DOG DAYS 〜The Demise Hero〜 作:セラフィエル
リアルタイムでDOG DAYS"を見ているのですが、先日見ている時に母が部屋に入ってきてしまいました。
しかも、ちょうどジョーヌとベールがドロドロに服を溶かされているシーンで。
ものすご〜く気まずかったです・・・。
何であんなタイミングで入ってくるのかな・・・。
幸せだった。
その子は俺を一番に考えてくれた。
その子といるだけで世界が彩られた。
俺の悩みも苦しみも全て受け入れてくれた。
『大丈夫。大丈夫。僕がついてるよ。僕が君を守ってあげる。』
そう言って、俺の頭を撫でてくれたその子の手の温かさを俺は今でも覚えている。
忘れたくて仕方がないニセモノの温かさを。
しかし、当時の俺にとってはかけがえのない大切なものだった。
それ無しでは生きていける気がしないくらいに。
小学校を卒業し、地元の中学校へ入学した後も、俺はその子と一緒にいた。
母親を嫌いになった訳ではなかった。
まだ無駄な幻想を抱いていたのだ。
努力すれば、きっと振り返ってくれると。
また、同級生だった生徒も数人同じ中学校に入学したので、中学校でもイジメは続いた。
辛いが、あの子がいれば俺は頑張っていける。
そう思っていた矢先だった。
ある日から、妙な事が起こり始めていた。
家路についていると、近所のおばさんたちが俺を見ながら、ヒソヒソ話をしているのを見かけるようになった。
そして、俺と目を合わせると、そさくさと何処かへ行ってしまうのだった。
それだけではない。
帰宅途中に他校の生徒から身に覚えの無い因縁をつけられて、リンチされたこともあった。
さらに、今まで優しくしてくれた先生方さえ、俺を遠巻きにするようになった。
何がなんだか分からなかった。
学校だけでも辛いというのに、近所からは白い目で見られ、集団で暴力され、さらには母親まで俺を毎日のように殴るようになった。
『あんたのせいよ!なんであんたは面倒ごとしか持って来ないのよ!いい加減にしてちょうだい!ほんっとうに何なのよ‼︎』
反抗しようと思えば出来たかもしれない。
だけど、出来なかった。
俺は次第に追い詰められて行った。
やがて俺の周りには誰もいなくなった。
あの子以外は。
苦しかったものの、あの子がいてくれたから耐えることができた。
嗚呼、でも、世界はなんて残酷なんだろう。
俺から色んなものを奪い去ってしまう。
あの子に打ち明けたのだ。
自分が現在置かれている状況を。
その子はいつもと違い、終始、笑っていた。
まるで、これから始まるパーティを楽しみにしているかのように。
『ねぇ、なんで笑ってるんだ?』
全てを話し終えた俺は彼に尋ねた。
その子は俺の目を見て言った。
『なんでって・・・愉快だからに決まってるじゃないか。』
『・・・何が愉快なんだ?』
あまりにも残酷な推測が脳裏をよぎる。
信じたくない。
まさか、そんなはずはない。
『何が愉快かって?そりゃぁ、お前がぁ、俺の流した噂に苦しめられていることさ。』
推測が現実に。
疑惑が確信に。
希望が絶望に。
俺の中で何かがガラガラと音を立てて、崩れていく。
俺の顔を見た彼の口が三日月に裂けた。
『アハハハハッッ!!いいねぇいいねぇ!お前は今、最高の顔をしている!見たかったんだよ!その顔をさぁ!』
信じたくない。
だけど、目の前にいる彼は、自分が知っている彼ではない。
『な・・・んで・・・どうして・・・』
彼は笑いながら答えた。
『だってさぁお前、メンタル超豆腐じゃん?俺ってそういう奴見ると虐めたくなるんだよなぁ。今まで信じてた奴に裏切られる!いやぁ最高のシチュエーションじゃねぇか!お前もそう思うだろう?ん?』
言葉が出ない。
全身が現実を拒否している。
しかし、現実は本能の制止を振り切り、より重く、より鋭く俺を貫く。
『じゃあ・・・あの時、俺と君が始めて出会った時も・・・・』
『オフコーーーーース!俺はぁ別にお前がどうなろうと知ったことじゃないんだよ。ただ、お前を付け上がらせて、いい気にさせて、そして、地獄にぶち落としたかっただけなんだからさぁ。』
嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ。
こんなの認めない。
嗚呼、だけど、心の奥では解ってる。
これは現実なんだ、と。
否定したいのに、できない。
『そんじゃ、仕上げとするか。』
彼が指を鳴らすと、隠れていたのだろう、ガラの悪そうなチンピラがぞろぞろと出てきた。
その顔はニヤニヤと邪悪に笑っている。
『わざわざお前の相手をしてやったんだからな、感謝してくれよ?』
彼の合図とともに、チンピラの拳が俺を覆う。
そこから先は、彼が笑っていたこと以外、覚えてはいない。
俺に味方はいなくなった。
もう誰も俺を信じてくれる人はいない。
もう誰も俺は信じることができない。
そして、俺は馬鹿だった。
まだ、儚い幻想を抱いていたのだ。
努力をすれば、何か役に立てば、母親も、彼も、他の人達も俺の方を振り返ってくれるのではないか、と。
いや、そう考えることでしか、自分を保っていられなかったのだ。
俺はひたすら努力した。
何度泣いただろうか。
何度諦めたかっただろうか。
ただ、ただ努力した。
いつか報われるであろうその日を信じて。
