朝、起きてすぐに、違和感を覚える。
今日は月頭、つまりポイントの支給日だ。それなのに、オレの端末にはポイントが送られてきてはいなかった。まさか、Cクラスのクラスポイントが0になったのではないかと考えを巡らせるが、すぐに首を振る。さすがに、400以上あったポイントがいきなりなくなるのは現実的ではない。
椎名にメッセージを送ってみるが、どうやら椎名もポイントは振り込まれておらず、原因も分からないらしい。
教室に行ってみれば分かるだろうか。
教室に着くと、石崎が右腕を少し大袈裟とも言えるぐらいに、包帯でぐるぐる巻きになっていた。これで理由はなんとなく推測できる。
「石崎、その腕、どうかしたのか?」
「綾小路か。実は龍園さんに言われ……じゃなくて、Bクラスの渡辺ってやつに階段から突き落とされたんだ! 酷い話だぜ全く」
「そうか、それは災難だったな。その腕ではなにかと不自由だろ。なにか困ったことがあれば言ってくれ。できる限り力になる」
「おう、ありがとよ! なんだ、今まであんま喋ったことなかったけど、綾小路って案外いいやつなんだな」
石崎は豪快に笑う。とても右腕を負傷している男のテンションではなかった。
その後チャイムがなり、坂上が教室に入ってくる。そこで今回のポイント支給が遅れていることを説明され、原因はBクラスの渡辺がCクラスの石崎を階段から突き落としたこと。その件について学校側に訴えを出しているらしい。
渡辺という生徒がどういった人物なのかは把握していないが、まず間違いなく龍園の仕業だと考えるのが妥当だろう。
すると、一之瀬からメッセージが届く。
『今回の事件、綾小路君はなにか知ってた?』
『いや、生憎オレも今知ったところだ』
『そっか、それじゃあ手がかりはなしかあ』
『力になれなくてすまない』
『ううん、気にしないで! それでよければなんだけど、今回の事件について話したいから、放課後
神崎君の部屋に集まれないかな?』
『分かった。お邪魔することにする』
Bクラスは、早速今回の事件について調べることにしたようだ。一之瀬の性格から考えるに、渡辺という生徒のことは全く疑ってもいないのだろう。
放課後、神崎の部屋に行くと、そこには既に神崎、一之瀬、そしておそらく渡辺がいた。ソワソワして落ち着きのない様子から察するに、かなり焦っているのだろう。
「待たせたな」
「いや、ちょうど集まったところだ。気にしないでいい」
神崎はオレにお茶を出しながら言う。とても気の利く生徒だ。Cクラスではこうはいかないだろう。
「早速、今回の事件について話そっか。渡辺君、事の経緯を話してくれる?」
「あ、ああ。とりあえず、そうだな。最初から話すぜ」
渡辺は、お茶を一口啜り、語り始める。
「昨日のことだ。俺は放課後学校に忘れ物をしたのに気がついてとりに帰ったんだ。したら、なぜかまだ石崎も学校に残っててさ。まあ絡まれたんだよ。勉強会の時のこともあってCクラスにはいいイメージがなかったから、無視してたんだ。したら肩を掴んできたからやめろって言って手を振り払ってさ、そしたらなんか勢いよく石崎が階段から落ちていったんだよ。誓っていうけど、そんな強く振り払ったわけじゃないぜ? よく見てなかったけどさ、絶対、勢いよく階段から落ちるなんておかしいって!」
確かに、手を払っただけで階段から転げ落ちるとは考えにくい。
「その場所には監視カメラは設置されていなかたのか?」
「それは一番最初に確認したよ。ちゃんとあった。先生に言ってその時の映像を見せてもらったんだけど、確かに渡辺君のいう通りだったよ」
「だろ! そうだよな? 俺は悪くないって!」
「でも、Cクラスが主張するように階段から突き落とされたって言われても否定はできない感じだったよ。うまく体が重なっててね、落ちていった部分が見辛かったんだ」
「そんな、俺は本当に……」
「うん、もちろん私たちは渡辺君を信じてる。だから、なんとかそれを証明したいんだけど……」
