DOG DAYS 〜The Demise Hero〜 作:セラフィエル
誠に今更ながら『シリアス多め』のタグを追加させて頂きました。
さて、今日はバレンタインですね。
えぇ。おこぼれすら貰えませんでしたよ。
結局のところ女子だけ得してるんですから、もう無くてもいいんじゃないですかね、バレンタイン。
会議室には既に国の重役が同じような厳しい顔を揃えていた。
部屋の中心に設けられた長机にはブレイブコネクトによって、ガレットとパスティヤージュの会議室が映し出されている。
その光が皆の顔を不気味に照らしていた。
「さて、それでは始めましょう。」
姫様が重々しい声で言い、騎士団員の方を見る。
その騎士団員は首を垂れたまま、ハッキリと告げた。
「調査隊の報告によりますと、出現した魔物は一体。オミノスの大群を引き連れ、ビスコッティ領域外北西部の森を進行中のようです。このまま進めば、夜明けにはビスコッティの国境付近に到達するかと。」
『夜明け・・・か。』
モニターの向こうのレオ様が呟く。
しばらくの沈黙の後、エクレが口を開く。
「ならば、直ちに出撃し、ビスコッティに到達する前に撃破すべきです。」
確かに、ビスコッティの国境付近にまで接近させられると、場合によっては国民にまで危険が及ぶ。
国民を守るならばそうすべきだろう。
「だがエクレール。そうなると、暗闇の中での戦闘となるぞ?それは余りにも危険すぎる。夜明けまで待った方が良いと思うが。」
それもまた正論である。
明かりを灯せば、なんとかなるかもしれないが、それでも暗い事に変わりはない。
肝心な所でミスをしかねない。
そして、そのミスは全滅を招くかもしれないのだ。
「ですが兄上!もし国境を突破されると、街にまで被害が及びます!街や国民を守るためならば、我々が危険を犯してでも、できるだけ早く撃破するべきです!」
エクレの意見にモニターのバナード将軍が顎に手を当てる。
「確かにあなたの言うことももっともです。しかし、我々が危険を犯し全滅、なんて事になっては元も子もありません。国境から街までは距離があります。我々の勢力を持ってすれば、充分、撃破可能です。」
バナード将軍の意見にレオ様が頷く。
「ワシもバナードに賛成じゃ。暗闇での戦闘は無駄な犠牲を招くぞ。親衛隊隊長よ、民を守りたい気持ちも分かるが・・・もう少し、自分や仲間の身を大切にしてはどうじゃ?」
エクレは言葉が見つからないのか、悔しそうに口を閉じた。
レオ様の一言にエクレも反論できないようだ。
そして、僕は妙な違和感を感じていた。
皆、大袈裟過ぎるような気がするのだ。
確かに危険な魔物ではある。
しかし、相手は一体。
しかも、ビスコッティ、ガレット、パスティヤージュの全勢力を持って撃破に向かうのだ。
それに、僕らも三年前よりずっと強くなった。
そこまで焦らなくてもいいと思うのだが・・・。
「あのー・・・今回の魔物ってどういう魔物なんですか?」
おずおずと手を上げて質問する。
一斉に視線が集まり、余計に緊張する。
「その質問には拙者がお答えするでござる。」
ダルキアン卿が部屋の暗がりから進み出る。
その顔は何処か物憂げだった。
「今回の魔物は今までの魔物とは違い、独立奇行型と呼ばれる種にござる。」
独立奇行型・・・。
聞いたこともない。
「この種の魔物は禍太刀や寄生型とは大きな隔たりがあるでござる。禍太刀の魔物は自我を失い、破壊行動を繰り返す。また、寄生型は己が生きるために他の種に寄生し、その命を吸う。しかし、独立奇行型は何も口にせずとも生きることができる。かと言って、禍太刀に侵されている訳でもない。それなのに、行く手にあるものを破壊していくのでござる。何故か、分かるでござるか?」
ダルキアン卿が僕を見て、問う。
しかし、僕の頭は上手く回転せず、これと言った考えは浮かばない。
「単純かつ明快でござるよ。楽しいからでござる。」
「え・・・?」
余りにも意外な答えに呆然とする。
楽しいから・・・?
