生徒に嫌悪感()と激重感情抱いてクソ重自己嫌悪を起こしているメンタル激弱系先生 作:大住先生
走らせていた羽根ペンをペン差しに戻し、節電の為にと小さな電気スタンドのみで照らされる室内で腕時計を見る。
シャーレは給料が高く、周囲にはショッピングモールがあったりする好立地で欲しいものは大体手に入る。
時計を取り扱う店も複数存在しているし、少し貯金すれば高級腕時計も買える。
でも、私が使っているものは『高級』なんてものとは無縁の色が褪せて草臥れている、使い古しの腕時計。
夫が腕時計マニアで、よく買い集めていたものの一つだ。
あるメーカーのものは文字盤の作りがああだこうだ
このメーカーは時計の針に細やか刺繍がどうのこうの
私にはてんで理解できない微細な違いに食い付いて、そのどれにおいても『素晴らしい』と楽しそうに褒めちぎっていた。
理解できない身としてはだからなんだと言いたかったが、それを見て楽しそうにしている夫を見ているのは楽しかった。
「……はぁ。私、大人としてダメになっている気がするよ」
生きていれば娘と同い年くらいの子供に、私は手を出した。好かれていると知り、受け入れてしまった。
年頃の女の子には珍しくない話だ。優しくしてくれる大人に惚れてしまう、その裏にどんな思惑が潜んでいるのかなんて考えもしないで。
ヒナとホシノがそこまで無考慮だとは思わないけど、それでも惚れてしまっては盲目になるのが人間というもの。
角があろうが羽があろうが、弾丸を通さぬほどに頑丈だろうが、彼女たちは人間であって女の子。
誤らない、と思うことこそが誤り。それを理解しているからこそ、私は拒み切れなかった。
断ったら、間違いなく悲しませる。それも分かっているからこそ尚断れなかった。
娘のように思っていた可愛い可愛い大切な生徒を、悲しませることなんて私にはできなかった。
そして、私を受け入れてくれる2人に甘えてしまいたいと思ってしまった。
先生としての責務
何をしても忘れられない銃への憎悪
夫と子を守れなかった無力感
夢叶わぬことへの焦燥感
それ等により生じた自己嫌悪
これらに心を焼かれ、苦しみ、もがいていた私を受け入れてくれる2人に私の脆弱な心身は容易く靡いてしまった。
2人との関係を悪いとは、もう思えなくなってきている。ふと不意に罪悪感とも背徳感とも取れる感情が湧き上がることはあっても、それ等を強めようとは思えない。
人間、どこまで行ってもやはり脆弱なのだ。受け入れられてしまったが最期、もう抜け出すことなど叶わない。
「……はぁ」
深いため息が出る。
腕を組み、テーブルの上に置かれている得物を睨む。アビドス高等学校の皆と行動していた時に訪れたブラックマーケットで押収した……という名目で個人使用している銃が、メンテナンスを今か今かと待っている。
なんでこんな奴に触れて、懇切丁寧にメンテナンスなんかしてやらねばならないんだという怒りがふつふつと湧き上がってくる。
理解はしている。コイツが私の夢を叶える為に必要な存在だというのも、この弾丸飛び交う気狂いな土地で生きる為にも必要だというのも、私の覚悟の表れだというのも理解はしているが……それでもやはり、丁寧に扱ってやる気になれない。
忌々しい。トリガーを引くだけで容易く、コイツ自身は何も思うことなく、道端に転がる小石を蹴飛ばすが如く無感情に、人を殺せる。
殴り付けてやりたくなる。踏み付けてやりたくなる。
破壊してしまいたい、溶鉱炉に投げ込んでしまいたい、海に沈めてしまいたい、プレス機で押し潰して粉々にしまいたい。
「……はぁ」
整備用の道具もあれこれと買い揃えているし、その品々もウタハが一つ一つ吟味して選んでくれた特別品。
しかし……どうしても、私は自分の手でメンテナンスをする気にはなれない。触れることすら忌々しいのに、面倒を見てやるなんて以ての外だ。
人によっては『誰かが必死に考えて生み出した子供のようなもの』と言うかもしれない。お腹を痛めて我が子を産み落とした身として、そこには欠片ほどの理解を示すべきなのだろう。
でもやはり無理だ。私は理解も納得もできない。
「エンジニア部に丸投げするか…」
これくらい自分でやらなければダメだと分かっていつつも、やはり私の手は動かず心は定まらなかった。
魔改造される恐れもあるが、もしそうなったら『私では扱えなくなった』と合法的にコイツを手放すことが出来る。
そう言い聞かせ、私はメンテナンスを待っていたアンチマテリアルライフルをエンジニア部へ一任することを決定。
また、夫の唯一残された形見の腕時計を見た。時刻は午前1時を回った所、そろそろ今日の業務を終えるとしよう。
「ホシノ。少し」
「んぃ〜? せんせぇ〜、終わり?」
隣の席で黙々と書類整理を進めてくれていたホシノに一言告げ、窓際へ移動。
窓を開け放ち体を乗り出して、ポケットからタバコを取り出す。
生徒の前でよろしくないと声が聞こえそうな気がしたが、聞こえたとしても無視だ。
「今日は書類が少なかったからな。どこかのおじさんが優秀なのも相まって、手早く終わった」
「えへへぇ〜。そう言われると照れちゃうなぁ」
