――ミカ、シッテムの箱へようこそ。
声が聞こえる、その声は聞き覚えのある男性の声。
魔女であった自分を助けてくれた、大切な恩師の声。
――全て私のミスだ。私の選択、そしてそれによって招かれたこのすべての状況。
ガタンと何度も音を立て、ゆったりと揺れる電車。
青空照らすその車内で、お姫様と呼んでくれたかつての先生はそんな事を言った。
――これは、君にしか頼めないことなんだ。君にしか頼れない。
顔が良く見えないその先生の言葉を、私は黙って聞く。
――君の過去の記憶は消えてしまうが、今の君なら大人としての責任と義務、そして選択を……あの頃の私より正しく出来るだろう。それが意味する心延えも。
先生の言っていることはよくわからない。
責任だの選択だの、意味深な話をこんな突拍子も無く。
けど、なんとなく悲しそうな表情をしているように見える。
――ミカ、私が信じられる君になら、この捻れて歪んだ先の終着点とは、また違った結果を。そこへ繋がる選択肢は……きっと見つかるはずだ。
――だから……
私はそれ以上先生に言わせることはなく、人差し指で先生の唇を押さえた。
「先生のお姫様にお任せっ」
□ □ □
と言うことでやっほー、皆のお姫様聖園ミカちゃんだよ~。
まあ、もう二十代くらいだからお姫様って歳でも無いんだけどね。
ってな訳で夢の中に先生が出てきて、目が覚めるとデカい学園都市的な場所に来ちゃったんだコレが。
なんとなく見覚えがあるんだけど……良く思い出せない。
なんか高校生の頃の記憶がすっぽり消えてるみたい。
とまぁ、そんなことは置いといてね。目覚めたら学園都市『キヴォトス』の連邦生徒会所属のリンちゃんサンに。
――おめぇ、今からここの先生な。学園の命運を託した。
とかなんとか言われました、はい。
いや嘘じゃ無いんだよ、ホントにそう言われたんだって。
んで、色々ごちゃごちゃと言われてさ。最終的に『生徒同士で戦争してるから止めてこい』って事になるわけ。
うん、可笑しいよね。なんで子供が武装してんだろうね。
でも、知っての通り私結構強いし子供をいたぶる趣味は無いから、軽くその場にいた子達に指示して軽くハリセンで応戦した訳。
そしたらハッテムの箱だのアロナちゃんだの。
軽く終わらせるはずがなんか色々と拡大してさ、結局先生を任されちゃったわけね。
教育免許持ってないのに。
とまぁ、ここまでがあらすじ。
――今の状況なんだけど……
「保育士ってどういう事ですかっ!」
対策委員会の教室で、ケモ耳黒髪ツインテールの女の子に詰め寄られています。
まぁ、ここにいる皆ケモ耳なんだけどね。
「どういう事って言われても……ね」
頬を掻きどう言えば良いのかわからない私。
ここにいる黒髪ショートのアヤネちゃんに手紙でSOSもらってね。シロコちゃんという銀髪クール系の子に連れられてこの場所までやってきたんだけどうっかり。
『あははっ、先生って言われるの新鮮だなぁ。保育士だし』
っていっちゃったんよ、ホントうっかり。
「つまり話にあった先生じゃ無いって事ですか!?」
「えと、この学校で先生になることになったのは確かだよ」
怒鳴り立ててくるセリカちゃんに押され、苦笑する私。
仕方ないじゃん! 私にも何が何だかわからないんだから!
