冒険者とか臭そうだから、ハーレムとか遠慮しときたい   作:頑張って生きてる人

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第3話 恋は甘くて苦いもの。コタロウきゅんとか

 

 

 

 面倒事を済ませた後の足取りは、どうしてこうも軽やかになるのか。意気揚々とした歩みで、さっさと依頼報告も終わらせてしまおうとギルドへ急ぐ。

 

 そしてギルドの木扉を開いた、その時──。

 

 

「わぁ!?」

 

「っ!?」

 

 

 突如として衝撃が訪れる。目の前には、俺とぶつかった事で体勢を崩した人影があった。このままでは倒れてしまう。咄嗟に相手の躰に手を回して、支えた。

 

 

「……大丈夫か?」

 

「ご、ごめんなさい! 僕、ちょっと余所見してて……」

 

 

 鈴の音のように、咲き誇る花のように、純情可憐な高い声。聞いているだけで心地良く、ASMR(そういうもの)に疎かった自分ですら、泥沼に嵌っていく感覚に陥った。触れた肌は柔らかく、それでいて冒険者であるからか確かに筋肉を感じられた。

 俺は、自分が相手の躰に長いこと触れていることに気づいて、咄嗟に手を離した。

 

 

「ありがとね、お兄さん」

 

 

 目の前には薄桜色の髪を、小型犬の尻尾みたいに小さくポニーテールにしている少女。身長は一六◯センチに届くか、届かないかといったところか。百合の花の擬人化か、純朴が服を着て歩いている。そんな風な魅力が彼女にはあった。

 

 

「どうしたの……?」

 

 

 彼女は上目遣いで、俺の顔を覗き込んだ。少女の顔に目線を下げれば、長い睫毛がてらてら輝いて、魅了されてしまう。桃色に色着いた頬に、情欲を掻き立てられる。宝石みたいに大きな瞳に、心奪われる。

 

 

「……………………ん?」

 

 

 ──そして何より、彼女の匂いに溺れてしまいそうになる。

 

 鼻腔に抜けるのは、少女の躰から漂う甘い香気。彼女が右に左に揺れ動くだけで、匂いは膨らんで流れた。香水や香料を振り撒いただけでは決して得られないであろう、天然の香り。けれど、綺麗な花々に鼻を埋めたって返ってはこない人間の匂い。ずっと嗅いでいたくなる、まさに男を惑わせるフェロモン。

 

 この世界で初めて出会えた、いい匂いと思える人間だった。

 

 

「あはは、くすぐったいよ」

 

 

 眼前で、きゃぴきゃぴと笑う少女。

 

 俺は何をしていたのか。無意識のうちに彼女の肩を掴んでは、自身の鼻を近づけていた。これでは単なるセクハラ野郎だ。

 

 

「わ、悪い……!」

 

 

 胸が早鐘を打つ。どうにも心乱されてしまう。前世も今世も女性経験なんて無かったけれど、自分はここまで耐性がなかったのか。我ながら呆れて物も言えない。自分はただの童貞達観気取りだったのだろうか。第一印象は最悪に終わってしまっただろう。

 

 

「ううん。ちょっとくすぐったかったけど、優しくしてくれたから大丈夫だったよ」

 

 

 まるで全く気にしていなかったかのように振る舞う少女。その純真さが、邪な行動をとってしまった俺の心に刺さって痛い。俺は、こんなにもいい子の体臭を無遠慮に嗅いでいたのか。辛い。辛くてしんどくなった。

 

 

「そうだ! 名前! 言ってなかったよね?」

 

 

 忙しなくコロコロと変わる表情。喜楽を躰いっぱいで表現する彼女の姿は、見ているだけで楽しかった。これが恋……なのだろうか。

 

 

「コニシキ・コタロウ。それが僕の名前」

 

「コニシキ……」

 

 

 コニシキ……コニシキ……。素敵な響き、素敵な名前。

 俺もコニシキに改名しようかな、と本気で悩む。いや、それでは意味不明すぎる。自分は何を考えているのか。取り乱してばかりだった。

 

 

「ううん、違うよ。僕の国では家名を最初に名乗るから、コタロウ。そう呼んでほしいな?」

 

 

 ああ^〜、好きだ。心が叫びたがっていた。

 

 

「俺はクロノ・ダイフクだ。よろしく、コタロウちゃ──」

 

「なにやってんだよコタロウ! そんなやつと!」

 

 

 俺が名前を呼び掛けた時、間に割って入るように男が遮った。折角、人が青春の一ページを取り戻そうとしていたというのに、これでは台無しだ。

 

