フロンタルに憑依した苦労人転生者のガンダムSEED 作:鉄血
レイの前を行く白い機体から放射されるようにシンの怒りが伝わってくる。かなり熱くなっているな───とレイは考え、無理もないと思い返す。シンは単純だがまっすぐで考えるより先に身体が動いているようなタイプだ。あの三機がなしたことを目にして冷静でいられるはずがない。彼らは強奪したこちらのモビルスーツによって工廠にあれほどの破壊を齎したのだ。短気なシンでなくとも良くは思わない。だがそれだけに、レイの中では怒りを圧して疑念が頭をもたげる。
なぜこんな時期に、こんな挑発的な行為を───?
そのとき、追いすがるレイとシン、クラディアとルナマリアの前でカオスが背面にマウントした筒型のユニットを分離した。タイミングを合わせたようにアビスがその前面に滑り込み、胸部に開いた巨大な砲口と肩のレールガンから砲火を放つ。そのどちらも一撃でザクを葬る事が出来る火力だ。余計な詮索をしている場合ではない。レイ達は素早く散開し、砲火を避ける。が、その間に先程機体からパージされたカオスのユニット───機動兵装ポッドが彼等の背後に回り込んでいる。
兵装ポッドはまるでそれ自身が意志を持つからのように、無重力の中を自在に飛び回り、ビームの熱線の矢をレイ達に放つ。この兵装ポッドはさきの大戦中開発されたドラグーンシステムを導入したもので、本体から分離し、個別攻撃を可能としている。
『なんてヤツらだ!奪った機体でこうまで・・・!』
シンの声に焦りが滲む。確かにドラグーンシステムの操作など正規のパイロットでも困難だった筈だ。だからこそ尚更、これらの機体がこのまま敵の手に落ちてはまずい。機体と乗り手は、将来ザフトにとって恐るべき脅威となるだろう。
「脱出されたらおしまいだ!その前に何としても捕らえる!」
『分かっています!ですが!』
一連の攻撃は牽制だったらしい。三機はまたレイ達と少し距離を開け、プラント外壁へと向かっていく。
そのとき───
「・・・・・!?」
レイの体を奇妙な感覚が貫いた。反射的にシートの上で身を起こす。
───なんだ・・・?
背筋を電流が駆け抜けたようだった。レイは機体を確認したが、どこにも異常はない。だがほんのかすかに、見えないなにかに頭を押さえつけられているような圧迫感を覚える。
プレッシャーによる肉体の変調かもしれない。レイにとって───そしてここにいる皆にとっても初めての実戦だ。ここにいるのは自分達だけ───あの三機を止められるのは自分達四人だけなのだ。
◇◇◇◇
「すみませんが入りますよ!」
「えっ!?ちょっ!お嬢さん!?」
トリトマはバタバタと忙しそうにしている倉庫の中を全速力で駆け抜ける。
「ちょっとそこの人!すまねーですが今いいですか!」
「ああ?今、忙しい・・・ってお前、トリトマか?」
一人の整備士がトリトマの顔を見てそう返事を返す。
そんな顔馴染みのある整備士の男にトリトマは言った。
「ハリスさん!”アリュゼウス“とオデ・・・ええと、”オデュッセウス”を今から宙域のガランシェールへと運搬します!モビルスーツをすぐ出せますよね!」
その言葉を聞いてハリスと言われた整備士は叫んだ。
「はぁぁぁぁッ!?アリュゼウスとオデュッセウスを出す!?アリュゼウスはペーネロペーの訓練機だぞ!?それにオデュッセウスだってまだフライトユニットは完成していないし、細かい調整はまだ終わってないんだぞ!?」
そう叫ぶハリスにトリトマもまた叫ぶ。
「ですから隊長の命令なんですッ!いいから早くしてくだせー!」
「クソッ!あの仮面野郎、いつも納期を早く切り上げやがって!整備士やってるこっちの身にもなれってんだ!」
そう毒を吐いた後、ハリスはズカズカと大股で歩き始めた。
「こっち来い!アリュゼウスユニットはオデュッセウスに装備したまま置いてあるから少し調整したらすぐ出せる!」
トリトマは彼の後を追い、隣にある格納庫へと向かう。
そしてそこに存在するあまりに巨大なソレを見上げてトリトマは立ち尽くした。
全高だけで三十メートルはあろう巨大なユニットの中に自身が今乗っているデルタカイよりもさらに巨大な厳つい顔のモビルスーツが格納されている。
だがもっとも驚くのはそのブースターだ。
メインブースターだと思しきその数は軽く二十は超え、姿勢制御バーニアも含めれば数え切れないほどのノズルの数だ。
「・・・これ、モビルスーツ、なんですか?」
もはやモビルアーマーと言っても過言ではないソレにハリスは言った。
「分類上はモビルスーツだ。本来、これは地球の重力場で使う装備でこれを装備したオデュッセウスはマッハ2の速度で空を飛ぶ」
「・・・は?」
コレが地球の重力下でマッハ2で飛ぶ?デルタカイのウェブライダー形態でさえ、音速を超えないのに?
「呆然してるところ悪いがアリュゼウスユニットはオデュッセウスの本来の装備じゃないからな?本来の装備であるフライトユニットはミノフスキー・フライトを使って理論上、その速度を維持した上で重力下での旋回性能や運動性能を宙域戦モビルスーツと同じかそれ以上にするとかいう代物だぞ?」
ハリスの言葉にトリトマはこう思った。
ミノフスキー・フライト怖い、と。
アリュゼウス
旧型エンジン技術のプラズマ・ジェット・エンジン式推進システムを応用にしたシェルフ・ノズルを機体各部に合計20基配置させ、並列運用することでペーネロペーに匹敵する高速飛行を可能としている。
ただし、それだけやって高速飛行が匹敵しているだけなので旋回性能や運動性能はペーネロペーとは違い殆どなく、戦闘機のソレに近い。
因みにコズミック・イラで音速に匹敵する速度で空を飛べる機体はエクリプス(MA)、アカツキ、ストフリ、ディスティニー、後はカルラなのだが、アカツキを除くこれらの機体はあくまでヴォワチュール・リュミエール起動した上で制限時間ありでの戦闘になる。
しかも音速匹敵するだけで音速は越えないので地上での高速戦闘では速度や運動性能でペーネロペーや三ガンダムに追いつくことはない。