生徒に嫌悪感()と激重感情抱いてクソ重自己嫌悪を起こしているメンタル激弱系先生   作:大住先生

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チュートリアル四人組は少しだけ酷い目にあいます。ミドル曇らせ(?)です


強襲する情緒不安定

「ごめんねリン……怖がらせちゃったね……」

「えっと、あの、その……え、ええぇぇ……」

 

 リンは困り果てていた。

 

 キヴォトスの外から来た、特殊な力を持っている訳でもないはずのただの大人である先生が銃を握り潰すとかいう異常な光景と先生の抱える狂気に怯んでいたところに、追い討ちの号泣を食らったせいだ。

 

 血涙に普通の涙が混ざったものをボロボロと流して、コートが汚れることを躊躇わずに袖で乱雑に拭き取り頭を何度も何度も下げてくる。

 

 

 じょ、情緒不安定にも程があります……

 

 

 無理もない、と思うことは出来ても困惑しないかと言われればそれはまた別のお話。

 

 夫と子の命を奪われてまともで居られるはずが無い。それも不治の病のような非人的ものによってではなく、銃撃事件という人的なものによってだ。

 話の節々からでも、先生がその2人を心の底から愛しているのはリンにも伝わっている。

 断りも無しに奪われて、情緒を保てる方がむしろおかしい。

 

 そんな人が我が子と夫を殺した銃が当たり前のように流通し、それを娘が生きていれば同い年くらいの子供たちが当たり前のように撃ちまくる土地に来た。

 以前は不可能だと諦めた『銃の廃絶』を可能とし得る力を持ち、その力を行使するに足る立場を得て舞い上がらないというのも、これまたおかしい話である。

 

「年下の子を怖がらせて……ダメな大人なだなぁ私……はあぁあぁぁ〜……」

 

 本当に……この人、さっきまでの人と同一人物なの?

 

 

 頭を抱えて蹲ってしまった先生に対して、どんな声をかければ良いのか。

 

 コロコロと感情や表情が切り替わるのを見てしまったせいで、リンは先生がどんな声掛けをすれば立ち直ってくれるのかの見当がまるで付けられなかった。

 

 下手に励まして余計に凹ませてしまうかもしれないし、逆鱗に触れでもしようものなら拳銃を握り壊す怪力が襲って来かねない。

 良い案が浮かばずにリンはアタフタしていたが、それを見て先生が「なっさけないなぁ私……」と呟いて更に深く落ち込むのを見てしまい、アタフタするのを無理矢理止めた。

 

「そ、その……人は誰だって誤るものです。だから、その…そこまで落ち込まないでください。私は気にしていないので」

 

 結局、当たり障りもないシンプルな声かけしかリンには出来なかった。

 こんなものでこの人の心を少しでも癒せるなんて、とても思えない。深い深い心の傷を負っていてそれを癒しきれずにいるのに、その心の傷に対する特効薬的効果の見込めないシンプルな声かけ。

 

 そして、リンの心労はまだ終わらない。無意味に終わればまだ良かったのに、声かけに先生がピクっと反応して動きが固まったのだ。

 

 妙な緊張感が二人の間に流れる。西部モノの映画であればタンブルウィードが茶を濁すように転がってきそうな、張り詰めた緊張感。

 

 ゴクリ……リンが生唾を飲み込む音が、やけに鮮明に部屋に響く。

 

 ギギ、ギギ…と油が切れた機械のような音が聞こえてきそうな動きで先生の顔が上がり、リンを見上げる。

 相変わらず光の無い瞳に滝のような汗をかいているリンの顔が写り込んでいる。

 

 無言のまま殴り付けてきても驚かないぞ。先生という本来不必要な相手に対して警戒心を高めたリンの前で、先生は口を開いた。

 

「…は、はは、はははっ! そうだな、そうだった」

 

 そして笑い出した。

 

「へぇっ?」

 

