生まれの呪い   作:バックステージ

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母たる呪霊、父たる呪力

 

オレたちは生まれた瞬間から呪われている。日本という土地に生を受けたのであればそこから逃れることは決してできない。 

 

 

「本当に出ていくの?」

黒髪が美しい女性は今にも出て行こうとする少年に詰め寄っている。

「うん、ごめんね。一瞬にいられなくて。でもずっと前から決まっていたことなんだ。オレはずっとここにはいられない。」

「言ってたじゃない…。物語が好きだから、いつか自分で何か書いてみたいって。趣味ももっと深めて見たいって。未来のあなたの横に私はいないの?」

女の目には涙が浮かんでいる。

「君には嘘をついてたけど、全部が嘘だった訳じゃない。君と一緒にいた時は自分がそういう人間だってことを忘れられた。そこら辺にいる普通のガキみたいに」

少年は振り返らない。

「そういう人間って…?」

少年はドアを開けながら告げた。

「俺は呪術師なんだ」

少年の名は神木祐介、18歳の呪術師である。

 

 18になったら神木家に戻る。生まれた時からそう決まっていた。だから今までの生活や友人を切り捨てることに感傷はない。島根にある神木家で呪術師になる。オレは決められたレールから外れることを許されていない。だからこそ18になるまでは目をつむってもらえる。ある程度の鍛錬さえ積んでいれば、何をしてもよかった。だから東京で普通の学生をやった。友人をつくり、幸運にも恋人ができて学生生活を満喫した。もう満足だ。これ以上はオレに相応しくない。恋人には一方的に別れ話を切り出した。あの子は強いからきっとオレなんかよりずっといい人を見つけられる。きっとそうなった方がいいんだと思う。オレは神木家の呪術師だから、普通の人みたいな幸せは相応しくない。

 新幹線に揺られること数時間、電車をいくつも乗り、何時間か歩いた祐介は大きな屋敷の前に立っていた。

「ただいま、母さん」

母さんと呼ばれた女性は大きな屋敷の中に一人で住んでいた。大人しい色の着物を着ており、どこか影のある顔立ちをしている。祐介を見ると表情を変えずに口を開いた。

「よく戻ってきました、祐介。上がりなさい」

「はい、母さん」

親子とは思えない機械的な会話を済ませると母親は口調を変えずに祐介に告げた。

「祐介、明日は引き継ぎの儀を行います。準備をしておくように」

「わかりました」

「それから、あなたの婚約者ですが私が既に決めておきました。婚約者といっても形だけ。子供をもうけることが最優先です」

母親は静かに祐介に告げた。

 わかってた。神木家の呪い、ずっと昔から続く縛り。神木家に生まれる子供は一人だけ。もし何かの間違いで呪術師の素質のない子が生まれてしまったらその時点で呪術師としての神木家が終わってしまう。だからそんな間違いがないように結婚相手は入念に探す。代々呪術師の家系だとか、最近強い呪術師が生まれた家などから相手を探す。結婚とはいっても普通の結婚とは違う。籍を入れるわけでもないし、表だった手続きもない。神木家のための呪術師の子を作るために外から優秀な血を入れる。外からくる人間には金でもなんでも払って招く。だから夫婦なんて呼べるものじゃない。男が生まれたら女を、女が生まれたら男を招く。オレは父親の顔を知らない。きっとオレの子供も母親の顔を知ることはない。幼い頃求めていた父親への憧れを一息に呑み込む

「わかりました。母さん」

 次の日、質素な朝食をすませると祐介と母親は草原にて向き合っていた。二人の間には独特の緊張感が漂い、西部劇の早打ちの一幕のようであった。神木家の呪い、その継承の儀式である。神木家の初代当主が結んだ縛り。神木家は代々一人の子供しか生まれない。その代わりに神木家の当主となる呪術師にはとっておきの飛び道具が与えられた。ねじれ砲である。呪力をツノのような形に加工し、ねじれの模様を編み込む。この過程を踏まえた呪力の塊は縛りの効果を受けて圧倒的な破壊をもたらす。そしてねじれ砲は受け継がれるたびに強くなっていく。祐介はそのねじれ砲の17代目の継承者である。母と祐介は手を広げるとねじれ砲を作り始める。そう、引き継ぎの儀式とはねじれ砲の撃ち合いであった。二人の間に沈黙が横たわり、静寂が支配する。しかし、親子の間では今までのどれよりも熱いコミュニュケーションが生まれていた。風が吹き、石が音を鳴らすのを皮切りに母と子の間からねじれ砲が放たれる。二つの大砲の衝突は地形を変え、轟音が山々を貫く。そして、土煙の中から無傷の祐介と手傷を負った母が現れる。17代目神木家当主、神木祐介の誕生である。

