DOG DAYS 〜The Demise Hero〜 作:セラフィエル
すみません。
もう少し早く更新するつもりだったのですが・・・。
なかなか案がまとまらず、長引いてしまいました。
更新を待っていてくださった方々、申し訳ありません。
それでは第13話、どうぞ。
「お〜〜。主が和斗か。会えて嬉しいぞ。」
「そりゃ・・・どうも。」
『クーベル様!こちらの書類に判をお願いします!』
『クーベル様!調査隊の報告書をお持ち致しました!』
忙しなく動く、クーベルと騎士団員の方々。
「あぁ、わかっておる!そこに置いといて欲しいのじゃ!」
と言いつつも、クーベルの大きな机には既に書類の山が幾つもできていて、とても置けるような状況ではない。
「あー・・・俺、後にしましょうか?」
クーベルが書類に判子を押しながら、俺を申し訳なさそうに見る。
「・・・すまぬ。もうしばらくそこらをブラブラしといて欲しいのじゃ。」
パスティヤージュ公国エンシェンバッハ城の美しく広い庭園のベンチに座りながら、先ほどの出来事を思い出す。
今頃、クーベルは書類に判子を押したり、報告書を読んだりと、大忙しだろう。
しかし、それも仕方のないことだった。
なぜなら、"不吉の予兆"たるオミノスの群れがパスティヤージュの近くで確認されたのだから。
その調査やら報告やらで忙しくなるのは当然である。
俺がパスティヤージュに来たのは、昨日レオ閣下に言われた事がきっかけである。
『どうせならパスティヤージュに行って、クーベルにも挨拶して来るとよかろう!』
というわけで、ジェノワーズにパスティヤージュまで送ってもらったのだ。
「んーーーー・・・」
と大きく伸びをする。
空を見上げると、どんよりとした灰色の曇天が広がっている。
この空もオミノスってやらの影響なのかな・・・
そう思いつつ、身体を倒し、ベンチに横になる。
城内とは打って変わって物静かな空気の中で、瞼がだんだん重くなってくる。
その時、俺の目に逆さの顔が映った。
「黒神君?こんな所で何してるの?」
「うおっ・・・」
慌てて身体を起こす。
そのせいで肘を思いっきりベンチの背にぶつけてしまった。
「痛てて・・・」
「あ、ゴメン。大丈夫?」
肘をさすりながら後ろを向くと、ツインテールが特徴のイズミの取り巻き美少女がいた。
名前は・・・レベッカだったか。
「まぁ大丈夫だが・・・お前こそここで何をしてる?」
「何って言われても・・・クー様の邪魔にならないようにブラブラしてるだけ。」
「いや、そういうことじゃなくてな。なんでパスティヤージュにいるのかってことだ。」
レベッカは二秒ほど間を開けて、ああ、と頷いた。
「聞いてない?私、パスティヤージュの勇者なんだよ。」
「・・・Realiy?」
「うん。」
そんなバカな・・・・
このいかにもおてんば娘といったレベッカが勇者だと・・・?
