シラトリ区の探偵   作:ガガミラノ

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栄光は遺産にならない

「……この胸の傷、ですか」

 

「ごめん、嫌だったかな」

 

先生が申し訳無さそうに頬を掻く。

 

「いえ、この傷は昔任務でついた傷です」

 

「任務?」

 

「はい、それはそれは重大な任務でした、私が敏腕刑事と言われるようになった理由の事件でもあります」

 

「その事件を解決した事によりカンナ先輩は公安局長に、私は部下を多く持つようになりました」

 

「……ですがその代償として私はこの傷を負いました」

 

腹部の傷をちら、と見せる。

 

「この傷は勲章でした、ですが私が退学した事によりこの傷は過去の栄光と化してしまい傷は哀れな何かへ成り果てました」

 

その大きな銃創はもはや大きな意味もないただの傷。

あの時のカンナ局長は……カンナ先輩はどこに行ったのだろうか?

 

「先生、この傷をつけられる為に私は……いえ、ネガティブになりすぎてはいけませんね」

 

「本当にごめんね、嫌な事を思い出させちゃって……」

 

「大丈夫です、それでは丁度いいですし例の件を……」

 

ガチャリ。

 

扉が開く音がする、誰だ?

 

「……ヒフミさん?」

 

ドアを開けた主はヒフミさんだった。

時間は既に夜、一体どうしたのだろうか?

 

「あ、ユウキさん、失礼します……こんばんは、もう落ち着きましたか?」

 

「はい、夕方は大変申し訳ありませんでした、私虫が大の苦手なものでして」

 

「いえいえ、大丈夫ですよ、それより先生……」

 

━━

 

 

補習授業部

 

トリニティで成績が低下した者たちが集められた部活動……というのは建前で実際はトリニティとゲヘナ間の平和条約、エデン条約を邪魔する裏切り者を探す為の部活動。

 

正義実現委員会の下江コハル

自称普通の女の子の阿慈谷ヒフミ

ちょっとえっちな女の子の浦和ハナコ

ゲリラ戦の専門家の白洲アズサ

 

この四人と先生と私で構成された部活動……つまりこの四人の中に裏切り者がいるという訳だ。

因みに同時進行で勉強の方もやらないといけない、三次試験に落ちたら全員もれなく退学。

 

「……」

 

しかし、私は思うのだ。

裏切り者は本当に心の底からエデン条約を阻止しようとしているのか?

今日の掃除から見ても私は全員楽しんでいるように見えた。

コハルさんもハナコさんもヒフミさんもアズサさんも。

とても裏切るように思えない。

 

「……ヒフミさんは確かこの事を知っているんでしたよね」

 

「えっ、は、はい、ナギサ様から……」

 

 

ナギサ。

恐らくトリニティティーパーティー代表、桐藤ナギサだ。

 

トリニティの政治体制は特殊だ、キヴォトスでも他を見ない政治体制、三頭政治。

 

サンクトゥス分派

百合園セイア

ティーパーティーのホスト、つまり生徒会長という事だ。

しかし彼女は現在入院中らしくティーパーティーのホストを桐藤ナギサに渡しているらしい。

 

フィリウス分派

桐藤ナギサ

入院中の百合園セイアに代わりティーパーティーホストを有している。

先生が言うには彼女が補習授業部を作ったらしい。

 

パテル分派

聖園ミカ

特筆する事はないが……どうやら政治的な事は苦手らしい、普通の天真爛漫な女の子と言われている。

だが一つ気になる点があるとすればどうやら彼女はゲヘナをかなり憎んでいるらしい、そんな彼女にエデン条約を認めさせた桐藤ナギサの政治的力はかなりのものだろう。

 

 

「あの、ユウキさん?」

 

「……あぁ、失礼、少し考え事を」

 

ヒフミさんに心配されてしまった、もっと頭の回転を早くしたいのものだ。

 

「はっきり申し上げますと裏切り者が誰かはまだ分かりません」

 

「ですが先生に依頼されたからにはキチンと私が解決します」

 

「そ、そうですか……」

 

「……ユウキもそんなに張り詰めなくていいんだよ?勉強の事もあるしちゃんと休まないと」

 

「いえ、頼まれた事ですから」

 

「……そっか、それじゃあ私はそろそろ寝る準備をするよ」

 

「そうですね、私もそろそろ……」

 

時間もそろそろ十時だ、私も寝る支度をしなければ。

 

「おやすみなさい、先生、ヒフミさん」

 

「おやすみなさい、ユウキさん」

 

「おやすみ、ユウキ」

 

先生とヒフミさんはドアを開けて私の部屋を去った。

……というかここ私の部屋だったのか!

