「先生、今日はありがとうございました」
「お疲れ様、困った事があったら頼ってね」
夜七時、私はシャーレのビルの前で先生と解散しようとしていた。
「ありがとうございます」
「……ユウキ、アビドスの事は気にしないで」
「いえ、私がもっとしっかりしていれば良かった話です」
「終わってしまった物は終わったままです、退学も最早先生ですら取り消す事は不可能でしょう」
「……」
「ですが退学したおかげでアビドスの皆様に謝罪する事も出来ましたし、悪い事ばかりではないすね」
「昔から探偵、夢だったんですよ」
「そっか、でも無茶はダメだよ」
そう苦笑いをして先生は頬を掻く。
「ええ、先生もあまり無茶はいけませんよ」
「昨日から寝ていないでしょう?不眠は死への一歩ですよ」
「えっ、なんで分かったの!?」
そう先生は驚く。
「探偵を舐めてはいけませんよ?」
そう私は微笑み、その場を去った。
「え、怖いんだけど?ちょっと!?」
「なんで分かったの!?ねぇ!?」
……
「……」
探偵事務所の風呂。
浴槽は狭く、トイレが同じ場所にある。
だがカビはなく、シャワーの威力も私好みだ。
「先生、良い人でしたね」
風呂場にあるアヒルの玩具に問う。
勿論答えは出ない。
「不知火カヤは一体何を考えているのでしょうか」
唯一分からないのは不知火カヤが何をしようとしているか。
シャーレの権力を使っているのではないか?それとも……
「先生が嘘をついているか?」
先生は大人だ、嘘をつくくらい造作もないのかもしれない。
だが……
「ラーメンを奢ってくれるような人が悪い人には思えませんね」
アビドスの誘拐事件を解決したのも彼だ、そんなか彼が……?
「アクションを待つしかなさそうですね」
……
「ふう、さて睡眠の……あれ?」
午後八時、コーヒーを飲もうと思い、冷蔵庫を漁る。
が、どこにも牛乳が無い。
「しまった、牛乳を買うのを忘れていた!」
私らしくないミスだ、今日は色々大変だったからだろうか?
「しょうがない、少しコンビニで買いに行きますかね」
そう言って外に出る。
━━
「ふぅ、夜も暖かく……あれ?」
ビルを降り、外に出ると夜も暖かくなってきた、と思ったら
「……えっと、ミレニアムの方ですよね?」
「はい……」
ミレニアムの制服を着た子が電柱の横にしゃがみこんでいた。
「どうかなさいましたか?」
ただ事では無い事は分かるので、彼女に何があったかを聞く。
課題の事か、それとも友人関係の事か。
「……っちゃったんです……」
「え?」
「学校のお金、全部使っちゃったんです……」
「な、何に?」
「ギャンブルに……」
悩める乙女かと思いきやどうしようない子でした、ちゃんちゃん。
いやいやいやいやいや!
「えっと、えぇ?」
そのピンクのツインテールをした子はどうしようどうしようと呟いていた。
「このままだとユウカ先輩に怒られ……いや、ノア先輩にも……」
多分怒られるとかのレベルじゃないと思うんだけど。
「貴女はミレニアム所属ですよね?」
「はいぃ……ミレニアムのセミナー所属、黒崎コユキですぅ……」
セミナー!?
えっ、この子セミナーって言った!?
セミナーと言えばミレニアムの生徒会じゃないか!
とりあえずセミナーに連絡しなければ……
「あの……もし良ければ……」
……
「……どうして」
あの後、私は彼女に頼まれて探偵事務所に上がらせてしまった。
ただでさえ金が無いのに貧乏神を連れてきてしまったようなものじゃないか!私の馬鹿!
「にはは!なんだか古臭いですね〜」
「古臭くて悪かったですね……」
先程の落ち込み具合は欠片もなく、今は元気に歩き回っている。
もしかして私はハメられたのではないか?え?
