シラトリ区の探偵   作:ガガミラノ

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シラトリ区の騒動編
犬みたいな猫


 

 

 

太陽がさんさんと輝き、春の暖かさが暑さに変わる頃。

 

コーヒーを飲み、新聞を読む。

 

「連邦捜査部、シャーレ?」

 

シャーレ。

どうやらこの組織はキヴォトス外から来た大人、【先生】を顧問とした組織。

そして特筆すべきはその超法規的権限。

どうやらシャーレの先生は現在失踪中の連邦生徒会長からの指名で選ばれた人らしい。

 

「だからこんな権限が……」

 

ふと、脳裏に退学の件を思い出す。

左遷や降格を飛び越えて退学だなんて、ありえない。

ではどうやって?

 

シャーレの超法規的権限があれば可能だ。

 

「まさかシャーレが私を……?」

 

ありえない。

シャーレは最近発足された組織、そして私と先生は面識が無い。

しかしそれ以外にありえない、だが……

 

ピンポーン。

 

答えの出ない考えが脳を駆け巡っていた時、チャイムが鳴る、誰だろうか。

 

「はい」

 

古臭い扉を開け、目の前にいたのは……

 

「あの、探偵やってるんですよね……?」

 

全く知らない生徒だった。

 

「え、あぁ、やってますよ」

 

少し動揺、開業初日で来るとは思わなかった。

 

「お願いしたい事があるんですけど……」

 

「はい、分かりました、取りあえず上がって下さい」

 

 

━━

 

「はい、紅茶です」

 

「ありがとうございます……」

 

おぼんに置かれた紅茶を机に置き、椅子に座る。

 

目の前にいる子は恐らく容姿からしてトリニティの子だろう、ほのかに香る高そうな香水の匂い、トリニティの帽子、そして特徴的な翼。

ショートカットのおどおどした子だ。

 

 

「探偵って事件の解決とかだけじゃなくて捜し物とかも探してくれるんですよね?」

 

「はい、勿論やりますよ」

 

捜し物、何だろうか?

書類か、それとも人か?

はたまたキヴォトスをひっくり返す大金か━━━━

 

 

「猫を探して欲しいんですけど……」

 

猫。

 

「猫、ですか」

 

書類や人ならともかくキヴォトスをひっくり返す大金を探す依頼なんて貧乏探偵の私に舞い降りるはずが無い、思い上がりすぎだ。

 

「はい、名前はヌコティアヌス三世って言うんですけど……」

 

ヌコティアヌス三世。

呼びづらくないのだろうか。

 

「昨日の夜に窓から脱走して今も見つからないんです、どうにか探してくれませんか?!」

 

そう言って彼女は慌てる様子を見せる、余程大切な猫なのだろうか。

 

ペンとメモを持ち出す、質問の時間だ。

 

「名札や首輪は?」

 

「あります、水色の革製の名札でヌコティアヌス三世って書かれてます、首輪は茶色です」

 

「水色で、革製……首輪は茶色」

 

すらすらと言われた事をメモに書く。

 

「猫の容姿は?」

 

「白くてふわふわした猫で、ポメラニアンみたいな猫です」

 

「白くてふわふわ……ポメラニアン……」

 

どういう猫だろうか、ポメラニアンキャット?

 

「猫の趣味……いや、よくやる事や好きなご飯は?」

 

「よく高いところに登ってます、ご飯は鯖のキャットフードが好きです」

 

「高いところ……鯖のキャットフード、よし」

 

「あ、写真などはありますか?」

 

「はい、ここに……」

 

容姿を聞かなくても写真があるのならそれで良かった、私らしくもないミスだ。

 

「これは……ポメラニアンですね」

 

ふわふわとした毛並み、茶色の首輪に着けられた水色の名札、そして特徴的な……短い尻尾と短い手足と犬のような目。

 

猫?