 

━━

 

何故裏切り者はエデン条約を邪魔する?

ゲヘナが嫌いだから?それともトリニティが強大化するのを恐れているから?

後者ならミレニアムの生徒辺りが怪しい……がトリニティ内となると前者が有力だ。

何かが引っかかる、何だ?

見落としてる物があるような……

 

「時間も時間ですし、そろそろ寝ますかね」

 

時間はもう十時を過ぎている、これ以上は睡眠時間に影響を及ぼす。

 

かち、と電気を切りベッドに眠る。

 

「今日は気絶中に懐かしい夢を見ましたね」

 

 

……

 

 

「おはよう」

 

「おはようございます、アズサちゃん」

 

鳥のさえずりが聞こえる、朝日も輝いてる。

 

「うぅ……アズサちゃん、あと十分だけぇ……」

 

「んん……もう朝……?」

 

コハルとヒフミはまだ眠たそうにしている。

ヒフミは昨日夜遅くまで起きていたし部長としての心理的プレッシャーもかかっているのだろう、もう少し休ませてあげよう。

 

「それでは先にユウキさんを起こしに行ってきましょうか」

 

「そうだな、先生は起きているようだし」

 

 

 

━━

 

 

「失礼します……って、あら?」

 

「……ひどい寝相だな」

 

部屋に入るとぐちゃぐちゃになった布団とひどい寝相姿で寝ているユウキがいた。

 

「ぐー……」

 

「ユウキ、起きろ」

 

一度声をかけてみる。

 

「……んぅ……」

 

どうやら起きたようだ、目が開いている。

 

「ユウキさん、朝ですよ」

 

ハナコもユウキを起こそうとするが

 

「うるさい……」

 

と、一蹴されてしまった。

となると手段は一つ。

 

「ユウキ、肩にフナムシがついてるぞ」

 

「ん〜……あぇ?」

 

「フナムシ、ついてるぞ」

 

勿論嘘だ。

 

「……お〜……ほぎゃああああああああああああああああああ!!!!」

 

 

━━

 

「すいません本当に……せっかく起こして頂けたのにうるさいだなんて……」

 

あの後落ち着いたので顔を洗ってなんとかした、私の寝起きはかなり機嫌が悪いのをどうにかしたいですね。

 

「いや、こっちこそフナムシがついてるなんて嘘をついて悪かった」

 

「ユウキさんって意外と寝相悪いんですね、可愛かったです♡」

 

「はぁ、寝相が悪いのも悩み物ですね……」

 

 

━━

 

 

「おはようございます、先生」

 

「おはよう、ユウキ」

 

午前七時半、私は先生と洗面所で会った。

先生は歯磨きを、私は髪をとかしに。

 

「昨日はよく眠れた?」

 

「はい、先生の方は?」

 

「私も眠れたかな」

 

髪をとかしながら他愛もない会話をする。

 

「そうですか、今日は確か試験をやるんでしたよね?」

 

「うん、これからヒフミが説明をするところかな」

 

髪をとかし終わりクシをバッグに入れる。

 

「そうですか、では教室に行きましょうか」

 

━━

 

 

「という訳で昨晩これを用意しました!」

 

バン、と出されたその紙は試験の問題とその答えが出ていた。

 

「先生も昨日の夜手伝ってくださって作った模擬試験です」

 

「試験時間は六十分、百点満中六十点以上で合格、つまり本番と同じです」

 

「さぁ、まずはこれを解いてみましょう!」

 

「……あ、ユウキさんの分もありますからね?」

 

「えっ、私はやらなくても別に……」

 

「ユウキさんもやりますよね?」

 

圧。

 

「ま、まぁやります……」

 

