DOG DAYS 〜The Demise Hero〜 作:セラフィエル
期末テストが近づいてきました。
中間テストが終わって、あっと言う間です。
早いものですね。
目をうっすらと開ける。
窓から差し込んだ朝日が和斗の目を刺激する。
体を起こし、軽く腕を振る。
一晩寝たおかげか、まだ節々は痛むものの大分痛みは引いている。
「・・・ふぅ」
ベッドから降り、病衣から騎士団の制服に着替える。
医務室のドアを開け、廊下に出る。
昨日から考えていたのだ。
俺はこの世界にいてもいいのか、と。
答えはあっさりと出た。
NOだ。
俺がこの世界にいても何ら意味は無いだろう。
むしろ昨日のように迷惑をかけるに違いない。
決断が早すぎると思われるかもしれないが、今までの俺の経験上、長考して良かった試しが無い。
だからこそ、会いに行くのだ。
姫様が言っていた、"召喚の儀に詳しい者"に。
そいつに頼めば元の世界に還してくれるだろう。
そして、忘れる。
それが俺にとっても、この世界の人達にとっても最良の選択だろう。
・・・・問題は、そいつが誰だかさっぱり分からんということだ。
ちなみに俺の脳内では、おそらくインテリで、白衣を常に纏い、メガネをクイッと上げるようなそんな男が思い浮かんだ。
・・・まぁ、それっぽい奴を探しゃぁ見つかるだろ。
数十分後。
「み、見つからねぇ・・・ッ!」
つーか、そもそもどこだここ⁉︎
どれだけ歩き回ってもそれらしき人物は見当たらず、しかも似たような廊下が続くので、完全に道に迷ってしまった。
どっかに・・・地図とかねぇのかな・・・
これでは目的の人物を探すどころでは無い。
どうするべきか頭を悩ませていた時だった。
「あのー・・・どうかしたでありますか?」
可愛らしい声が聞こえた。
後ろを向くと、そこには俺より頭一つ分小さな体躯にウェーブのかかった茶髪、元の世界の学生服に近い服の上に白衣を羽織っている可愛い少女がいた。
その少女は山のように積み上げられた本を抱え、その横から顔をひょっこりと出していた。
「あー・・・ちょいと道に迷っちまってな。」
正直、こんな少女の前で認めたくはないが、致し方あるまい。
「なるほど。どこへ行きたいのでありますか?」
何の蟠りも無いピュアな瞳で聞いてくる少女。
そんな瞳を見ていると、自分がどうしようもなく穢れた存在に思えてくる。
「どこっつーか、召喚の儀に詳しい奴を探してるんだが・・・」
すると、少女はキョトンとした。
「召喚の儀に詳しい奴?もしかして自分のことでありますか?」
「へ?」
え?いやいやまさか・・・
こんな超お茶目で「やっちゃったてへ☆」みたいなこと言ってそうなこの子が?
まさかの超インテリ?
「えっと・・・マジ?」
少女はコクンと頷いた。
「マジマジであります!」
「へ、へぇ〜・・・」
俄かには信じられないが、とりあえず目的の人物は見つかったわけである。
今は話を聞いてもらおう。
と、そこで気付く。
「そういえば・・・君、名前は?」
少女はビシッと可愛らしい敬礼をして、
「ビスコッティ国立研究学院主席研究士、リコッタ・エルマールであります!」
何だかえらく長い前置きがあったような・・・
「リコッタ・エルマールか。俺は・・・」
名乗ろうとすると、リコッタが先に口を開いた。
「存じ上げているであります。黒神 和斗さんでありますな?」
「・・・何で知ってるんだ?」
俺が顔を合わせた事があるのは姫様、リゼル、イズミと取り巻き美少女二人ぐらいだと思うが・・・