 

 

「これ本当に猫なんですか?私にはただのポメラニアンにしか……」

 

「でも高い所によく登るしキャットフードしか食べないんです」

 

「それは猫ですね……はい、分かりました」

 

「それでは依頼料金は15000となります、勿論見つけられなかったら返金致します」

 

「ありがとうございます、お金はこちらになります」

 

一万円札と千円札が五枚。

 

「はい、確かに受け取りました、では探しに行きましょうか」

 

今、私の探偵人生で初の仕事が始まる。

 

「あ、鯖のキャットフードありますか?」

 

「はい、持ってきてます」

 

……初仕事は猫探し……なんだか出鼻をくじかれた気分だ。

 

 

……

 

 

シラトリ区のとある街の路地。

 

 

「いませんね、あんなに特徴的な犬……いや猫ならばすぐ見つかると思うのですが……」

 

「ヌコティアヌスは猫です」

 

「分かっていますよ、そういえばおたくの住んでいる所はどこでしょうか?」

 

「あそこに見える団地です、ヌコティアヌスもあそこから逃げました」

 

「なるほど、ではあの団地付近にいる可能性が高いですね、行ってみましょうか」

 

 

 

━━

 

シラトリ区の団地付近。

 

「これは……違いますね」

 

野良猫だと思ったら野良犬、しかも名札もしてない。

完全に別人……いや別犬?

 

「しかしこうも犬が多いとなんだか見間違えてしまいそうですね」

 

「ヌコティアヌスは猫です」

 

「分かっていますよ、そういえば鯖のキャットフードをお持ちでしたよね?」

 

「はい、ここに……」

 

カバンから取り出されたのは━━━━

 

「鯖のドッ……きゃ、キャットフードですね」

 

鯖のドッグフードと書かれている、だがそれを言うとなんだかまずい気がする。

 

「それではそのキャットフードを撒いてみてください、もしかしたら寄り付くかもしれません」

 

「分かりました、それでは……」

 

 

彼女がぱら、ぱらとドッグフードを手で撒く。

 

「ワン!ワン!ワン!」

 

……案の定沢山の犬が寄り付く。

 

「こら!これはあなた達のじゃないの!しっしっ!」

 

「……」

 

……ん?

 

「ワン!ワン!ワン!」

 

あれは……写真の猫では?

 

「ワン!ワン!ワン!」

 

白いポメラニアンのようなふわふわとした毛、茶色い首輪、水色の名札。

 

本当に猫なのだろうか、私には猫にはとても見え━━━

 

「ワン!ワン!」

 

「ワン!ワン!ワン!」

 

「にゃおん」

 

「あ!ヌコティアヌス三世!いました!」

 

「猫だ……」

 

鳴き声はどう聞いても猫だ、猫にしか見えない。

だが容姿は犬だ、まるで新種の動物に見える。

 

「にゃあ」

 

猫は犬が餌を食べ尽くしたのを見てそのまま走り去った。

 

「待って!ヌコティアニュス!」

 

「今噛みましたよね?」

 

と、言ってる場合ではない、早くあの猫を追わなければ。

 

━━

 

「にゃー」

 

「は、速い……ですね……」

 

ヌコティアヌスとの追いかけっこは終始ヌコティアヌスが優勢。

当然だ、猫と人間の足の速さは天と地ほどの差がある。

 

「はぁ、はぁ、もう動けない……」

 

「私一人で猫を追いかける事になりそうですね……何か策などはありますか?」

 

「この先に行き止まりがあるはずです、そこまで追い詰めれば……」

 

「なるほど、その作戦でいきましょう」

 

「にゃん」

 

猫が再び走り出したので、私達も走る。

 

「あの右の角が行き止まりです、あそこに追い詰めれば捕まえられるかと!」

 

「分かりました!任せて下さい!」

 

ダッシュで猫を追いかけて、少しだけ追いついた所で角地に誘導すると━━━

 

「おい!お前、何の用だ!」

 

角地には不良達がいた。

 

「にゃー」

 

猫は止まり、くたりと体を横にする。

猫も疲れたのだろう。

 

「あぁ!?お前アタシの猫を虐めてんのか!?」

 

「リーダー、こいつ確か公安局を追放された奴じゃねぇか?新聞で有名な奴」

 

「追放された腹いせにアタシ達の猫を虐めやがって!」

 

「いえ、私は……」

 

「ぜってー許さねぇ!ぶっ潰す!」

 

「話を━━━」

 

ズドドドドドド!