すると今まで黙っていた神崎が口を開く。
「綾小路、龍園から何か聞き出すことはできないか? 正直、俺は今回の件を龍園の差し金だと考えている」
「それは、難しいな。龍園があっさりと認めるとは思えない。今回の件が龍園の仕業だというのはオレも同意見だ」
ただ、今回の件はかなりBクラスにとってぶが悪い。一つは石崎が包帯を巻くほどの怪我をしていること。もう一つは階段から落ちる様子が監視カメラに写っていること。
どう考えても、普通に言い争ったら負けが濃厚だろう。
「確か、生徒会を交えて審議が行われるんだったな?」
「うん。審議は明後日だから、あんまり時間はないんだよね……」
力なく返事をする一之瀬。彼女も、今回の件が劣勢なのは分かっているのだろう。
「ごめん、俺のせいで、クラスに迷惑を……」
「それは違う。渡辺、今回悪いのは龍園だ。お前は気に止む必要はない」
「神崎……」
一つ、考えつくこととしては、
「今回の件、Bクラスがダメージを負わないようにするには、訴え自体を取り下げさせるしかないと思う」
「それができればもちろん理想だけど、そううまく行くかな?」
「分からない。だから一之瀬たちは審議の準備をしてくれ。きちんとこちらの潔白を主張しよう」
「そうだね。冤罪なんて、絶対にあっちゃいけないもん」
一之瀬は頷き、今日のところは解散の運びとなった。
オレは今回、どう動くか。方法を選ばなければ、龍園に今回の件を認めさせることはできるだろう。だがそれは最終手段だ。あくまで、オレ個人としては穏便に事を進めたい。黙って成り行きに身を任せるという方法もある。オレには一切デメリットがないし、この状況では一之瀬たちに恨まれることもないだろう。だが、友人のために動くと決めた以上、ここで黙って見過ごすという考えはない。
審議は、どう足掻いてもBクラスに勝ちの目はない。つまり期限は明後日の審議の前まで。ギリギリだな……。
オレは行動を始めた。
翌日。相変わらず怪我を感じさせないほど、元気な様子の石崎。
「おう綾小路! おはよう!」
「おはよう。挨拶してくるなんて珍しいな」
「んだよつれねーな。俺たち、もうダチだろ!」
「そうなのか」
昨日少し話しただけなんだが……。どうやら、石崎の基準だともうそれで友達らしい。
「綾小路はいいやつだって分かったからな。そうだ、今日一緒に昼飯食おうぜ。アルベルトも連れてよ」
「いいのか。ならぜひ一緒させてもらおう」
すると、遠くで椎名が少し寂しそうな目で見ていた。
「悪い。椎名も一緒じゃダメか?」
「椎名も? 別に構わねえけど、お前らそんな仲よかったのかよ」
「少し話す程度にはな。早速声をかけてくる」
石崎に断りを入れて、椎名に声をかける。
「今日の昼食だが、よかったら一緒に食べないか? 石崎とアルベルトもいる」
「そのメンバーですと、私はお邪魔にならないでしょうか」
「石崎も問題ないと言っている」
「そうですか……。分かりました、ご一緒させてください。綾小路君、せっかくお友達になれたのに、最近付き合いが悪いものですから。実はちょっと寂しかったんです」
「それは、申し訳ないことをした」
最近は色々ゴタゴタが重なって、確かに椎名との時間を取れていなかった。椎名に借りた本も、まだ途中で放置されている。
「でも許します。最近忙しそうにしているのは分かっていますから。ただ、たまには私のことも思い出してくださいね?」
「もちろんだ」
これは、本当に申し訳ないことをしたな。椎名は曇りひとつない笑顔で、笑いかける。心がとても広い友人だ。
昼食は思いのほか楽しい時間だった。石崎はノリがよく、場を盛り上げてくれるし、アルベルトも話したことがなかったがとてもいいやつだ。
だから、少しだけ心苦しい。これからオレは、石崎を罠に嵌めようとしているのだから。
あまり書くことがないので今回と次回でこの話は終わりです。早く無人島に行きましょう。