1人の呪術師として車をでる。今回の任務は古墳の調査。古墳とはすごくわかりやすく言えば豪華なお墓、日本版のピラミッドだ。大きなものから小さなものまで種類は様々で、ここ島根の地には2000ほどの古墳が存在している。墓場という属性、古墳という物珍しさからの好奇の目も合わさって呪霊がよく発生している。オレと要、明一さんの3人でやるには簡単な仕事だが、それはオレが初任務ということもあるんだろう。
「それじゃあ、入ります。2人とも宜しいですか?」
「神木祐介!いつでもいけますっ!」
「わたしも大丈夫です」
「それじゃあ行きましょう。安全第一で」
3人で古墳の中へと入っていく。中は湿度が高く、不気味なほどに涼しい。どこか不安を抱えながらも2人に置いていかれないように歩幅を合わせる。少し経つと落ち着いてきた。なんといっても呪霊がいないのだ。古墳には大小、様々な呪霊が群がると聞いていたけどなんてことはない。
「二人とも!気を引き締めてください」
明一さんが声を荒げる。オレ達の組手の時も冷静さを失わなかった明一さんが緊張している。
「でも、呪霊なんかどこにいませんよ」
「だからこそ、です。警戒と準備だけは怠らないように」
少し、やり過ぎではないかと内心思ってしまった。そして、3人で角を曲がった瞬間。オレは、まだ自分の一般人気分が抜けていないことに気付かされた。それは異様な光景だった。グロテスクでありながら、ある種の絵画のような残酷な美しさを持っていた。血を流しながら、倒れる少女。そしてそれを抱えるモノクロの服を着た若い男。目の前の光景を受け止めるのに、頭が回転を止めていた。それでも直ぐに落ち着きを取り戻し、声をかける。
「あ、あの!その子は大丈」
そこまで言いかけた瞬間、明一さんに止められる。
「よく見るんだ、神木くん。男のほうは呪力を持っている。アイツはかなり怪しい、迂闊に話しかけてはいけない!」
言われて気づく。確かに少女を抱える男は呪力を帯びていた。一体、どういうことなんだ…?疑問が浮かぶとすぐに、答えは向こうからやってきた。
「お三方は呪術師ですね」
モノクロ服の男は拍子抜けするほど、軽い調子で話しかけてきた。
「その少女から離れなさい」
明一さんは力強く断言する。
「初めてなんですよ。誰かの前で自分の術式を使うの。せっかくだから術式開示ってやつをやってみようかな」
術式という単語が男から漏れた瞬間に場の緊張感が高まり、疑問は確信に変わる。こいつは敵だ。そうに違いない。
「その子を離せ!!!」
明一さんや要の落ち着けという声がどんどん小さくなっていく。こいつをどうにかして排除しなければ、そんな自分の声が溢れてくる。モノクロ服の男はオレの事を無視するかのように、自分の術式について話し始める
「私の術式は、人を呪霊に変えるというものです。人が命を手放す瞬間、魂は肉体を離れる。その瞬間に立ち会うことで、魂を捕まえることができるのです。その魂と私の呪力を混ぜることによって、哀れなる魂は呪霊へと形を変えて転生することができるのです」
は?何を言ってるんだ、コイツ。死ぬ?この子が?目の前の女の子、今から死ぬのか?一体何がどうなってるんだ。頭の中では疑問と怒りが渦巻いているというのに、そのどれも口から出てくることはない。体が震えていた。
「あ。今、死にました」
あっさりとモノクロの男は言い放った。男は少女の首に手をかけると、少女は青白く輝いた。その光が男の手に宿ったかと思うと、男の手からは影が溢れ出した。その瞬間から少女はモノになり、男の手からは異形が生まれていた。
「祝福してほしい、新たな呪霊の誕生を。彼女の名前は、田中舞。7歳だ」
