フロンタルに憑依した苦労人転生者のガンダムSEED 作:鉄血
宇宙港は多くの人で賑わっていた。
シャトルから降り立ったアスラン・ザラはその喧噪に不審と警戒の入り混じった視線を向ける。
出迎えに来ていた駐在員が、彼の護衛人物である女性に説明をしていた。
「新造戦艦の進宙式にともない、明日は軍事式典が予定されておりまして・・・」
話しかけられた人物は紫色の簡素な上下に身を包み、金の髪を振って周囲を見回した。金色に近い褐色の瞳が、複雑な思いを宿して陰る。
カガリ・ユラ・アスハ。十八歳という若さで現在はオーブ連合首長国の代表首長という立場にいる彼女は、”プラント”側の係官に誘導されてVIP用の通路を進みながら、漏れ聞こえる人々の会話を耳にしてやるせない表情になる。
この”アーモリーワン”はさきの大戦後、フル・フロンタルが地球連合との条約のもと工業用に建設されたプラントで、内部には大規模な軍事工廠も存在する。
プラント本国から離れたここL4は、コーディネイター、ナチュラル双方のコロニーが併存する中立地帯ではあるが、そんな場所でも堂々と戦いのための艦船を製造しているということだ。
コーディネイターの存在を認めないユーラシア連邦はブルーコスモスの過激派と手を組み、共存派としてプラント、赤道連合と手を組んでいる大西洋連邦を幾度に渡って襲撃をしているというせめぎ合いをし合っている。
そんな中で、頭角を表したのはフル・フロンタルだった。
彼はさきの大戦の後、様々な事に着手した。
プラントと大西洋連邦、そして元中立国家の赤道連合との同盟。
三連合同盟。
戦争を終わらせる戦いに舵を切るのではなく、戦争の被害を最小限に抑える戦いに舵を切ったことによって、さきの大戦より後に起こった数々の戦争の被害はこの二年間を含めて犠牲者という項目を見れば被害は格段に少なくなった。
が、それによって紛争地域から逃げてきた難民の数は多くなっている。
フロンタルもその件については把握しているようで、大西洋連邦と赤道連合と共に援助活動をしているそうだが、日に日に増えていく難民に対処が追いついていない地域もあるそうだ。
その中でオーブも難民の受け入れはしていた。
最初期の頃はプラントや赤道連合、大西洋連邦と共に活動をしていたのだが、ある日を境にオーブとプラントの仲は悪くなった。
それは何故か?
ことの結末からすればオーブ側が悪かったのだ。
今から一年半ほど前に遡る。
フル・フロンタル直下の部隊───袖付きには可変MSがフラッグシップ機として今も存在する。
デルタカイ───そう呼ばれた機体がオーブ管轄の駐屯地に補給目的で立ち寄った際、モルゲンレーテ社に所属する整備士が勝手にそのモビルスーツのデータを解析したのだ。
それを知ったフロンタルはオーブに賠償を請求。
最初はカガリも何かの間違いだと反論したそうだが、証拠を片っ端から提出され、それに対してオーブは逃げることも言い逃れする事も出来ずにその賠償を受け容れざる得なかった。
その結果、オーブとプラントの間に出来たヒビは修復出来ない状態でもあり、オーブの一部技術はプラントの手に渡る事になった。
だからこそそんな状態でオーブの代表がこの場にいるのはかなり場違いと言えるのだが、その過去の問題を現議長であるギルバート・デュランダルが解消しようと提案してきたのだ。
最初は罠なのではと疑った。
が、互いに悪い話でない。このままいざこざが続くよりかは、多少リスクを取ったとしても解消しておきたい。
そう言って彼女は遥々オーブからやってきたのだが・・・
「・・・カガリ。服はその、それでいいのか?ドレスも一応持ってきてはいるよな?」
「な、何だっていいよ!いいだろ、このままで?」
悪くはないのだがとアスランは内心でそう思いつつ、抑えた口調で彼女に進言する。
「必要なんだよ、演出みたいなことも。分かっているだろ?馬鹿みたいに気どることもないが、軽く見られてもダメなんだ。───今回は非公式であるとはいえ、きみはオーブの国家元首として来ている。あのフロンタルが相手ではないとはいえ、今のオーブの立場はかなり危ういんだ。それくらいは分かるだろ?」
言われてカガリは押し黙った。その顔を彼女らしくない沈鬱な表情が覆う。最近の彼女は、よくそういう表情をするようになった。
たぶん自分も同じだろう。”キラ”と”ラクス”が行方不明になってから。
アスランは小さくため息をつき、カガリを誘導しながらエレベーターに乗り込む。
エレベーター内に設置されたソファに腰を下ろしたカガリは傍らに立つ係官を見上げて、口を開いた。
「明日は軍艦の進宙式ということだが───」
「はい。式典のために少々騒がしく、代表にはご迷惑のことかと存じますが・・・」
慇懃に微笑みかける係官に向かって、カガリは苦い口調で言った。
「”こちらの用件はすでにご存知だろうに”」
係官は不興を見せつけられ表情を硬くする。カガリを守るように立つアスランは、慎ましげに口を挟んだ。
「内々、かつ緊急にと、会見をお願いしたのはこちらなのです───アスハ代表」
第三者の前で、彼等はかつてのように対等に話をすることは出来ない。公には、現在のアスランはカガリの私的な護衛に過ぎないのだ。
「プラント本国へ赴かれるよりは目立たぬだろう──という、デュランダル議長のご配慮あってのことと思われますが」
フル・フロンタルもこの場にいるとはいえ、カガリがこの場にいる事は知らない筈。
アスランはガラスの壁面の向こうに目をやった。
透明なシャフトを通して、眼下に青い海が広がっている。明るい日差しを受けて輝く海に、緑の島々が散らばっているその風景は地中海を思わせる。
彼は郷愁を滲ませた表情で、近づいてくる美しい風景を見下ろすのだった。