セリーヌの『神の手』料理譚   作:雪月/Yukiduki

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香り豊かなキノコリゾット

「そういえばお米を使った料理ってここで出せるの?」

 

料理屋「テーベ」の室内で、ハーフリングの吟遊詩人、トラウがふと思い出したように尋ねた。

ダンジョン都市「ペアリス」に来てから何度となく通っている料理屋、「テーベ」。

その幅広いレパートリーには感嘆するほかなく、トラウをもってしてもどのような詩にまとめるべきか悩んでいた。

物珍しいものならばよいのか、それとも皆に馴染み深い食材で作られたちょっとした驚きを言葉にするべきか。あるいは、普段から見る料理のように見せかけて、全く違う美味に出会った喜びを詠えばよいのだろうか。

 

店に来る度に料理を味わっては、その記憶を脳裏に刻み。

宿でリュートを弾いては悩ましげに眉を寄せる。

 

ここ最近のトラウの生活といえば、そのようなもので。

偶にはこちらからリクエストするのもよいだろう、とセリーヌに問いかけてみたのだった。

 

「ありますよ。あまり食べる人が居ないので、メニューには載せてませんでしたが」

「へえ、確かにここらじゃあんまり食べないよね」

 

トラウが言い出したのも、実のところそのことがあった。

好奇心旺盛で旅を好むハーフリングの間でも、米というのは好みが分かれる。

そもそも自分たちの行動範囲でどれぐらい食べられているか、というのもあるし、地方によって作り方にも特色があって、話に聞けども口にするかどうかは個々人による。

 

たっぷりと汁気のあるリゾットに、パラッと炒めた軽い食感が特徴的なパエリャが代表的だろうか。

保存食として糧食とする地域もあるらしいが、この辺りはどうだったろう……?

とふと思い立っての疑問だったわけだ。

 

「私は好きなんですけどね。あまり米食文化というのはこのあたりにはないみたいで」

「へえ」

 

トラウは面白げに相槌を打った。

馴染みのないものを好む彼女は、単に新しいもの好きなのか。

それとも料理を愛するが故に、試さずにはいられず、その結果なのか。

この特異な料理を出す店「テーベ」には興味が尽きない。

店主のセリーヌのことなら尚更、というものだ。

 

店に通い詰めるのはそのパーソナリティや背景を知るため――というのも確かにあった。

折角なら美味しい料理を食べたいという気持ちもかなりあったが。

 

「なら折角だしさ、食べてみたいな。今直ぐじゃなくて良いから」

「それなら用意しておきましょう。秋を感じられるメニューにしますよ」

 

そいつは楽しみだ。

トラウは口笛を吹いた。

 

※ ※ ※

 

そして数日後。

店にやってきたトラウはダニエルから「約束していたメニューが出せるそうです」と教えてもらい。

なら早速とワクワクしながら注文した。

そして、実際に出されたリゾットの具を見て目を丸くする。

 

「わぁお。なるほどね、確かに秋らしいや」

 

その皿の上にはリゾットが湯気を立てて盛られていたが、トラウの目を惹くのはそこではない。

多種多様なキノコが散らされ、まさにキノコ尽くしのリゾットに仕上がっていた。

 

これだけ見ると、リゾットという白い土の上にキノコが沢山生えているようだ。

ふと、脳裏でそんなことを考えてしまうような盛り付けだった。

 

「なるほどなあ」

 

豊かな自然の恵みというやつだ。

 

「これ、どういうキノコが入ってるの?」

「確か……ポルチーニ、それに白と茶色のシャンピニオン(マッシュルーム)、それにジロール……後なんでしたか。ダンジョンで採れたキノコも使ってるとか」

「なるほどね。ここに限ってそんなことはないと思うけれど……毒とかは大丈夫なの?」

「えぇ。その辺りの判断というか知識というか、扱いに関しては間違いないです。今までも多くのキノコ料理は出されてますが、一度も問題が発生したことは有りません」

「流石だね」

 

トラウは口角を上げた。

もちろん野生のキノコを扱うなら絶対はないはずだが。

それでもこの店なら信用できる。そう思えたし、それならば問題はないのだ。

 

「んじゃまあ、湯気を立てているうちに頂きますかね……」

 

スッと、匙を入れて米を掬い上げる。

トロリと溶けたチーズが糸を引くのが見えた。

 

「うーん、香りも良いね」

 

チーズとキノコの香りが湯気を通して伝わってくる。

早く食べてほしいとトラウに急かすような、魔性の香りだ。

 

「では一口……美味しい!」

 

米のポテンシャルというのを少し見誤ってたかもしれない。

トラウは目を見開いた。

 

一口大にカットされたキノコの食感と香りが豊かなのは言うまでもないが、お米自体の滑らかな口当たり。

米を噛んでみればモッチリとした柔らかな食感に、芯には硬さが僅かに残る。

フニャフニャなものではない、確かな満足感を齎す味わいだった。

 

「んー、これは良いね。温かいうちに食べると最高だ」

 

匙を掬う手が止まらない。

一口ごとに異なるキノコが口に入り、その香りと味のバリエーションは決して舌を飽きさせない。

肉厚で濃厚な味わいのポルチーニに、甘い香りのジロール、独特な歯ごたえが美味しいシャンピニオンは白と茶で確かに香りと風味に違いが有り、面白い。

ダンジョンで採れたと思われる変わった色味のキノコたちもまた、初めて食べる味わいと食感で、確かな存在感があるがまた美味しい。これはダンジョン都市ならではの食材といえるだろう。

 

それだけではなく、使われているチーズのコクと塩味が良いアクセントとなっていて、味にまとまりを感じさせる。

 

ここのスープ料理に魅了された身だから余計に分かるが、こういう具材を煮込む料理にかけてはこの店は天下一品だろう。

そもそものベースとなる味わいの奥深さが、どこにもないものなわけで。

 

その上にこれほど丁寧な調理をされた料理を出されては、いくら馴染みのない食材といえども美味しさに身体を震わしてしまうのは必然だったのかもしれない。

 

「本当にここは飽きないね……。んー、困ったぞ」

 

また今日も宿であーでもない、こーでもないと悩むことになりそうだ。

 

季節の巡りを詠う時にキノコについて熱を入れて語ってしまうかもしれない。

そんなことを思い、トラウはただ、苦笑するのだった。

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