自分の何かが音を立てて崩れ去り、口からは言葉未満が溢れ出す。獣のような雄叫びをあげて、オレは自分のねじれ砲をぶちかましていた。呪力の奔流、自分の怒号、明一さんの制止の声、その全てがボヤけていた。胸にあったのは自分の失敗。感情をコントロールできずなかったがために、ねじれ模様がめちゃくちゃになってしまった。その結果、神木家の縛りの効力はなく、ただ呪力をぶっ放しただけになってしまった。ただそれでも、全力で打ち込んだ。あのモノクロ男も無事で済むわけがない。そう思った。
「貴方は神木家のご当主でしたか!」
モノクロの男には傷一つついていなかった。呪力が当たる瞬間、見たことのない呪霊が男を庇ったのだ。
「守ってくれてありがとう、母さん」
何なんだコイツは。愛おしそうに母さんと呼びながら、呪霊を撫でている。その異質さにオレは戦意を失いかけていた。
「私は幸運です!!ここで貴方達に出会えたのは運命!目の前に新しく3人の呪術師。その内の1人は神木家の御曹司!こんなに嬉しいことはない!君達も是非!私の手によって導いて差し上げたい!!!!」
自身の術式使ってハイになったのか、モノクロ男の語り様は異様そのものであった。
「そんなことにはならない」
明一さんは静かに告げた。
「お前はここで終わりだ。あの少女にやったことの罰を受け入れてもらう」
「貴方達3人をまとめて相手するのは、私にとって不可能ではない。でもそれでは勿体無い。私は貴方達、全員の死に!立ち会いたい!3人でかかってこられてはそれも難しいでしょう。お誘いは嬉しいですが、ここでお開きとしましょう」
「逃げられると思ってるの」
要はすでに落ち着きを取り戻したようだった。
「えぇ、もちろん」
男は両手を合わせると、また影を溢れされた。
「三井竜さん、43歳。藤井充さん、8歳。石井蓮美さん、17歳。」
モノクロの男の前には、三体の呪霊が現れる。
「あの3人を足止めしなさい。頼みましたよ」
そう言い残すと、男はオレ達に背を向けて走り出した。
「まっ…待て!!!」
慌てて飛び出そうとするオレを要が押し倒す。
「放せっ。オレが、オレが行かないと!!」
言い終わる間も無く、要に頬を殴られる。
「祐介の気持ちもわかる。落ち着けっていうのが無理なのもわかる。だから一瞬でいい。私を見て。私のことを考えて」
頬を殴られた痛みと要の言葉で、頭の熱が引いていく。
「ごめん要、オレ…」
「いいから立って。祐介の力がいるから」
そうだ。まずは目の前の危険。三体の呪霊を退けなければ。
「五条さん、ありがとうございます。神木くんもう動けますね」
「はい、大丈夫です」
「それじゃあ、簡単に作戦を伝えます。呪霊は3体。推定一級が1体で他の2体は二級。私が一級と二級の二体を引き受けるので、二人は残りの二級呪霊をお願いします。くれぐれも冷静に、生き延びることを最優先に考えて行動してください」
「「はい!!」」
「いい返事です」
明一さんはそういうと、呪霊の方へと走り出す。両の手を合わせ、何かを呟やく。
「領域展開」
何もなかった場所に結界が現れ、明一さんと2体の呪霊の姿が見えなくなり、その場には1体の呪霊、1人の呪術師、1人の半端者が残された。
「祐介。一瞬だけ作戦会議」
「なに?」
「祐介は何か、小回りの効く技って持ってる?」
質問の意味がわからなかった。
「必要ない。オレのねじれ砲で吹っ飛ばす。それが一番早い」
要はオレの頭をこづく
「祐介は今ダメになってる。ちゃんと周りを見て。ここは古墳。小さいけどそれでも貴重な文化物でしょ。そんな中で大砲をぶっ放して良いわけないでしょ」
確かにそうだ。頭が血が上り過ぎて、そんなことに気が付かなかった。
「要の無下限でどうにかならないのか」
「祐介は誤解してると思うから改めて行っておくけど。私の手札は、10秒間維持できる無敵バリアと1分くらい準備がいる超火力技の二つだけ」
無下限が強いんだが、弱いんだかわからなくなってきた。
「分かった。要は見ていてくれ。」
「何か作戦があるの?」
顔を叩いて気合いを入れ直す。
「コイツはオレの術式で祓う」