高度育成高等学校に入学し、だいぶこの環境にも慣れてきた。
クラス内で話せる友人といえば椎名ぐらいのものだが、特に不自由なく生活できている。
「この山菜定食というのはどんな味なんだろうな?」
「無料ですし、味に期待するのはやめておいた方が無難ですかね」
昼食は毎日、椎名と食べている。お互い他に友人と呼べる存在がほとんどいないこともあり、自然とこの形に収まった。
椎名からは本を借りて、感想を語り合い、それが生活の主軸となっているため食費以外にポイントがほとんどかからない。念の為節約しておこうと思っていたためとても助かっている。
そんなこんなで5月1日。2回目のポイント支給日。
予想通り、支給されたポイントは10万ポイントには程遠い額だった。その額、4万9000ポイント。
「綾小路君」
「椎名か」
聞かなくても、ポイントのことだろう。どうやら、椎名も支給された額は同額のようで、クラス単位でポイント額が左右されているようだ。
教室内に入ると、やはりというか喧騒に包まれていた。支給されたポイント額が少ないことに焦りと不安を抱いている人がほとんど。この状況を予想できた人は多くないと見える。
チャイムがなり、坂上が教室に入ってくる。どういうことだと詰め寄る学生達を宥めつつ、坂上が説明を始める。
「まずはこれを見てもらいたい」
坂上はホワイトボードに一枚の紙を張り出す。
Aクラス 940ポイント
Bクラス 650ポイント
Cクラス 490ポイント
Dクラス 0ポイント
「これがなんの数字かわかりますか?」
今月支給されたポイントは4万9000。その数字から、察するのはそう難しいことではない。これが各クラスの評価ということか。
「これは、クラスポイントと呼ばれるものです。この数字を100倍した数が、毎月プライベートポイントとして支給されるわけです。先月の開始時点では全クラス、1000ポイントありました。そこからさまざまな評価基準をもとに、今月ポイントが変化したわけです」
「そんな、それじゃあ、俺たちは今後もらえるポイントが減り続けるってことですか!?」
「もちろん、場合によってはポイントが増えることもあります。そして、このクラスポイントの多い方からA、B、C、D、とクラス分けされているのです」
つまり、仮に650ポイントを上回っていた場合オレ達はBクラスに上がっていたということになる。
「みなさん、この学校へは希望する進路を100%叶えるという触れ込みを聞いて入ってきたと思います。しかし、その恩恵を得られるのはAクラスでの卒業だけ。つまり、卒業までにポイントを増やす必要があります」
坂上の説明に、ショックを受けるもの、現実を受け止めて奮起するもの、不敵に笑みを浮かべるもの。教室内は、統率とは程遠いところにあった。
その日の授業は、各自身に入るわけもなく、注意が散漫になっていた。希望する進路に行くにはAクラスに上がらなければならないと言われたら、仕方のないことだと思う。
そして放課後、一人の男が教室内の空気を変えた。
「お前ら、よく聞け。この高校の恩恵を受けるにはAクラスに上がらなきゃなんねえってのは今朝聞いた通りだ。俺がこのクラスを勝たせてやる。その代わり、お前らは全員俺の家来として働け」
長髪の、ガタイのいい男だ。自己紹介で、龍園と言っていた。クラス競争があると聞いて、真っ先にクラス内を一つにまとめ上げようと考えるのは正解だろう。
「なんだと? 誰が家来だ。そんなやり方で俺たちがいうことを聞くと思うか?」
あいつは、時任か。当然、龍園のようにいきなり従えと言われても反発するものは出てくるだろう。それをどう従えるか。……見ものだな。
クラス内の権力争いは、数日中に蹴りがつくだろう。龍園が支配するか、それとも別の勢力が出てくるか。
どちらにせよ、オレは目立たないイチ生徒としての立場を崩すつもりはない。しばらくは傍観することにしよう。
その後、オレは椎名と図書館へ行くことにした。どうやら椎名も権力争いには興味がないらしい。
「クラスのリーダーは誰になると思いますか?」
「どうかな。いち早くクラスをまとめようとした判断力からも、龍園になる可能性が高いんじゃないか?」
「やはりそうですか……。彼は雰囲気が怖いので、できれば別の方にお願いしたいところですが……」
クラスをまとめる手段の一つとして、暴力による支配も考えられなくはない。大人しい椎名からすれば、歓迎できるものではないだろう。
