DOG DAYS 〜The Demise Hero〜 作:セラフィエル
前書きは取り敢えず一言だけ。
更新遅くなってすんませんしたぁッ‼︎(土下座)
肩越しに見たイズミは満身創痍で、立つことすら出来ないようだった。
イズミの右腕に抱かれた姫様もイズミ程ではないにしろ、怪我を負って、身動きが出来ないようだ。
「・・・和斗さん・・・」
「和・・・斗・・・」
二人が弱々しい声で俺の名前を呼ぶ。
その声は幼い頃の俺を彷彿とさせた。
真っ暗闇の中で、友と信じた者の名前を呼ぶ俺を。
俺を愛してくれていると信じた母を呼ぶ俺を。
もう、大丈夫。
心の中で呟き、もう一度二人の顔を見る。
恐らく、これで見納めになるであろう二人の顔を。
「頼んだぞ、リゼル。」
そう言うと同時に、ブランシールに乗ったリゼル率いるメイド隊が次々と地に降り立つ。
そして、気を失っている騎士団員達をブランシールに乗せていく。
それだけ確認すると、前を向き、魔物と対峙する。
一歩踏み出そうとしたその時、後ろから再び俺を呼ぶ声がした。
「・・・和斗!」
その声はさっきより強く、そして悲哀に満ちていた。
何と言えば良いのだろうか。
謝るべきだろうか。
感謝すべきだろうか。
ダメだ。
言いたい事が多すぎて、何を言えば良いのか分からない。
イズミ・・・。
お前は初めから憎いヤツだった。
俺にとっては憎悪の対象でしかなかった。
だけど・・・お前は憎まれても、俺を見捨てたりしなかったよな。
こんな俺を助けようと、頑張ってくれたんだよな。
そして、今・・・。
お前は、愛する皆を守る為に戦ったんだよな。
そんなにボロボロになるまで、必死に。
イズミ。
お前は皆の希望だ。
姫様と同じように。
その愛で、皆を幸せにすることができる。
だからーーーーー
「ーーー生きろ、
魔物へと足を踏み出しながら、右手の剣を握り直す。
何があっても離さないように。
さぁ、行こう。
これが、俺の最後の努力だ。
勇者シンクの傷ついた身体を抱きかかえ、ブランシールの背中に乗せながら、メイド隊隊長リゼルは城での出来事を思い出していた。
『・・・頼みがある。』
そう言った黒神 和斗の横顔はどこまでも落ち着いていた。
『頼みとは・・・?』
和斗様はこちらを向いて、ゆっくりと口を開いた。
『その魔物は俺が相手をする。その間にイズミ達を連れて逃げろ。できるだけ遠くにな。』
『・・・仮にそうするとして、あなたはどうするのですか?』
和斗様が囮になり、皆を逃す。
ならば、魔物と戦う和斗様は、その後どうするつもりなのか。
頃合いを見て、逃げるのだろうか?
それとも・・・。
次に和斗様が放った言葉は、私の不吉な予感を肯定させた。
『・・・一度は死のうと思っていた身だ。どうせ死ぬのなら・・・最期くらい、アイツみてぇな勇者になりたいんだ。』
そう言った和斗様は穏やかな、そして覚悟を決めたような微笑みを浮かべた。
そして今、彼は剣を片手に恐ろしい魔物に立ち向かっている。
その後ろ姿は、かつてビスコッティを救い、皆に笑顔と幸せをもたらした勇者そのものだった。
彼は恐らく、彼の人生の中で最大の努力をしているはずだ。
ならば、私がするべき事は彼のその努力と想いに応えることだ。
「さぁ、姫様も乗って下さい!」
未だ地面にへたり込み、和斗から目を離さない姫様に声をかける。
すると、姫様は困惑した表情で私を見た。
「リゼル・・・和斗さんは一体どうするのですか?」
どうやら姫様は私達のやらんとしている事を理解したのだろう。
だが、今はそれを話している暇はない。
「・・・話している暇はございません、姫様。今はここから離れる事が先決です。さぁ、早く!」
