GOD EATER2 ほのぼのアフターライフ 作:W-cat
現在極東は台風の影響で天候が大荒れになっている。幸い、支部周辺にアラガミが確認されていないため、支部全員の神機使いが事実上の有給休暇である。
しかし、その有給休暇を見事に潰してくれる人物がいた。
「やぁ! みんな、よく来てくれたね‼︎」
訓練場に集められたのは第一部隊、第四部隊、ブラッド隊だ。ソーマ博士も呼ばれていたらしいが、研究に忙しくて来れないらしい。なぜかキグルミは朝から見当たらなかった。
「はかせー……一体何やるんすかー?」
コウタ隊長が尋ねる。他の全員も、これから何をやるのか全くだ、といった表情だ。
「うん、それはね……第一回! 大乱闘バトルロイヤルin極東を開催しようと思うんだ‼︎ 優勝者には一つだけお願いを聞いてあげよう。ここにいるメンバーに出来ることに限るけどね」
その言葉を聞いて全員が固まる。目を見開いている者もいる。バトルロイヤル……それは最後の一人になるまで戦い続けるというものだ。
「ルールは簡単! 相手を戦闘不能にさせればいい。道具は何を使ってもOK、ただし殺傷能力の高い刃物と実弾、神機の使用は禁止だよ? それ以外なら何を使ってもいいからね‼︎」
戦闘不能……つまり動けなくすればいいってことになる。
「僕からはここに『竹刀』という極東伝統の打撃武器を用意しているよ。長さは90cmと60cm、大量にあるからいくら使っても構わない。あと頭を保護するために、全員ヘルメットを被ってもらうよ? 開始時刻は30分後の10時だ、それまでしっかり準備をしておいてくれ」
「うーん……どうしよう」
シエル以外は対人戦など行ったことがない。今のご時世は剣術等の武道は殆ど廃れてしまった。それに対アラガミと対人では、戦い方など全く異なる。もう一つ、『殺傷能力が低ければ何を使ってもいい』という言葉がどうも引っかかる。嫌な予感しかしない。
「どうした? 我が愛する女性(ひと)よ?」
「エミール……」
不安気な顔をエミールに向ける。するとエミールは何を思ったのか、急に私の手を取った。
「心配するな……君のことは、僕が護る‼︎ 君に傷つけさせはしない‼︎」
「あ……ありがとう」
この時ばかりは、エミールがとても力強く見えた。
しかし、その様子を見ていたギルバートの鋭い眼光が、エミールを捉えているのも見てしまった。
『おはようございます! 第一回バトルロイヤルin極東のオペレーターを務めさせて頂く竹田ヒバリです! みなさん、今日は張り切って行きましょう‼︎』
『同じくオペレーターを努めます、フラン=フランソワ=フランチェスカ・ド・ブルゴーニュです。確員、御武運を……』
『ペイラー・榊だよ。皆、今日は存分に頑張ってくれたまえ』
アナウンスがかかった。いよいよ開戦だ。
『それではカウントダウン、3・ 2・ 1……スタートぉ‼︎』
ヒバリの掛け声とともにバトルロイヤルが開戦した。
しかし、誰もすぐには動かない。迂闊に仕掛けるのはあまりにも危険だ。
ざっと見回すとシエルとエリナが60cmの竹刀を、残りのナナ以外は90cmの竹刀を手にしている。ナナはと言うと……中身がぎっしり詰まった、大きな袋を手にしている。おでんパンだろうか……?
各メンバーの配置は、時計回りにステラ、エリナ、エミール、コウタ隊長、ハルオミ、カノン、ナナ、ギルバート、シエルといった具合だ。それぞれ3mほど離れている。
「はあああぁっ‼︎」
「のわっと!」
最初に仕掛けたのはエリナだ。一番近くにいたエミールに突進して行った。
それと同時にハルオミが一気に近づいていた。
「おらぁ‼︎」
「きゃあぁ」
よそ見をしていたステラは、ハルオミのタックルを受け床に転がる。
「くっ……あのバカ」
「っ‼︎ 護ると誓ったは……ぐわぁ‼︎」
ギルバートとエミールはすぐさまステラの元に走った。しかし、その隙をエリナに突かれたエミールは、滅多打ちにされてしまう。
『ああっと‼︎ エミールさんがピンチです!』
『いや、彼はそう簡単には倒れないよ?』
『あれぇ? カルビちゃんも見たいのぉー?』
実況と解説が何やら言っているが、あまり耳には入らない。
「うおおぉぉらあぁ‼︎」
走ってきた勢いそのままに、ギルバートは竹刀を正面に突き出す。ハルオミはそれを横に飛んで躱す。
「おいおい、ギルー、横槍入れんなよ」
軽口を叩くハルオミであったが、その目は獲物を狩る野獣のようだった。
「…………………………………………」
ギルバートは鋭い目付きでハルオミを睨み返す。
「お前も……マジみてぇだな。来いよ」
ハルオミがギルバートを挑発する。ギルバートは竹刀を構え直し、猪のようにハルオミに突っ込んで行く。
『ギルバートさんとハルオミ隊長がこうせ……あっ、カルビちゃん、くすぐったーぃ☆』
『……ええーっと、ギルさんとハルさんが交戦をはじめました‼︎』
『グラスゴー出身者の激突、実に興味深い』
「………………………………」