「あ、お風呂借りてもいいですか?」
「構いませんよ、えぇ」
「にはは!ありがとうございます!」
ばたん、とお風呂に入る黒崎コユキ。
よし、チャンスだ。
「うわっ!トイレとお風呂同じじゃないですか!」
「やかましいですね!」
━━
「あ、もしもし?ミレニアムのセミナー様でよろしいでしょうか?」
「はい、私シラトリ区で探偵事務所を経営しております、相澤ユウキと申します」
「その、私の事務所の前にミレニアムのセミナーを名乗る子がいまして、はい、名前は黒崎コユキって言ってました」
「今?今は私の事務所のお風呂に入ってます、ええ」
「あ、お願いします、はい」
つー、つー。
「……黒崎コユキって言った瞬間声色変わりましたね……」
多分お金辺りのお話も本当なんでしょうね。
━━
「お風呂狭かったですねー!」
「悪かったですね」
正直な所、今すぐにでも出ていかせたいがセミナーの子が来るまで我慢だ。
「それより何か食べる物ないですか?お腹すいちゃって……」
うーーーん、傲慢だ。
ワガママの化身のような子だ、いや本当に。
「……冷凍の奴で良ければありますよ」
「えー、もっと美味しいのないんですか?」
「ゴチャゴチャ言ってるとぶっ飛ばしますよ、冷凍カレーで我慢してくださいね」
「ひぇっ、はいっ」
━━
「冷凍カレーも悪くないですね、もぐもぐ」
スプーンを口の中に入れ、元気よく食べる黒崎コユキ。
なんというか……母性が溢れてくる、生意気な所もあるが身長も相まって私の子供だと思えてくる。
「……ふふ」
「どうかしました?」
彼女がニヤリと笑う、どうかしたのだろうか?
「胸にカナブンついてますよ!にはは!」
「ほぎゃああああああああああ!!!」
前言撤回、この○○○○!○○○○○○!
……おっと、とんでもない暴言が出てしまった、失敬失敬。
ピンポーン
チャイムが玄関から鳴る。
つまり……!
「あれ?お客さんですよ?」
「はぁ……はぁ……お迎えが来たでごんすよ……!」
「えっ」
そう言うと彼女の顔が真っ青になる。
「コーーーーユーーーーキーーーー!」
ドアの前から怒鳴り声が聞こえる。
「ひえっ!?なんでユウカ先輩が!?」
「ふふ、貴女がお風呂に入っている間に呼ばせて貰いました」
「ひえええええ!なんて事するんですか!」
「今開けますね!」
がちゃ
ドアを開けるとそこには般若がいた。
「うわっ」
思わず驚いてしまい、一歩引く。
「あ、すいません……コユキ!出てらっしゃい!」
彼女はこの数秒の間に何処かに隠れたようだ。
最後の最後まではた迷惑な子だ……良いだろう。
「全く……すいません、少し部屋の中を探させてもらっても良いでしょうか?」
「いえ、その必要はありません」
すぐ見つかる方法が……一つだけ。
「……?」
「コユキさん、その小さいお尻、出てますよ」
「えっ!?本当ですか!?」
ベッドの下から声が聞こえる。
「嘘です」
「あっ」
ベッドの下から黒崎コユキが現れる
「……」
「あ、ユウカ先輩久しぶりですね〜……えっと……そのぉ……」
「……コユキ」
……その後の事は言うまでもないだろう。
━━
「すいません、本当にコユキが迷惑をおかけしてしまって……」
「いえいえ、それよりお金大丈夫ですか?なんか全部使ったって……」
「ああ、コユキに任せたら全財産をギャンブルに使う事なんて分かりきっていたので別のお金を……」
「なんというか、大変ですね」
「はい……まぁ……」
この顔は本当に苦労されている顔だ、
「にはは!」
ロープでぐるぐる巻きにされた黒崎コユキは反省のはの字もない笑いをした。
「あんたのせいでしょうが!……すいません、それじゃあ私達はこれで……」
「はい、それではさようなら」
「またあのカレー食べさせてくださいねー!」
ばたん。
扉が閉められる。
「……あっ、牛乳」
結局牛乳買えなかった!黒崎コユキめ!
「ユウカ先輩!あの冷凍カレーってどこに売ってるんですかね!」
「知らないわよ……はぁ、シラトリ区にまで来て……」
「しかもあの人のベッドの下エッチな本何も無かったんですよねー」
「何勝手に人のベッドの下漁ろうとしてるのよ!」
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