探偵の夢
連邦生徒会長の失踪。
それはキヴォトスにおける混乱を意味していた。
連邦生徒会長という権力者が失踪した事により連邦生徒会のサンクトゥムタワーの行政制御権が喪失。
この混乱に乗じてキヴォトスでも悪名高い七囚人が連邦矯正局から脱獄、治安の悪化は免れ無かった。
さらに連邦生徒会長直轄の学園組織、SRT特殊学園が本来の責任所在者である連邦生徒会長が失踪した事により責任の所在が不明瞭となった。
これのよりSRT特殊学園は閉鎖が決定、SRT特殊学園の生徒達はヴァルキューレに編入される事になった。
連邦生徒会長が失踪した事によりキヴォトスが混乱の一途を辿っていた時、ある組織が発足された。
通称、連邦捜査部「S.C.H.A.L.E」
正式名称
キヴォトス外から来た大人、「先生」を顧問としたキヴォトスにおける超法規的組織。
シャーレの権力は連邦生徒会長によって付与された権限、つまりキヴォトスにおけるあらゆる規律、規則、法律、全てのルールを免れる力があった。
シャーレの発足、SRT特殊学園の廃校、七囚人の脱獄。
キヴォトスの運命の歯車は少しづつ、だが着実に変わっていく。
その運命の歯車の変貌を見届ける人物が、一人だけいた。
「相澤ユウキ」
ヴァルキューレ公安局の刑事だった人間。
……
「退学?」
「あー、まぁ、そうなるな……」
ヴァルキューレ公安局、室長室。
私はカンナ局長に呼ばれ急遽仕事を部下に任せて来た時の事。
カンナ局長から言い渡されたのは昇格でも、謹慎でも、左遷でもなく。
退学だった。
「何故私を退学に?何も問題行動はしていないはずですよね?」
「なんでもカイザーの件の責任の所在が全てお前になったらしい、これは連邦生徒会の防衛室長の決定だ、すまないが……」
防衛室長が何故私を?
不知火カヤとは何も関わりは無いはず。
では何故?
「ふざけないで下さい!確かにアビドスは私の担当区域ですが何故全て私の責任になるのですか!」
理解が出来ない気持ちと突然の退学通告で焦り、怒鳴ってしまう。
「まぁ落ち着いてくれ、これは決定された事でもう……」
「何故防衛室長の不知火カヤ氏が私を退学にするのですか!どういう権限で!」
「ユウキ……」
カンナ局長は申し訳なさそうな顔をしながら、私を宥めた。
その時私は察した。
もう私の居場所はここには無いのだ。
「はぁ、分かりました、それではカンナ局長」
「今までありがとうございました」
私は自らの運命を受け入れ、その場を去った。
「……すまない……ユウキ……」
……
「ふぅ、引越し作業は終わりですね」
あれから一週間、私はヴァルキューレから退学となり寮からも追い出されてしまったので仕方なく貯金を使い、シラトリ区の古いビルのテナントを借りる事にした。
最初はアパートにしようかと思っていたがある事を思いつき、実行に移す事にした。
「左遷、降格を飛び越えて退学とは、不知火カヤは何を考えているのでしょうか」
いくら考えても何も出てこない。
私は柔らかいオフィスチェアに深く座り、ため息をついた。
「カンナ局長もカンナ局長ですよ、あんな横暴を許すなんてどうかしています」
机に置かれた缶コーヒーを飲み、またため息をつく。
だがこれは好機でもあるのかもしれない。
私の子供の頃の夢を叶える為のチャンス……と、プラスに考えてネガティブな思考を消し去ろうとした。
……
相澤ユウキ
元ヴァルキューレ公安局刑事課所属
二年生
カイザーコーポレーションのアビドス生徒誘拐事件の責任を相澤ユウキと断定。
……
翌日の朝。
ピンポンとチャイムが鳴り、ドアを開けると。
「あ、キリノさん」
「おはようございます、ユウキ先輩……」
私の数少ない友人兼後輩である中務キリノ。
生活安全局所属の一年生、身長161cm。
芯が強くて正義感がある子、少し不器用なのが短所だが真面目で勤勉である。
