生徒に嫌悪感()と激重感情抱いてクソ重自己嫌悪を起こしているメンタル激弱系先生   作:大住先生

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尽きない困惑 ユウカ

「あ〜あぁ……何やってんだろうなぁ私…こんな子供たちにナイフ振りかざして……はあぁぁぁぁあぁあぁぁぁあぁぁぁあぁあぁぁぁあ………」

 

 とんでもなく巨大なため息を漏らしながら、頼りなく前屈している背中の後をついて行く。

 

 チナツさんの見せた武器放棄を皮切りにして先生と私たちの交戦は幕を閉じたけど、今度はそれを待ってましたと言わんばかりに先生が自己嫌悪タイムに突入。

 いきなり頭を抱えて蹲るものだからビックリせずにはいられませんでした。

 

 リンさんは『さっきもこうなっていたから…』と驚いていなくて、困惑して目をまん丸にしている私たちに事情を説明してくれました。

 でも完全に説明が終わる前に、その途中で目的地であるシャーレオフィスが襲撃を受けているとの連絡が入ったんです。

 

「本当にあの人が、シャーレの先生なんですか?」

 

 流れでシャーレオフィスまで先生と共に向かうことになった私たちは歩きながら説明の続きを受け、説明が終わったところでハスミさんが質問を投げ掛けました。

 

 彼女の質問は私たちの意見を代弁してくれています。

 自分たちが交戦した相手がまさかの先生だったなんて信じられないし、本当なら申し訳ないからです。

 それに凹んで丸まっている背中姿に、頼りなさを感じたせいもありました。

 

 もっとも、凹む原因になった戦闘行為を最初に仕掛けてきたのは先生なんですが……

 

「えぇ。彼女には今後、シャーレの先生として活動して貰います。まさか初日で生徒と揉めるとは思いませんでしたが……」

 

「だってぇ! いきなり銃持った人が出てきたら普通襲うでしょぉ!?」

 

「普通……かなぁ……」

 

 リンさんの声に先生が反応して振り返るけど、その顔は涙でぐしゃぐしゃに濡れていて『威厳』みたいなものがまるで感じられない有り様です。

 ここキヴォトスにも大人は居ますけど私が見てきたどの大人とも、この『先生』という人物は合致しないように思えました。

 

 落ち着いているようで、実は極めて不安定な内面を持っているメンタル激弱な人。

 戦闘能力は奇襲気味であったとはいえ銃を持つ私たち四人をナイス一つで圧倒する程に高いのに、肉体の強度は豆腐みたいに脆弱。

 

 色々とちぐはぐな気がして、上手く掴み所を見い出せません。

 

「確かに銃という武器の特性上、奇襲を仕掛けて冷静な対応をさせずに仕留めにかかるのは合理的と言えますが……でも、聞く話によると先生は私たちよりも肉体が脆弱なのですよね?」

 

「なら、あの場で襲いかかったのは浅慮とも言えなくもないのではないでしょうか。仮に私たちが最初から発砲する気だったら、飛んで火に入る夏の虫です」

 

「ああ、それは有り得ないから大丈夫。見てたから」

 

 チナツさんとスズミさんの言葉に、先生はあっさりと答えて私たちの方を振り向きました。

 

 目を細め、笑っているように口元を歪めますが視線が私たちの銃に向けられているのが分かります。

 足が震えてしまいそうな、自分に向けられているのではないと分かるのに恐ろしく感じてしまうほどに濃密な憎悪の念が、先生の双眸には宿っています。

 

「君たちは部屋に入ってきた時、誰もトリガーに指をかけてなかった。入室早々に発砲する気なら最初から身構えているはずだし、身構えていないけど発砲するつもりだったとしてもそれより先に銃を叩き落とせた」

 

 ケラケラと笑いながら振って見せた手は傷だらけで、綺麗な素肌に不釣り合いな痛々しさを醸し出しています。

 

 ここに来るまでのこの人の経歴を、リンさんから聞きました。

 

 愛する家族を銃に奪われ、銃を『命を奪うことしか能の無いガラクタ』と憎悪し、存在を廃絶しようと駆け回り、その果てにキヴォトスへ流れ着いた。

 銃を手放せない世界に絶望して見限り、シャーレの先生として力を行使できるキヴォトスだけでも銃や兵器を廃絶することを連邦生徒会長と約束した。

 

 私たちが生きてきた年月の2倍近くを生きる先生が送ってきた人生は、2倍なんて生易しいものでは無い濃度の辛さに彩られています。

 だからこそ培われてきた観察眼と、銃を持つ相手に対しての立ち回り技術なのでしょう。

 

「……そういえば、先生って名前はなんて言うんですか?」

 

 ふと気付いたが、私は先生の名前を知らない。

 リンさんに聞いてみたけど、得られた返答は『知らない』の短い四文字だけ。

 

 ハスミさん達も私の問い掛けに確かに、と同意していました。

 この場にいる誰もが、目の前にいる『先生』を名乗る人物の名前を知らないんです。

 

 問い掛けに、先生は視線を逸らしました。

 ほとんど動いていないようにも見える、極めて微々たる動きでしたが見逃しませんでした。

 

