セリーヌの『神の手』料理譚   作:雪月/Yukiduki

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ねっとり濃厚レバーパテ #1

「んー、冷たいエールというのも悪くないわね!」

「この時期だと冷えているというだけで価値があるもんだ」

 

すっかりこの店の常連となった聖女マルガレータと魔女パウリーネ。

今の時間は陽もどっぷり落ちた時間帯。

夕食目当ての客も大分掃けて、カウンターに座る彼女たちともう一人が最後の客である。

 

普段から彼女たちはこうして二人で飲んでいるか、別々に食事をしにくるのだが、今日はもうひとり別の客が居た。

 

「あら、レオナールさん。お酒が進んでないわよ?」

「あぁいや、十分頂いている」

「マル。およし、あんたみたいに誰も彼もが底なしで飲めるわけじゃないんだ」

「したたかに酔ったら解毒してあげるわよ?」

「そういう問題じゃないし、それはそれで無粋だよ」

 

相変わらずの言い合いの間に挟まり、どこか所在なさげにする強面の男はセリーヌの父、レオナール。

見た目だけなら妙齢の女性に挟まれた既婚者男性ということで、あまり外聞の良い状態ではないが、彼はセリーヌに話があって来ただけだ。

 

それを二人の酔っぱらいに絡まれて今に至る――という話。

セリーヌとしてはこうして贔屓にしてくれる常連客は有り難いが、自身の父親がそれに絡まれているのを見るとなんだか妙な気分だった。

 

――どうせ帰りも遅くなっちゃうだろうし、母様への口添えぐらいはしてあげましょう。

 

そんなことを思いつつも、頼まれていたつまみを一皿出してやる。

 

「本日のオススメ、レバーパテです。開発にご協力頂いた魔導ミキサー(・・・・・・)を使っています」

「お、これが例の。見た目からしてすごい滑らか」

「ほおう、なるほど。乳鉢ですり潰すようなことを手軽にやりたいと言っていたが、こうして使うのだねえ」

 

あの冷えたスムージーも興味深かったが、と言いつつパウリーネがパテをつまんだ。

そして「凄く濃厚だね、これはお酒のアテに実に良い」と笑った。

 

「んー、本当! この臭みが逆にたまんないわね。これに合うお酒ってある?」

「常温の赤ワインなどどうです?」

「オススメならそれにするわ!」

 

とくとくとく……。

セリーヌは3人に容器に注がれたワインを手渡した。

 

レオナールへの分は気持ち少なめに。

そして、そろそろ本題を聞いてあげたほうが良いだろうと思い、水を向ける。

 

「そういえばお父様、今日はどうして?」

「あぁ、例の魔導ミキサーを見せてもらいに来たのと、ちょっと近況を伝えにな」

「近況?」

「あぁ、実は――」

 

キィィ……。

 

レオナールが話し始めようとしたタイミングで、扉が開く音がした。

厨房の片付けと掃除をしていたダニエルが慌ててそちらに向かい、応対する。

扉から出てきたのは、子どものような背格好の一人の男の子だった。

 

「いらっしゃいませ」

「ここがあの小料理屋『テーベ』かい?」

「はい、そのとおりです。ええと……、ハーフリングの方ですか?」

「おうさ。こんな身なりだがオイラは成人しているんでね、こんな時間だからと門前払いにはしないでくれよな。……と、店はまだやってるのかな?」

「えぇ、一応。ご案内しますね」

「ありがてぇ。頼んだ」

 

人間(ヒューマン)でいえば10歳前後の子どもにも見える背格好のその客は、ハーフリングと呼ばれる種族のようだった。

小人族とも呼ばれる彼らは好奇心旺盛で、街々を転々とする習性があった。

かつてはエルフと同様に森に生きていた種族らしいが、それも今は昔。

今や人間の隣人として、町中でもよく見かける種族として知られている。

 

良くその背丈から人間の子どもと間違えられる彼らは、成人の証として片耳にイヤリングを付ける文化がある。ダニエルについていくそのハーフリングも、その背丈とは不釣り合いなほど大きなイヤリングを片耳に着けていた。