「あの、その……」
「とりあえず上がってください、今日は暑いですし」
少し落ち込んでいるように見える、いつもは活発で元気があるのにどうしたのだろうか。
「あ、ありがとうございます」
━━
「今日はどうかしたのですか?」
キリノさんをソファーに座らせ、コーヒーを机の上に置く。
「わ、私はアビドスの件、ユウキ先輩のせいじゃないと思ってます!」
「確かにユウキさんはアビドスの担当地域ですが何も退学にする必要はないと思います!」
キリノさんらしくない大声が部屋に響く。
「……すいません、でもユウキさんが退学になるって聞いて信じられなくて……」
「キリノさん」
「は、はい」
「問題はそこではないのですよ」
「恐らくそれは建前、私を退学にする為の口実に過ぎません」
「では何故私を退学にしたか、それは恐らく退学処置をした人間にしか分かりまん」
「何故ならこの決定を下したのはカンナ局長ではなく、連邦生徒会防衛室長の不知火カヤだからです」
「彼女と私に接点はありませんが、彼女は何処かで私を知ったようです」
「不知火カヤ……」
「それにこの決定はもう確定事項、取り返しのつかない事となりました」
「キリノさんが私の身を案じてくれるのは感謝の一言に尽きないのですがもう私は退学となり、寮からも追い出されました」
「ですが……!」
「では私はこのまま見窄らしい生活をただ送り、大人になるのか?」
「否、そんな生活を送るくらいならば私は死んだ方がマシです」
「私は私の正義を実行する事にしました、私の夢を叶える為の正義」
「ゆ、夢……」
「実を言うとここは私の家ですがそれと同時に事務所でもあります」
「そう、私の夢は探偵、子供の頃から憧れていた夢」
「キリノさん、貴女の夢はなんですか?」
━━
「す、すいませんユウキ先輩、急に押しかけてしまって……」
「一人称が本官から私に変わっていてビックリしましたよ、あ、コーヒー淹れますね」
「プライベートとかでは一人称は私なので、ありがとうございます」
カップにアイスコーヒーを淹れ、ため息をつく。
「ですが一番ショックなのはカンナ局長が私の事を擁護してくれなかった事です、彼女はキリノさんと同じくらい正義感があると思ったのに……」
「か、カンナ局長が……」
正義感を失い、横暴を許すようになったカンナ局長は一体何処に進むのか、それは誰にも分からない。
少なくとも良い方向には進まないだろう。
「そういえば今は朝の十時ですがキリノさんはそろそろヴァルキューレに戻らなくていいのですか?」
「今日はヴァルキューレを休みました、先輩の一大事だったので……」
「それはいけませんね、確かに友人の一大事なら駆けつけるべきでしょうが今回は急ぐ要件ではないので業務に勤しむ事を……」
「あー!もう!分かってます!大丈夫ですから!」
再びキリノさんの声が響く、本当に分かっているのだろうか?
「大体キリノさんはその不器用なところさえ治したら優秀な……」
「ユウキ先輩!私は帰りますよ!」
「そもそも貴女という人は……あれ?」
気がついたらキリノさんはいなくなっていた。
……
午後十二時、からっとした太陽がてっぺんに登っていた時の事。
「ふむ、やはりお昼のランチはペペロンチーノに限りますね」
ずるずるとオリーブオイルが香るペペロンチーノを啜り、飲み込む。
「ですがこのままだと貯めておいた貯金も尽き私はホームレスになるのは確実、早く探偵業を始めなければなりませんね」
シラトリ区のとあるビルの二階にいる探偵は、三度目のため息をした。
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追記 ユウキの構想段階の名前、テツヤを間違えてカンナ局長との会話の時に出してしまいました、混乱させてしまった方は申し訳ないです