冒険者とか臭そうだから、ハーレムとか遠慮しときたい   作:頑張って生きてる人

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第4話 休日、すこしくらい外に出るのも悪くない。

 

 

 早朝──。まだ世界には白く靄がかかっている時間。それでも夜明けを知らせる朝日は、眩ゆいばかりの陽光で新たな朝を祝福してくれる。

 俺は特に用があるわけでもない、依頼を受ける気もないというのに、ギルドに来ていた。休日は専ら部屋に引き篭もる派だ。普段であれば決して取らないであろう行動。自分でもおかしいと思った。

 

 する事もなくて手持ち無沙汰になる。どうにも居た堪れなくなった俺は、ギルド内に併設された酒場の一席に腰を下ろした。

 

 不思議と周りの臭いは気にしなかった。その代わり、無意識のうちにキョロキョロと辺りを見回している自分がいた。まるで誰かを探すみたいに、目は忙しなく景色を切り替えていた。

 

 

「さすがにそう都合良くは……」

 

「何かお探しですか?」

 

「おわっ!?」

 

 

 警戒心が緩み切っていたために、不意に投げ掛けられた言葉にすら間抜けな声を上げてしまった。

 声の主はハトラだった。いつの間にか俺の向かいの席に座っている。俺は、そんな彼女の気配にすら気付かないで夢中になっていたようだ。

 

 

「いやっ……なんでもないんだ……」

 

「怪しい! 何か(やま)しい事がある時の顔してますよ!」

 

 

 それほどまでに、表情に出ているだろうか。俺は気恥ずかしくなって、首元のマフラーで鼻まで覆い隠した。こういう時にも何かと助かるのだ。やっぱり便利。ボクの“厚ぼったい布”。

 

 

「珍しいですよね、クロノさんが此処にいるなんて」

 

 

 ジトーっとした目を向けてくるハトラに、俺は思わず目を逸らした。二人の視線はぶつからなかった。だから、この話はここで御終いなのだ。

 

 

「話してください!」

 

「うっ……」

 

 

 ハトラは二人を隔てた長机さえ身を乗り出して、こちらに顔を寄せる。彼女は、またしても相手との間隔を一息に飛び越えてしまうような大胆な行動に出た。きっと彼女は、初対面の人間とも物怖じせずコミュニケーションすることができるのだろう。職業柄か、ハトラ自身の気質か……それは正しく武器と言えるスキルだった。

 

 だから、口を割ろうと思った。

 

 どうせ、だんまりを決め込んだところで、彼女は話すまで離れてくれない。それどころか、これ以上にパーソナルスペースに侵入される可能性すらあり得るのだ。

 

 

「実は、自分でも解ってないんだが……どうやら俺は人を探しているらしい」

 

「人探し、ですか……?」

 

 

 ハトラは頭上にクエスチョンマークを浮かべる。普段は他者を寄せ付けないような人間が、人探しだなどと、自分でも可笑しいよなと思った。

 

 

「パーティーメンバーをお探しなら、ギルドでご紹介する事も可能ですが……?」

 

「いや、パーティーを組むつもりはない」

 

「それなら良かったです!」

 

「良かった……?」

 

 

 俺の答えを聞いた途端、ハトラはぱーっと満面の笑みを浮かべた。俺がパーティーを組まない事が、そんなにも好都合なのだろうか。いや、俺みたいな奴が今更パーティーを結成したとて他の冒険者達に迷惑をかけるだけだ。彼女はそれを憂慮しているのだろうと。

 しかし、その心配は無用だった。だって、俺は未来永劫パーティーを組む気など無いのだから。

 

 

「では誰を──」

 

「あっ……」

 

 

 過ぎ行く人々の中に、桃色の頭髪を発見する。すると、俺の口からは自分でも驚くほどに情けない声が漏れていた。

 

 

「ん〜?」

 

「あっ、いやっ……」

 

「誰なんですか!」

 

 

