る。

月夜の中で、人によく似た二体の生き物は目の前に佇んでいたアーデンを恐ろしそうな目で見つめていた。

 

彼は二体を睥睨し、その瞳は二体の心を抉っていた。

 

 

『······人間じゃないのは君達も同じでしょ? その区別すら出来ないの?』

 

 

ただの会話のつもりだった。それだけのはずだった。

 

なのに、

 

奴らには自分が恐怖の怪物そのものに見えたらしい。

 

 

『ま、何でもいいや。俺だって人のこと言えた義理じゃないし。けどさぁ、わかってるよね? 理由がどうだろうと急に俺に襲いかかるなんてさ、やり返されても文句はないよね?』

 

『『!?』』

 

『君達が何なのかは知らないけど、どこまで耐えられるかちょっと実験させてもらうよ』

 

 

標的との距離はもはやゼロ。

それだけ近ければ、どんな接近武器だって外れるわけがない。

 

彼の視線の先には、首だけとなった獲物がいる。

 

アーデンは暗闇に染まりながら、口元に笑みを張り付かせた。

 

ニチャア、と。

 

嗤って、何もないところから剣を召喚させてみたら、異形な生き物共は目を見開いていた。これからやってくる処刑人に、何とかして逃れようとする様は無様な芋虫のようだった。

 

アーデンは近くにいた首から片付けようと、その鋭い牙が生えた部分を頬の上から剣を押し付ける。

 

 

『ま、待って───ッ!!』

 

 

耳は貸さなかった。

 

ザシュ!! と。

 

張りのあるウインナーを切り千切る音を響かせると、暗闇の中でもがき苦しんで液体を撒き散らし、首のシルエットが膨張していくと四方八方に飛び散っていった。

 

アーデンはそれを確認してから、剣を杖代わりにして紳士のような歩調でもう一頭の首へと近付いていく。

 

そいつは驚愕の眼差しで刺された相方を見つめていた。

 

何故そこまで驚いているのか、こちらにはさっぱりわからなかった。なのでわずかに好奇心が発生したアーデンは、もう一頭の頬に刃を押し付けて訊ねる。

 

 

『そこまで驚くこと?』

 

『な、なんなんだ今の!? お前、何しやがった!?』

 

『聞いてるのはこっちなんだけどなぁ······』

 

『さっきの攻撃といい、【日輪刀】もなしに【鬼】の頸を吹き飛ばすなんてありえねぇ! お前、鬼でも【鬼狩り】でもないくせに、一体なんなんだよッ!?』

 

 

怯えた様子で逆に問いかけてくる首に、アーデンは疑問符を浮かべる。こいつはさっきから何を言ってるんだ、と考え込むように顎髭をジョリジョリと擦る。

 

日輪刀、鬼、鬼狩り。

 

聞いたことがない。

 

しかし、そこから導き出せるのは一つ。

 

 

『さっきから何言ってるのか俺にはさっぱりわからないけど·······ということは君は【鬼】っていう名前のモンスターか何かなのかな?』

 

『ま、待て! 命だけは助けてくれ! 頼む! いや、お願いします!!』

 

『······』

 

 

こちらの質問に全然答えないのを見たアーデンは、時間の無駄かと思い容赦なく、

 

ドスッ! と。

 

そのまま突き刺した。

 

しばらくの間剣を刺された首は振るようにして抵抗していたが、潰れかけていたその頭は次第に膨れ上がって四散した。

 

質問に答えるつもりがないのなら、いつまでも時間を割く必要はない。

 

先ほどの首と同じく、剣を刺す際には大量の『プラスモディウム変異体』を混ぜておいた。

 

生き物が『シガイ化』する原因となる寄生虫で、これを取り込みすぎると生き物は凶暴なモンスターと化す。

 

が、

 

その量が一定量を越えると、宿主となる生き物の体が耐えきれなくなってシガイ化することなく死に至る。

 

 

『アハッ!!』

 

 

思わず笑みがこぼれる。

 

何だか楽しくなった。駄目だとわかっているのに、弾けるようなこの解放感がもう堪らない。自分がどんな顔をしているのか、アーデンには想像もつかない。

 

ともあれ、結局聞き出せた情報は三つだけ。

 

聞き慣れない単語だったことから、ここはおそらく別の国かなんかだろうか。その国独自に広まっている言葉のようで、馴染みのないアーデンは首を傾げる。

 

アーデンは一休みするかのように杖の代わりにしている剣に体重を預けつつ、周囲を見渡した。

 

どこまでいっても暗闇が続いている森の中、上を見上げれば月明かりが照らしている。それを見て、アーデンは困惑した。

 