シエルはだんまりとしている。コウタ隊長、ナナはまだ行動を起こしていない。カノンは相変わらずおどおどしている。
今交戦中なのはギルバートとハルオミ、エリナとエミールだ。エミールとギルバートは明らかに劣勢だ。
「どおおわああぁっ‼︎」
エミールはエリナに突き飛ばされる。もう万事休す、と言った所だろうか。
「はぁ…はぁ… エミール、しつこい‼︎」
「くっ……まだだ、僕は! 騎士は‼︎ ここで倒れるわけにはいかないんだーっ‼︎‼︎」
何度倒れてもゾンビのように立ち上がるエミールに、さすがのエリナも堪えられない。
「うおおぉ‼︎」
エミールはまた正面から突っ込んでくる。エミールの竹刀を屈んで躱し、全体重を利用して鳩尾に突きを入れる。
「……がはっ」
エミールはそのままうつ伏せに倒れ、動かなくなった。
『キュルルー?』
『エミールさん、戦闘不能です』
『おおっと! 僕はエミール君が勝つと思ったんだけど、これは予想外だねぇ」
「……ふぅ」
「狙い撃つ」
「あ……急に眠く………………………………」
エリナはそのまま眠りについた。
『おや? エリナ君は寝ちゃったねぇ……誰か麻酔銃でも撃ったのかな?』
『ちょっと映像を確認しますね……あっ、シエルさんが何か撃っています』
『ならエリナ君も戦闘不能だね』
「ギルー? だいぶ辛そうだなー……」
「ぐぅ………………………………」
「ギルっ、大丈夫⁉︎」
跪くギルバートにステラが駆け寄る。
「お前ら、美しいなぁ。満身創痍の彼氏と何もできない彼女って感じがするぜ……」
ステラがハルオミを睨みつける。対して、ハルオミは狂気の笑みを向ける。
「いいねぇ、その反抗的な目……そそるねぇ」
「やあぁっ‼︎」
竹刀を構え、ハルオミに斬りかかる。ハルオミも応戦する。
何合も斬り合いを結ぶが、対格差もあってステラがたちまち劣勢になる。
「あぅっ」
ギルバートの横に倒される。すぐに起き上がろうとするが、喉元に竹刀の切っ先を突き立てられる。
「くっ」
「勝負あったな、これで……があぁっ‼︎」
背後からシエルがハルオミを投げ飛ばした。偏食因子によって強化されているとはいえ、少女が大男を投げ飛ばすのは難しいはずだが……
「くっ……くそ……左腕が……」
「関節を外しておきましたから……」
「なっ……投げ飛ばした時にか……」
ハルオミは驚愕の表情だ。倒れたハルオミをさらに締めあげる。
「ぐああぁぁ‼︎」
ハルオミの悲鳴が訓練場に響き渡った。
『ハルさん、戦闘不能です』
『さすがシエル君、軍隊格闘術を学んだだけあるね』
『そうですね……』
『キュル?』
「隊長、ギル、大丈夫ですか?」
シエルが心配そうに覗き込む。止めを刺さないのだろうか?
「ええ、大丈夫よ」
「うぅ……」
ギルは満身創痍だったが、ステラはまだ動ける。勝機はありそうだ。
「ん?」
「あっ⁉︎」
そこに何かが転がってきた。そして周囲に光を放ち……
「えへへっ」
「動けない……」
「ナナ、ホールドグレネード使ったの?」
「あったりー! そうしてこのまま……」
ナナは袋から缶を取り出した。そうして缶のプルタブを開け、動けなくなったシエルに無理やり飲ませる。シエルの白い顔が更に青白くなる。そうしてシエルは動かなくなった。
「隊長? ごめんねー?」
そう言いながらナナは、袋から新しい缶を取り出し、それを片手に座り込む。
「やだ……やめ」
ステラの想いも虚しく、ナナにジュースを流しこまれた。
『シエルさんとステラ隊長、戦闘不能のようですね。それより、ナナさんは一体何を飲ませたんですか?』
『ああ……あれは……』
『僕の作ったジュースさ』
「あぁ……まだ気分が悪い」
何故かステラの部屋にコウタ隊長とシエルが来ている。
「私もです……ナナさんは一体、何を飲ませたんでしょうか?」
「あれは……殺人ジュースよ」
結局あのバトルロイヤルはナナが優勝したそうだ。コウタも奮戦したが敗れたとか。カノンにはシエルの麻酔銃を使ったらしい。
俺は左腕が脱臼している。任務も数日は休みだ。そんな訳でギルバートと飲んでいる。
「しっかし、ギルがあんなに本気だしてくるとはなー……」
「ハルさんこそ……いつもとは違う感じがしましたよ? あれは野獣っすよ」
「ハハッ! まあ、俺も結構本気だったな。そういやステラは?」
「隊長ならシエルと部屋でぐったりしてます。コウタ隊長もそんな感じです」
「そうか……それより、あの嬢ちゃん……ほら、シエルって娘、あいつ何者なんだ?」
脱臼した腕をさすりながらギルバートに尋ねる。
「あいつは対人戦のプロです。『マグノリア=コンパス』でそういうことを学んだと言っていました」
「ふぅん……」
『マグノリア=コンパス』ねぇ……今度シエルって娘に、いろいろ聞いてみるか。
「そういや、ナナの願いはなんだ?」
「ナナっすか? 今度に保留するらしいっすよ?」
「保留か……まあ、動けない奴も多いしな……」
こんな運動会は嫌ですね