訳が分からない。
「奴らは、己の快楽のために街を襲い、生きとし生けるものを殺す。奴らにとって、破壊は余興に過ぎぬのでござる。奴らに救いなど無い。だからこそ、今回の戦いは非常に危険なのでござる。」
快楽・・・。
ただそれだけのために殺す。
信じられなかった。
この平和な世界にそんな輩がいるなんて。
そして、僕らはこれからそんな奴と、命をかけた戦いをしなければならないなんて。
頬を冷や汗が流れる。
一瞬、脳裏を最悪のイメージがよぎる。
皆が血を流し、地に伏している。
その中心で高らかに笑う魔物のイメージ。
そのイメージを振り払うように頭を振る。
何弱気になってるんだ。
今までだってピンチなことは何回もあった。
それでも僕らは乗り越えてきたじゃないか。
今回だって・・・ッ!
その後、キャラウェイの提案により、牽制隊を派遣し、主戦力は夜明け前に出発、ということで決議がなされ、解散しようとした時だった。
「すみませんが、もう少し待って欲しいのです。」
そう言って皆を引き止めたのは、気まずそうに頭をかいているアデル様だった。
「はい、何でしょう?」
皆、疑問符を浮かべながら、アデル様が映るモニターを見る。
全員が聞いていることを確認すると、アデル様はゆっくりと口を開いた。
「今回の戦は今までに無いほど厳しい戦いになります。相手は一体と言えど、独立奇行型。その強さは、私達の予想を遥かに上回るでしょう。最悪の場合・・・全滅という可能性もあります。各々にはそれを心に留めておいて欲しいのです。そして・・・」
一度口を噤んだアデル様は姫様を見て、言った。
「ミルヒオーレ姫。貴女にはここに残って頂くのです。」
キッパリとした口調。
『欲しい』ではなく『頂く』。
それは反論は聞かないと暗示していた。
「ど、どうしてですか?私だってお役に立てます!」
姫様の反論に対し、アデル様は申し訳なさそうに目を閉じた。
「ええ。貴女が役に立つことは承知しています。私が言っているのは万が一のためなのです。」
「万が一のため・・・?」
「先程も言ったとおり、今回は全滅の可能性があります。万が一、そうなった場合、国民を率いる希望が必要なのです。それが貴女なのです。ミルヒオーレ姫。」
重苦しい空気が僕らに乗し掛かる。
全滅。
つまり、誰一人としてここに戻ってくることが無いということ。
だからこそ、その時のために、姫様を、国民の希望を残す。
それが僕らに、死と隣り合わせだということをよりハッキリと認識させた。
そして僕は、アデル様が正しいと思っている自分がいることに気が付いた。
本当は否定したい。
そんな恐ろしい戦いだということを。
これが最後かもしれないということを。
だけど、アデル様やダルキアン卿の顔がそれを肯定している。
それならば・・・姫様にはここに残ってもらいたい。
「でも・・・!」
「大丈夫だよ、姫様。」
さらに抗議をしようとする姫様を遮る。
姫様は今にも泣きそうな顔で僕を見た。
「何にも心配要らないよ。僕らは死なない。必ず、誰一人欠けることなく、ここに帰ってくる。だから、姫様はここで待っていて。」
「シンク・・・」
あぁ、そんな顔をしないで、姫様。
大丈夫だから。
絶対帰ってくるから。
「勇者の言う通りです、姫様。私達が負けるはずがありません。必ずや魔物を撃破し、ここに帰って来ます。そして、皆で祝杯を上げましょう。」
エクレも姫様に勝ち気な笑顔で声を掛ける。
他の皆もその言葉にうんうんと頷いている。
そんな皆の様子を見て、姫様は下唇を噛んで俯き、口を開いた。
「・・・分かりました。私はここに残ります。必ず、ここに帰って来てください。私、待ってますから。」
姫様が見せた笑顔はキラキラと輝く涙で濡れていた。
会議室を後にして、僕が向かったのは黒神 和斗がいるであろう部屋である。
ドアの前に立ち、息を吸って、コンコンとドアをノックする。
すると、中からガサゴソと物音がした。
恐らく、和斗だろう。
「和斗。そこにいるのなら聞いて欲しい。」
ドアの前で話し始める。
和斗が聞いていることを祈ろう。
「ビスコッティの近くに魔物が現れたんだ。だから、僕らは夜明け前に退治に行ってくる。」
