フロンタルに憑依した苦労人転生者のガンダムSEED 作:鉄血
アスランは休む間もなく、“ヤキン・ドゥーエ”からアプリリウス市へと向かった。より正確に言えばそれは連行に近い。彼が乗ってきたのは地球連合軍のシャトルであり、そのシャトルで帰投するに至った経緯を、頑として語ろうとしなかったからだ。
父はそれを聞いて、すぐに連行しろと命令したに違いない。アスランは周囲を兵士に固められ、国防委員会本部にある父の執務室に通された。
つい先だってここを訪れたとき、アスランは周囲の者たちと同様、軍への忠誠心の篤い一兵士だった。だが今は、まったく別の勢力を代表した大使ともいえる存在だ。少なくとも彼自身はそのつもりだった。
「・・・・アスラン」
「父上・・・・」
いつものように、冷やかなその視線をつい避けようとしかけて、アスランは思いとどまり、真っ向からそれを受け止める。
だがパトリックはそんなアスランの変化に気づかない様子で、ぞんざいに兵士達に命じた。
「お前達はよい!」
アスランを連行してきた兵士達は背筋を正して敬礼をした後、部屋を出て行った。扉が閉まるのも待ちかねた様子でパトリックは訪ねる。
「どういうことだ!何があった!」
アスランはゆっくりと、父に近づいた。パトリックは相変わらず彼の表情になど目も留めず、矢継ぎ早に聞く。
「───”ジャスティス“は!?”フリーダム”はどうした!?」
だがアスランはそれに答えず、逆に聞き返す。
「父上は、この戦争のことを本当はどうお考えなのですか?」
「───なんだと?」
あらかじめプログラムされた通りに命令されただけで動くロボットと同様、行動する筈の息子が自分の問いに応えず、自由意志を持って語り出したのを、パトリックはまるでプログラムのエラーでも見るような目でアスランを見た。
そんな父に向かって、アスランは真剣に問いかけた。
「俺達は一体いつまでこの戦いを続けなければならないんですか?」
「何を言っている・・・・!」
パトリックはそこで我に返り、怒りをその顔に昇らせる。
「そんなことより、命じた任務はどうしたのだ!報告しろ!」
いつものように肉親に対するものとは思えない冷たい声だった。だが、アスランは臆する事なく続ける。
「俺は・・・どうしても一度、ちゃんと父上にそれをお聞きしたくて、戻りました」
「アスラン、貴様!」
パトリックは拳で殴りつけ、勢いよく立ち上がる。
「いい加減にしろ!何も分からぬ子供が何を知ったふうな口を聞くか!」
「何もおわかりでないのは、父上なのではありませんか!」
アスランは激しく言い返す。
「───アラスカ、パナマ、ビクトリア・・・撃たれては撃ち返し、撃ち返してはまた撃たれ・・・今や戦火は広がるばかりです!」
「一体どこでそんな馬鹿げた考えを吹き込まれてきた!?あの女───ラクス・クラインか!?それともフル・フロンタルか!?」
アスランの言葉はパトリックにはまるで届いていないように見えた。それでも懸命に言葉を尽くす。
「そうして力と力で、ただぶつかりあって、それで本当にこの戦争が終わると───父上は本気でお考えなのですか!?」
「終わるさ!」
パトリックは確信をこめて荒々しく叫んだ。
「──ナチュラルや逆らう者全て滅びれば、戦争は終わる!」
その言葉にアスランは息を飲み、凍りつく。
───まさか
本当に父は・・・正気でそう思っているのか?
全身の血が冷たくなるような恐怖に絶句しているアスランに詰め寄り、パトリックはその胸元を掴み、揺さぶる。
「言え、アスラン!”ジャスティス”と”フリーダム”はどうした!返答によってはお前とて許さんぞ!」
「本気でおっしゃっているのですか・・・?ナチュラルを全て滅ぼすと・・・?」
「これはその為の戦争だ!」
パトリックはアスランの当惑にまったく意を返さず、迷うことなく言い切った。
「我らはその為に戦っているのだぞ!ここまで来るのにどれだけあの男に邪魔をされたと思っている!その義務すら忘れたのか!お前は!!」
パトリックは怒りに任せてアスランを突き飛ばし、わめいた。床に叩きつけられたアスランは、打ちひしがれた気分で項垂れる。
彼等の間には、いかなる理解も存在しない。
説得できるなどと思った自分は、大馬鹿者だった。今までだってずっとそうだったのだ。父は息子の思いなど気にも留めない。そして自分自身と違う考えを持つ者にも。
それに対してフル・フロンタルは周りを良く見ていた。
相手の意見を聞き、それを聞いた上で自分はこうだと言う。
父とあの人はこうまで違うのかと思うアスランは父の足が、目の前に立っているのに気づき、ノロノロと目を上げる。
そして目にしたものに、愕然とした。
パトリックの手には拳銃が握られ、その銃口は真っ直ぐアスランに突きつけていた。
「父上・・・」
「──この愚か者が!下らぬことを言っていないで答えろ!」
パトリックは目を血走らせてわめく。
「”ジャスティス“と”フリーダム“は!?───答えぬというなら、お前も反逆者として捕らえるぞ!」
───結局、始めからこの人は自分の事を『息子』と見ていなかったのだ・・・・。
自分はこの男の意のままになる手駒のひとつにすぎなかった。
パトリックの言ったとおり自分はどうしようもない愚か者だった。ありもしない情にすがって、この男の気を変えさせようとした。理を説いても、情に訴えても、この男を止めることなど出来はしない。
これではダメだ。この男をトップに置いて戦いを続けるのならば、その先に待っているものは、敵も味方もすべて死に絶えた世界───それだけになってしまう。
───止めなければ・・・!