 

不良達が銃を持ち、私に向けて乱射する。

 

「あいたたたたっ!いてっ!」

 

痛い!こんな所に不良がいるなんて……!

 

「いい加減に……して下さいっ!」

 

懐にしまった拳銃を持ち、数発不良達に向けて撃つ。

 

 

 

「猫に当たったら!どうするんですか!」

 

 

 

怒号が辺りを響かせる。

 

「あっ……」

 

「はぁ、はぁ……ほら、猫ちゃん……ご飯ですよ……」

 

鯖のドッグフードを取り出し、猫にあげる。

 

「にゃーん」

 

かりかりとドッグフードを食べる猫、どうやら弾は当たっていなさそうだ。

 

「り、リーダー……」

 

「私はこの猫を虐めていた訳ではなく探していただけです、この猫を飼い主の元に返す為に」

 

「探偵さん!」

 

飼い主が走ってこちらに向かってくる。

 

「飼い主さん、猫は見つけましたよ」

 

猫を抱き上げ、猫を入れる為のカゴの中に入れる。

 

「ありがとうございます!ヌコティアヌス、もう勝手に外出たらダメだよ!」

 

「にゃ」

 

猫は反省感のない鳴き声を出し、また横になった。

 

「そ、その猫虐待とかされてなかったのか……」

 

「リーダー、やっぱり……」

 

不良達は少し悲壮感が漂っている、もしや……

 

「……すまねぇ、てっきりアタシ達はその猫が虐められてる猫かと……」

 

「だからアタシ達はこの猫を飼い主の虐待とかから守ろうとしたんだけど……虐められてないっすね……」

 

「何故虐められていると思ったのですか?」

 

「だってよ、飼い猫にこんな犬みたいな飼い方をする奴がいるかよ?」

 

「と、言うと?」

 

「お手って言うとお手をするしよ、散歩も好きだしよ、キャットフード全然食べねぇからドッグフードをやるとよく食べるしポメラニアンみてーだし……」

 

確かに鳴き声以外は犬にしか見えないのは事実だ。

 

「ヌコティアヌスは猫です」

 

真顔で言うから威圧感が半端じゃない、余程この事で困った事があったのだろう。

 

「す、すまねぇ……」

 

「はぁ、そもそも虐待から守ろうとしたとして貴女達の生活環境だと猫も生きづらいだけです、ですが……」

 

「……猫を虐待から守ろうとする意識だけは評価します」

 

……

 

「探偵さん、ありがとうございました」

 

夕陽が辺りを照らし始める時間、午後五時。

私達は事務所の前で解散しようとしていた。

 

「いえ、猫も見つかりましたし怪我もなくて良かったです」

 

「にゃおん」

 

猫はカゴの中で鳴く。

 

「本当に猫ですね、よく見ると耳も猫です」

 

「ヌコティアヌスは猫です」

 

「分かってます、それじゃあ私はこれで、またのご利用をお待ちしております」

 

「はい!本当にありがとうございました!」

 

 

シラトリ区のとあるビルの二階にいる探偵は今日もキヴォトスの平和の為、自分の夢の為に奔走する。

 

 

……

 

 

階段を登り、ポストの中にある夕刊を取り出し事務所兼家のドアを開ける。

 

「はぁ、今日も疲れましたね」

 

猫の為にここまで奔走するとは思わなかった、ポストの中に入っていた夕刊を見る。

 

「……エデン条約の事とアビドス生徒誘拐事件」

 

アビドス誘拐事件。

アビドスは私の担当地域だった……いや、アビドスは私の担当地域の一つだった、が正しいか。

アビドスの他にもミレニアムの地域やゲヘナの地域なども兼任している、アビドスは不良生徒が多い為部下に一任していたがそれが裏目となってしまったようだ。

 

「小鳥遊ホシノ、ですか」

 

 

小鳥遊ホシノという名前に見覚えはある。

確か公安局でも有名な要注意人物、暁のホルスと呼ばれていた……が。

最近はあまりにも音沙汰がない為すっかり忘れていた、何か大きな組織に喧嘩を売って誘拐されたのだろうか。

 

「あ、牛乳切れてる」




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