副流煙だの匂いだのを気にして窓際へ移動したのに、ホシノはのほほんとした笑顔を浮かべながらトテトテと私の横に移動してきてしまった。
それでも気にせずタバコに火をつける。本人が気にしないと言っている、というよりも本人が『タバコ吸う姿似合ってるから好き』とまで言っている。
なら、これは書類整理を手伝ってくれたホシノへのご褒美……になると本人は語っていた。
こんな四十路に片足突っ込んでるような女の喫煙姿なんてどこが良いのだろうか。
毎度疑問に思うのだが、その度に『好きな人が好きな事してる姿見るのが好きだから』という結論に至り納得する。
夫が様々な腕時計を掻き集めて目をキラキラさせるのを見て幸せを感じていたのと、何も変わりはしないのだから。
「また銃のメンテナンス、先送ったねぇ〜……やっぱり、非常時以外じゃ無理っぽい?」
「ごめんな、ホシノ」
可愛らしい笑顔を見せてくれるホシノの頭を撫でながら、私は俯いた。
私は弾丸一発でも死にかねないのに、前線に出て皆の指揮をとりつつ戦っている。そんな私が武器のメンテナンスを先送りにするなんて、愚の骨頂だ。
でも触れるはずがない。娘と夫を殺したのと同類の存在だぞ、触れる方がおかしい。
私の過去も、銃に対する憎悪も理解してくれているホシノは「しょうがないよぉ〜」と笑いながら、私のお腹にぽんと軽く触れた。
「先生はおじさんが守るって、そう決めてるからねぇ」
守る。そう言われると嬉しいのに、チクリと心が痛む。
愛している人に守られる嬉しさに頬が緩む。
歳下の子供に守られる申し訳なさ、情けなさに頭が痛くなる。
どんな顔をすれば良いのか分からなくて、私は表情筋を動かせない。無言で、先端がぼんやりと赤く光るタバコを一吸いした。
「世話を掛けるな」
私は生徒たちと一緒に前線に立ち、指揮を執りつつ戦っている。
弾丸一発でも死にかねない脆弱な私がそんなことをするなんて自殺行為とも言えるが、意外とこれが効果がある。
キヴォトスでは弾丸が気軽にバンバン飛び交う気狂い沙汰な土地でありながら、その癖に『人を殺すという行為』に対しては常人と何ら変わりない忌避感が存在している。
それは生徒たちも同様だ。そんな生徒たちの前にヘイローもない、脆弱な私が出て来たらどうなるか。
目に見えて動きが鈍るんだ。そこを忌々しいながらも頼らざるを得ない私の得物、アンチマテリアルライフルで狙撃して無力化する。
ホシノの持っている大きなシールドに隠してもらいながら、指揮を執る生徒たちの目の前で。
「うぅん。おじさんは嬉しいよ? 先生に頼られて、先生を守れて、夜になったら甘えられて……えへへぇ〜♪」
飄々としているというかやる気が感じられないというか……聞いているだけでこちらの力を抜き取り、へにゃっとさせてくるような声をしていながら、私を見るホシノの目はギラついている。
私のお腹に触れている手が開いたかと思えば、スーツをグッと強く握り込んでくる。
その様子を見れば、今のホシノが何を考えているのかなんて簡単に見抜けてしまう。
「ねぇ、せんせぇ? おじさん、今日も頑張ったよね? 先生がキヴォトスから銃とかを廃絶するって夢を叶えるのに、一役買ったよね?」
頑張ったのだから、私の望むご褒美を寄越せ。
口の代わりにそう語るホシノの瞳。
ネクタイが掴まれて、グッと引っ張られる。掴まれる前にタバコを携帯灰皿に押し込んでおいてよかった。
私とホシノの顔が急接近する。タバコ吸いたてだから臭いぞ、と言うよりも彼女の動きは早かった。
「えいっ」「んっ…」
お互いの唇が重なり合う。
ネクタイを掴んでいた手は既にもう離されている。私の頭を掴んでいて、逃がさないという意志を感じさせられた。
「んん……んぁ…」
ホシノの舌が口腔内に入り込んでくる。歯茎を撫ぜ回し、手慣れた手つき…いや、舌つきか?
上の歯と下の歯の間に舌をねじ込んできて、私の舌すら喰らい尽くすようにねぶり回してくる。
こうして貪られることに快感を感じる。
何も考えられなくなって、頭がぼーっとしてくる。
頭から肩、腰、つま先へと甘く痺れるような感覚がじわじわと巡っていって立っているのが面倒くさくなる。
スーツが汚れてしまう、シワになってしまう、そんな事を気にするのすらもう億劫になっていた。
「おっとぉ……うへへぇ。座っちゃったねぇせんせぇ?」
ドサッとその場に座り込むとホシノは『逃がさないよ』と言うように座った私の足の上に、向かい合うようにして乗っかってきた。
そしてまたキスをしてくる。左手はワイシャツの下に突っ込まれて中をまさぐられ、右手は手早くスーツのボタンを外しにかかって来ている。
青色と黄色の綺麗なオッドアイがより一層ギラつきの強さを増して、これから先の私の行く末を如実に表していた。
これは、今晩も喰われるな。ホシノは最初の頃はしどろもどろになっていたというのに、今ではすっかり喰われっぱなしだ。
年下にリードされて鳴かされるのは情けないけど、でも、それも悪くない。
「ああ。もう、立ってるのも面倒でな」
「……へぇ〜。なら、おじさんに何されても文句言えないよねぇ?」
スーツとワイシャツを剥ぎ取るようにひん剥いて、ホシノは飛び掛ってきた。