「お前、そんな強かったっけ?」
少なくともイズミのような運動神経抜群だという話は聞いていない。
すると、レベッカはクスクスと笑って、
「私はシンクみたいにアクロバティックな戦い方はしないよ。私はどっちかって言うと魔法に近いかな。」
「魔法・・・か。」
なるほど、それならば体力があまり無くとも戦えるな。
その魔法もきっと輝力によるものなのだろう。
俺がヘェ〜と頷いているとレベッカは真剣な顔をした。
「ねぇ・・・黒神君。」
「ん?」
レベッカは俯いて、俺が大嫌いなアイツの名前を口に出した。
「向こうの世界で黒神君がシンクを怒鳴りつけた時の事、覚えてる?」
「・・・・あぁ、覚えてるさ。忘れたくてもな。」
険悪な声で答える。
その邪険な空気を感じ取ったのか、レベッカはビクッと肩を震わせた。
「・・・シンクね、あれからずっと黒神君の事を気にしてたよ。時間ができる度に黒神君の事を考えてた。そして、この世界でも黒神君の事を考えてると思う。シンクは黒神君を知りたがってる。だから・・・」
「だから、黒神君もシンクに少しでもいいから、心を開いて欲しい。」
そう言って、俺の目を見る。
レベッカのその目には俺への切なる願いと、イズミへの思慕が窺えた。
だが、初めから答えは決まっている。
「お断りだ。」
レベッカが悲しげに再び俯く。
しばらく沈黙した後、微かな声で尋ねる。
「・・・どうして?」
嗚呼、きっとこいつはイズミの事が好きなのだろう。
他の奴らと同じように。
だからこそ、イズミが悩んでいるのを見たくないのだ。
誰だってそうだ。
好きな奴が悩んでいるのは見るに耐えないだろう。
俺が心を開けば、イズミの悩みは解消されるのだろう。
だが、それではまるで・・・俺がイズミの為に心を開いてやれと言っ
ているようではないか。
「どうしてかって?決まっている。たとえアイツに心を開いても、アイツには理解できないからだ。アイツに話したところで何になる?また理解できずに悩むのがオチだ。それにアイツが悩もうが悩まなかろうがアイツの勝手だ。俺には関係ない。」
レベッカはイズミが好きだから俺に頼んだのだ。
決して俺の為ではない。
イズミは・・・自分から言い出さなくても助けてくれる奴がいる。
嗚呼、本当に・・・・世界は不公平だ。
「黒神君は・・・・本当にシンクの事が嫌いなんだね。」
レベッカが足を伸ばしながら呟く。
その目は足先を見ているようで別の何かを見ているようだ。
「ああ、この世で一番大嫌いだ。」
それだけは、変えようの無い事実だ。
たとえ、何があろうとも。
そして、再び沈黙が二人を包む。
さっきより重く、暗い沈黙が。
その沈黙を破ったのは二人の声ではなかった。
「おぉ、ここにおったか。」
声のした方を向くと、疲れた顔をしたクーベルが歩いてきた。
二人の前に立ち止まると、クーベルは俺とレベッカの顔を交互に見て、言った。
「なんじゃ二人とも。えらく怖い顔をしておるのう。一体何があったのじゃ?」
俺とレベッカはチラリと目を合わせたが、すぐに目を逸らした。
「ううん。なんでもないよ、クー様。お仕事は終わったの?」
クーベルは腑に落ちない顔をしていたが、レベッカの言葉を聞いて、顔に縦線が幾つも入った。
「・・・やっとひと段落ついたところじゃ。じゃが、またすぐに会議があるがのう・・・。」
クーベルはハァと溜息をつくと、俺とレベッカの間にドサっと座った。
「それじゃ、私はそろそろ行くね。」
そう言ってレベッカは腰を上げた。
クーベルはその様子を見て、首を傾げた。
「んむ?レベッカもここにいてはどうじゃ?」
レベッカは少し困ったような顔をして、首を振った。
「ううん。私もやること思い出したからさ。それに私がいたんじゃ、黒神君もやりにくいだろうし。それじゃね、クー様。」
「う、うむ・・・。」
城の中へと歩いていくレベッカを見ながら、クーベルはますます首を傾げていた。
そして、俺の顔をまじまじと見る。
「な、何だ?俺の顔に何かついてるのか?」
俺の質問には答えず、クーベルはふ〜むと唸りながら、より顔を近づけてきた。
「お、おい・・・?」
さらに近づくクーベルの顔。
まずい、このままじゃまずい。
何がまずいかって?