 

ダニエルがちらりとカウンターの方を伺うと、マルガレータとパウリーネがコクリと頷いた。

同席しても構わない、というサインだ。もうこの時間になると、ある程度カウンターで纏まってもらって居たほうが注文も料理の提供もやりやすい。

 

この時間には良く行う対応で、二人の常連客もそれを良く分かっていた。

 

「おっと、邪魔したかい?」

「いいや、大丈夫さ。それよりあんた、ここははじめてかい?」

「ん、わかるのか?」

「明らかに旅装って感じだしねえ。宿に荷物を置いてここにそのまま来たってとこかい」

「あはは、当ったり~。凄いねえ。流石は魔女様ってことかい」

 

おや。こっちのことも知ってたかい。

そう言ってワインを飲み干すパウリーネに、「ねえねえ、じゃあわたしは分かる?」などと話しかけるマルガレータ。

 

セリーヌはその様子を見たあとに、レオナールを少し離れた場所に呼び寄せて話の続きをすることにした。

レオナールもそれに応じて、席を立つ。

注文はダニエルが取ってくれるだろうから、ハーフリングの彼への料理の提供はその後で良い。

 

「それでお父様。何か気になって、こっちに来たのよね……?」

「うむ。魔導具開発の状況を聞きたいのと、昨今の市場の動きをな」

「……?」

「端的にいうと、吸熱箱の売れ行きが好調でな」

 

それは良いことなんじゃないかしら。

そう思ったセリーヌはますます首をかしげる。

 

「なんというべきか、好調すぎるのだ。悪いことではないし、まだ魔導具技師のイザベルも倒れるほどではないんだが……」

「ちょっと気になっている?」

「うむ。だから、それ以外の魔導具の量産は一旦控えておこうと思ってな。その辺りの話をしておきたかったのが一つ。もう一つは材料に使う魔石の値段だ」

「魔石の値段?」

「うむ。……うちで大量に買い取っているからなんだが、ちょっとな。今はギルドから直接卸して貰っているんだが、優先的に卸す為といって価格の見直しを求められた」

「それは……」

 

セリーヌは不安を抱いた。

自分の営む料理屋はあくまで、父親の商会から支援されて成り立っている。

今でこそ貴族や王族のお墨付きももらうことが出来ているが、ホーク商会があってこその小料理屋「テーベ」であるというのは十分に痛感していた。

それに、何より実家の商会だ。雲行きが怪しい話となれば心配になるのは当然といえる。

自分の発案で作られた魔導具の販売が絡むとなれば、尚のことだった。

 

「今直ぐどうこうというわけではない、が。吸熱箱の改良やこの料理屋で使う魔導具の開発については、オーナー(・・・・)の意向も絡んでいるからな。となると、店主であるお前の耳にも入れておくべきだと思ってな」

「ローラン様やデュシェフィーヌ様への連絡も?」

「あぁ、これからする予定だ。吸熱箱の増産を考えるべきか、そうする場合に魔石の価格にどの程度影響が出てしまうか。また、その市場の動きでどうなるか。これは向かい風というわけでなく寧ろ商機にもなるんだが、私の一存で全てを決めることは難しそう、といったところだ」

 

細かい話はこちらで片付けるつもりだから、お前は今まで通り店を切り盛りしてくれれば良いとは思うんだが。

そう苦笑するレオナールに、セリーヌは頬を掻いた。

 

「要するに、大きな動きをするかもしれないし、それに巻き込むかもしれないから事前に……ってことかしら?」

「うむ。そう考えてもらって構わない」

 

レオナールは大きく頷いた。

 

「それに、店主としてお前の意向を無視するわけにはいくまい。後日で良い、時間を取らせてくれ」

「もちろんよ、出来るだけ協力したいもの。それに、吸熱箱を広げるって話とかは結構興味があるしね」

 

商機でもある……か。

先のことはわからないが、せめてより良い形にしていければいいな。

セリーヌはそう願ってやまないのだった。

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