こちとら恩師に言われてなあなあとここに来ただけで、教育者としての心得とか持ってないんじゃあ。
それを見て、アヤネちゃんはセリカちゃんを落ち着かせる。
「と、とりあえず。物資の補給はしてくれましたから。ね?」
「アヤネは認めるわけ?! この人が先生だって!」
「そ、そんなこと言われても……」
「実際にここに来てるんだから、間違いない」
怒りを隠そうともしないセリカちゃんに毒を吐くように、ぼそっと言うシロコちゃん。
「わ、私は認めないからね!」
そう言うと、腕を組んでそっぽを向くセリカちゃん。
うん、知らないことは拒絶。とても思春期らしい反応だ。お姉さん好きよ。
「ごめんなさいね先生。悪い子じゃ無いんですよ?」
そうして誤解を解くようにおっぱい。
失敬、長い髪でコートを着崩している女の子のノノミちゃんが優しく言ってくる。
「とっても良い子なんですけど、素直じゃ無いところが、ね?」
「大丈夫、こういう子にはなれてるからっ」
聖母のような優しい表情のノノミちゃん。
私はその母性まるだしに向けてウィンクをし、セリカちゃんに近づいた。
「な、何よ」
「にっ」
警戒するセリカちゃんに向けて、ニッと笑みを見せる私。
これでも先生という恩師と出会ってから世界が彩りへと変わり、あの人のようになろうと保育士を生業にする者だ。
この程度のかまってちゃんの対処はお手の物だ。
私はその場にしゃがみ込み、両手で自身の頬を包む。
そして――
「セリカちゃんご機嫌斜め♪ 嫌なことあったのかなぁ?」
「…………は?」
「大丈夫だよ♪ 先生着いてるからね♪」
と、猫なで声でいつものように言った。
「子供扱いしないで!!!」
が、殴られた。
□ □ □
「やっほ~、シャーレの先生きたんだって――なんかあった?」
と、私が地面に突っ伏していると、一人の女の子がきた。
その子はホシノ先輩、ここの委員長だそうだ。
「あはは~っ、ちょっと子猫ちゃんがひっかいてきただけさ」
見つめてくるホシノちゃんに、突っ伏したままサムズアップする。
今思ったが、年頃のツンデレ女の子にこんな絡みしたら怒るよね。さっきのをサオリちゃんで脳内変換したら余裕で召されたよ。
あ、サオリちゃんって言うのは友達だよ。
「ほんっとになんなのよアンタ! こんなのが先生なんて信じられない!」
「まぁ、保育士って先生って言えるどうか微妙なラインだしねー。そういう反応も仕方ないかなぁ」
「そういう話をしてるんじゃ無いわよ! 何でこんな奴――」
「ま、まあまあ」
ヒートアップするセリカちゃんを宥めるように、アヤネちゃんは彼女の前に立って落ち着かせる。
それを見て、私は笑みを浮かべる。
「ふふっ、楽しそうな委員会だね」
「そう?」
「うん、そうっ」
「そ、よかったね」
私が満面の笑みでそう言うと、シロコは無表情でそういった。
ふむ、ここではこの子が一番ケモ耳美少女してる。なんとなくケモ耳ってクーデレなイメージ無い?
と、そんなことを考えていると。
バババババババ――ッ!
突如として、銃声が聞こえた。
「じゅ、銃声!?」
「っ! みんな、慌てずにその場にしゃがんで。教室から出ちゃ駄目だよ?」
私はその音を聞くと、ノノミちゃんの悲鳴の後声を上げた。
全員がしゃがみ、パニックを起こして教室から出ないように指示をした後、私は窓際のカーテンに隠れ、窓から外をのぞき込む。
そこにはヘルメットを被った学生の集団がおり、全員がライフルなどの火器を持っていた。
それを確認すると、アヤネが声を上げる。
「わわっ!? 武装集団が学校に接近しています! カタカタヘルメット団のようです!」
「あいつら……性懲りも無く!」
シロコちゃんがうっすら怒りの表情を見せる。
(世紀末かな?)
学生が火器を持ってるとか冗談じゃ無い。
初めてこの紛争じみた光景を見たときも思ったが、この場所は地獄か何か?
「先輩しっかりして! 出動だよ武器もって! 学校を守らないと」
「ふぁあ……頑張らないとねぇ……」
未だに眠そうなホシノちゃんに叱咤するセリカちゃん。
「すぐ出るよ。先生のおかげで、弾薬と補給品は十分」
「はーい♪ みんなで出撃です~」
シロコちゃんが淡々と言い、ノノミちゃんは優しい笑みのまま言う。
そして、最後にアヤネが口を開いた。
「わたしがオペレーターを担当します」
全員、戦闘準備完了といった様子だ。
どうやら彼女達は私など無視し、カタカタ団とやらと喧嘩をしようとしている。
「先生はこちらで、サポートを――」
「待って待って待って、なんで当たり前みたいに武器持ってるの?」
行動を開始する前に、私は声で制止をかけた。
四人は不思議そうにこちらを見てくる。
「先生がいるから生徒同士の争い事は許しません」
「え、先生?」
「いやそりゃそうでしょ、子供の喧嘩を良しとはしないって。しかも相手武装集団だよ?」
私はハッキリとそういった。
この学園がどういう教育方針なのかは知らないが、教育者の立場が生徒の争いを肯定する訳はない。
いや、肯定などしていいはずが無い。
「……じゃあどうするの?」
「皆は委員会活動して。外の問題児ちゃん達は私が全部対処する」
「はぁ!? 本気で言ってる?」
私の言葉に驚くセリカちゃんとシロコちゃん。
まるで自分達が対処するべきだと言わんばかりだ。
「外に何人いると思ってるのよ! 私達が――」
「セリカちゃん。外に何人いようと、私は子供が武装するのは容認できないし、しない」
「でも――!」
「大丈夫、私負けないから」
先生、これから色々と面倒なことが起こりそうだよ。
でもくじけない、私は先生のお姫様……いつだって明るく皆の為に祈ります。
――私は魔女、そして無邪気な夜の希望だから。
というか、弾薬だって持ってきたのが全部ロールケーキなの。
だって生徒集めてお茶会する気だったもん、ホントに必要になるとか思わなかったもん。
――どうか気付きませんように(祈り)