DOG DAYS 〜The Demise Hero〜 作:セラフィエル
ついに10話です!
二桁台突入です!
物語はまだまだ続きます!
これからもよろしくお願いします!
俺の周りを数人の子供が取り囲んでいる。
その子供たちの顔は暗くてよく見えない。
だが、口だけは見える。
ニヤニヤと不気味な笑みを浮かべている。
怖い。
早くここから逃げだしたい。
ああ、でも身体が重くて動かない。
どんなに脚に力を入れても、その子供たちが俺の力を吸い取っているかのように、すぐに力が抜ける。
ここはどこだ?
こいつらは一体誰だ?
その時、声が聞こえた。
『クーズ♪クーズ♪お前はクーズ♪』
『何にもで〜きない♪や〜くた〜たず♪』
何故だ・・・何故俺はこの歌に聞き覚えがある・・・?
『クーズ♪クーズ♪や〜くた〜たず♪』
思い出した。
これは・・・俺が小学生の頃の・・・
『クーズ♪クーズ♪お前なんてい〜らな〜い♪』
声がだんだん大きくなる。
やめろ・・・やめてくれ・・・
子供たちが歌いながら手をユラユラと伸ばしてくる。
来るな・・・!来ないでくれ・・・!
そして、俺の目の前が無数の手で覆い尽くされた。
「夢・・・・か・・・・。」
装飾の施された美しい天井。
フカフカな毛布が身体を包んでいる。
どうやらベッドに横になっていたようだ。
ゆっくりと身体を起こす。
「痛てて・・・。」
身体中が痛む。
動かす度に筋肉がキリキリと微かな悲鳴をあげる。
全身筋肉痛である。
「ここは・・・」
辺りを見回す。
他にも幾つかベッドが規則的に綺麗に並べられている。
だが、使用しているのは俺一人のようだ。
窓からは橙色の日差しが広い部屋の中を照らしている。
怖くなるくらいの静寂が部屋を満たしている。
「お目覚めですか、和斗様。」
キビキビとした声が静かな室内に響く。
声のした方を向くと、一人のメイドが毅然とした表情で立っていた。
名は確か・・・リゼル・コンキリエだったか。
「おい、ここは・・・どこなんだ?」
こちらに歩いてきたリゼルに問いかける。
「フィリアンノ城の医務室です。気絶したあなたを医療係の者が運んできたのです。」
気絶・・・そうだ俺はあの女と戦って・・・。
拳を握り締める。
負けたのか・・・・・。
悔しさが身体の奥底から沸き上がる。
でも・・・俺は、頑張った方ではないだろうか。
イズミと競り合っていた奴に堂々と立ち向かったのだ。
何度吹き飛ばされても、諦めずに戦ったではないか。
そう思うと、不思議と自分が少し誇らしくなった。
姫様は見ていてくれただろうか。
ほんの少しだけでもイズミではなく、俺を応援してくれただろうか。
その時、俺の腕や足を触り、身体の具合を調べていたリゼルが口を開いた。
「ところで・・・あなたは何故あのような行動をなさったのですか?」
「は?」
あのような行動・・・?
あの女と戦ったことだろうか。
その理由・・・・か。
「・・・・自分を変えたかったからだ。」
無論それだけではないが、大きくはそれが理由だろう。
この戦場でなら、変えられるような気がしたのだ。
まぁ・・・見事に完敗だったが・・・・。
すると、リゼルは小さく、だが俺にハッキリと聞こえるように溜息をついた。
「あなたのその思いを無下にするつもりはありませんが・・・・・言いたいことは言わせていただきます。」
言いたいこと・・・?
「あなたはあまりにも自分勝手です。」
「な・・・に・・・?」
「そんな意外そうな顔をしないでください。あなたの行動を傍から見れば、自分勝手以外何ものでもありません。」
「俺は・・・自分の信念に従っただけだ。何故それを自分勝手と言われなければならない?」
リゼルはさっきより大きな溜息をついた。
「自分の持ち場を放り出し、勇者様とレオンミシェリ閣下との決闘を邪魔し、挙句の果てには勇者様を巻き込んで気絶。おかげで我が国は大敗を余儀無くされました。全てはあなたの行動故です。これを自分勝手と呼ばずに何と呼ぶと言うのですか?まさかとは思いませんが、自分の行動を誇らしいとは思っていませんよね?」
リゼルが一気に捲くしあげる。
俺は唖然としているしかできなかった。
そして、過去の記憶がフラッシュバックする。
目の前に仁王立ちする母親。
その手が勢いよく振るわれ、冷たい、重い平手打ちが幼い俺の頬を傷つける。
『どうしてこんな事したの⁉︎お母さんの仕事増やさないでちょうだい‼︎」
母親が指差す先には割れた皿の破片が散乱していた。
俺はか細い声で謝った。
『ごめんなさい・・・ごめんなさい・・・僕、お母さんのお手伝いしたくて・・・』
ただ、喜んで欲しかった。
いつも頑張ってる母親の役に立って、褒めて欲しかった。
ただそれだけだった。
しかし、母親はさらに甲高く叫んだ。
『お手伝いなんてしなくていいの‼︎あんたは勉強だけしとけばいいの‼︎』
解って欲しかった。
自分の思いを。知って欲しかった。
ごめんなさい・・・ごめんなさい・・・・・
僕がいけないんだ。
何の役にも立てない僕がいけないんだ。
俺は自分を責めることしかできなかった。
「・・・・ッ」
まとわりつく記憶を振り払う。
自分の手を見つめる。
あの時よりずっとずっと大きくなった手。
身体はこんなに変わったのに・・・
中身は何にも変わっちゃいないな・・・。
沈む俺の心に、リゼルがさらに追い打ちをかける。