確か空は自分が長年かけて寄生虫を放ち、その寄生虫が持つ特性が太陽光を吸収したことによって、成層圏に層をなして空を完全に覆い隠したはずではなかったか。

 

月さえも出ず、永遠の夜へと変えた世界に月明かりが照らしているというのはおかしい。

 

状況を飲み込もうとするアーデンであったがいくら考えても何もわからず、結局はどう考えても無駄だと思い、その場に大の字になって寝転がっていた。

 

どうも何もかも面倒臭く感じてしまうのだ。

 

気が遠くなるほど暗闇の中を歩き続けたためか、思考が働きだそうとするとすぐ放棄する癖が身に付いてしまっているのかもしれない。

 

 

「······」

 

 

むくりと、土まみれの地面から彼は体を起こした。

 

いわゆる現実逃避。全てのことに対して考えることが嫌になったアーデンは森の中に響く虫の鳴き声さえもうるさく感じていた。

 

はぁ、と彼は冷たい空気を吸い込んで、熱い吐息として吐き出す。

 

考えても仕方ない。

 

結局この場に留まろうと、何も導き出せない。

 

思考を真っ白に染めたままの彼は、その空白を何かで埋めようと思い立ち上がる。

 

森を抜ける。

 

そのために彼は今一度止まっていた足を動かし、坂を下って山を降りることを決める。

 

 

 

□■□■□

 

 

 

カァァァァッ!!

 

伝令!! 伝令ィ!!

 

北東ノ山二、鬼ガ二体潜ンデイルトノウワサアリ!!

 

見ツケ次第討ツノダ!!

 

悪鬼滅殺!! 悪鬼滅殺ウゥッ!!

 

心シテカカレ!!

 

 

 

□■□■□

 

 

 

「なんか最近、結構ウワサだけの場合が続いてるよなぁ~。仕方ないと言えば仕方ないけど」

 

 

黒と緑の市松模様の羽織を着用している赤髪の少年は山から降りたところの畦道を歩きながら呟いていた。

 

道の横には稲の平原が広がっており、長さは五十から六十センチくらいで、稲は緑が深くなり、先に穂が出始めている。

 

田んぼと田んぼに挟まれた狭い道を進みながら、少年は遠く離れた山をチラリと見る。

 

 

(あの山かな?)

 

 

今回、とある事情があって二体の『鬼』を討伐することを命じられたのだが、以前の単独任務でそれらしいものは現れなかったためか、今回の任務もそうなのではないかと疑っている。嗅覚が人よりも何千倍も鋭い少年だったが、鬼特有の匂いも一切嗅ぎ取れなかったことから、ただの噂話だったということだ。

 

それは平和であることの証明にもなるので喜ばしいことではあるのだが、少年はまだ不安を拭えきれていない。本当にただの噂話だったなら別にもう気にしなくても良いが、ただ出会さなかっただけだったら被害が拡大する恐れもある。

 

そんなこんなで、大きな箱を背負った少年は一度腹ごしらえをしようと近くに店がないか辺りを見渡す。

 

日が沈んで一時間、腹も空いた頃合いだ。朝になるまで何時間もある。

 

これからの戦いに備えようと決め、畦道を進んでいた時、

 

ゾワッ!! と。

 

 

「······ッ!?」

 

 

異様な匂いを嗅ぎ取った。

 

殴りかかるように少年は前へと向き直す。

 

 

(なんだ······この匂い!?)

 

 

今まで嗅いだこともない匂い。

 

遠くの方に赤い縁台がある茶屋が見える。縁台は二つと雨除けの傘が差しており、その店の出入り口付近に長身の人影が誰かと話している様子が窺えた。

 

この異様な匂いを発している元を辿っていくと、あの人影から出ているものだとすぐに気付いた。

 

 

「ッ!!」

 

 

少年は走り出す。

 

水田と水田の境に、田の中の泥土を盛って水が外に漏れないようにした畦道であるため少々走りずらかったが、それでも息を整えてすぐに茶屋付近までやって来た。

 

正確な様子が見える位置まで近付いた少年は気付く。

 

帽子を被ってほとんど顔が見えないが、中年の男性に見えた。男は少年よりも倍の高さの慎重で、服装はこの国では見かけないものだった。

 

相手が風上に立っているせいか、十五メートル以上離れている少年の鼻には異臭がより鮮明に感じ取れる。

 

人とも鬼とも違う、腐臭した匂い。

 

一見は何気ない普通の光景に見える。

 

が、

 

少年からして見れば、店の前に立つ男を中心とした辺り一帯の空気は明らかに『異常』だった。

 