反応は無い。
ただ沈黙だけがその場を満たしていた。
「僕は君に酷い事を言ってしまった。その事については謝る。ごめん。・・・だけどね和斗。僕が言ったことも考えて欲しいんだ。君にとって、努力することはとても恐ろしい事なんだろうと思う。だけど、それでも、僕は君にもっと頑張ってもらいたい。僕は諦めないよ。たとえ、君に憎まれようとも。」
やはり反応は無い。
でも、きっと聞いてくれただろう。
それだけで今は充分だ。
「じゃあね。和斗。」
そう言って僕はその場を後にした。
僕の背中に返ってくるものは無かった。
イズミがドアの前を去った後。
部屋の中でベッドに寝転んでいた和斗はさっきのイズミの言葉を心の中で反芻していた。
あれだけ怒鳴り散らしたってのに、アイツはここに来た。
こんな俺のためにわざわざ。
「ったく・・・何でお前はよぉ・・・」
ますます自分が嫌になる。
アイツはちゃんと謝ったというのに、まだ許せない自分がいる。
どこまでも頑固な俺がいる。
それが余計に俺を自己嫌悪に陥らせた。
イズミ・・・。
お前は何も悪かねぇんだよ。
俺が勝手にギャンギャン喚いて、無関係なテメェに当たり散らしてるだけなんだからよ。
自分の過去を晒して、泣き喚いた俺が悪い。
それなのに、それなのに。
そんな事は無い。
お前は今まで辛い思いをして来たんだ。
ちょっとくらい泣き喚いたっていいじゃねぇか。
無神経なアイツが悪いんだよ。
そう言って、俺を肯定する自分がいる。
こんなクズの俺を。
俺はまた馬鹿な事をしちまった。
俺は自分勝手な事して、周りを困らせて。
アイツはこれから魔物退治だってのに、妙な事に気を取らせて。
「畜生・・・」
俺は・・・どうすればいい?
空を覆う雲を通して、うっすらと明かりが漏れてきた。
間も無く夜明けだ。
ビスコッティを出発してからどれくらい経っただろう。
途中の街はどこも閑散としていた。
夜の間に避難したのだ。
だからいつも応援してくれた国民はいない。
もしかしたら、もう二度と応援されることはないかもしれない。
セルクルの手綱を握る手が震える。
すると、その様子を見兼ねたのか、エクレが近づいてきた。
「シンク。まさか怯えているわけではないだろうな?気弱になっていては、守れるものも守れなくなるぞ。」
エクレの叱咤が飛ぶ。
「大丈夫だよ、エクレ。ここで怯えるわけにはいかない。必ず勝って、帰るって約束したからね。」
正直に言えば、怖い。
だけど、エクレの言う通りだ。
ここでビビってちゃ駄目なんだ。
約束したんだから。
必ず帰ると。
誰一人欠けることなく。
その時だった。
突然、僕の頭上を何かが通り過ぎた。
「・・・っ」
息を飲む。
いつの間にか空は真っ黒なもので覆い尽くされていた。
ギャアギャアと不吉を呼ぶ、蠢く魔物。
「あれが・・・オミノス・・・。」
身体こそ大きくはないものの、鉤爪のついた翼に顎に光る鋭い牙。目は赤く不気味に光っている。
その数は五百は下るまい。
前の部隊がセルクルを止める。
それにつられ、僕とエクレもセルクルを止める。
そこは開けた場所だった。
周りに木々はほとんど無く、丈の短い草が見渡す限り生えている。
スキム草原。
ここが今回の戦場。
そして、その草原のど真ん中でゆっくりとこちらに向かってくる巨大な影。
二十五メートルはあるであろう体躯に金属質の筋肉。
大木の幹ほどある腕は四本ついており、それぞれに巨大な大鎚を携えている。
二本の角が生えた頭は僕らの身体ほどもあり、口は歯をむき出しにして笑っている。
何よりその魔物が醸し出す邪悪な殺意。
それが僕らをその場に釘付けにしていた。
拳を握り締める。
あれを倒せば、また平和な日常に戻る。
あいつさえ倒せば・・・!
その時、ダァァァンダァァァンと大銅鑼が鳴らされた。
そして、響き渡るレオ様の声。
「総員・・・攻撃開始ィィィッッ‼︎‼︎‼︎」
こうして、戦いの火蓋が切って落とされた。
次回からは戦闘シーンがほとんどになります。
それと残酷なシーンもありますのでご注意下さい。
お知らせです。
学年末テストが近くなってきたため、次回はおそらく3月七日以降になるかと。