アスランの鳩尾に冷え冷えとした決意が固まる。もはや、自分を狙う銃口も目に入らない。
「───アスランッ!」
促すようにパトリックが怒鳴りつけた瞬間、アスランは勢いよく飛びかかっていた。
銃声が響き、右肩に灼熱のように熱い感覚が包み込む。
そして次に気づいたときには、銃声を聞いて飛び込んできた兵士達によって、アスランはパトリックの身体から引き離されていた。
腕をひねり上げられ、撃たれた肩の傷が燃え上がるような痛みを発する。視界がぶれ、さまざまなものが同時に目に入った。自分を抑え込む兵士達の腕、身体、銃口を下げた手、デスクから落ちて割れた写真立て───はだけた自分の胸元からはカガリから貰った赤い石が飛び出している。
「殺すな!」
パトリックの声が部屋に響き渡った。
「“これ“にはまだ、聞かねばならぬ事がある!」
───そうか。
アスランの痺れた頭に、苦笑めいた思考が浮かぶ。
少なくとも、まだ父にとってそれだけの価値が自分にはあるのか。だが、その後はどうなるのだろう?
「連れて行け!ジャスティス、フリーダムの所在を吐かせるのだ!多少手荒でも構わん!」
パトリックはそう吐き捨てて床に落ちた今は亡き母と、幼いアスランの写真が入った写真立てを気づかずに蹴り飛ばす。
兵士達に引っ立てられ、連れ出されるアスランにパトリックは苦々しく吐き捨てた。
「見損なったぞ、アスラン!」
アスランはかすかに声を詰まらせながら答えた。
「・・・・俺もです」
こうして父と子は、決定的に決別した。
通路を連行される間、アスランの中につい数時間前に聞いた友の声が不意に蘇る。
───きみは、まだ死ねない・・・。
そうだ。自分にはまだやるべき事がある。囚われて情報を奪われるわけにも、そのまま無為に抹殺される訳にもいかないのだ。
たとえ生き続けることが、どんなに苦しくても。
アスランは兵士達に囲まれながらホールを横切り出口へと向かう。
建物を出たところで、移送用の車が待機していた。
あれに乗せられたらもう逃げるチャンスはないかもしれないとアスランは心を決める。
「乗れ」
前にいく兵士が車のドアを開けようとし、一瞬彼等の気がそちらに向いた瞬間、アスランは両脇を固めていた兵士を一人蹴り飛ばし、一人は肩からタックルして街を走り出した。
「おいっ、止まれ!」
逃げようとするアスランの背中に、兵士が警告を発して銃を向ける。が、その銃口が火を噴く前に、横にいたもう一人の兵が銃床で殴り倒した。
「ああっ!なんだってんだ、もうっ!」
たった今、同僚を昏倒させた兵士は慌ててアスランを追いかけていった。
◇◇◇◇
その様子を国防委員会本部のビルの中で眺めていた二人の男女がいた。
「あ〜あ。派手にやっちゃってくれちゃって。これじゃあ俺達ももう此処には居られないねぇ」
男がその様子を面白がるように笑っていた。
「移動しますよ。私達が此処に居る理由はもうありません」
その隣にいた眼鏡をかけた女は無感情的に男にそう言うが、そんな彼女に男は言う。
「ミーシャは先に行っといて。俺はまだやることがあるからさ」
「くれぐれも隊長の手を煩わせないように。いいですね?」
「分かってる分かってる」
そう言ってさっさと行ってしまった相方に男は柱に背中を預ける。
「最悪の想定を考えて俺は俺なりにザラを始末する準備をしますかね」
そう言ってアスラン達が逃げた方角へ男は視線を向ける。
「君等はどう出るかな?クラインさんよ」