綾小路はCクラス   作:霧木 柊

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感想、評価をたくさんいただけてとても嬉しいです。正直、こんなにも多くの方に見ていただけると思っていなかったので驚いています。

感想で複数の方から指摘いただいた部分についての補足をさせていただきます。

池と山内が勉強会もなしに赤点を取らなくて不思議だというものですが、池と山内に関しては原作で一夜漬けは得意だと発言していたような記憶があり、今回のテストは難易度もそれほど高くはないと判断し、ギリギリ乗り切った事になっています。過去問の入手がない事によりクラスの平均点自体も大きく下がっており、赤点のラインも同時に下がっている事も幸いしたようです。


四話

 

「あなた、私と取引する気はある?」

 

 堀北と名乗る生徒の、突然の提案だった。

 

「いきなりだな。そもそもオレとお前は初対面のはずだ」

「ええ。正直、言ったら悪いけど誰でもよかったのよ」

「それなら他を当たってくれ」

 

 オレは話を切り上げ、席を立とうとする。

 

「待ちなさい」

「なんだ」

「私は、お願いしてるのよ?」

 

 喉元に、針が突きつけられた。コンパスの先端が、堀北の右手によってオレに向けられている。

 

「……これはお願いとはいえないな」

 

 いわゆる脅迫だ。席を立つのを辞め、椅子に座り直す。

 

 オレなら、堀北が次に動作を起こす瞬間に制圧することが可能なため、実際のところは脅迫にはなっていないのだが。それを堀北が知る由はない。

 

 ただ、純粋に興味が湧いた。なにが堀北をそこまで突き動かしているのか。理由を知るため、話を聞く事にする。

 

「取引とは、具体的になにをするんだ?」

「私が、CクラスをAクラスまで上げる手伝いをする。その代わり、Aクラスに上がった場合は私を2000万ポイントでAクラスに引き上げて」

 

 この学校には、生徒がクラスを移動できるルールがある。それが、プライベートポイントを2000万使用することで、クラス移動の権利を買うというものだ。

 

「そういうのはリーダーに頼むものだろ。Cクラスのリーダーは龍園だ。本人に直接言えばいい」

「そうね。あなたのいう通りだわ。それなら、話し合いの場をセッティングしてもらえるかしら」

 

 つまり、オレはいわゆる所の橋渡し役。それこそ、誰でもいいと言うのも納得だ。

 

「分かった。とはいえ、オレは特に龍園と親しいわけではない。断られたときは諦めてくれ」

「構わないわ。そしたら別の人にお願いするだけだもの」

 

 他の人にも針を突きつけるつもりなのか……。言葉としてでかかったが、刺されそうなので飲み込む。その日は連絡先だけ交換して解散した。

 

 ちなみにカフェの代金はオレが奢らされた。曰く、Dクラスは0ポイントなのよ? との事。

 

 

 翌日。オレは龍園が教室に来たことを確認して話しかける。

 

「龍園、ちょっといいか?」

「あん? てめえは、綾小路か。今まで大人しくしてたくせに、いきなり話しかけてくるなんざ、どう言う風の吹き回しだ? 俺の軍門にでも降りに来たのかよ」

「いや、そう言うわけではない。正確には、用があるのはオレじゃないんだ。オレは橋渡しだな。Dクラスの生徒が、龍園に取引を持ちかけたいらしい」

「はっ、Dクラスの不良品が? 興味ねえな。そいつに伝えとけ。俺と取引するなんざ、100年早えってな」

 

 龍園からしてみれば、本当にDクラスは眼中にもないのだろう。中間テストを終えて発表されたクラスポイントが、

 

 Aクラス 1004

 Bクラス 663

 Cクラス 492

 Dクラス 0

 

 となっている。

 

 どのクラスも大小あれどクラスポイントを伸ばす中、Dクラスだけは変動なし。おそらく、須藤の退学によるペナルティでも発生したのだろうと推測できる。そんな状況でDクラスを意識しろと言う方が難しいのかもしれない。

 

「どうやら、そいつはCクラスをAクラスに上げる代わりに、2000万ポイントで引き上げてほしいとのことだ」

「ほう、つまりクラスを捨てるって事か。まああの有様じゃ無理もねえがな」

 

 すると少しだけ愉快になったのか、龍園の口角がわずかに上がる。

 

「放課後、カラオケに来るようそいつに伝えとけ。部屋は後で送る」

「いいのか?」

「ククク、取引に応じるかは別だが、入学早々クラスを捨てようって頭のネジがぶっ飛んだやつだ。会って話してやってもいい」

「そうか。伝えておこう」

 

 オレはその場で龍園の伝言を堀北に送る。すると、すぐに既読がついた。これでオレの役目も終わりだろう。

 

「ついでだ、お前も放課後来いよ、綾小路」

「……」

 

 露骨に嫌な顔をしたはずなのだが、龍園には通じなかったようだ。

 

 

 放課後。カラオケルームの一室に集まった面子は、オレ、龍園、堀北、そして龍園の取り巻きであるCクラスの石崎とアルベルト。ぱっと見、オレを除けばケンカでもしに来たかのような顔ぶれだ。

 

「どう言うこと? 私は龍園君以外を呼んだ覚えはないのだけど」

「ククク、そう言うな。こいつらがどうしてもついて来たいって言ってよ。話の前に、まずはお前の名前を聞かせてもらおうか」

「……堀北鈴音よ」

 

 堀北は、聞いてないわよとでも言うようにオレをキリッと睨む。オレだって無理やり連れてこられたんだから、文句を言われても困る。

 