私が姫様を抱きかかえようとすると、姫様は怯えたような顔をした。
「待って!まさか・・・まさか和斗さんは・・・」
気づいたようだ。
彼が何をしようとしているのかを。
「そんなの・・・そんなのダメです!逃げるのなら和斗さんも一緒に・・・!」
私はギリリと歯を噛み締めた。
「姫様!一国の領主としてお考えになって下さい‼︎今ここで撤退しなければ、全滅は免れません!そうなってしまえば、国民はどうするのですか⁉︎それに、これは和斗様自身がお選びになったことです‼︎あの方の想いを!努力を!無駄にするおつもりですか⁉︎」
「ッッ‼︎」
姫様が顔を伏せ、下唇を噛み締める。
私は震える姫様を抱きかかえ、ブランシールに乗せた。
そして、私も乗ろうとしたその時だった。
『隊長‼︎後ろです‼︎』
メイド隊員の声が響き、振り向きざまに腰に吊ってある鞘から剣を抜き出す。
煌めく剣の餌食となったそれは、断末魔の叫びを残しながら塵と化した。
「これは・・・オミノス・・・?」
ハッとして、周りを見渡す。
そこではオミノスの群れがメイド隊員達に襲い掛かっていた。
『隊長・・・!このままでは・・・!』
姫様達を連れて行くにはこのオミノスの群れを突破しなければならない。
だが、数が多すぎる。
空を覆い尽くすほどのオミノスが私達を喰らわんと徘徊しているのだ。
突破は困難を極める。
だが、
「それでも・・・それでも私達は行かねばならないのです‼︎総員、命を賭して皆を守り抜きなさい‼︎それが!我々メイド隊の務めです‼︎」
『『『『『了解‼︎』』』』』
メイド隊員が一斉に返事をして、各々の得物を抜き放つ。
私ももう一本の剣を抜き、オミノスの大群と対峙する。
恐怖など無い。
今はただ、己の使命を果たすのみ。
「そこを退きなさい‼︎‼︎害獣共ッ‼︎‼︎」
姫様達には指一本触れさせてなるものか。
「おぉぉぉぉッッ‼︎」
雄叫びを上げながら、魔物に剣を打ち付ける。
魔物はそれを片腕で防ぐ。
鋭い金属音が高らかに響き渡り、火花が俺の顔を照らす。
「まだッ・・・まだぁぁッ‼︎」
その場で姿勢を低くしながら回転し、遠心力と俺の腕力を乗せて、再び魔物を斬りつける。
だが、剣が魔物に触れる瞬間、魔物の姿が消えた。
「ッッ⁉︎」
直後、背後から強烈な殺意を感じた。
咄嗟に振り向くと同時に、鳩尾を凄まじい衝撃が襲った。
「がッッ・・・‼︎」
思わず身体がくの字に曲がる。
休む間も無く、魔物の膝が俺の顎を突き上げた。
目の前がチカチカし、一瞬意識が遠のきかけたが、気合いで引き戻す。
後ろに倒れそうになるのを、足を踏ん張り、踏み止まる。
しかし、前を向くと黒い塊が顔面にめり込んだ。
「ッッ・・・‼︎」
身体が吹き飛び、地面を転がっていく。
俯けの状態で停止すると、顔が焼けるように熱くなっているのが分かった。
特に鼻が酷い。
恐らく折れているだろう。
顎と鳩尾も抉られたように痛む。
全身が鉛のように重い。
意識が朦朧とし、魔物の姿が霞んで見える。
それでも行かねばならない。
たとえ四肢をもがれようと、内臓を引きずり出されようと、諦めてたまるか。
俺自身が決めた事だ。
もう逃げだりしない。
最後の最後まで立ち向かってやる。
俺自身の為にも。
アイツらの未来の為にも。
「うッ・・・おおおぉぉぉぉッッ‼︎‼︎」
魔物に向かって駆け出し、剣を突き出す。
魔物はそれをヒラリと躱すと、俺の背中に蹴りを叩き込んだ。
再び吹き飛ばされるも、すぐに体勢を立て直し、魔物に追撃する。
「チッ。」
魔物が舌打ちすると、黒紫の閃光が奔り、俺の左腕、右肩、左脇腹を貫かれた。
「うッ・・・ごッ・・・」
ガクッと膝を着く。