 俺の躰に遮られて、幸いにもハトラからは見えなかったらしい。彼女はひょこひょこと、モグラ叩きみたいに俺の背後を覗き込んでいた。その忙しない動きに、空気が揺れるような気がして鼻筋辺りまでマフラーで覆い隠す。

 

 

「コニシキさん……? ですか……?」

 

「──!?」

 

「え、当たりなんですか!?」

 

 

 ハトラは信じられない物を見たような顔をして、口をあんぐりと開けた。他人の口から言われた事で、心臓が跳ねる。偶然にも、前もってマフラーで顔を隠していたために、彼女から俺の表情は読み取りづらい状況にあった。

 

 

「た、確かにコニシキさんは可愛いらしい顔をしていますよね……それこそ女の子みたいに……。まさか、クロノさんはあぁいう子が好み……!? いやいや、でも彼は男の子で……」

 

 

 ハトラは何処か遠い所を見ては、俺の距離でも聞き取れない何事かをぶつぶつぶつぶつと口にし始める。その間、彼女の表情は慌ただしく変わり続け、見ていて飽きないものだった。

 

 

「く、クロノさんって男色なんですか!?」

 

「どうしてそうなった!?」

 

 

 やがて結論に至ったハトラの目は、ぐるぐると催眠状態にあるかの如く虚ろなものとなっていた。俺の探し人がコタロウくんだと決めつけては、男が熱心に男を探していた状況から男色と断定し、一人で空回りしている。

 

 けれど、彼女は聡明にも正解に辿り着いていたのだ。第三者の口から言われることで、より強く自覚する。自分はコタロウくんを探していたのだ、と。

 

 しかし、俺は断言しておく必要がある。俺は男色家ではない。気になっている人が偶々男の子だっただけだ。

 

 

「……違う」

 

「な、なんですか?」

 

「ハトラ、君は何か勘違いしている。そう、深刻で重大な勘違いだ。君の言う通り、俺の探し人はコタ……コニシキだったが俺は決して男が好きなわけじゃない。恋愛対象は女性の筈だ……」

 

「今日は随分饒舌なんですね?」

 

「……」

 

 

 誤解を解こうとするあまりに、ついつい普段よりも話しすぎたらしい。ハトラは痛いところを突いてきた。これでは俺が必死になって取り繕おうとしているみたいだった。

 

 

「嘘ですよ。クロノさんを信じます。確かにコニシキさんは誤解を招くほどに可愛いですけど、“男性”ですからね」

 

「あぁ、俺は別にコニシキが好きなわけじゃない」

 

 

 “べ、別にコタロウくんのことなんて好きなわけじゃないんだからね!?”

 

 誰にも需要が無いであろうツンデレな台詞が口から溢れかけるが、既のところで飲み込むことが出来た。

 

 

「え〜? お兄さん僕のこと嫌いなんだ?」

 

 

 背後から掛けられた、中性的な声音に俺の肩が跳ね上がる。

 

 ばっと振り向くと、そこには天使がいた。

 

 

「好きです」

 

「え!? やっぱりクロノさん、コニシキさんのことが──!?」

 

「いや、好きじゃない」

 

「お兄さん……」

 

「好きだ。友人として、な? 友人として!」

 

 

 板挟みにされ、掌を返しまくる。コタロウくんは、そんな俺の狼狽する状態を面白がってくれたのか、くすくすと可愛らしい笑みを見せてくれた。ハトラもハトラで最後の方は俺を揶揄って遊んでいるようだった。

 

 こいつら……。

 

 けれど、こんな休日も悪くないなと思えるひと時になったのだった。臭いの心配をする必要が無ければ、もっと良かったのだが……。

 

 

 

***

 

 

 そんなこんなで、休日にもコタロウくんを一眼見れた俺は、午後を陽気に過ごしていた。つい浮かれては、陽の高い、未だ人の行き交いが多い市場に足を運んだりしている。もちろん、防臭対策はしっかりとしつつではあるのだが。

 

 

「げ……」

 

 

 市場の一角で足を止めた時、近くにいた男が俺を見るなり驚きの感嘆詞を口にした。まるで見たくないものでも見たかのように。

 