 

「祐介、よくやりました。今日からあなたが神木当主です。」

右肩の着物が吹き飛び、血を流す母はどこか嬉しそうでもあった。

「初めに松江にある呪術の研究施設にて、呪術師としての下積みをなさい。何年かそこで勤め、実績を積めばあなたは晴れて一人前の呪術師となれます。そして呪術界にて活躍して神木家の名を広めなさい。そしてあなたも私のように自分の子にねじれを引き継がせるのです。そしていつか神木家を呪術界の御三家に名を連ねるような名家にする」

「わかっています。母さん」

母親はどこか憑き物が落ちたような顔でオレにそう言った。自分にとってさほど大切でもない悲願とやらの為に身を粉にしてつくす。今になって思えばオレは多くのものを母から押し付けられてきた。目標、力、理由。全て自分由来のものではなく、押し付けられたものである。それでもオレは

「励みなさい、祐介」

最後まで母を嫌いにはなれなかった。

 

島根呪術研究会。オレが勤める施設で、呪術についての研究や任務をこなす場所である。この施設が他の呪術関連の組織と違うのは研究という点だ。高専を始めとする呪術界の組織の多くは呪術をどう使うかという点に傾いた思想を持っているが研究会は一体呪術とは何なのかということに重きを置いていた。呪術界においての異端であり、ある意味最先端でもある。

「いやー!!君、神木くんでしょーーー!!入って入って!」

オレを出迎えてくれたのは白衣にアフロという一度見たら忘れられないような容貌の男だった。

「失礼ですが、あなたは?」

「あー〜?!そういえばまだ名乗ってなかったな〜〜。僕はね竹内蓮。レン先生でいいよ!」 

正直このテンションはちょっと怖い。

「僕は呪力についての研究者で君の先生及び管理者の一人でもあるんだ!よろぴくねーー!」

全ての言葉尻にびっくりマークがついていそうな自分の先生に連れられ、机の少ない教室のような部屋に着く。

「人、誰もいないんですね」

そういうとレン先生は興奮したのかオレの肩を掴むと

「そうなんだよ!任務もあるし、研究もあるし。忙しいのに人少なくてさー。少子化かな?」

オレはその手を丁寧に振り払いながらレン先生に尋ねた

「オレの同期はいないんですか?」

「いやいるよー!一人ね。まだ来てないみたいだからさきに講義始めちゃおうか!」

レン先生はオレを机に座らせるとホワイトボードに文字を書き始めた。

   呪力とは?

「この研究所にいる人たちの始まりで終わりの疑問でもある。呪力というものが一体何なのか、どこから来ているのか。それを解き明かすために集まっているといっても過言じゃない。それじゃあそこの君!!」 

レン先生はビシッという音が出そうなくらい豪快にオレのことを指差した。

「オレしかいませんよ、先生」

「呪力について知っていることを言ってみなさーい!」

呪力か。大丈夫、落ち着けオレ。18になるまで呪術師ではなかったが、鍛錬と勉強は欠かさなかった。

「簡単に言えば呪力とは人の負の感情から生まれる力です。呪術師は呪力を用いて戦いますが、一般人も微量ながら呪力を帯びています。呪力がどこから生まれるのかという問題ですが、脳の機能が全て解明されていない以上は突き止めるのは難しいのではないかと」

「うん、いい答えだ!簡潔だけど抑えるところはきちんと入ってる!そんな優秀な神木君に第二問!!デデん!!呪力についての謎とはなんでしょーー?」

オレはレン先生の大きな声に驚きながらも考えを巡らせる。

「やっぱり呪力がどこから来るかという問題ではないでしょうか。脳の機能がわからない以上、オレ達には知る方法がないと思います。」

「確かにそれも大きな謎だ。だけどそれ以上に大きな謎があるんだ!それはね〜」

レン先生はホワイトボードに文字を書き込んでいく。

      日本限定!!!!

「そう!!これ!!呪力も呪霊も主に日本にしか存在しない。これが何でかよくわかんないのよ!!」

「脳の構造が他とは違うのではないでしょうか?」 

「また神木くんいい発言!!3ポインツ!実際のところね。神木くんの考察を否定する材料も肯定する材料も出てきてない。だけどさ、神木くんは他の人種と違って日本人の脳みそだけ呪力を生み出す器官があると思うかい?」

どうだろう?実際に呪力は脳から生まれると考えられているが果たして日本人の脳みそだけ特別製なのだろうか?

