生徒に嫌悪感()と激重感情抱いてクソ重自己嫌悪を起こしているメンタル激弱系先生 作:大住先生
如何に身体能力に恵まれていようとも、生身で銃を装備した相手に勝つのは困難を極める。
一撃で命を奪い去ることが可能な遠距離攻撃を一方的に強いられることになり、その攻撃が数分間のうちに数百回も押し付けられるからだ。
仮に数十発をかわせたとしても、それは最終的に行われた攻撃の数分の一にしか満たない微々たるもの。
そして自分の攻撃を当てるのには間合いを詰める必要があるのに、その『間合いを詰める』という行為そのものが至難の技となってしまう。
雨あられと降り注ぐ致死級の攻撃をかわし続け、相手も一定を保とうとする距離を詰める。その果てにようやく攻撃を通せるようになる。
「ああもう! なんなのあの人!!」
吹き飛んできたテーブルを避け、防弾仕様ソファーの陰に隠れながらユウカが吐き捨てる。
体躯に見合わぬ機敏さで駆け回り、家具類を障壁にしたかと思えばそれを蹴り飛ばしたり投げ付けてきて射撃は愚か、狙いを定めることすら許してくれない。
人を相手取っているはずなのに、銃という便利な武器が持つ弱点を理解している獣を相手取っているような気分だった。
「づっ……足、イッたぁ…」
咄嗟の回避行動のせいで変に踏み込んでしまい足首を痛めたらしく、ユウカの顔が苦悶に歪む。
「ユウカさんッ、ぐうぅっ!?」
「あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"ッッッ!!!!」
飛来したテーブルで怪我をしたのかと心配して視線をユウカに向けてしまったスズミは間一髪のところで、視界の死角から飛び出してきた先生が振り抜いたナイフを愛銃であるセーフティーで受け止める。
身を捻って回転しながら振り抜くことで遠心力が加わり、銃を目にしたことでリミッターが外れた先生の力はキヴォトスの生徒と張り合えるまでに跳ね上がっている。
見開かれた目と雄叫びじみた声、纏う気迫は狂気じみており、踏ん張らなければならない脚部が震えてしまうのを抑え込む必要があった。
「う"う"う"う"……あ"あ"あ"あ"あ"ッッッッ!!!!」
「きゃあッ!!」
噛み付いてくるのでは、そう思わせる唸り声と食い縛られた歯を見せ付けながら先生は左手に持っていたナイフを手放す。
そしてセーフティーの銃口付近を掴み、銃身をひん曲げようと力を加え始める。
銃声以外で銃が鳴らしてはいけない音、金属が軋む音を立て始める光景は戦慄に値した。いくら魔境じみた土地であるキヴォトスとはいえ、銃をねじ曲げるなんて光景はなかなかお目にかかれない。
驚愕と恐怖がスズミの力を奪い取る。そこに銃をねじ曲げようとする力も伝わり、踏ん張り切れなくなってしまった彼女は床に組み伏せるような形で押し倒される。
「ッ……狙いが、定まらない!」
ハスミもヘイローがない人を撃つという未知の決断を強いられ、その決断の果てに何が待ち受けているのかを想像してしまい、インペイルメントのトリガーにかけた指が動かせない。
それに射線上にいるのは狙うべき先生だけではなく、襲われているスズミもいる。
ハチャメチャに暴れ回っているように見えて、ユウカたちの立ち位置が常に誰か他者の射線上に来るよう意図的に立ち回っているせいだ。
銃は一度トリガーを引いてしまい、弾丸が放たれてしまえばその先の結末が良しであれ悪しであれ取り返しがつかなくなってしまう。
良い方向に事態を進めたいのであれば、正確な狙いは必要不可欠。それを阻害するものは避けねばならない。
「壊れろッ! 壊れろ壊れろッ! 壊れろおォォォォォォォーーーッ!!」
狂ったように叫び、セーフティーを殴り付ける。
いきなり襲いかかられ、機敏な動きと怪力を見せ付けられ、挙句武器の破壊に固執させるという意味不明な光景を連続して見せつけられて誰も言葉が出なかった。
ハスミの狙いである脚部狙撃もターゲットが完全に停止している訳では無い以上、射撃タイミングを間違えると足以外を撃ち抜きかねない。頭でも撃とうものなら、人を殺してしまうことになる。
また、テーブルを易々と蹴り飛ばすパワーも加味すれば組み伏せているスズミを掴んで振り回し、弾除けにされる恐れも考えられてしまう。
指はどうしても言うことを効かず、狙いを定めるという先生の怒りを無際限に呼び寄せる行為を続けるしか選択肢を見出せずにいた。
「あ"あ"う"ッ!」
「ひいぃっ!?」
組み伏せられ、押さえ込むような姿勢で愛銃を殴られ続けては身動きができない。
鼻と鼻が触れ合いそうな距離で、スズミの愛銃に先生が唸り声を上げながら喰らい付く。
その光景はもはやトラウマ物で、彼女の口からは悲鳴が漏れており目にはうっすらと涙が滲んできていた。
仕留めた獲物の肉を食い千切ろうとするように、セーフティーに食らい付いて頭を滅茶苦茶に振り回している。
恐ろしい以外の何者でもなく、スズミの頭の中は身を守ることで一杯一杯になってしまいセーフティーを手放せずに身を固めてしまっていた。
「撃てない…どうすれば…!」
