生徒に嫌悪感()と激重感情抱いてクソ重自己嫌悪を起こしているメンタル激弱系先生 作:大住先生
シャーレオフィスまでの距離が少し縮まった辺りで、襲撃を仕掛けている武装した生徒たちがチラホラと姿を確認できるようになってきました。
最初に会敵した瞬間、私たちは皆揃って同じことを考えたと思います。示し合わせるまでもなく、全員が先生に視線を向けましたから。
『この人、また飛びかかって行ったりしないだろうか?』
自動ドアが開き終わるよりも先に銃の携帯を視認し、武装していると分かっていながら飛びかかってきたような人です。不安がられても仕方ないでしょう。
私たちの視線が殺到したに対して先生は困り顔で「もうやらないよ」と答えつつも、その目からは誤魔化しきれない強烈な憎悪の念が漏れ出ています。
何かを恨む、という行為と無縁ではない私でもここまで強烈な憎悪の念は感じたことがありません。
私が所属している風紀委員会と我が校の生徒会的な存在である
「それじゃ、総員戦闘配置。不必要な怪我は負わせないように」
困り顔は瞬時に消えて、引き締められた表情に変化した先生の言葉に私たちは各々のポジションにつきます。
私は後方支援担当、負傷した人たちに治療を行うのが主な役割です。今回はリンさんもいるので、彼女の護衛も兼任することになります。
私たちの配置が完了したのを視認した先生の表情が、少しだけ悲しそうな顔に変わります。
何を思ったか、容易に想像出来ます。私たちが手早く戦闘配置を終えたことに対して、子供が戦い慣れているのに悲しんでいるんです。
雰囲気的には無表情そうに見えなくもないですが、こうして見ると結構コロコロ表情が変わる人ですね、先生って。
「先生も此方へ。悲しいでしょうが、慣れてください」
リンさんの声に先生は頷きはすれども、その表情には『納得いかない』と色濃く刻み込まれています。
私たちが慣れた様子で戦闘配置を終えたのもそうですし、自分が最後列に移動するのも気に入らないのでしょう。
面と向かって嫌いと言いながら、本心では私たちを愛している人ですから。
「…………………………分かった」
長考の後、小さく呟いた先生も私の後方へ撤退してくれました。
ここまでは良かったのです。今まで通りの日常と何も変わりない、風紀委員会として問題を起こす美食研究会やら温泉開発部やらその他問題生徒たちと銃撃戦をして鎮圧する、今まで通りの光景。
強いて違う点を上げるとするのなら、先生が言っていた銃も兵器も用いる必要のない生活というものがどのようなものなのか気になっていたとか、その程度のもの。
ハスミさんたちもこの手の荒事には慣れていますから怯むことなく、シャーレオフィスを襲撃している生徒たちを次々と薙ぎ倒していきます。
「ッ……」
私たちが前線を押し上げ、それに比例するように倒れていく生徒たちを見る先生の顔は沈痛さを増していきます。
倒れている生徒一人一人に駆け寄っては怪我の確認をして、常に持参しているのか湿布類を配り歩いて安静にしているように促していく。
大柄な体格に気圧されて誰も手当てを拒否したりはせず、安静にしているようにと言われて逆らうことはしませんでした。
「いつッ…」
「くっ……かすりましたか」
関わりのなかった生徒たちが傷付き倒れるだけであんな顔をする先生です。
ユウカさんやハスミさん、スズミさんといった関わりをもった方たちが苦しそうな声を漏らすとなると我慢し難い様子でした。
飛び出そうとしてはリンさんに制され、子供が撃ち合う様を黙って見守れって言うのか!?と声を荒げています。
それだけ取り乱しながらも、先生として私たちを指揮する能力には陰りが見えません。タブレットに目を落としつつ、最適な移動先や相手の場所を逐一伝達してくれています。
シャーレオフィスを目指すまでの道中でこの人が優秀な指揮能力を有していることは、こちらの想定を上回るスムーズさで行われる戦闘で十分に理解出来ました。
私たちだけではなく私たちと交戦して倒れた生徒すら気遣う姿から、本当に優しい人であるということも垣間見えました。
頼っても良いと思えるし、頼っても受け止めてくれるという信頼感があります。
そして、その優しさが自分を苦しめているのではないかとも思います。
「リンさん。シャーレオフィスまであとどれくらいですか」
「そう遠くは無いわ。そろそろ」
予想していたよりも遥かに好調に目的地への距離を縮めていた私たちですが、その足が止まります。
ゴロツキばかりだと聞いていたのに、そこには情報にない生徒がいました。
「おや、貴女たちは……」
連邦矯正局に収監されていたはずの生徒であり、無差別で大規模な破壊行為を何度も繰り返してきたことで超特級の危険人物。
狐のお面を被る百鬼夜行連合学園の生徒。
災厄の狐、狐坂ワカモ。こんな人物が何故ここに。