「皆知ってるでありますよ?」
「はい?」
皆・・・知ってるだと・・・
まさかあのクソイズミの野郎がそこら中で俺のことを喋ってんじゃ・・・
「勇者様とレオ閣下の決闘を邪魔した人だって。」
チョット涙が出た。
まぁ・・・仕方ないと言えば仕方ないが・・・
「とりあえず、大図書室へ移動するであります。召喚の儀のことならたくさん資料があるでありますからな。」
「お、おう。」
歩き出したリコッタの小さな背中に着いて行った。
「到着であります!」
「すっげぇ〜〜」
大図書室。
そこは俺が今まで見たどの図書室よりもはるかに広かった。
うず高く積まれた本の山、山、山。
何万冊、いや、下手をすれば、何千万冊とあるのではないのだろうか。
「ささ、こちらにどうぞであります。」
リコッタが本の山を最も広い机にドサドサと落とし、椅子に座るように促す。
俺はそれに従い、腰を降ろす。
「さて、どういうご用件でありますか?」
向かい側に座ったリコッタが尋ねる。
俺はもう一度自分に問うた。
いいのか、と。
そして、もう一度答えた。
それでいい、と。
俺は深呼吸をし、リコッタの目を見て、答えた。
「俺を・・・・元の世界に還してほしい。」
リコッタは少し目を見開いた。
「それは、向こうの世界に自分の生活があるからでありますか?」
自分の生活・・・・か。
折角還してもらうのだから、正直に答えよう。
「いや、元の世界に俺の生活なんてものは無い。俺の進む道も、目指す道も。」
これが真実だ。
元の世界に戻ったところで、俺が変わるとは思わない。
おそらく、何もせずに己の人生を無駄にするだけだ。
「なら・・・どうしてでありますか?」
「俺自身のために、この世界のために。俺は元の世界に還る。それだけだ。」
リコッタはキュッと小さな手を握り締めた。
「・・・・この世界のためでありますか。」
「ああ。俺がこの世界に、フロニャルドにいたってお前らに迷惑をかけるだけだからな。」
リコッタは俯いて、呟いた。
「たとえ、元の世界に辛い事があるとしても、でありますか?」
「・・・・何が言いたい?」
何故だ。
なぜ、そこまで質問攻めするんだ。
お前達だって迷惑だろうに。
こんな俺がいたって、邪魔なだけだろうに。
還してくれれば、それで済む話だろうに。
「・・・和斗さんは、悲しそうな目をしているであります。まるで、今まで誰にも認められなかったような、ずっと一人で居たような。」
俺は息を呑んだ。
「なのに、それなのに、和斗さんは還ろうとしているであります。苦しくて、辛い思いをすると知って。」
リコッタは小さな眉を八の字にして、俺を見た。
「正直に言うと・・・自分は還って欲しくないであります。もっとこの世界にいて欲しいであります。」
俺はギリッと奥歯を噛み締めた。
「何故だ。何故お前はそんなことを言える?俺とお前はさっき出会ったばかりだろう?それに、お前だって迷惑だろう?俺のせいで、この国は負けたんだ。俺がこの世界にいれば、もっともっと迷惑をかけてしまうぞ?何故だ。一体何故なんだ?」
解らない。
どうしてそこまで、俺の事を?
迷惑な奴なんて、いらない。
それが常識だ。
「迷惑なんかじゃないであります。」
それなのに、どうしてお前はそんなことを言う?
「優しい嘘はやめてくれ。そんな薄っぺらい言葉なんて聞きたくない。」
「嘘じゃないであります。だって・・・」
「だって、和斗さんは頑張っていたでありますから。」
どうして・・・・どうして、俺の頬を流れるものはこんなにも温かいのだろう?