俺の理性とかイロイロなものが。
俺だってバリバリの思春期だぞ。
こんな無防備に顔を近づかせてきたら、ほら、こう・・・まずいじゃねぇか。
そして、クーベルの息が俺の肌に直接感じるほど近づいた後、クーベルはムフゥと息を吐いて、元の位置に戻った。
な、何だったんだ・・・。
ホッと安心するも、なぜか悔しいような、そんな感情が渦巻いているのは気のせいだろう。
つーか、俺は挨拶をしに来ただけだぞ。
「あー・・・ほんじゃ、改めて挨拶しとくか。」
そう言うと、クーベルは可愛らしく首を振って、言った。
「うんにゃ。挨拶は構わんのじゃ。ミルヒ姉やレオ姉から聞いておるからの。それよりもウチはお主に聞きたいことがあるのじゃ。」
「聞きたいこと・・・?」
「うむ。レオ姉から聞いたが、お主、シンクの事が大嫌いじゃそうじゃな。」
眉をイライラしたように歪める。
ああ・・・そのことか・・・。
アイツの事など考えたくもないというのに・・・。
「言っておくが、あんたが、俺にイズミと仲良くしろってんならお断りだ。あと、なんで嫌いなのかっていうことも教えるつもりはない。」
またしても険悪な声で先手を打つ。
しかし、クーベルはクスッと笑って俺を見た。
「いいや、ウチが聞きたいのはそのことではないのじゃ。」
「は?んじゃ、なんだってんだ?」
クーベルは俺に顔を近づけて、意地悪な笑みを浮かべた。
「お主、シンクに嫉妬しておるのじゃろ。」
な・・・俺が、アイツに?
否定しようと息を吸った時、クーベルの人差し指がチョンと、俺の下唇に触れた。
「否定せんでいいのじゃ。お主の気持ちも分からんでもないからのう。」
「いや、だから俺は・・・。」
「羨ましいのじゃろう?シンクが皆から愛されて。皆から頼りにされて。皆の笑顔に囲まれて。」
「・・・・ッ」
そうじゃない。と言えば嘘になる。
だが、認めたくないのも確かだ。
俺のアイツに対する感情は、憎悪。
それだけだと思っていた。
クーベルは黙り込む俺を見て、言葉を続けた。
「ウチも・・・ミルヒ姉やレオ姉の事が羨ましいのじゃ。ミルヒ姉は歌が上手いし、レオ姉は戦にかけては獅子王と呼ばれているほどじゃ。じゃがウチには・・・これと言って得意なこともない。」
そう言ってクーベルは憂いの含んだ顔で空を見上げる。
「幼い頃から引け目を感じておったのじゃ。そして、悔しかった。いつでも注目されるのは、あの二人じゃ。ウチは、納得できんかった。ウチだって頑張ってるのに、と。」
俺は目を見開いて、クーベルを見た。
クーベルの横顔は向こうの世界では間違いなく超のつく美少女である。
悩みなど無いかと思っていた。
こんなに可愛いし、皆から愛されてきたに違いない。
それでも・・・こんな哀しげな顔をするほどの悩みを抱えていたのだ。しかも、俺とそっくりな。
「ウチは皆に認めてもらおうと必死じゃった。そのせいで、周りを見ておらずに、迷惑をかけてしまったことも何度もある。」
そして、クーベルは顔を俺に向けて、ニコッと笑った。
「じゃが、そんな時、レベッカがウチの前に現れてくれたのじゃ。レベッカはウチを愛してくれた。いつでもウチを見てくれた。そして、気付かせてくれたのじゃ。ウチを愛しておるのはレベッカだけではないと。ミルヒ姉やレオ姉、騎士団やメイド達、国民の皆も未熟なウチを愛してくれているのじゃと。」
クーベルは俺の手を握った。
冷え切った俺の手を。
温かい小さな手で。
「じゃから、お主も周りを見てみてはどうじゃ?自分のことに必死なのは分かるが、周りを見て気付くこともあるのじゃ。しかし、それでも周りを見れないというのであれば、いつでもウチを頼ると良い。ウチはいつでもお主の背中を押してあげるのじゃ。」
周り・・・・か。
確かに俺は自分のことに必死で、周りを見ることもろくになかった。
見えるのだろうか。
周りを見て、そこにあるのだろうか。
俺の追い求めるものが。
俺の手でも届くのだろうか。
こんな汚い手でも。
「・・・・ああ。いつか・・・いつかそうしてみるさ。その時は・・・・・よろしく頼む、クーベル。」
クーベルは無邪気に笑った。
見るもの全てを幸せにするかのような、可愛い笑顔を。
「うむ!」
幾重にも重なった雲の間から一条の陽光が俺とクーベルの顔を照らした。
期末も終わり、もうすぐ正月です。
一年って早いものですね。
高校に入学し、友達ができるかどうか不安だったあの頃がほんの昨日のように思えます。
え?その前にクリスマスがあるって?
・・・・私にクリスマスなど無いッッ!!