だが、高校に上がった時、俺は気が付いた。
いや、もっと前から気付いていたことなのだ。
ずっと目を逸らし続けていた、一つの結論。
無能な人間に努力など無意味だという事。
無能が何をしようと、上を歩ける事は無いのだという事。
俺は今まで、あまりにも無意味な時間を過ごしてきた。
望みの無い道を、ひたすら走っていた。
望みの無い結果を信じて。
「俺はッッ!ただ・・・ッ!役に立ちたかったんだよ!!認めて欲しかったんだよ!!愛して欲しかったんだよ!!!」
イズミの顔が滲む。
いつの間にか俺の目から止めどなく熱い涙が流れていた。
「そのために俺は、ガキん頃から頑張って来たんだ!!でも、でも・・・ッ!」
止まらない。
一度溢れた思いはもう止まらない。
「お前は考えたことあんのか⁉︎努力しても、お前に辿り着けなくて、お前の下に消えて行った奴らの事を!」
イズミが気まずそうに目を逸らす。
答えはそれだけで十分だった。
「だからッ!だから俺はッ!お前が憎いんだよ‼︎誰でも努力すりゃ報われるとか考えてるお前がよぉ‼︎世の中なぁ!お前みたいな奴ばっかじゃねぇんだよッッ‼︎」
イズミの胸倉に額を打ち付ける。
そして、口から零れる。
俺がイズミに出会った時から抱いていた憎しみ以外の思いが。
「俺だって・・・ッ!俺だって・・・ッ!お前のようになりたかった・・・・‼︎」
もうそれ以上は言えなかった。
パンクした心が涙となって、頬を流れ落ち、地に染み込んでいく。
イズミの手が動くも、ビクッとその手を震わせ、降ろす。
まるで、何かに押さえつけられたかのように。
俺は最後にありったけの憎悪と羨望を顔に滲ませ、思いっきりイズミを睨んだ。
イズミの顔は、どこまでも、どこまでも、悲壮に歪んでいた。
その夜。
「はーーーー・・・・」
溜息をつきながら、ベッドに座り込む。
両手で顔を覆い、昼間の出来事を反芻する。
目を閉じれば、彼の、黒神 和斗のあの顔がはっきりと見えてくる。
憎悪に歪み、羨望に濡れたあの顔。
「・・・・・」
自分の馬鹿さ加減に腹が立つ。
なんであんな事を言ってしまったのだろう。
彼は逃げたりなどしていなかった。
何度転ぼうと立ち上がった。
ずっとずっと努力してきた。
おそらく僕よりも。
それなのに報われなかった。
だからこそ、彼は努力を嫌った。
彼にとって努力もまた、彼が信じ、彼を裏切ったものの一つなのだから。
彼が言った事も確かだ。
僕は自分の事に必死だった。
少しでも上へ行こうと、上ばかり見てきた。
そして、努力が報われると言ってしまった。
彼のように報われない人だっているのに。
僕の言葉がどれだけ彼を傷付けたか、想像に難くない。
拳を握りしめる。
彼は・・・・どんなに苦しんでも、努力してきた。
愛する人達のために。
それなのに、それなのに、僕は・・・ッ!
その時、ドアがコンコンとノックされた。
「どうぞ。」
無気力に返事をすると、ドアが開けられた。
「隣、いい?シンク。」
「・・・うん、いいよ。ベッキー。」
ベッキーがベッドに座り、そのまま僕の手を握る。
「まだ・・・気にしてるんだね。昼間の事。」
ベッキーが尋ねるも、僕は黙ることしかできなかった。
その沈黙を肯定と取ったのか、ベッキーが続ける。
「私も・・・ビックリした。何かあるとは思ってたけど・・・まさか、あんなに残酷だなんて・・・」
僕はギリッと歯軋りをした。
「・・・それだけじゃない。僕は彼の事も知らずにベラベラと、無神経な事を言ってたんだ。彼はあんなに努力してきたのに。僕は・・・馬鹿だ・・・ッ!」
握った拳を額にぶつける。
何度も何度も。
ベッキーが僕の手首を、ガッと握った。
「やめてよシンク!シンクは馬鹿なんかじゃない!シンクだって、黒神君の事を思って言ったんでしょ?そこまで自分を責めることないよ!」
ベッキーの手を振り払う。
胸に詰まっていた蟠りが心から溢れ出す。
「確かに和斗君の事を思ってた!だけどそれが!彼を傷付けていたんじゃないか!僕はそれに気付かずに勝手な事を言って、余計に傷付けて・・・ッ!馬鹿以外の何物でもないじゃないか・・・。憎まれて当然だ。僕が彼の立場だったら、絶対にその相手を憎んでる。」
ベッキーは何かを言おうとしたが、すぐに口を閉じる。
言葉が見当たらなかったのだろう。
「・・・彼に、謝らなきゃ。謝って、もう一度向き合いたい。彼の過去と、憎悪に。」
それが僕がしなくてはならないことだ。
許されないかもしれない。
あれだけ無神経な事をしたんだから。
それでも、それでも、彼の事を助けたい。
僕が傷付けてしまった分も、彼の傷を治してあげたい。
「・・・うん、そうだね。私も手伝うよ、シンク。」
「・・・ありがとう。」
互いにぎこちなく笑う。
ベッキーが再び僕の手を握ろうとした、その時だった。
バン!とドアが強く開け放たれた。
ベッキーが慌てて手を引っ込める。
開け放たれたドアの先にいたのは、肩で息をしている緑の少女。
「エクレ!どうしたの⁉︎」
エクレは今までにないほどの深刻な顔をしていた。
そして、僕らに言った。
「十秒で支度しろ。緊急事態だ。
・・・・魔物が、現れた。」
和斗の過去編終了!
次回から対魔物戦です!
もうすぐ、もうすぐ、私が書きたくて堪らないシーンが書けるっ!
いやはや、こちらも楽しみです。