「そう言われてみると自信がなくなってきますね」 

レン先生は嬉しそうにホワイトボードに文字を書き足していく。

「そうでしょ!僕たち研究者はね。呪力とは何かに対して色んな仮説打ち立ててるんだよね!神木くんには今日、一つの説を覚えて帰ってもらおうと思う!」

         神話説

「神話説?」

「そう!多分これが一番覚えやすいと思うんだよね!日本の神話についてに絡めた話!神木くん、日本の神話詳しい?」

「聞き齧ったくらいでしたら」

「うーん。ちょっと不安だから話しておこうか。大事になるとこだけ、短めにね!日本を産んだイザナギとイザナミの黄泉比良坂の件!」

黄泉比良坂は聞いたことがある。たしか現世とあの世はつなぐ場所のことだったはず

「この世とあの世の狭間?ですよね」

「そう!!知ってるねー!イザナギは亡くなったイザナミに会いに死者の国にいくんだけど、イザナミはすでに死者の国の人なっていて見た目がゾンビみたいになってたんだよね。それを見たイザナギは怖くなって現世に逃げるんだ。したらイザナミがブチギレてねー。イザナギを襲おうとするんだ。イザナギは黄泉比良坂におっきい岩で蓋をしてイザナミが死者の国から出られないようにした。そこで悔しくなったイザナミは呪いをかけたんだ。イザナギの愛する人間を一日に1000人殺すってね。それにイザナギは1日に1500人を生むと答えた。つまり、我々日本人はイザナギ(父)の祝福によって生まれ、イザナミ(母)の呪詛によって死ぬと解釈することもできる」

頭の中で新しい知識が入ってくると同時にオレの中で強烈に引っかかる言葉があった。

「呪い…?」

「そう!神話説はそのイザナミの呪詛を最古の呪術なんじゃないかという解釈を基礎に置いた説なんだ!さっき話したね。なぜ日本にだけ呪霊がいるのか。脳みそが同じ構造をしているということを前提にすれば一体海外と日本で何が違うのか。神話説では日本という土地に問題があるのではないかと考えられているんだ。僕らはこの土地に生まれた時からイザナミという母神に呪われていたんだってね」

なるほど。自分の中で新しい知識が組み立てられるとどんどん疑問が湧いてくる

「レン先生。質問いいですか?」

いいともー!と今日一嬉しそうな声で答えてくれた。

「その説において呪霊の扱いは分かったのですが、呪力はどのように解釈されているのですか、あと日本以外にも死についての呪いの話はあるのでしょうか」

「またいい質問で、もう惚れ惚れしぢゃう!!答えるとねー!神話とか宗教における死生観は必ずしもネガティブなものじゃない。死とは本来の場所に帰ることだったり、復活を信じていたりポジティブな解釈が多い。母神に呪われて殺されるなんてのは中々稀なんじゃないかなー?あんまし詳しくないけどね。もう一つの呪力の解釈だけどね、呪霊がイザナミの呪詛だとしたら、呪力とはイザナギが人に与えた祝福なのではないかと考えられている。神話説を推す人達がよく唱える文言がある。母たる呪霊、父たる呪力だ」

レン先生は、どう?と子供のような顔をしてオレに尋ねてくる。考えるよりも前に思ったことが口に出てきた

「なんかカルトっぽいですね」

「正直でいい!!!!!!!」

 

 二人でそんな会話をしていると唐突に扉が叩かれた。

「失礼します!」

透き通るような女性の声。

「おっけー!新しい生徒が来たみたいだね。入ってきていいよー!僕と神木くんに自己紹介お願いね!」

しわひとつない服にきちんと整えられた黒の短髪、無駄のない細めの身体。オレは彼女から目を離すことが出来なかった。美人だからとか、好みだからとかでは断じてない。オレの頭に母との会話が蘇ってきた。

 

「祐介。私が決めておいた、あなたの婚約者についての写真を渡しますから顔を覚えておきなさい」

神木家の婚約者は代々呪術師の家系の者や、最近強い呪術師が生まれた家系の者から選ばれる。

「あなたの婚約者の名前は…」

 

「五条要と言います!私の夢はいつか五条悟の支えとなるような呪術師になることです!よろしくお願いします」

 

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