まるで今まで自分が使ってきた常識が全部通用しないような、まったくもって別のルールが支配しているような······そんな妙な感覚が霧のように辺り一帯に広がっている。

 

少年は恐る恐る接近していく。

 

そして、ついその男の肩を声もかけずに掴んでしまう。

 

 

「······ん?」

 

 

掴まれた男性はゆっくりと振り向いた。

 

中折れ帽子に隠された顔を見た少年が最初に感じたのは、『恐怖』でもなければ『怒り』でもない。

 

『戸惑い』と『不安』。

 

まるで言葉もわからない異国に島流しされたような、絶望的な孤独感。じりじりと、体の中へ霧のように空気を侵食していく感覚に肺が凍り、少年は思い至る。

 

 

(······なんだ、この人······!?)

 

 

感じたこともない重圧。

 

今この場はこの男から発せられる緊迫感によって、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

一目でわかる。

 

柔和な表情をしているが、

 

今ここにいるのは、間違いなく自分の常識の『外』の住人だということが。

 

警戒を怠らない少年は腰にある業物へと手を伸ばしそうになる。

 

と、

 

 

「あ、ちょうどいいや。君!」

 

 

男性の方から話しかけてきた。とてつもなく飄々とした話し方で語り始める。

 

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()?」

 

「······え?」

 

 

流暢な日本語をしているが、奇想天外な質問をされた。

 

少年は立ち止まって、改めて男性のことを観察する。

 

顔以外のほとんどが肌を隠している変わった見た目をしているが、それ以外はどう見ても普通の人だった。鬼らしい感じもない、それらしい形相でもない。

 

強いて言えば、奇妙な人だった。

 

少年はその質問に吃音気味になりながらも答える。

 

 

「え、えっと······どこ、って······『日本』、です、けど······?」

 

「······ふ~ん」

 

 

その言葉を聞いて顎髭を触る男性は何かを考えていると、

 

 

「そう、ありがとう坊や」

 

 

赤髪の男性はにこにこと笑いながらぺこりと頭を下げると、

 

振り返って。

 

店内にいる人に「ここはどこ? 何て言う国?」と聞いていた。

 

 

「いやだから日本って言ったでしょ! 今!!」

 

「あ、うん。そうだったね」

 

 

薄ら笑いと共に男性は少年に頭を下げつつ、そのまま店員の方を向き直して「ここはどこ? 何て言う国?」と聞いていた。

 

 

「って、ちょっと!! さっきからこっちの説明を笑顔で全部聞き流してるでしょ!?」

 

「うん? あ、君まだいたの?」

 

 

再び少年の方を向き直す男性。

店員はそのやり取りを迷惑そうな顔で見つめており、少年が代わりにすみませんすみません! と謝ると食べるのか食べて行かないのか聞かれて食べますと答えたら店の奥へと引っ込んでいった。

 

ぽけーっとその店員の後ろ姿を見送っている男性を見て、少年は猛烈に心配になってきた。つい五秒前の会話を忘れるような人だ、何かおかしなことをしそうで怖い。

 

さっきの緊迫感といい、何故か少年はこいつを見過ごしちゃいけない気がした。

 

が、男性はそうした少年の危惧など一切気付いていない様子で、

 

 

「あれ、何かイライラしてる? 大丈夫?」

 

「貴方のせいですよ全くもう!!」

 

 

初対面にも関わらずつい感情的になる。

 

少年は叫ぶが男性は相も変わらずニコニコと善意の笑みを浮かべるばかり。鼻唄を歌いながら縁台へと座りに行くと、こっちおいでと言わんばかりにその隣を優しく叩く。

 

少年は警戒心を解かず息を呑むと、誘われるままに隣の位置まで座りに行く。

 

目を離さず膝に手を置きながら相手を見続ける少年に対し、男はそんな視線を投げられても一切動じず空模様を眺めて楽しんでいる。

 

彼の瞳には無数の星が映っている。それを見て何を思っているのか、少年にはわからなかった。

 

掴み所がない人、それだけは優れた嗅覚で感じ取れた。

 

すると店の中から茶菓子と湯呑みが乗った折敷を持った店員がやって来て、二人の間に置いた。ごゆっくりと言われてしまった以上飲まないわけにはいかず、少年は緊張する手で茶を飲み干していく。

 

反対に、茶菓子を取った男性はびっくり仰天と言うかのように目を見開いている。

 

独り言のように。

 

 

「う~ん、食べたことのない料理だね。何て言うお菓子なんだろう」

 

「えっと、三色団子ですけど······知らないんですか?」

 

「世の中広いからねぇ~、おじさんにだって知らないことはたくさんあるさ」

 