当然の疑問が湧き上がりましたが、悠長にしていられる場合ではありません。
彼女は相当な危険人物です。頭の中でアレコレと余計なことを考えながら戦って勝てる相手ではありませんから。
「………」
私たちが警戒心を強める中、ワカモは一点を凝視し始めます。熱心な、熱い視線が向けられる先にいるのは……先生です。
「………」
先生も熱い視線に気付いて向かい合い、視線を返しています。
先生の場合は相手を警戒するような気配が感じられ、熱い視線とは呼べない冷たい視線です。
「「…………」」
両者、共に沈黙しています。達人同士が攻撃を打ち込むタイミングを見計らい合っているような、張り詰めた緊張感が周囲を満たしていくのを肌で感じ、自然と背筋が伸びる感覚を覚えました。
周りにいたゴロツキたちも行動を止め、緊張した面持ちで行く末を見守っていました。下手に動いてワカモの気を引こうものなら、自分にターゲットが向きかねませんからね。
厄災の狐という大それた二つ名が与えられた証左たる圧倒的な力を、受けたがる生徒なんているはずがありません。
「……その目で私を見るなら武器を捨てろ。私はそれを持つ奴が嫌いだ」
長いのか短いのか、時間感覚すら麻痺させる張り詰めた空気を破ったのは先生でした。
極めて冷たい声で、ワカモが持つ銃を指差しながら歩き出しました。
近寄るなんて危険です。そう言いかけた私でしたが、ワカモが私に向けた視線が喋ることを許しません。
『話したら殺す』
言葉にせずとも伝わる明確な怒りの念。銃口を向けてくるワカモにそんな怒りをぶつけられては、下手に動くことも話すことも出来ません。
私だけではなくユウカさんたちにもその視線を一通り向けて無力化した後に、ワカモは先生にまた熱い視線を向けようとしていましたが……
「私の大切な生徒を……脅したなァッ!!!!」
「ええぇぇぇぇ!?」
熱い視線を受け入れるどころか、強烈な怒りの感情を剥き出しにして駆け寄ってきた先生に掴み掛かられて仰天していました。
彼女が先生から視線を離していたのはほんの数十秒。その間に距離を詰めて、自分の射程距離内にワカモを捉えていました。
驚いた場合、人は硬直するか仰け反ります。稀に反射的に拳が出る人がいますが、ワカモは仰け反るタイプだったようです。
仮面越しでも驚愕している顔が想像出来る慌てっぷりで体を仰け反らせた、そこを先生が狙いました。
「ら"あ"あ"あ"ッ!」
銃口を掴み、空いている左手を振り下ろして銃身を殴り付けます。
拳が激突する瞬間に銃口を掴んでいた右手が離され、殴られた勢いが減衰することなく銃に伝わってワカモの体勢が大きく崩れました。
地面に激突する形で叩き付けられた銃が踏み付けられ、立て続けに蹴り付けられてワカモの手から離れて飛んで行く。
あまりに呆気なく、ワカモは強引に武装解除させられて丸腰状態にされていました。
「えっ、あの、へっ?」
自分の手から離れてすっ飛んでいった武器と自分の手を交互に見ながら、ワカモは目を丸くしています。あの厄災の狐があんなリアクションをするとは……人生、何が見れるか分からないものですね。
「私の大切な生徒に銃を向けたな。いくら銃社会のキヴォトスと言えどもその行為、私は到底見過ごせない……お説教だ」
困惑していながらでも、先生の怒りは伝わったようです。わなわなと震え始めて、言われるでもなくその場にちょこんと正座しました。
私たちも困惑していました。だってあの災厄の狐が正座しているんですよ?
ユウカさんもハスミさんも、スズミさんもリンさんも皆目がまん丸です。
正座している相手が相手ですが、正座している理由も理解できる域を超えています。
先生と真っ向から激突して負けて従っているとかではなくて、何もしていないのに自ら進んで正座をし始めたんです。
銃を構えることすら頭の中からすっぽ抜けて、目の前の異様な光景に気を引かれてしまいました。
その無防備さを、ゴロツキたちは見逃してはくれませんでした。
人に銃を向けるという行為が持つ意味を理解しているのか、人を殺し得る武器を扱う事の意味を受け入れているのか……厳しい口調でお説教をしている先生にも、どういう訳かべーべー泣き出しているワカモにも、彼女たちは銃口を向けてしまいました。
「あ、あれヤバいんじゃ」
ユウカさんがそう呟いた、次の瞬間。
先生が立ち上がったかと思うと、両の拳を強く握り込むのが見えました。
すぅ…と息を吸い込む姿。次に何をする気か、予想するのは容易でした。
「お前たちの姿勢はよぉぉぉく分かった……なら、
大声で吠えた先生が駆け出して、近くにいたゴロツキの持つ狙撃銃に足元の石ころを投擲してスコープを破壊。
コートの中に潜ませていた片手で簡単に取り回せるサイズの金槌を振り抜き、狙撃銃の銃身を殴り付けて破壊しました。
嗚呼、始まるんだなぁと思いました。刀狩りならぬ、銃狩りが。