今日はクリスマス……らしい。秘書官のTIS、PT-76、震電、ランカスター以下4人とその配下のDOLLS達には休養を言い渡した。
「カチューシャ、君も休暇の対象だ。」
「……バレていましたか。一体いつお気づきに?」
「それを言ったら対策されてしまうだろ?ほら、帰りなさい。」
巧妙に隠れたつもりだったであろうカチューシャも帰らせる。もともとこの執務室の壁に張り出した柱はない。
「良く出来てるな……工兵の仕業か……?」
ともかく、今日はクリスマス。整備兵達も予定のあるものは休暇を楽しみ、私達はというと……。
「戦友達、書類仕事と行こうか。」
「「イエッサー!」」
「手伝わせてもらっても良いか?代理人。」
「……お暇を出したはずだぞ?」
「どうにも一人では休みを楽しめないようでな。どれ、分けてくれ。DOLLSの実力、見せてくれよう。」
思わぬ来客(震電)もあったが、そのおかげで年末分の仕事が午前中で終わった。なるほど航空型DOLLSの能力は事務員に向いているかもしれないとか適材適所を曲解しながら。
「みんな、お疲れ様。ゆっくり休んでくれ。」
皆が揃って出ていき、残ったのは私と震電だけ。
「帰らないのか?」
「どうにも一人は好きではなくてな。」
「零戦……。」
「零戦は烈風と街に出ている。それに……。」
何を話せば良いのかわからない。それが今の私達二人の共通点。
コンコンコン。
「どうぞー。」
「失礼します。あら、震電さん、いらしたのですか。」
入ってきたのはランカスター。君も休養を言い渡したはずなのだけど……。
「ランカスター、お主も休養を言い渡されたはずでは?」
「代理人に用があって……震電さん、少し席を外してくださる?」
「ああ、構わない。」
「代理人も構いませんか?」
「え、ああ。うん。」
震電がソファから立ち上がって出ていった。ふわっと立ち上る香りが少し名残惜しい。
代わりにソファに座るランカスター。まるでそこに元から座っていたかのような印象を受ける。
「代理人、夜這いって……受けたことあるかしら?」
「はぁ?」
……夜這い……カチューシャに色々わかってない研究不足な色仕掛けされかけて追い返したりとか、深夜に眠れないからと震電の話し相手になってやったりとかはしたけれど……夜這いはないな。
「その反応からして無さそうね。」
「すまんな。恋愛経験は一人しかなくて。」
白薔薇の、今となっては失地となってしまった土地に昔付き合っていた人が居た。今はもうこの世に居ないが。
「ねぇ……代理人。」
「今夜、お邪魔しても良いかしら?」
「予定は空いてるから大丈夫だよ。」
「じゃあ……後で伺うわ。大丈夫、私は夜の女王よ、夜間の隠密行動には自信があるわ。」
風のように去っていった。あ。紅茶出し忘れてた。もしかしたら、内心それに憤慨していたのだろうか。来客にお茶すら出さない。うーんしまったなぁ。後で謝っておこう。
「女王ねぇ……。」
ゴンゴン!
「ノッ……どうした震電!」
「報告!ランカスターが!代理人!すぐに来てくれ!」
執務室を飛び出し、廊下で明らかに呼吸音がおかしく、ぐったりしている彼女を見つけた。
「震電、医務室に運ぶぞ!」
DOLLSというのは総じて出力が人間の何倍も高い。震電も極東重鋼学連の中では力持ちの方である。彼女が背負ったほうが確実だと思った。思ったのだが……。
「すまない、代理人。私の力では到底運べそうにない。」
しかしそうは言っても極東の中では力が強い方、でしかない。
「すまん、ランカスター!ふんぬ!」
男気を見せる……なんてかっこいいことは考えられなかった。ただ純粋に彼女を助けたい、その一心だった。それだけで背負うことができた。
「よし、急ぐぞ!代理人!」
何度も脚が止まりそうになる。あまり鍛えていないことが仇になった。それでも走り続けた。医務室の看板が見えるまで。
ドアを蹴り開け、医務官に状況を説明。診察が始まる。
しばらくして、カーテンを開いて医務官が私たちを呼んだ。
「端的に言うと過度の緊張による過呼吸と、それに伴う気絶ですね。しばらく安静にさせてください。」
「過度の緊張……ですか?」
「ええ。」
「……。」
「何か緊張させるような事がありましたか?」
「無かったと思いますが……。」
「起きてからお話を伺いましょう。代理人、この後の予定はありますか?」
「いや、無いが……。」
「もしよろしければ付き添ってあげてください。信頼できる人が居ると安心するのは人間もDOLLSも一緒ですから。」
「わかった。震電、君は自室に。」
