生徒に嫌悪感()と激重感情抱いてクソ重自己嫌悪を起こしているメンタル激弱系先生 作:大住先生
本編執筆で煮詰まった場合の息抜きを兼ねていたり、その最中に思い付いた先生とヒナ・ホシノの絡みを描いていく予定です
ヒナ 絆ストーリー1 匂いが好き
シャーレオフィス内に射し込む暖かい日差しを全身に受けながら、書類内容の誤字脱字が無いか確認すると凄く静かな時間が流れているのを感じる。
今日は最高気温もさほど高くなるとは言われていないし、ホシノが何処かで気持ち良さそうに昼寝しそうな天気だなぁなんて仕事と関係の無いことを考えていた。
「……ふぅ。肩が凝る」
羽根ペンをペン差しに戻して肩をボキボキと鳴らし、先生がゆっくり立ち上がる。
私の方を向いて『コーヒーでも淹れようか』と優しい笑顔を浮かべながら問い掛けてくれた。
そんなことをしてもらうのは悪いから、と断りたかったけど先生は頑固なところがある。やめてって言ってもやめてくれないし、強く断ると凹む。
凹んだ先生も可愛いけど……あの先生を見たら、真っ昼間なのもお構い無しに押し倒したくなっちゃう。だからグッとここは凹ませたいのを我慢して、コーヒーを淹れてもらうことにする。
「こっちの書類に誤字脱字、計算ミスは無かったわ。後は押印を済ませればおしまい」
「何時もありがとうねぇ、ヒナ。無理してない? 大丈夫?」
確認を終えた書類を所定の置き場において、押印すべき書類がどれなのかを分かりやすくしておく。
100枚近くに及ぶのでは無いかと思わされる分厚い書類が私の作業デスクから消え去って、その分出来上がったスペースに白い湯気を立たせるコーヒーが置かれた。
砂糖とかを一切入れないブラックコーヒー。少し酸味があるのが先生の好みみたいで、私も何回も飲む内にこの風味じゃないと物足りないと思うようになった。
「……ふぅ」
マグカップの持ち手に指をかけ、熱いうちに一口。
まだ午前9時だというのに蓄積し始めていた疲労感がスーッと溶け込んで流れていくような、そんな感覚。
美味しいな、というのが最初に湧き上がった感想。
そして次に湧き上がるのは『先生色に染められている』なんて色ボケしているとも取れる感想だった。
「どう?」
「美味しいわ。ありがとう先生」
私がこの風味じゃないと物足りない体になっていると分かっていながら、ニコニコしつつ問いかけてくる先生は意地悪な人だ。
最初の頃はこの色ボケを自覚して恥ずかしいやら嬉しいやらでまともに返事なんて出来なかったけど、今となっては照れずに答えるのも余裕になった。
気持ちもしっかりと自覚している。恥ずかしくなんか無い、嬉しい一色だ。
今まで仕事に追われる人生しか歩んでこなかった私が、色を知った。
なんでも自力でどうにかできてしまった私が、甘えることを知った。
撓垂れ掛かれる相手を見付けて、支えたいと思える相手と結ばれて、その人の色に染められてしまった今の私は一時停止すら出来ない暴走状態にある。
以前の私なら考えられないような行動も、出来るようになっている。
「んっ」
「んく…ん、ちゅ……」
少しコーヒーを口に含んで、先生のネクタイを掴んで引っ張る。
よろけさせて顔を引き寄せると、そのまま唇を奪ってコーヒーを先生の口内に流し込んだ。
全部飲ませるように舌を捩じ込んで、そのついでって感じを演じながら口内を舐り回す。
痛いくらい静かな室内だから先生が私のコーヒーを飲み込む音も、舌が擦れ合って聞こえる水音も、とても鮮明に聞くことが出来た。
「ぷは……ふふっ、積極的だな」
息苦しくなったんだろう、先生が顔を離した。
少し荒い呼吸を赤らんだ顔でする姿がこれまたとてつもなく煽情的で、また飛び付きたくなったけどここは堪えることにする。
「仕事、頑張ったから。ご褒美よ」
「それは自分に対して? それとも私?」
「どっちもよ」
予告もしないでキスをされ、コーヒーを流し込まれたというのに先生は欠片も怒る様子がない。優しい笑顔を変えることなく、私の髪の毛の中に手を入れてワシャワシャと撫で回してくれる。
先生は私の全てを受け入れてくれる。
我儘を言っても、泣き言を言っても、甘ったれたことを言っても、全部受け入れてくれる。
そんな先生が私は好き。手放されたくないし、私側も手放すつもりは無い。
「そっか。なら……私も、少しご褒美を貰うとするよ」
「うわっ」
少し考え込むような仕草をした後、先生は私の腋窩に手を突っ込んできて体を軽々と持ち上げた。
いくら私の体が成長止まっているからって、軽々すぎない?