リコッタはニコッと笑った。
「だから、気にすることないであります。それに、自分も今まで周りの皆にたくさん迷惑をかけてきたであります。迷惑をかけて、反省して、ここまで来ることができたであります。」
「和斗さんにはもっとこの世界のことを知って欲しいであります。自分も和斗さんのことをもっと知りたいであります。」
ああ、姫様もリコッタも、優しすぎる。
こんな俺に、チャンスを与えたところで何の意味も無いというのに。
俺は・・・・還ると決めたのに。
「なぁ、リコッタ。」
「何でありますか?和斗さん。」
「・・・・イズミ達って、どうやってここの文字を学んだんだ?」
リコッタは首を傾げた。
「えっと、確か地球の文字とフロニャ文字を照らし合わせた一覧表を見て、学んだはずであります。」
「そうか・・・。なぁ、それ、俺に貸してくれないか?その・・・・フ
リコッタはパァッと顔を輝かせた。
「はい!もちろんであります!」
わかっている。
また淡い希望を抱けば、後でどんな目に遭うかということくらい。
だけど、何の可能性も無い元の世界に還るくらいなら、ほんのわずかでも可能性のあるこの世界に俺は賭けてみたい。
そして・・・・知ってみたい。
この世界を。
人の心を。
俺のこの道の先にあるものを。
俺は目尻に溜まった涙を拭った。
「ところで、リコッタ。聞きたいことがあるんだが。」
ふと、俺はあることを思い出した。
「何でありますか?」
「俺って、どうしてこの世界に来ちまったんだ?」
俺がこの世界に来てから、抱いていた疑問。
姫様によると、この世界の誰も俺を召喚していない。
それだというのに、どうして俺はここに来たのか。
あの魔法陣は一体何だったのか。
そして、あの天使の像は何を意味するのか。
「あ〜、そう言えば姫様がそんな事を仰っていたような・・・。」
どうやら姫様から、俺からそういう質問があったと聞かされていたようだ。
それなら話は早い。
「とりあえず、その時の事を詳しくお話しして欲しいであります。」
俺は全てを話した。
金色の魔法陣が現れた事を。
天使の像のある場所へと移動した事を。
ただ、魔法陣に落ちてしまった理由だけは、足を滑らせたということにしておいた。
話終えた後、リコッタは顎に手を当てて、黙り込んだ。
「・・・どうだ?何か心当たりあるか?」
リコッタは少し間を置いて、
「・・・・金色の魔法陣・・・十二枚の翼の天使・・・・うーん、何処かで読んだことがあるような・・・。」
「ほっ、本当か⁉︎」
「だけど・・・それをいつ読んだのか、一体どういう書物だったのかが思い出せないであります・・・。」
「そうか・・・。」
「ごめんなさいであります・・・。」
シュンと頭を垂れるリコッタ。
「ああ、いや。謝る必要はない。リコッタがそれを読んだことがあるというだけで、十分な収穫だ。」
「自分も、いろいろ調べてみるであります。何か分かったらすぐにお伝えするであります。」
「ありがとう。よろしく頼む。」
そこでふと気づく。
そういえば・・・・ありがとう、なんて言ったのはいつ以来だろう・・・。
「それで、リコッタ。もう一つ質問があるんだが。」
「はい?」
「やけに静かじゃないか・・・?」
ここに来ると途中、人を見かけたのはほんの一人か二人程度。
昨日の戦のイメージだと、もっと賑やかだと思ったのだが・・・。
「ああ、それは・・・」
と、言いかけたところでリコッタが固まった。
「リコッタ・・・?」
「・・・・あぅ〜〜〜〜・・・・。」
そのまま頭を抱え込んでしまった。
「ど、どうした?頭が痛いのか?」
しかし、リコッタは頭を横に振る。
「じゃあ、一体どうしたんだ?」
リコッタが顔を上げ、口を開く。
「実は・・・・」
「ふーん、なるほどなぁ。つまり、その"オミノス"が現れたから、近々、世にも恐ろしいことが起きると。それで、皆怖がって中に引き込もってんだな。」
「そういうことであります・・・・。」
一見平和そうに見えるこの世界でも、やっぱそういうことってあるもんなんだなぁ。
「あの・・・和斗さん・・・。」
「ん?」
リコッタが指をモジモジさせながら、上目遣いで俺を見る。
「さっき、自分はここに居て欲しいと言ってのでありますが・・・和斗さんがここに居ては和斗さんも危険に晒されてしまうであります。その・・・・」
ああ、そういうことか。
居て欲しいと言ってしまった矢先、恐ろしいことが起きると思い出して、俺の身を案じてくれたのか。
………と信じたい。
「気にしなくていい。自分の身くらい自分で守るさ。それに、その危機を乗り越えたら、何かありそうだし。もしかしたら、俺も・・・」
役に立てるかもれない、と言おうとしたところで口をつぐんだ。
・・・・・さすがにそんな重要なことに首を突っ込んだら大変だよな。
キョトンとしているリコッタを見ながら、心の中で苦笑した。
いかがでしたか?
今回は和斗とリコッタだけです。
二人しかいないのに、いつもより長めです。
予定では、もっと登場するはずだったのですが。