ソファーの陰から身を乗り出してロジック&リーズンを構えたユウカも、射線上にスズミがいるせいで射撃を躊躇わされていた。
そして、ユウカもハスミの射線上にいる。彼女が身を乗り出してきたせいで、ハスミは撃ち損じればスズミだけではなくユウカすらも危険な目に晒す可能性を考慮するのを強いられる羽目になった。
移動するという選択肢もあるが、先生が散々見せつけたデタラメな動きが『移動したところで無意味なのでは?』という疑念を抱かせてその選択肢を選ばせない。
前衛の三人は膠着状態に陥り、身動きが取れなくなってしまっていた。
「投擲もナイフも、狙いは私たちじゃない……?」
ハスミ、ユウカ、スズミの三人が先生の対応をしている中で一人だけ後方での観察に回っていたチナツは、先生の暴威にも三人と比べて晒されておらず冷静さを保てていた。
テーブル等の投擲攻撃も、回避行動前のユウカたちの立ち位置と投擲物の落下地点を照らし合わせると『ギリギリ直撃を避けるコース』を狙って行われていることが読み取れた。
武器もナイフと殺傷能力を有する代物ではあるが、それを服や生身の部位を狙っては振るっていない。
常に攻撃対象はユウカたちが持つ銃であり、彼女たちが不用意に動いて攻撃が身体に当たりそうになると動きが鈍る様子もチナツは見逃さなかった。
「狙っているのは……もしかして、銃?」
身体への攻撃を目的としているのではなく、装備している銃そのものに対しての攻撃が目的なのではないか。
自分だけほとんど狙われていないのは距離関係もそうだが、サポートポインターを構えていないからではないか。
荒唐無稽にも思えなくもないが、その考えを後押しする判断材料をチナツは観察を通して手に入れている。
特に決定的なのは、スズミが持つセーフティーを殴り付けている時に発していた『壊れろ』という単語。
普通、人を襲う際に『壊れろ』と言うものだろうか?
あの時の先生は鬼気迫るというか、なにかに取り憑かれたような有り様であった。そんな場面で言うとすれば壊れろではなく、死ねやくたばれ等の言葉になるのでは無いか?
リンさんは、襲われていませんね
邂逅早々に襲われた自分たちと、襲われずにやり取りを交わしていたと思われるリン。
リンと自分たちの違い、目の前にいる女性の怒りの矛先、どちらも符合するのが『銃』だ。
「……試して、みますか」
恐ろしくないのかと問われれば、チナツも恐ろしい。
弾丸一発ですら致命傷になり得る不利な状態で怯むどころか進んで攻撃を仕掛けてくる度胸も、発砲される可能性もある中で銃を破壊しようとする執着も、獣のように唸り吠える姿も、恐ろしくないわけが無い。
でも、試す必要性があった。
ここで時間を食われる訳にはいかない。当初の目的はキヴォトス各地で起こっている機能障害について、連邦生徒会のリンに問い質すというもの。
その機能障害はチナツが所属するゲヘナ学園でも無視できない問題になっている。早急な解決が必要だ。
「ッ!」
四人の中で最も小型な銃であるサポートポインターの銃口を天井に向け、一度だけ発砲。
その音にユウカたちと先生の視線がチナツに殺到する。
今だ、心の中で己に言い聞かせてサポートポインターを地面に置くと踏み付け、先生の方へ滑らせた。
緊張しながらもスムーズに動いた自分に拍手を送りたくなったチナツだが、それは後だ。今は自分の行動が正しいのか誤っているのか、見定める必要がある。
「チナツさん!?」
「武器を捨てるなんてあまりにも無防備な!」
ユウカとハスミの声は悲痛さを帯びていた。
銃声を立てるという威嚇行為をした直後に武器を捨てる、という行為が招く光景はどう頑張った所でネガティブなものしか思い浮かばなかった。
「……」
足元へ転がり込んできたサポートポインターを先生は拾い上げる。
忌まわしいものを見るような険しい表情に、チナツは確信を得た。
あの人物は自分たちを襲おうとしていたのではなく、自分たちが持っている銃を襲っていたのだ。
嫌々ながらもしっかりと、鑑定士のような真剣な表情でサポートポインターを見回し、凄く嫌そうに溜め息を吐いた。
その溜め息を吐くという行為の直後に、先生が纏っている重々しい気が軽減されたのをチナツは感じ取った。
「随分、使い込んでいるな。手入れも行き届いていて、愛着のようなものを感じた……それを破壊してしまうのは、忍びない」
雄叫びや唸り声以外で聞いた、初めての声。
低く、それでいて安心感を与えてくれる不思議な声。
サポートポインターを返却する為に歩み寄り、見下ろしているその顔も複雑な心境であることを感じさせる困り顔をしていた。
「済まなかった。銃を持っているのを視認したら、落ち着いていられなくなって……ダメな大人なだなぁ私は…」
出来れば、それはあまり見せないでくれ。
心底困り果てたような笑みを浮かべながら謝罪してきた姿にチナツは困惑してしまい、上手く言葉が思い浮かばなくてペコリと頷くしか無かった。
一緒にここまで来た人が襲いかかってきた人物に会釈をしたこと、襲いかかってきた人物が急に凹んで俯いてしまったこと。
張り詰めていた緊張感を破壊し尽くすその光景に、ユウカたちもポカンとしてしまった。