銃を握り潰したり大型バイクを放り投げたり…色々と怪力を保有することを示唆する光景は見たけど、それでもこれは子供扱いされているみたいでちょっと不服だ。
私を持ち上げるとクルッと前後を入れ替えて、背後から抱きつくような姿勢になる。
そのまま先生の仕事椅子に腰を下ろすと、髪の毛の中に顔を埋めて来た。
「すぅーーーー………ふうぅぅーーー……」
吸われている。髪の毛の匂いとか頭皮の匂いとか、そういったデリケートなものを完全に無考慮で吸われている。
髪の毛が空気の流れに従ってさわさわと揺れて、それが笑い出さない程度にくすぐったい。
これももう慣れたものだ。最初の頃の、顔を真っ赤にして大騒ぎしながら照れたのが懐かしいと思える程だ。
驚きもしないし、なんなら私自身が望んでいる節もある。
なんというか、こう……食べられているような感覚になって、背筋がゾクゾクする。
恥ずかしいところに触れられて悦ぶなんて変態じみていると思うけど、触れている相手が先生だからだろう。
「……ねぇ、先生。私って、そんなに良い匂いする?」
「うん……お日様の匂い…」
匂いを堪能されるのは慣れたけど、それでもやっぱり『毎日嗅ぐ程良い匂いなのか?』という疑問は湧いてしまう。
問い掛けに対する先生の返答は眠そうな声色になっていて、それだけでも嗚呼、堪能しているなっていうのが伝わってきた。
体を抱き締めている両腕は力強くも優しくて、小さい体をすっぽり覆い尽くしてくれているのが心地好い。
実年齢と釣り合わない容姿を恨んだことも多々あるけど、こうして抱きしめてくれるのなら悪くないと思える。
「ヒナ……大好き。可愛いよ」
「私もよ、先生。愛してるわ」
投げかけられる愛の言葉がスッと染み渡る。ヒナっちどれだけ惚れ込んでるの〜ってキララの茶々入れが聞こえてきそうだ。
抱き締められたまま、膝の上でクルッと体の前後を入れ替える。力強く抱き締められてはいるけど、銃を握り壊す時みたいな怪力じゃないから私の力でも抗える。
体の正面を向かい合わせる姿勢にして、先生の体に顔を埋めた。
「……ふぅ…すぅ〜……」
「…ヒナ? 私の匂いを嗅いでる?」
軽く息を吐いてから、少し強めに息を吸った。
長年着込まれて草臥れ、匂いが染み付いているスーツから先生が私の中に流れ込んでくる。
やり返されるなんて思わなかったんだろう。あの先生が困惑したような声を出すなんて珍しい。
「そうだけど?」
「いや、そうだけどって言われても……恥ずかしいな」
口元に手を当てて恥ずかしそうにする姿を見て、なんだかしてやった感があって楽しい。
再度顔を埋めて、大きく息を吸う。
私の好きな先生の体臭にタバコの匂い、それを誤魔化す為に吹きかけられた消臭剤の匂いが混ざり合った、私とホシノしか吸うことを許されない匂い。
「臭くない?」
「うん。好きな匂いよ」
体をすっぽりと覆い尽くように抱き締められ、体の中まで先生に満たされる。
外も中も先生に染められているようで、その幸福感に頭がクラクラしてくる。
多分、先生は私とホシノにだけ効果を発揮するフェロモン的なものを分泌しているんじゃないかな。
「何を今更照れているの? 肌を重ねた間柄なのに」
「そ、そうだけど……」
「何? 私に組み伏せられて鳴かされたよりも恥ずかしって言い」
「待って待って待って待って待って待って待って!」
先生の主導権を握ったと確信して、奇妙な満足感を感じながら先生のお腹に顔を埋めた。
あまり長時間やると今後の仕事の進捗に響くし、程々にしよう。
チラリと先生の机の上にある時計を見てあと5分と心の中で決めると体を擦り付けながら、先生の匂いを堪能した。