「そうか、鈴音。どうして俺に取引を持ちかける気になった?」

「待って、その前に、どうして下の名前で呼んでいるの? 許した覚えはないわ」

「細けえことを気にすんな。お前は、俺に頼み込んでいる側だ。そのことを忘れるな」

「……っつ!? まあいいわ」

 

 納得はしていないのだろうが、堀北はこれ以上言っても無駄だと判断したのか口を閉じる。

 

「私は、どうしてもAクラスで卒業しなければならないの。そのためなら、どんな手段を取っても構わない」

「クラスを裏切ってでもか? 今のDクラスをAクラスまで上げるって選択肢だってあるはずだぜ」

「分かっているでしょう? Dクラスは不良品の集まり。とてもじゃないけど、Aクラスに上がるのは絶望的だわ」

「それで他クラスを利用しようってか。Bクラスを利用しないのはなぜだ?」

「BクラスはAクラスの次に上のクラス。まずは自力でAクラスに上がろうと考えるはず。こんな提案をしても突っぱねられるのがオチよ」

「ほう、不良品なりにちったあ頭が回るようだな。だが、不良品は不良品だ」

「……なんですって?」

 

 堀北の眉がピクリと動く。今の龍園の発言はお気に召さなかったらしい。

 

「分からねえか? 俺は、てめえなんかの助けなんざなくてもAクラスなんて余裕で行けんだよ。それこそ、Dクラスなんかの助けなんざ借りずにな」

 

 堀北がCクラスのためにできることはそう多くない。退学者も出たDクラスの状態は察するに、バラバラで統一性のないものだろう。どう頑張ろうとクラス単位の協力も見込めない上、上位のA、Bクラスを倒す力もない。それでは2000万ポイントには到底釣り合わない。

 

「まあ、お前が俺の女になるってんなら、考えてやらなくもないぜ?」

 

 龍園は、堀北の体を舐め回すように見る。

 

「っつ、気持ち悪い。それなら、この話はなかった事にさせてもらう」

「いいのか? せっかくのチャンスだぜ」

「私は、自力で2000万ポイントを貯める。それでAクラスに行くわ」

「そうかよ」

 

 堀北は立ち上がり、カラオケルームを後にする。

 

「あー、話し合いは終わったようだし、オレもこの辺りで失礼する」

 

 なんのために呼ばれたのか分からなかったが、オレも堀北に続いてカラオケルームを後にした。出たばかりのため、堀北は、まだ視界の中だ。

 

「堀北」

「あなた、綾小路君。なにをしにきたの?」

「いや、励まそうと思ってな。取引は無くなっただろ」

「そんなもの必要ないわ。私は、そんな馴れ合いを必要としていないもの」

「そうか。だが、第三者の目線から一つだけ言わせてもらうと、個人で2000万ポイントを貯めるのは不可能に近い」

「そんなことを言いに? それこそ不要なお世話だわ。もうこれしか方法はないもの」

「今からでも龍園に頼むと言う選択もある」

「あの男に体を差し出せと言うの? あり得ない話ね」

 

 堀北は、話は終わりだと足速に去っていこうとする。それをオレは腕を掴んで止めた。

 

「なにをするの?」

 

 堀北は嫌悪感を滲ませた表情でオレを見る。それでもオレは、堀北に言っておかなければならないことがある。

 

「ーー随分と、安い覚悟なんだな」

「……なんですって?」

「Aクラスに上がるためならなんでもすると、お前は言ったな」

「ええ、その通りよ」

「その割に、龍園の提案をお前は蹴った。現状、一番Aクラスに上がれる可能性が高いのにも関わらずだ」

「それは……」

 

 堀北は、悔しげに顔を歪ませる。本人も分かっているのだろう。自分の考えが、いかに理想主義なのかを。なんでもすると言っておきながら、その心内はなにも覚悟が決まってはいない。口だけならなんとでも言える。

 

「そんなこと言ったって、どうしようもない。私はもう、他に方法が……」

「今のDクラスをAクラスにあげる。その方が、個人で2000万貯めるよりも余程可能性が高いんじゃないか?」

 

 まだ一年の一学期。クラスを諦めるにはあまりにも早すぎる。

 

 おそらく、堀北自身が、クラスを引っ張っていく自信がないのだろう。生徒をまとめ、リーダーとしてやっていく自信がない。それでも、やるしかないのだ、Aクラスに上がるためには。

 

「本当にAクラスに上がりたいのであれば、覚悟を決めろ。クラスを引っ張っていくリーダーとして、存在を証明しろ」

 

 絶対的なリーダーであれば、クラスメイトはついていく。龍園は暴力という方法でクラスを支配したが、それも一種のカリスマだ。リーダーとしての資質を持っている。同じことを、堀北はできるだろうか。

 

「……どうやら、覚悟が足らなかったようね」

 

 堀北は、悔しそうにしながらも、納得した表情を見せる。

 

「私は、DクラスをAクラスに引き上げる」

「そうだ、それでいい」

「あなたからすれば、厄介な敵が増えてしまったのでない?」

「問題ない。敵として立ち塞がれば、倒すまでだ」

 

 これで、堀北はもう迷わない。Dクラスも浮上のきっかけを掴めるかもな。

 

 それ以上に、堀北鈴音という生徒の成長を見てみたいという思いがある。Dクラスが上がろうが、そのままだろうが、堀北の行く末を見てみたい。今後の学校生活が少し、面白くなりそうだ。

 




堀北の話だけで終わっちゃいました。これで一応原作一巻は終わりです。原作と違いすぎてもはや一巻と言っていいのかは別ですが。次回は二巻の内容ということで。もう須藤はいないんですけどね、、、。
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