 現れたのは、茶髪に三白眼。まさに間男といった風貌のチャラ男だった。

 

 男の冒険者だ。コタロウちゃんと違って、“臭そう”な奴だ。しかも彼女を呼び捨てにするような軽薄な男だ。完全な敵だ。

 

 

「こちらは……?」

 

「なっ!?」

 

 

 コタロウちゃんと面識がありそうな様子だったから、紹介してもらおうとする。すると男は、呆気に取られたかのような顔をして、俺を見た。

 

 

「忘れたとは言わせないぞ、【龍殺し(ドラゴンスレイヤー)】! 俺はお前のライバル、グルバー・グードンだ!」

 

 

 高々と名乗りをあげたグルバー。俺はその名前に心当たりが無く、首を傾げた。

 

 

「おい、覚えてないってのか!? お前が初めてギルドで冒険者登録をした日、俺はお前の隣で登録してたんだ!」

 

 

 それは判らないだろう。どうやら勝手にライバル認定されているようだ。さすがにグルバーなんて男は、知らなさすぎる。

 

 

「そ、そりゃお前の方が毎回昇級だって早かったし【龍殺し】なんて偉業を成し遂げたけれど……何度か会話だって……」

 

「……悪い。覚えてない」

 

「嘘だろ……」

 

 

 グルバーは目に見えて意気消沈する。悪い事をしてしまったとは思うけれど、彼の存在が全く記憶に無いのはどうしてだろうか。また俺は、粗相をやらかしてしまったのだろうか。

 

 

「やめなよリーダー。みっともないって」

 

「そうっすよ。毎回一方的に話してるだけなんっすから、聞こえてもいませんって」

 

 

 またまた人が現れた。女の子が二人。赤髪と藍髪。装備を見るに、盗賊と魔法使いだ。話し振りからすると、彼らはパーティーを組んでいる様子だった。コタロウちゃんも一緒、なのだろうか。

 

 

「……レムじゃん」

 

「はぁ?」

 

「ハーレムじゃん……!」

 

「ハーレム〜?」

 

 

 惚けた顔をするグルバーに、つい語気を強めてしまう。目の前の男は完全な敵だ。四人パーティーで自分以外の三人は女など、あってはならない。俺は嫉妬する。でも、ただの嫉妬じゃない。コタロウちゃんがいるから嫉妬するのだ。

 

 

「まさかお前、コタロウの事を()()()して……」

 

「勘違い……?」

 

 

 グルバーはこの期に及んで、勘違いなどと言い逃げようとする。俺が彼女に対して何を勘違いしていると言うのか。

 

 

「コタロウは“男”なんだぞ!?」

 

 

 ………………………………は?

 

 かつてない程の動揺が身を襲う。グルバーは俺を騙そうとしている。そうに決まっている。そうに決まっているのだ。

 彼が何を言っているのか解らなかった。理解したくもなかった。

 こんなにも可愛い子が、男なわけがない。男などという人種はむさ苦しくて、汗臭くて、毛だって濃いし硬い。それに加えてこの世界の男は風呂にも入らないのだ。それなのに、それなのに……コタロウちゃんが男なわけがないのだ。

 

 

「やっぱり、お兄さんも勘違いしてたんだね。僕、“男”……なんだよね。……そんなに女の子っぽいかな?」

 

 

 コタロウちゃん……いや、コタロウくんはバツの悪そうな顔をして笑った。そうしてすぐに、頬を膨らませてムッとする。あざとい仕草。可愛い、俺は本気でそう思った。性別を知った後でも、それは変わらなかった。

 

 けれど本人の口から男だと性別を明かされてしまうと、目の前が真っ暗になってしまう。儚く終わった夏の恋みたいだ。ソーダ水の気泡のように、浮かんで弾けてしまった。これが恋だと言うのなら、こんなにも苦しくて心が破裂してしまうような危うい経験はもうしたくない。短い間だったというのに、俺はコタロウに心底入れ込んでしまっていたようだ。だって、彼が初めて出会った“いい匂い”の人だったから。

 

 

「僕が男ってわかっても、仲良くしてくれる……?」

 

 

 コタロウくんは不安そうな表情で、俺の顔を見た。

 

 俺はなに馬鹿な事を考えていたのだろうか。

 性別など些細な事ではないのだろうか。

 性差で変わる好意だったのだろうか。

 

 男の娘だって、きっと構わない。

 いや、男の娘だからいいんだ。

 

 

 あぁ、異世界転生……ハピハピ……。

 

 

 





 僕、男の娘出すって言いましたよね!?

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