━━

 

試験が終わり、採点も終わった。

 

 

「では先生!結果発表をお願いします!」

 

 

 

 

 

第一次補習授業部模試

 

ハナコ:四点

アズサ:三十三点

コハル:十五点

ヒフミ:六十八点

ユウキ:七十五点

 

 

「あらら」

 

これは思ったよりもヤバい奴なのかもしれませんね。

 

「……これが今の私達の現実です、このままだと私達に明るい未来はありません」

 

「ここから一週間、皆で六十点を超える為には残りの時間を効率的に使わなければならないんです!」

 

「まずコハルちゃんとアズサちゃんが一年生用に試験ですので私とユウキさんでお二人の勉強内容をお手伝いいたします!」

 

「任せてください」

 

一年生の内容なら完璧に理解してある、問題ない。

 

「そしてユウキさんにはハナコさんの勉強を教えてあげてもらいます!」

 

「任せてください」

 

二年生の内容も理解している、問題ない。

 

「あとユウキさんには私の勉強も……」

 

「任せ……多いですね」

 

全員分の勉強を教えるのは結構キツいものがありますが……大丈夫でしょうか。

 

「ヒフミは私が教えるよ」

 

と、先生が救助の手を差し伸べてくれる。

 

「ありがとうございます、そして他にも試験を作成中なので今日から定期的に進捗を確認出来ればと思っています」

 

「それに、なんとご褒美も用意しちゃいました!」

 

「ご褒美?」

 

なんだろう、スイーツのクーポン券などでしょうか?

 

ヒフミさんががそごそとカバンを開け、中身を取り出すと気持ちの悪い動物の人形が現れた。

 

目がキマっている鳥のような何かと無駄に胴体が長い猫、得体の知れない黒いカバ、その他もろもろ。

 

「ひ、ヒフミさん、これは?」

 

「これはモモフレンズです!いい成績を出せた方にはこのモモフレンズのグッズを差し上げます!」

 

いらない……

 

というかこの目がキマっている鳥、ヒフミさんのカバンの鳥じゃありませんか?随分特殊な趣味をお持ちのようですね。

 

「モモフレンズ?」

 

「なにこれ?」

 

ハナコさんもコハルさんも訳が分からない、と言った顔をしている。

 

「あ、あれ……最近流行っているモモフレンズなんですけど……もしかしてご存知無いのですか?」

 

知らないし多分流行ってないと思うんですが……

 

「初めて見ましたね、いや、どこかでちらっと見たような……?」

 

「ええっ!?」

 

と驚愕の顔をしている、そこまで驚くような事だろうか?

 

「なにこれ……?変なの、ブタ?それともカバ?」

 

「ち、違います!ペロロ様は鳥です!見てくださいこの立派な羽!」

 

「目が怖い……なんか名前も卑猥だし……」

 

卑猥かどうかはともかくヒフミさんの目は先程から怖い、いや本当に怖い。

 

「えぇ!?確かにそう仰る方もいますが……」

 

「私はいらない……」

 

「私も遠慮しておきますね」

 

と、コハルさんとハナコさんは拒否する。

 

「ユウキさんはいりますよね?!ね!?」

 

「遠慮しておきます」

 

申し訳ない、ヒフミさん、私にそのような趣味はないのだ。

 

「そんな……」

 

「……」

 

アズサさんが先程から黙っている、まさか……

 

「か、可愛い……」

 

「可愛すぎる、何だこの丸くてふわふわした生き物は……!」

 

うーむ、人間とは分からないものですね。

 

「流石はアズサちゃん!ペロロ様の可愛い所に気づいたんですね!そうです!そういう所が可愛いんです!」

 

「うそぉ!?」

 

「こっちは!?イモリ……いや、キリンか?何だか首に巻いたら暖かそうなこれは……」

 

そんなネックウォーマーみたいな……

 

「それはウェーブキャットさんです!いつもはウェーブして踊っている猫なのですが……」

 

ハッピーハッピーハッピーって踊っていそうだ。

 

 

 

……結局、アズサさんは張り切って頑張ると宣言した、何はともあれこれで補習授業部はさらに勉学に励んでいくだろう。




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