「姫様も大変残念がっておられました。あなたの背中を押したのは姫様ではないのですか?その姫様に恩を仇で返すおつもりですか?」
姫様・・・・・。
リゼルの言う通りだ。
俺の行動は俺自身のための行動に過ぎない。
他人から見れば、それはまさしく自分勝手そのものだろう。
たとえ、そこにどんな思いがあろうと。
他人から、姫様からしてみれば、迷惑以外の何ものでもないだろう。
また・・・やっちまったなぁ・・・・・・
黙り込む俺を見て愛想が尽きたのか、リゼルはもう一つ溜息をついて、医務室から出て行った。
ゆっくりとベッドに背中から倒れ込む。
肺に溜まっていたザラザラした空気を吐き出す。
まただ・・・。
また、調子に乗って、でしゃばって、失敗して、迷惑をかけてしまった。
どうして、あの時遠慮しなかったんだろう。
どうして、大丈夫だと思っちまったんだろう。
解ってたはずなのに。
こうなることくらい容易に想像できたはずなのに。
やっぱ・・・俺には、無理だったんだなぁ・・・・
自虐的な笑みを浮かべ、目を閉じた。
どれだけ時間が経っても、胸のザラザラが消えることは無かった。
その夜。
シンクはある部屋の前に立っていた。
その部屋は会議室。
僕にはあまり馴染みの無い部屋だ。
普段ならばまず来ることはない。
何故ここに来たのかと言うと、ダルキアン卿から伝言が届いたのだ。
『至急伝えたい事がある。今夜、戌の刻に会議室へ来ていただきたい。』
と。
あのダルキアン卿が急いで伝えたい事とは一体何なのか。
それは魔物に関係があるのか。
ここに来るまでにいろいろと考えてみた。
だが、不思議なことに思いつくのはどれも良くない事ばかりなのだ。
ふと脳裏をよぎる。
三年前の事件を。
頭をブンブンと振る。
きっと考え過ぎだ。
まさか、あんな事がまた起こるはずがない。
ドアノブを握り、ドアを開ける。
そこには既に、姫様、エクレール、ロラン騎士団長、リコッタ、元老院、そしてダルキアン卿が席についていた。
皆神妙な面持ちをしている。
「やっと来たか、シンク。待ちくたびれたぞ。早く席に着け。」
イライラした様子のエクレールに言われ、エクレールの向かい側の席にに座る。
僕が席に着いたのを見て、姫様が口を開く。
「それで話とは一体何でしょうか?ブリオッシュ。」
皆の視線がダルキアン卿に注がれる。
ダルキアン卿は少し間を置いてから、ゆっくりと立ち上がった。
そして、逡巡するような目を僕に向けてから、躊躇いがちに口を開いた。
「今回、拙者が戦を抜けねばならなかったのは、パスティヤージュ公国から緊急の伝言が届いた故にござる。」
緊急の伝言・・・?
それって一体・・・。
エクレールをチラと見ると、エクレールも解らないという顔をしていた。
ダルキアン卿が再び口を開く。
「その伝言とは・・・・パスティヤージュ北部の森で、"オミノス"の群れが目撃された、というものでござる。」
「「「ッッ⁉︎」」」
僕、リコッタ、ダルキアン卿以外の皆が息を飲む。
オミノス・・・・聞いたことがない。
エクレールがガタッと勢いよく立ち上がった。
「何かの間違いではないのですか⁉︎まさか、"オミノス"が現れるなんて・・・・!」
「拙者も信じたくは無かったのでござるが・・・・。この目で見たのは・・・間違いなく"オミノス"の群れでござった。」
「そんな・・・・。」
エクレールが力無く椅子に崩れ落ちる。
姫様は口を手で覆い、目を見開いている。
ロラン騎士団長は沈痛な面持ちで俯いている。
『なんたることじゃ・・・』
『"オミノス"が現れるとは・・・』
『嗚呼・・・恐ろしや恐ろしや・・・』
元老院も悲痛な声をあげている。
"オミノス"って、そんなに恐ろしい魔物?なのか・・・。
「あの・・・"オミノス"って一体・・・?」
「そうか・・・・お前は知らなくても仕方ないか・・・ちょうどいい機会だ。お前も知っておくといい。」
そう言ってエクレールは座り直した。
「"オミノス"とは・・・フロニャルドでは、“不吉の予兆”として恐れられている小型の魔物だ。」
「“不吉の予兆”・・・?」
「ああ。フロニャルドは今でこそ平和だが、大昔は数多くの恐ろしい戦争が勃発していたんだ。魔物と人間の戦争、
人間同士の戦争、どれも多くの死者を出した。」
机に立つ蝋燭の熾火がユラユラと揺れる。
「そして、それらが起きる数日前には・・・必ず"オミノス"が姿を現した。だからこそ、人々は"オミノス"を“不吉の予兆”として恐れるようになったんだ。」
そこでハッと気づく。
「まさか、リコが調べていた事って・・・」
リコッタが俯きながら、答える。
「はいであります。"オミノス"についての過去の文献を調べていたであります。何か・・・使える情報がないかどうか・・・。」
「それに、これは後で聞いた話だが・・・。シンク、お前が初めてフロニャルドに来た時に現れた土地神の魔物、あいつが現れる数日前にも"オミノス"が目撃されたらしい。」
「そ、それじゃ、その"オミノス"が現れたってことは、またあの時のような事が起きるかもしれないってこと?」
ダルキアン卿が言葉を続けた。
「起きるかも、ではなく、起きるのでござる。三年前と同じか、それ以上に恐ろしい事が。」
ドロドロの空気が重く、重く、僕達にのし掛かった。
最近急に寒くなりましたね。
おかげで鼻の調子が悪く、ズーズーいわせてます。
皆さんもお体にはお気をつけてくださいね。