 まさか笑い出すなんて想像のしようがない。

 

 ゆっくりと立ち上がる先生を見ながら、リンは驚いた際にズレてしまったメガネを直すことすらできずにいた。

 

「いや、娘が洗い物を手伝おうとしてお皿を割って、邪魔しちゃったって泣いた事があってな。その時に、リンと同じようなことを言ったのを思い出したよ……失敗して夫と子を失ったせいで、分かっていたのに見失っていた。ありがとう」

 

 笑いながら、でも泣いたまま、先生はリンの頭を撫で始めた。

 

 

 や、やりずらいですこの人……!

 

 

 情緒の切り替わり速度が早すぎて対応が追い付かない。立ち直ってくれたのは良いがまだ泣いている。

 でも表情はネガティブさを一切感じさせない優しい笑みを浮かべているし、もう何が何だかリン本人も分からなくなってきていた。

 

 先生を相手にしていると困惑が絶えないが、気分を持ち直してくれたのなら取り敢えずは良しとしておこう。

 頭を撫で回されながら自分を納得させていると、そこに第三者の足音が聞こえてくる。

 

 かなり近い。先生に気を取られて接近に気付けなかった。

 誰か来たのか、そう思ったリンは不意に奇妙な冷静さを取り戻していた。

 

 この辺りには生徒しかいない。大人と呼べる存在は商店街や住宅街にいて、この場に訪れることはまず無い。

 そして、ここキヴォトスの土地に住まう生徒たちは基本的に銃を携帯している。

 

 なら、この場に入ってこようとしている第三者も銃を携帯している生徒ということになるのでは?

 銃に対して並々ならぬ憎悪を抱いているとしている、先生が居るこの場に。

 

「ッ、入ってきてはダメ!」

 

 咄嗟に制止しようとリンは声を張り上げた。滅多にこんな大声を出すことは無いから本人もその声量に驚き、喉の痛みに少しばかり顔を歪める。

 

 先生もリンが急に声を張り上げたものだから驚いてしまい、彼女の視線を追って第三者がやってくる方向を見てしまった。

 

 にこやかだった表情が、大小様々な銃を携帯している生徒たちの姿を見た瞬間に無表情へと切り替わる。

 

「先生! 待っ」

 

 今度は先生の制止を試みたが、遅かった。

 

 キヴォトス各地で同時発生している機能障害の対応について問い質そうとしていた早瀬ユウカに、コートの内側に隠されていたナイフを持った先生が飛びかかる。

 

「っ、危ない!」

 

「チッ…」

 

 刃物を持った人物がいきなり飛びかかってきたせいでユウカは困惑、動きが止まってしまう。

 後ろにいたハスミが咄嗟に射撃をし、ナイフを撃ち飛ばさなければ斬り付けられていただろう。

 

 獲物を弾き飛ばされた先生はバク転をして距離を取り、床に転がったナイフを回収しながら着地。

 軍人だった夫の鍛錬に付き合う事で元の身体能力の高さもあって軽やかな動きを可能としていた。

 

「なに!! なんなの!?」

 

「ユウカさんお怪我は!!」

 

 ハスミとスズミが横列を組んでユウカの前に立ち、銃を並べて圧をかける。

 その間にチナツが怪我をしていないかを確認、無傷であることを認識して飛びかかってきた先生へと視線を向ける。

 

 怒りに我を忘れている獣のような、直視したことを後悔したくなるギラついた眼光。

 空いていた左手にもナイフを装備し、両腕を広げながら低い姿勢をとる姿は茂みに潜み隙をうかがう肉食獣を想起させた。

 

「見慣れない制服ですね。どこの所属ですか」

 

 銃口を外さずに、ハスミは問い掛ける。

 脅されていてはおちおち話すことも出来ない、等と言われたとしても銃口を外すつもりは無い。

 

