セリーヌの『神の手』料理譚   作:雪月/Yukiduki

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にんにくたっぷりペペロンチーノ #1

いつものようにダンジョンに潜り、いつものように食材を卸し、いつものように行きつけの店に行く。

その何でもない繰り返しだが、その中にも楽しみがある。

今日もまた美味しい食事にありつこうとし、いつものように席に着いた冒険者ニコラとルイーズ。

メニューをいつものように代読しようとして、ルイーズが声を上げた。

 

「あ、そういえばニコラ。メニュー大分変わってるのよ。どうする?」

「む?そうなのか?」

「えぇ、そろそろ冬用のメニューから春用に切り替えていくんですって。以前ダニエルくんに聞いたわ」

 

以前来たときは特に変わりなかったと記憶しているが、それから数日でそこまで変わるものだろうか。

それにルイーズの言いようだとちょっと前から知っていたような感じだ。

……そういえば、休みの時に師匠とここを訪れたと言っていたか。

 

(その時からの変化か。しかし、何が変わったのか)

 

「おでんはあるのか?」

「ないわね。あれこそ冬用でしょう。煮込み料理や鍋も大分数を減らしているみたい。……まぁ、ここの店主なら言えば作ってくれるでしょうけれど……」

「無理をいうものでもないな。逆に増えたメニューはあるのか?」

「えぇ。例えば――」

 

幾つかのメニューをルイーズが挙げていく。

それを聞きながら、ニコラは暫し思案する。

食べようと思っていたものはなかったようだが、面白そうなメニューも幾つかあった。

 

「アーリオ・オーリオ・ペペロンチーノ……パスタか」

「えぇ、塩味だそうよ。にんにくをたっぷり利かせたパスタですって」

 

説明を聞くと柔らかな春キャベツとタンポポ、それにカリカリのベーコンにトウガラシが具材の塩味のパスタだという。

それにオイルが和えてあるとのこと。

 

「美味しそうだな。お、トウガラシも入ってるじゃないか。ルイーズは? トウガラシは苦手だったろ?」

「私も同じものを頼むわ。少量ならトウガラシも良い刺激になることがわかったし」

「へぇ、心境の変化でもあったか」

「……ま、そんなところ」

 

肩を竦めるルイーズに、ニコラは首を傾げた。

気を取り直して注文をし、暫く待つ。

 

「そういえば、あの話だけど」

「あぁ、この街を離れるって話か」

「えぇ、具体的な計画は立ててあるの?」

「北のストージの方に新しくダンジョンが生まれたらしくてな。今ダンジョンブレイクに向けて冒険者を募っているらしい。それに噛ませてもらおうと思っている」

「なるほどね。裏はこっちでも取ってみるけど、悪くないと思うわ」

「頼む。細かいところは任せた」

 

顔が広く名も売れているニコラがギルドに顔を出して得てきた情報。

それを元にルイーズが精査し、計画を立案する。

この2人を中心にして、一党の動きは常に決まる。

もう暫くすれば気候も少しは暖かくなり、旅もしやすくなるだろう。

そうなれば、次のことを考え始めるのも当然のことであった。

 

「暫くルーティンのようにして温い仕事ばかりしてきたからな。少しは錆を落としておきたい」

「……そうね。ここを発つ少し前に、いくらか調整をしていきましょう。この前のようなヒヤリとすることはもう勘弁」

「おいおい。あの時のことは謝ったろ」

「あなただけじゃなくて、私も不甲斐なかったから。自戒よ」

「それなら良いんだが……」

 

ニコラが顔を背け、ため息をひとつつく。

油断から大怪我に繋がりかねない事態を招いた責任は感じている。

そして、ルイーズもまた、思うところがあるのも承知している。

それはお互い様であり、そしてお互いにそう考えているのも知っていた。

 

やがて、給仕のダニエルがパスタの乗った皿を持ってやってきた。

 

「アーリオ・オーリオです。是非具材と麺を絡めてご賞味ください」

「おぉ、ありがとう」

「……少し聞こえてしまいましたが、お二方は別の町に行かれるのですか?」

 