翌日。教室に入ると、所々アザなどができている生徒が見受けられた。予想できていたが、龍園は暴力による支配を選んだのだろう。
見たところ、すでにクラスの7、8割は龍園の下についたようだ。想像以上に早いな。
龍園は、教団の前に立って話し始める。
「俺がこのクラスの王だ。まだ配下になってねえ奴もいるが、まあ邪魔さえしなけりゃ文句はねえ。その代わり、俺の邪魔をするようなら、容赦はしない」
暴力による制裁が待っていると、その目は語っていた。オレにとってそれは脅威の対象にはなり得ないが、目をつけられるのは面倒だ。しばらくは龍園のやり方に従ってみよう。
「今日から早速行動してもらうぜ。まず最初の狙いはBクラスだ。今度の中間テスト、俺はここでポイントの変動があると踏んでいる。てなわけでBクラスの奴らにちょっかいをかけてこい。いいか、決して暴力は振るうなよ? あくまで邪魔をするだけだ」
龍園は、クククと不敵な笑みを浮かべる。悪くない策だ。この間行われた小テストの結果を見るに、Cクラスの学力はあまり高くない。A,Bクラスには純粋な学力ではどう足掻いても敵わないだろう。ならば、盤外戦術だ。こちらが勉強できないのであれば、向こうにも勉強をさせなければいい。どれほど効果があるかはわからないが、公に行われる勉強会などは妨害することが可能だ。
おそらく、それ以外にも意図があるだろうが。どこまでしても学校からのお咎めはないのか。まだ、オレたちはこの学校にに入ったばかりでわかっている情報が少なすぎる。今回の策は情報収集の面が大きいだろう。
その日から、Cクラスの生徒によるBクラスへの妨害行為が始まった。オレはそれに加担することもなければ、妨害することもない。
一つ問題があるとすれば、Cクラスの教室から出てきたというだけで周りからの視線が痛い。……これ、友人を作るのがさらに難しくなっているのではないだろうか。
日に日にCクラスによる妨害行為はエスカレートしている。学校側が介入するギリギリのラインを探しているのだろう。
ある日、一人で図書室にいったところ、うちのクラスの石崎と、Bクラスの生徒がいざこざを起こしているのを見かけた。
「おいおい、勉強ばっかりして、Bクラスの頭でっかちどもは試験勉強に必死だなあ! もっと心に余裕を持とうぜ!」
「石崎、ここは図書室だ。静かに願おう」
「なんだよ、同じ学校のよしみじゃねえか。ちっとは仲良くしようぜ?」
「いちいち妨害をしてくるような奴らと、仲良くもなにもない」
Bクラスの生徒たちはかなりフラストレーションを溜めている様子だ。そういう意味では龍園の策は見事にはまっているといえる。
そこまでは良かったが、Bクラスの面々も慣れてきたのか、石崎の煽りに耳を貸す生徒はあまり多くないようだ。焦ったのか、石崎はBクラスの生徒に手をかけようとする。
……まずいな。
「おい、ちょっとこっち向けよ」
「待て、石崎」
石崎の伸ばした右腕を、オレはBクラスの生徒に触れる直前で掴む。
「……!? お前、確か、綾小路?」
「その辺にしておけ。流石に、手を出すのは見過ごせないな」
「龍園さんに歯向かうのか?」
「そういうわけじゃない。龍園も、暴力はするなと言っていたはずだ」
「うっ……。わあったよ」
石崎は、不満げに図書室を後にする。さて、注目を集めてしまったな。
「お前は、見たところCクラスのようだが?」
先ほど石崎と言い争いをしていたBクラスの生徒がこちらに話しかける。
「ああ。Cクラスの綾小路だ。その、なんだ。うちのクラスのやつが迷惑をかけてすまない」
「Bクラスの神崎だ。どうやら、Cクラスも一枚岩というわけではないらしいな。全員が全員、龍園に与しているというわけではないらしい」
「そうだな。オレはあまりこういうのが好きじゃないんだ。龍園の考え方はオレとは合わない」
本当はそんなことないのだが。勝つために手段を選ばないのは、どちらかといえば肯定派だ。だがここではこう言っておいた方がいいと判断した。
今後、どうなるかは分からないからな。他クラスとの人脈を作っておくのはオレのためでもある。
「Cクラスにもお前のような生徒がいると分かったのは収穫だな。よければ、連絡先を交換しないか?」
「こっちからお願いしたいぐらいだ」
これで二人目の連絡先を手に入れた。神崎は、友人といってもいいのだろうか?
こうして、あっという間に中間テストの日がやってきた。
次回テストやって、なんかする予定です。
別にクラスに助力を求められたわけでもないので過去問とかは手に入れないです。