 

「……なんだ、お前か。確か……グルバー・グードン?」

 

 

 邂逅した人物は、先日()()()会った、コタロウくんのところのリーダー面した男だった。

 

 

「お、お前……! 俺の名前……!?」

 

「悪い。間違ってたか?」

 

 

 いけ好かない竿役みたいな男だという印象ばかりが先行して、名前を間違えて覚えていたのだろうか。男は目を見開いて、次は信じられないものでも見たかのような反応をする。

 

 

「やっと……やっと覚えてくれたんだな……」

 

「えぇ……」

 

 

 名前は間違っていなかったらしい。しかし、グルバーはなにが悲しいのか涙ぐんでは袖口で拭い始めた。俺は正直ドン引きした。

 

 こいつは名前に関して何か悲しき過去…でもあるのだろうか。例えば、今まで誰も正しい名前を覚えてくれなかったとか。

 

 

「男が泣くなよ……」

 

「すまねぇ……」

 

 

 これが友人同士なら近寄って肩の一つでも叩いて慰めたのだろう。けれど俺たちは友人ではない。ましてや俺は、冒険者の野郎になど近寄りたくないのだ。

 

 それでも放って置くのも薄情な気がして、自分用に香付けしたハンカチを取り出した。これはもしもの時に鼻を覆う、いわば俺の生命線の予備だった。

 

 

「ほら、これでも使え……」

 

 

 俺は近づきたくはないので、投げ渡す。着衣を鼻水でカピカピにするよりは、ぞんざいに渡された布の方がマシだろう。このハンカチはもはや、くれてやるつもりだ。返してもらっても困る。

 

 

「お前、良い奴だな!」

 

「……そうか」

 

 

 るんるん気分で休日を過ごしていたというのに、少し冷めた。よく知らない大の男が泣く姿を見させられると、こうもなる。それこそグルバーの流す熱い涙とは対照的に、俺の心はすっかり温度を失ってしまった。

 

 

「俺、勘違いしてた。クロノ、お前は良い奴だ! だからこれからは友人として──」

 

「近づくなッ!!」

 

 

 グルバーが接近してくるものだから、思わず大声を出してしまう。

 

 

「おい、その先は地獄だぞ」

 

 

 彼がこれ以上歩んで来たら、俺は何をしてしまうか解らないのだから。地獄と形容するに等しい末路が待っている筈なのだ。

 

 

「お、お前……。自分の横に並び立つ……Aランク以上を目指すということは地獄のような修羅場を乗り越えなくてはならない……そう、俺に注意したいんだな!?」

 

 

 グルバーは、何か良からぬ方向に拡大解釈していた。違う、そうじゃない。

 

 

「なあ……」

 

「それでも俺もゼッテェお前のとこまで行ってやる! だから、その時こそ友人に──」

 

「あっ! リーダー見つけた!」

 

「うっ!?」

 

 

 現れた赤髪の少女は、グルバーの言葉を遮った。彼女はいつぞやの、コタロウくんのパーティーメンバーの盗賊ちゃんだ。グルバーは盗賊ちゃんの姿を見るなり、不味いという表紙を浮かべて脱兎の如く逃げ出す。

 

 

「じゃあな、クロノ! 見てろよ!」

 

「逃げんなー!」

 

 

 なんだったのだろう……。

 

 泣いたり逃げたり、忙しない男だ。それでも彼はパーティーを組んでいて、俺よりもよっぽど人望に溢れているに違いない。いや、あの様子を見る限りは、そうでもないか。

 

 

「あっ……」

 

 

 どうせならコタロウくんの好きな物の一つや二つ、グルバーに訊いておけば良かったと後悔する。しかし、それはそれで癪な気がした。

 

 外に出てみれば、世界は案外イベントに溢れているのだということを再確認させられる日となったのだった。

 

 

 

 





 ハトラ「そういえば、クロノさんはなんでコニシキさんを探してたんだろう……?」

 いわゆる閑話。本編らしきものは明日……上がると思います。上がると良いね……。

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