問われて、ニコラとルイーズは互いに視線を交わす。

特に聞かれて困る会話ではなかったし、何れは店主のセリーヌ共々話をしておこうとも思っていたのでこれ幸いと答えることにした。

 

「あぁ、結構長居しちまったしな。そろそろ別の稼げそうなところに行こうと思ったんだ。……ここでの仕事も悪くなかったんだが、あまり劇的に稼げるって感じではなくてな」

「やっぱり(グレート)ダンジョンに期待しすぎたって感じよね。そこに依存して経済が回っているのもあって、本格的に攻略するって雰囲気ではないことがわかったし。幾つかブレイクされていないダンジョンも点在するみたいだけれど、あんまりめぼしい情報はなかったのよね」

「情報もないダンジョンに一党だけで潜るってのはな。俺たちは英雄様とは違う。……ってなわけで別の街にちょっとひと稼ぎ行こうってね。でも、此処には多分また来るぞ。何せ街も料理も気に入ったからな」

 

なんなら定住するなら此処が良いな、なんてことまで言ってたものね――そうルイーズが言えば、ニコラは苦笑して頬を掻く。

 

「なるほど……寂しくなりますね。店主にも伝えておきます」

「おう、よろしく頼むわ。ってまぁ今日が最後ってわけじゃないし、また今度伝えるつもりではあるが、一応な」

「はい。そのことも伝えておきますね」

 

では、冷める前に料理をお楽しみください。

そう言って、ダニエルは一礼して去っていった。

 

「あの子も……まぁセリーヌもだけど。歳が若い割にしっかりしてるわよね」

「それはそうだが、そんな物言いするほど俺たちも老けちゃいねえだろ」

「そうね……。なんだか、若いあの子達に変わらない師匠の姿を見て、妙に自分の歳を感じちゃってたみたい」

「なんだそりゃ」

 

ニコラは笑って、目の前のパスタを掬った。

実際のところ、まだまだ身体はしっかり動くし、なんなら未熟だった時分では想像もできないほどに力をつけたと思っている。

勿論上には上も居るし、油断をしてはこの前の二の舞ではあるが。

それでも次の仕事もそう悪くない結果になるだろうと思っている。

それにルイーズも……まだまだそんな老けたことを言うような歳じゃあない。

 

(いつか、定住するようなときがきたら……そうだな。やはりここで、美味い飯でも食べて暮らしたい)

 

そしてその隣にはやはり幼馴染で理解者である彼女以外は想像がつかない。

まだまだ働き盛りの自分たち、あの小さな給仕と料理人たちには負けられまい。

 

そんなことを考えつつ、パスタを口にしてみれば。

思ったよりもちゅるんと滑らかな食感のパスタが、丁度いい塩気と辛味で舌を楽しませる。

すっと鼻先を抜けていく香りの元はオリーブオイルだろうか。

相変わらず、何を食べても美味しい店だ、とニコラは苦笑する。

 

「思ったよりもあっさりしているが、物足りなさもないのが不思議だな……」

「えぇ、本当に。ベーコンが入っているのに油が強く感じられない」

「なんなんだろうな、このバランス感覚は」

 

あの若さで。……そう確かに思ってしまう部分はあるな。

ルイーズのいうことも、分からなくはないのだ。

親の後ろ盾があってとはいえ、これだけの料理を出す店を繁盛させてしっかりと切り盛りしている。

それは、やはり運だけじゃなく敬意を払うべき努力と能力によるもので。

 

ニコラがこの店を気に入っている一因でもある。

 

「ここにいる間通い詰めてはみたものの、全く変わらず何もかもが美味しいんだものなあ……」

「客が多くなったから雑になったとか、そういうことが全くないのも凄いことよね」

「あぁ、全くだ」

 

さて、まだまだ具材もパスタも残っている。

此処に来ることが出来るのも、そう多い回数ではないだろう。

いつか帰ってくるその時まで記憶に刻むべく、ニコラは精一杯美味しく頂こうと心に決めたのだった。

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