意識が途切れそうになったその時、視界に黒い影が映った。
咄嗟に怪我をした左腕を掲げる。
直後、魔物の横蹴りが左腕を直撃した。
ベキビキゴキッ
左腕が悲鳴を上げ、骨が砕ける感覚が奔った。
「ッッ・・・ふッッ・・・!」
そこで魔物の攻撃が止む。
ゆっくりと立ち上がりながら、魔物を見据える。
すると魔物はイライラしたような声を上げた。
「・・・ムカつくなぁ、テメェ。その顔が特に気にくわねぇ。」
俺は不敵な笑みを浮かべた。
「ハハッ、よく言われるぜ。」
それを聞いて、魔物はさらにムカついたようだ。
「あぁ・・・そうだろう・・・なぁッッ‼︎」
魔物が地面を蹴り、一瞬で俺に肉薄する。
俺が防御する間も無く、魔物の冷たい拳が右頬にめり込んだ。
吹き飛ばされるも、再び立ち上がり、剣を構える。
口の中で転がっていた折れた歯をプッと吐き出す。
そして、ニヤリと笑った。
「ハッ、どうしたよ?俺はまだ・・・くたばっちゃいないぜ。クソ野郎。」
魔物はギリギリと歯軋りをした。
魔物が激昂しているのが、手に取るように分かる。
「このクソガキがァ・・・!テメェには地獄の苦しみを味あわせてから、肉片も残さず殺してやる・・・‼︎」
魔物の禍々しい殺意が一気に膨れ上がる。
その殺意は周りの空気すら凍てつかせてしまうのではないかと思わせる程だった。
だが、それはより一層俺を冷静にした。
脇腹からは血が絶え間なく流れ、左腕は使い物にならない。
脚も既に限界を超えている。
しかし、それがなんだというのか。
脇腹を貫かれたら、左腕が砕けたら、脚が限界を超えたら、諦めてもいいのか?
否だ。
「あああぁぁぁッッ‼︎」
雄叫びを上げながら、魔物に突進する。
魔物は俺の顔面を鷲掴みにして、地面に何度も何度も叩きつけた。
そして、俺の頭を両手で掴むとグッと力を込めた。
「ッッッッ‼︎‼︎ーーーーッッぐッおぉッあぁッッ‼︎‼︎」
瞬間襲い来る途轍もない激痛。
身体が内側から爆発するような感覚が全身を蹂躙する。
暫くしてその痛みが引くと、魔物は俺を蹴り飛ばした。
全身の神経一本一本まで苦痛の悲鳴を上げているかのように身体が動く事を拒否する。
それでも、俺は立ち上がった。
しっかりと魔物を見据えながら。
「なッ・・・⁉︎テメェ・・・!」
魔物の狼狽する声が聞こえる。
俺はその声を無視して、ゆっくりと歩き出した。
ザッという音が聞こえると同時に、地面に叩きつけられる俺の身体。
しかし、また立ち上がり、歩き出す。
殴られ、蹴られ、貫かれ、叩きつけられ。
それでも、立ち上がった。
何度も、何度も、何度も、何度も。
もはや、剣を振るう力など無い。
ただ、歩く事しかできない。
それでもいい。
それで時間を稼ぐ事ができるのなら。
魔物はスッと目を細めると、俺に近づき、片手で首を掴んだ。
そのまま俺を持ち上げる。
そして、静かな声で言った。
「・・・テメェのその底力だけは認めてやるよ、クソガキ。今、命乞いをすりゃぁ、命くらいは見逃してやるぜ?ん?」
どうやら俺が命乞いをする姿を見たいらしい。
散々手こずらせた相手だからこそ、その快楽はより大きなものになるのだろう。
・・・本当に悪い趣味してんなぁ。
「・・・ハ・・・ハハハ・・・冗談・・・キツイぜ・・・。」
やっとの事でそれだけ言うと、魔物はニヤリと笑った。
「あぁ・・・冗談だ。だからテメェはーーー」
魔物が手刀を構えると、手の甲に紋章が出し、黒紫色の輝力を纏う。
「ーーーここで死ね。」
そして、魔物の右腕が俺の腹部に風穴を開けた。
読み返してみると、和斗よりリゼルの方がなんかカッコいいなオイ、と思ってしまいました。
和斗主人公なのに!主人公なのに!