 自分を超える長身でありながらあの身のこなし。

 軽く見積ってもそこら辺のチンピラ生徒よりは強いだろう。

 

「…ハスミさん。あの人、ヘイローがありません」

 

 隣に居るハスミが圧をかけ続けてくれているお陰で先生を観察することが出来たスズミは、キヴォトスの生徒なら銃以外に誰もが持っているはずのもの、ヘイローが先生に無いことに気付く。

 

 彼女の声に他の三人も先生を見、その姿に違和感を抱かされる。

 

 ヘイローは意識がある限り消失することは無い。

 眠っている、気絶している、死亡している。ヘイローが消え去るパターンはこれくらいしかなく、意識がある状態で消失しているのは有り得ない。

 

「どういうこと? 起きているのにヘイローがないなんて」

 

「本当に……銃を…」

 

 未知の出来事にユウカが声を漏らしていると、先生が四人の銃を見回した後に呟いた。

 

 ギラついた瞳が見開かれ、ナイフの持ち手を握り込む音が聞こえる。

 震えた声で呟いたかと思うと、ナイフを握ったまま頭を掻き毟り始めた。

 

「嗚呼、忌々しい……忌々しい……忌々しい…忌々しい忌々しい忌々しい忌々しい忌々しい忌々しい忌々しい忌々しい忌々しい忌々しい忌々しい忌々しい忌々しい忌々しい忌々しい忌々しい忌々しい忌々しい忌々しい忌々しい忌々しい忌々しい忌々しい忌々しい忌々しい忌々しい忌々しい!!!

 

 忌々しい。何度も繰り返し怒鳴りながら、銃口を向けられている状態で先生は走り出した。

 

 近くにあったテーブルに駆け寄ると横転させ、カバーポジションを取れる障壁へと変える。

 銃撃戦が日常茶飯事のキヴォトスでは家具も防弾仕様のものが多く、そう簡単に弾丸が貫通することは無い。

 

「武器を捨てて、手を挙げて出てきなさい。そうすれば身の安全は」

 

「話し掛けるな! 私はお前たちが嫌いだ!」

 

 ヘイローがないということは、自分たちとは性質が異なる者と見るべき。

 つまり、弾丸が一発でも致命傷になり得る。そう判断したハスミが銃口を向けたまま投降を促したが、銃を向けられている先生がそれに応じられるはずが無い。

 

 言葉を遮るように怒鳴りながら、障壁としていたテーブルを蹴り飛ばした。大型のテーブルでありながら、それは軽々と宙を舞う。

 防弾仕様の頑丈な家具が直撃すれば、キヴォトスの生徒でも怪我は免れない。

 

 四人は回避を強いられ、隊列が崩される。各々が回避行動を取り、即座に体制を立て直して銃を構えようとする。

 

「うわぁ!?」「くっ!?」

 

 立て直しなど許さない、とでも言うように複数の椅子が立て続けに投げ付けられて再度の回避行動が強いられ、四人の距離がどんどん引き離されていく。

 

 ユウカとスズミが狙われ、自分からターゲットが外れたと感じたハスミが銃を構える。

 トリガーに指が掛かり、狙いが先生の脚部へ定められた。

 

 テーブルを蹴り飛ばしてからの動きの機敏さは驚異的であり、自由に動き回られ続ける限り自分たちは不利を強いられる。

 ならば足を撃って動きを止めるしかない。狙いは悪くないのだが、トリガーに掛けられた指は動かなかった。

 

 ヘイローがない者を撃つなど初めてであり、撃たれた相手がどうなるかなど想像も出来なかった。

 その未知さがハスミの決意を鈍らせ、躊躇わせた。

 

「憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い!!!!

 

 己の喉が張り裂けるのではないか。

 

 血反吐を吐きそうな程の絶叫を放ちながら、憎悪に飲まれた先生はナイフを握り締めて隊列を乱したユウカたちに襲いかかった。

 

 

 

 

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