「はあ、そうなんですか。ところで聞きたいんですけど、貴方何であんなにも俺の説明を聞いてなかったんですか?」

 

「いや、そりゃだって初対面の人から聞いたこともない国の名前出されたら普通信じられないでしょ。確かな情報にするためには最低でも五人くらいには同じこと聞いておかないとね。猜疑心が強いからさ、俺は」

 

「聞いたこともない名前って······じゃあ貴方は何処から来たんですか? 外国の方にしては日本語が流暢すぎるし」

 

「生まれ育ったところでも同じ言語だったからとしか言いようがないねえ。逆にこっちも聞きたいんだけど、俺に何か用があったのかな? 急に肩掴んできたけどさ」

 

 

案の定、きょとんとした顔になっていた。理由もなく掴んでしまったという説明では説得力の欠片もない。

 

怪しい人だったからというのが本音だが、そんなこと初対面の人から言われたら失礼だ。少年は考えに考え抜いた後、緊張してるのかヘンテコな顔になりながら答える。

 

 

「えっと、何か困ってるようでしたから、つい」

 

「う~んなるほど、嘘が下手なんだね坊や」

 

 

一瞬で見抜かれた少年は肩を落とすが、男性はそれ以上聞くこともなく茶を一杯口に含むとため息を吐いた。

 

 

「ていうか、何で日本っていう国の名前も知らないのにここにいるんですか?」

 

 

うん、と男性はちょっと首を傾げて、

 

 

「実はおじさん迷子なんだよねぇ」

 

 

と言った。

 

少年の周りの温度が少し下がるのを感じた。

 

 

「······え? 迷子?」

 

「うん。ちょっとふらふらと長く歩いてたらいつの間にかここにいてね、ただいま絶賛迷子なんだよね俺。無一文で知らない国に放り出されて困ってたところに君が来たってわけ」

 

「ふらふらと歩いてたらって、そんなわけのわからないこと言われても信じられないんですけど」

 

「だよねぇ、おじさんも信じられない。ま、来てしまった以上帰る方法もわからないから、観光をして行くっていうのも悪くないね」

 

 

それだけを言うと茶を飲み干した男性は空になった湯呑みを置くと、どっこいしょという声を漏らしながら立ち上がる。

 

それじゃ、とだけ言い残して立ち去ろうと少年の前を通り過ぎようとした時、

 

 

「ちょっと、待ってください!」

 

「ん? 本音を言う気になった?」

 

 

男性から威圧する態度で聞かれても全く引かず、少年は何か言いたげな表情で聞く。

 

 

「あなたは······人、なんですか?」

 

 

匂いがあまりに違う。

独り言のように呟いたその言葉が周囲を響かせた。少年からしてみれば明らかに人とは違う何かを嗅ぎ取った時点で見過ごしてはいけないので、このまま放っておくわけにはいかない。

 

すると男性は踊るように手を広げると、おちょくるように愉快にこう答えた。

 

 

「見ての通りの、一般人」

 

 

そう言うだけで通り過ぎていく男性。

 

少年の目的地とは逆の方向、次の町へと続いている畦道を歩きながら背を向けて手を振ると、そのまま人影が点になるまで遠くなってしまって闇の中へと消えていった。

 

 

「······」

 

 

嘘、は感じられなかった。

本当のことだけを述べ、何もかも真実だということは彼の鋭い嗅覚が証明していた。

 

だとしても信じられない。

 

そんなわけのわからない話を信じろというのか。

 

あの男性の言うことが全て真実だというのなら、やはり見逃すべきではなかった。とはいえ、彼が鬼ではないこともわかった時点で腰物を抜くわけにはいかない。

 

これを抜いて良い相手は、異形な存在の鬼だけだ。

 

一般人だと言っている以上、人に対して抜くなんて言語道断。かと言って流石にそのままその話を信じるわけにもいかないだろう。普段はすぐに信じられるのに、何かが引っ掛かって胡散臭さが拭えない。

 

あーもうどうしたら良かったんだッ!! と、少年は頭を搔き毟ろうとしたところで、ふと気付いた。

 

 

(······っていうかあれ? あの人さっき無一文だとか言ってたような?)

 

 

それを思い出して空になった湯呑みと皿が置かれている折敷を見る。そしてそれを食べた張本人はもういない。

 

ふつふつと、状況を呑み込んだ少年は消えていった男性がいた方角へと勢い良く振り向く。

 

 

「やられたッ!! あの人お勘定人に押し付けて逃げていったッ!!」

 

 

追いかけようとしても、もう遅い。

 

だってもう、少年が支払うまでそこに拘束されるということは確定しているのだから。

 

 

 

 

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