「私に名前は必要無い。私は君たちの先生、先を生きたってだけの人。君たちの人生の水先案内人、人生の踏み台。そんなものに名前が要る?」

 

「踏み台って、そんな言い方はあまりにも……」

 

 水先案内はまだしも、自分を踏み台と呼称するのは悲しいものでは無いのでしょうか。

 他者の為に使われる生き方のようにしか思えなくて、私はつい口を挟んでしまいました。

 

「間違いじゃないから仕方ない。私の人生はもう、キヴォトスに生きる全生徒の為に使い潰すと決めているんだから」

 

 得られた返答から私の抱いた認識は、この人はやはり良く分からないというものだった。

 

 亡くなられている娘さんと同い年である私たちが、娘さんの命を奪った銃を用いる生活を送らなくて良いようにすると決めているのは分かっても、それでもなお納得がいきません。

 

 私たちと先生は今日初めて出会った者同士。私たちみたいな子供に対して、狂気的と呼んでも過剰では無い人生の費やし方をする理由が理解出来ませんでした。

 

「ユウカ。私は、お前たちが嫌いだ」

 

 困惑している所に追い討ちとしてのしかかる『嫌い』という強い拒絶の言葉。

 

 一瞬だけ、投げ掛けられた瞬間だけ心が痛くなったけど、先生の顔を見るとその痛みは消え去ってしまう。

 

 笑っている。子供を見守る母親のように温かさを帯びた、柔和な笑顔だった。

 ハスミさんたちに視線を向ける。皆さんも嫌いと言われたことに困惑して、その発言と真逆な表情で更に困惑していました。

 

「私は銃を平然と扱うお前たちが嫌いで、でも先生としてお前たちが大好きだ。この矛盾している感情はとても気持ち悪いものでな……私の残り人生は、この矛盾を取っ払ってお前たちを心の底から好きになれるようになるまでの過程を描くって決まっている」

 

 嫌いという拒絶の言葉に続いて投げ掛けられた『大好き』という最大限の好意を示す言葉に、むず痒い気持ちになる。

 

 友達に大好きと言われれば「何言ってるのよ」と少し照れながらも軽く流せる自信があるのに、先生の言葉は流せる気がしない。

 嘘偽りも、大好きと述べて何かしらの反応を望んでいるようにも見えないから。

 

「銃を扱うのが当たり前になっているお前たちを、そんな人生を歩むことを強いているキヴォトスを私は変える。それを可能とするだけの力と立場を私は得た」

 

 キヴォトスを変えるなんてスケールの巨大すぎる野望を語る先生の顔は真剣そのもので、巫山戯ているとは思えない。

 

 声色にも熱意が宿っていて、黒く淀んでいる瞳に見つめられるとその熱意が伝播してきたかのように体が熱くなるような気がしました。

 

「子供は宝だ。私の人生に彩りをくれる大切な宝物で、私が死んだ後の世界を形作る立役者だ。それを、私は守り通す。銃も兵器も無い世界に送り届ける」

 

 大人としての、責務を果たす。

 

 その発言は私たちに言い聞かせるようにも、自分に言い聞かせるようにも聞こえました。

 

「学校間のゴタゴタを解消して、武力衝突が発生しない仕組みを策定して、兵器を廃絶する。人を傷付けるしか能の無いガラクタ共も、そのガラクタ共を引っ張り出す理由も綺麗さっぱり消し去って、そこにお前たちを導いて平和に過ごしてもらう。その為なら私は何だってやるつもりだし、邪魔する者は全部倒すし、人生全てを捧げるつもりでいる」

 

 そこまで聞いても、やはり『分からない』という感想は消えませんでした。

 でも、分からないながらもそれなりに理解したことがあります。

 

 この人は本気でキヴォトスから武器や兵器を廃絶しようとしていて、その為なら自分の命すら投げ出しかねない危うさを秘めていること。

 どんな困難に直面しようともこの人は折れたりなんかせず、体を壊してでも突き進もうとするだろうということ。

 

 私たちも第一印象は最悪だったのに、先生の話に聴き入るうちに想像したこともなかった銃で撃ち合う必要性がない平和な生活に興味関心を示していること。

 

「だから、お前たちは私にどんどん頼れ。甘えていいし泣き言を言ってもいい。一人の先生として、大人として、私はお前たちを守りたいし守る義務がある」

 

 そう言って、先生はまた歩み始めました。

 

 凹んでいる間の頼りない前屈気味の背中は無くて、私たちの目の前にある背中は頼れる大人の背中。

 撓垂れ掛かっても、甘え着いても受け止めて受け入れてくれる、そう思わせる大きい背中。

 

 目的のシャーレオフィスまでの道のりはまだ始まったばかりで、幾つもの困惑に襲われはしましたが心はどこかスッキリしたように思えます。

 これはもう、当分困惑することなんてないだろうとも思いました。

 

 

 でも、その考えはシャーレオフィスを襲撃しようとする人達と出会ったことであっさりと覆される羽目になりました。

 

 この日の事を、私は忘れません。

 先生に対する認識も、今後変わることは無いでしょう。

 

 『極めて頼りになる先生だけど、常に何か予想を超えることをやらかす人』と。

 

 

 

 

 

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