「いや、私も残ろう。麦茶でも持ってくるとして……ランカスターの手を握ってやってくれ。私が握るよりかは良いだろう。」
「了解した。」
ランカスターの手はひんやりとしていて少し小さい。
「んぅぅ……。」
「気がついたか?」
「ん……代理人…………代理人!?」
後ずさりしようとして、しかし手を握られているから下がれない彼女。ちょっとだけ滑稽ではある。
「医務官に安静にさせるように言われた。……本当はこの手を離すべきなのだろうが、震電に手を握っておくように言われてな……すまない。」
「い、いえ、ぜひ……その…………そのままで……お願いしマス……。」
消え入りそうな声と、普段のキリッとした表情とは180度くらい違うのぼせたような顔を赤面させたランカスターがそこには居た。
「震電のやつ、戻って来ないな……。」
「ささささ探しに行きましょうか?」
「君は休んでいてくれ。」
手を離そうとしたが、私は耳を疑うことになった。
「では……まだ、離さないで欲しいです……駄目ですか?」
「ランカスター……?」
「この手を離さないで……そばにいてちょうだい。」
消え入りそうな声で懇願されると立ち上がれるものも立ち上がれない。
「戻っ……これは失礼した。」
「震電!待ってくれ!誤解じゃないけれど!」
「代理人……震電とできてたの?」
「違う!」
「そう……よね。代理人は一筋だものね。」
「ランカスター?」
「何でもないわ。出てって。」
「え。」
「夜の10時、また会いましょう、代理人。」
震電が医務室の外で待機していたのか私を連れ出しに来た。
「その……まあなんだ、あまり深く気にするな、代理人殿。」
「……。」
「……彼女は極度の恥ずかしがりだ。実は今回、頼まれたのだが……うまく行ったかと思えばこれか……。」
「頼まれた?」
「時にDOLLSは人間の意識を転写される場合が有る。彼女も私も人だった頃の記憶を持っている。大抵は瀕死の人間が被験体に使われる。身近なところに心当たりはあるだろう、代理人。」
心当たり……。
「彼女は死んだはずだ。」
「……私もそう思っていた。少なくとも君との間を取り持つように頼まれるまでは。」
「……?」
「言葉の綾だ、許せ。」
夜まで待てと震電に釘を差され、一人待つ。まさかランカスターが……いや、そんなはずはない。彼女は私の腕の中で死んだ。守れなかった。彼女の死が私を代理人に仕立てたと言っても間違いではないと思う。何かの間違い、何かの間違い…………でもなぜ把握していたのか説明がつかない。まさか……な。
夜10時。ランカスターから待つようにと言われた時刻…………来ないな。ランカスターは時間にシビアな方だと認識している。私は試されているのだろう。行こう、迎えに。
コンコンコン。ドアをノックする。返事は…………無い。
「ランカスター、入ってもいいかい?」
「……どうぞ、代理人。」
鍵が解除される音。半開きになった扉の向こうから手袋が伸びてきたかと思えば引きずり込まれ、馬乗りにされていた。扉は閉まっている。
恨みを買ったとしたら医務室。殺される覚悟はできている。仮にランカスターが彼女だとしたら……私は堪えられるだろうか。
「こここ、こんばんは、代理人。」
「ランカスター、こんばんは。早速で悪いが1つ聞かせてくれ。気に入らなかったら……そうだな……。」
「…………矢継ぎ早に言われても女性は引くだけよ、代理人。」
「それもそうか。ただいま、エマ。」
私は賭けに出ることにした。90%は彼女がエマではなくて、殺される。残り10%は彼女はエマであって、その上で"殺される"。
「……おかえりなさい、ジェラルド……レディーを待たせるなんて失礼にも程があるわよ……。」
どうやら私は賭けに出たものの、勝率を見誤っていたらしい?否、まだわからない。
「待たせて、その……ごめん。」
「許す。だから……今は抱きしめて頂戴。ぎゅーっと。」
「このまま貴方に気が付いてもらえなかったらと思うとおかしくなりそうだったわ……。」
混乱はまだ残る。ランカスターがエマだとしたら、あの日死んだのは本当にエマだったのか……鍵は震電が握っている筈!
「今、姉さんの事考えたでしょ。」
え。
「まさか……。」
「震電はシャーリー姉さんだった。」
極東のDOLLSが白薔薇の人間から造られた……どういうことだ?
「私も驚いたわ。姉さんは本当に死んだと思っていたし、極東重鋼から出てくるなんて。」
……となると、二人とも死体もしくは瀕死の重体から"蘇生"された事になる。
「まあ、いっか。コープスパーティー(死体部隊)でも。」
役割を演じる兵士と、演じない兵士……描写が難しいですね。